日本と韓国が国交を正常化してから50年が経ちました。昨夜(22日)、東京とソウルで開かれた記念式典には、安倍総理大臣とパク・クネ大統領がそれぞれ出席しました。
東京での式典で安倍総理大臣は「友好の歴史を振り返りながらこれからの50年を展望し、両国の新たな時代を築き上げていこう」と祝辞を述べました。
一方、ソウルの式典ではパク・クネ大統領が「新たな協力と共存共栄の未来を目指して共に歩んでいく転機にしよう」と呼びかけました。
両首脳の発言からは、日韓関係をこれ以上悪化させてはならないという思いが感じ取れました。これに先だって日曜日に開かれた日韓外相会談では、今の政権になってまだ一度も開かれていない首脳会談についても実現に向けて努力することを確認しています。
冷え切っていた日韓関係はようやく改善に向けて動き出したようにも見えます。
国交正常化から50年、これまでの50年とこれからの日韓関係を考えます。
【“成功”だった日韓モデル】
国交正常化以降「最悪」とも言われてきたこのところの日韓関係ですが、両国にとって、この50年間の歩みは果たして失敗だったのでしょうか。
両国が国交を回復した1965年当時、両国間の人の往来は年間1万人程度でした。去年一年間に韓国を訪れた日本人は228万人。日本を訪れた韓国人は275万人でこちらは過去最高を記録しました。合わせますと503万人。両国間の往来は、この50年で実に500倍に増えたことになります。
次に貿易です。1965年は2億ドルあまりでしたが、去年はおよそ700億ドル。この50年で350倍になりました。
日本のGDP=国内総生産はこの50年でおよそ50倍になっています。中国に抜かれたとは言え今も世界第3位、アジアでもっとも豊かで平和な社会を享受しています。
韓国の経済成長はさらに目覚ましいものでした。国交正常化当時世界でもっとも貧しい国のひとつだった韓国のGDPはこの50年で実に400倍に増えて今や世界第14位、一人あたりのGDPも3万ドルに迫る勢いです。先進国の仲間入りを果たし、今やG20の一員としてサミットの議長国を務めるまでになりました。50年前、国交正常化に反対するデモと機動隊の催涙ガスによって騒然としていたソウルの街には高層ビルが立ち並び世界最先端の企業がオフィスを構えています。
韓国併合から終戦までの35年間、両国は、支配する側とされる側という関係でした。それが国交正常化からの50年間でともに目覚ましい発展を遂げたのです。その意味では、この50年間は両国にとって “成功の歴史”だったと言えるのではないでしょうか。
【環境の変化と日韓関係】
ではなぜ今なお、日韓の間には冷たい隙間風が吹いているのでしょうか?
「安倍総理大臣が歴史を歪曲しようとしているからだ」、「いやパク・クネ大統領が頑なに反日を貫いているからだ」などと2人の指導者に責任を押し付けるような声を時折、耳にします。しかし指導者が変われば日韓関係は劇的に改善するのでしょうか?私はもう少し長いスパンで捉えるべきだと考えます。
先ほどご紹介した“成功の歴史”は、経済開発と安全保障によって支えられたものでした。
韓国は経済力をつけるために日本からの資金協力を求め、日本は米ソが鋭く対立する冷戦下でいわば防波堤として韓国を必要としたのです。
やがて東西冷戦は終わり、今度は中国が台頭してきました。日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国は、今や日本にとっても韓国にとっても最大の貿易相手国です。日本経済は長く足踏みを続け一方、経済成長を果たした韓国は、アメリカと中国という2つの大国の狭間にあって、安全保障面でも中国との結びつきを重視するようになっています。
こうした国内、そして国際環境の変化によって互いを必要とする思いが希薄になってきたことが、昨今の日韓関係に少なからぬ影響を与えています。
【双方の努力で真の和解を】
時代の変化に見合った新しい関係を構築するには、互いを必要とし、そして共に繁栄を享受できるビジョンを一緒に描いていかねばなりません。そのためには両国を隔てているもっとも困難な問題、歴史問題を避けて通るわけにはいきません。私は、かつて支配した側と、された側、双方の努力が必要と考えます。
日本が併合によって朝鮮半島の人達の祖国を奪ったことは紛れもない歴史の事実です。慰安婦の数や強制性をめぐって異論を唱える人もいますが、細かい数字や言葉の定義に拘るような発言は過去を正当化しようしていると受け止められ、いたずらに反日感情を煽るだけでなく、日本に対する国際的な信用をかえって傷つけることになってしまうのではないでしょうか。戦後70年にあたって安倍総理大臣は新たな談話を出すとしています。歴代内閣の歴史認識を引き継ぐと言うのであれば、過去の過ちを率直に認め、近隣諸国との和解を目指す決意をわかりやすい明確な言葉で表明することを期待したいと思います。
韓国側にも和解に向けた努力を求めたいと思います。「加害者と被害者という立場は千年経っても変わらない」というパク・クネ大統領の発言は、日本の世論の強い反発を招きました。「あと何年謝り続けねばならないのか」という諦めにも似たいわゆる“謝罪疲れ”も蔓延しています。被害者と加害者の立場にこだわってすべての責任を日本の側に押し付けているだけでは、いつまで経っても解決策は見出せません。韓国の側にも、アジア女性基金などこれまでの取り組みも含めた日本側の努力をきちんと評価する姿勢と、過去を赦す寛容さが必要なのではないでしょうか。
【ともに開く未来を】
最後に日本列島と朝鮮半島の間に浮かぶチェジュ島で行われている取り組みをご紹介します。
豊かな自然に恵まれた遊歩道を歩きながら捨てられたゴミや海岸の漂着物を回収するボランティア活動です。韓国の人達に交じってチェジュ島に住む日本人もボランティアで参加しています。チェジュ島で始まったこの取り組みは海を越えて九州にも拡がりました。
この秋には、学生交流に参加する両国の若者達が共同でゴミ拾いのボランティアを行う企画も予定されています。
ふたつの国は海でつながっています。両国の市民が一緒に汗を流して自然を守るために協力する。その姿を地元の人達に見てもらう。両国の明るい未来を切り開いていくヒントは、実はこんな身近なところにあるように思います。日韓関係は、政府と政府の関係だけではありません。これからの日本と韓国の関係はどうあるべきなのか、ひとりひとりが考えてみる時ではないでしょうか。
(出石 直 解説委員)