吉村良二、阿久津篤史
2015年6月24日11時45分
スポーツ振興くじ(toto)に「プロ野球くじ」を加える案が浮上している。売り上げを増やして新国立競技場の建設費に充てるのが目的の一つだ。しかし、くじ導入の対象となる野球界は反対の声が根強い。背景には八百長が絡んだ苦い記憶がある。
プロ野球くじは1964年東京五輪でも資金調達を目的に導入が検討されたが、実現していない。当時の報道では、コミッショナーが戦前に八百長試合があって不評を買ったことを挙げたうえで、疑惑の目が向けられるとして反対している。プロ野球くじは戦後間もない46年に日本勧業銀行(現みずほ銀行の前身のひとつ)から発売されたことがあったが、数年で廃止。以降、野球がくじの対象になったことはない。
今回も球界内で同意を得ることは難しい状況だ。熊崎勝彦コミッショナーは8日、「12球団みなさんのお考えは、賛同できないという意見も多く、極めて慎重に検討していかざるを得ない」と語った。
球界には69~71年にかけて球界を揺るがせた「黒い霧事件」が深い傷として残る。暴力団とプロ野球選手による野球賭博に絡む事件で、複数球団の計20人が処分を受けた。発端となった西鉄(当時)はオーナーが辞任し、池永正明投手ら4選手が永久追放となった(池永氏は2005年に復権)。日本野球機構(NPB)の幹部は「球界は黒い霧を繰り返さないという決意でやってきた。全力で暴力団排除に取り組んでおり、野球くじはそぐわないのではないか」と語る。
投手と打者が1対1の勝負を積み重ねる競技の特性も、反対の理由のひとつ。特に投手は試合の勝敗を大きく左右するため、八百長工作の標的になりやすい。
球界が恐れているのは暴力団からの勧誘、脅迫だけではない。選手や監督、審判員らが受ける「精神的な負担」の影響も想定する。例えば球場でのファンの心ないヤジや、「○○選手のせいでくじが外れた」といったネットの書き込み、噂(うわさ)の拡散なども大きな負担になる可能性がある。NPB幹部は「ネット時代で、これらから選手を守る手立てが見つからない。選手がそれを気にして実力を出せなくなっては元も子もない」。
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