株主総会が今週ピークを迎え多くの上場企業が企業統治改革を株主に示した。社外取締役を増やし、投資家との対話を増やす。説明責任を果たし、経営のチェック体制を強めようとすることは大切なことだ。

 とはいえ、改革の狙いには、自己資本利益率(ROE)の引き上げという短期的な成果を上げることも込められている。これに偏らず、もっと広く、もっと深く、長い射程で考える経営があっていい。

 企業がこぞって改革案を示したのは、東京証券取引所が今月から運用を始めた「コーポレートガバナンス・コード」とよばれる企業統治指針に沿うものだ。企業から独立した立場の社外取締役を2人以上選ぶことなどを求めている。

 旗をふったのは安倍晋三首相だ。1年前の「日本再興戦略」で低すぎる日本企業のROEを高め、海外の投資家をもっと日本に呼び込もうと訴えた。

 指針では、収益を上げて資本効率を高める目標を株主に明確に説明するよう経営側に求めている。また、金融庁が指針に先だって示した機関投資家向けの指針「日本版スチュワードシップ・コード」も成長戦略の一環だ。長らく「物言わぬ株主」といわれてきた生命保険会社などの機関投資家に、もっと経営に注文せよ、と促すものだ。

 ただ、短期的な利益追求に走れば問題も生じやすい。粉飾経営が市場を大混乱させたエンロン事件、世界経済危機をもたらしたリーマン・ショックの記憶は新しい。破綻(はたん)企業の米経営者らが数十億円の報酬を得ていた事実は、短期利益重視の統治システムの欠陥もあらわにした。

 利益至上主義の投資家行動をめぐっても、本場米国では賛否わかれて大論争が起きている。

 会社はひとたび誕生したら、社会的存在となる。奉仕すべき対象は株主だけではない。社員や取引先、消費者、地域社会。多くのステークホルダー(利害関係者)の利益に沿って経営することが求められる。企業統治改革はステークホルダーにとって意味のあるものでなければならない。株主利益ばかりに走ったら、会社の長期的な発展を考える経営の視座も、技術革新に挑戦する動機も失いかねない。

 少なからぬ経営者たちが本音では社外取締役をむやみに増やすことには、否定的だという。だとすれば、時の政権が旗を振れば、草木もなびくように同調する風潮はいかがなものか。「アンチ統治指針」を堂々と掲げ、信じる経営を進める反骨の経営者を見てみたい。