足踏み状態だった環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、大筋合意に向けて動き出しそうだ。12カ国による交渉を主導する米国で、大統領に強い交渉権限を与える貿易促進権限(TPA)法案を米議会が可決した。

 米国では、通商交渉は大統領直属の通商代表部(USTR)が担うが、権限は議会が持つ。USTRの横から議会が口をはさむようでは交渉は混乱する。だからTPA法で大統領に権限を与え、議会は仕上がった協定案全体への賛否を判断する。その仕組みがようやく整った。

 来年の米大統領選が近づくにつれて2大政党間の政治的な思惑は強まり、協定案を米議会にはかることが難しくなる。12カ国はこの機会を逃さず、大筋合意にこぎつけねばならない。

 なぜTPPが大切なのか。

 国内の成長を押し上げ、消費者の利益を高めていくには、貿易や投資の自由化を進め、海外、とりわけ高成長が続くアジアの活力を取り込むことが欠かせない。自由化交渉の舞台は本来なら世界貿易機関(WTO)だが、先進国と新興国の対立などから機能不全に陥っている。

 各国は今、二国間や地域内の自由貿易協定(FTA)の締結に力を注ぐ。多くの国が参加する「メガFTA」交渉の先頭を走るのがTPPであり、他の交渉もTPPの内容や状況を注視する。TPP交渉がまとまらなければ、他の交渉も滞る負の連鎖が生じかねない。

 もう一つ、忘れてならないのが、米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった中国の台頭だ。

 オバマ政権に厳しく、自由化に積極的な共和党が、消極的な民主党に妥協しつつTPA法の成立を急いだのも、米国が中国に先んじて通商のルール作りで主導権を握りたいとの思惑があるからだ。

 アジアでの自由貿易圏に中国は欠かせない。TPPには国有企業と民間企業の公平な競争を促す項目があり、巨大国有企業を多く抱える中国がただちにTPPに加わるのは難しそうだ。それでも、中国も参加している東アジアや日中韓3カ国での交渉がTPPにらみの様相だけに、中国を巻き込んでいくカギはやはりTPPにある。

 交渉は終盤を迎えたが、安価な後発医薬品の生産を左右する新薬の権利保護のあり方や、国有企業の扱いなど、米国を中心とする先進国と新興国が対立するテーマが少なくない。米国に次いで突出した経済力を持つ日本がとりまとめ役として動けるかどうか、政府の立ち位置と力量が問われる。