東大も名を連ねる驚異の遺伝子操作技術、「クリスパー」を改造し全遺伝子オンオフ自在に
12月10日、ネイチャー誌オンライン版で発表 西川伸一 THE CLUB

遺伝子を特定の場所で切断する。画像はイメージ。記事と直接の関係はありません。(画像:Hiroshi Nishimasu, F. Ann Ran, Patrick D. Hsu, Silvana Konermann, Soraya I. Shehata, Naoshi Dohmae, Ryuichiro Ishitani, Feng Zhang, and Osamu Nureki)

遺伝子を特定の場所で切断する。画像はイメージ。記事と直接の関係はありません。(画像:Hiroshi Nishimasu, F. Ann Ran, Patrick D. Hsu, Silvana Konermann, Soraya I. Shehata, Naoshi Dohmae, Ryuichiro Ishitani, Feng Zhang, and Osamu Nureki)

 ゲノムの好きな場所に「キャス9」と呼ばれる分子を置くことができる技術「クリスパー・キャス9(CRISPR/Cas9)」は今、人々の想像力をかきたてているようだ。

好きな遺伝子を発現させる

 この技術を応用して、好きな遺伝子の発現を起こしたり、逆に抑えたりする技術を既に紹介している(医療分野で必携、進化する「クリスパー・キャス」、いまや知らぬは「もぐり」?を参照)。

 遺伝子の発現とは、遺伝子の情報に基づいてタンパク質を作り出すこと。遺伝子の情報を自在に操作してしまう。

 今回紹介する論文も好きな遺伝子の発現を起こすための方法開発についての研究となる。

 以前紹介したカリフォルニア大学からの研究とは幾つかの点で違っている。

特定の遺伝子に取り付く技術の競争

 同じ目的を実現するため、さまざまな方法が競い合うという技術の成熟段階に入ってきたことを実感する。

 と言っても、もちろんまだまださまざまなアイデアが出てくることは間違いない。

 今回の研究は、ハーバード大学ブロード研究所からの論文で、日本の科学技術振興機構(JST)さきがけの西増さん、東大の濡木さんも共著者に名を連ねている。

 科学誌ネイチャー誌オンライン版に掲載されたばかりだ。

 タイトルは「改変したCRISPR/Cas9複合体による全ゲノムレベルの遺伝子発現誘導(Genome-scale transcriptional activation by an engineered CRISPR-Cas9 complex)」となっている。

遺伝子に取り付く仕組みが異なる

 既に紹介した研究ではキャス9という分子に短いペプチド片を加え、特定の遺伝子を活性化する方法を開発していた。

 キャス9に付くタンパク質「抗体」に遺伝子を活性化する分子「VP64」を融合させる。

 今回紹介する研究はキャス9だけでなく、キャス9に結合する「ガイドRNA」と呼ばれる分子も改変するのがポイントだ。

「突起」を改造

 研究グループは、今年発表された西増さんたちのキャス9構造解析を詳細に検討している。

 そうしてガイドRNAの一部がキャス9から飛び出しているのに気付いた。この飛び出している部分を改変できないかと思い付いたのだ。

 今回の研究ではタンパク質と結合する「アプタマー」と呼ばれるRNAを設計している。キャス9から飛び出しているガイドRNAに加えることで、タンパク質を引き寄せることに成功している。

 私たちの遺伝子には存在しない「ファージウイルス」と呼ばれるウイルスのカプセルタンパク質である「MS2」をアプタマーと他のタンパク質を結合する橋渡しに使っている。

 好きな遺伝子のある場所にさまざまな分子を自由に連れてくることを可能としている。

 さらに、キャス9やガイドRNAを改造して狙った遺伝子を効率よく「オン」にする技術を開発している。

 ガイドRNAにタンパク質を連れてこさせるアイデアがこの論文の全てだろう。

一挙に複数の遺伝子を「オン」に

 研究グループは、今回示している方法の優位性を示すために、(1)複数の遺伝子を同時にオンにできるか(2)新しい技術を実際の創薬に生かせるか、について結果を示している。

 10種類の遺伝子を同時に発現させられるか試みている。実際には個々の遺伝子を活性化するよりも効率が落ちてくるようだ。

 ただ、これは方法の限界ではないだろう。細胞自体の許容力の問題であると確認している。さまざまな分子を同時に発現させる標準的な方法に発展すると見られる。

 創薬については、悪性黒色腫の分子標的治療の際に問題になる薬剤耐性の原因となる分子の探索を行っている。興味ある遺伝子リストを作成している。

 遺伝子のオンオフを操れば薬剤耐性を無効にできる可能性もあるわけだ。

 実際の有用性を具体的に示している点でも意味は大きいと思う。

日本の研究、海外のアイデアで技術に

 しかしクリスパーの技術開発を見ていると、最初我が国で発見された分子を元に、外国で技術が開発されている。今度は我が国で行われた構造解析を元に、新しい技術がまた外国で開発された。

 このサイクルが気になる。

 我が国が素材を提供して、アップルがアイデアを提供するのと同じサイクルが多くの分野で進んでいるように思える。

 21世紀、多くのアイデアを軽々とまとめるような若者が我が国から生まれるような施策も大事だと思う。

 

文献情報

Konermann S et al.Genome-scale transcriptional activation by an engineered CRISPR-Cas9 complex.Nature. 2014 Dec 10.[Epub ahead of print]

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25494202

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント0 件のコメント

▼コメントを開く

西川伸一(Medエッジスーパーバイザー)

1948年生まれ。京都大学医学部卒。熊本大学医学部形態発生部門教授、京都大学医学研究科分子遺伝学部門教授、理研発生再生科学総合研究センターグループディレクターを経て、2014年8月より「Medエッジ」スーパーバイザー。京都大学名誉教授。

ウェブサイト:http://www.mededge.jp