北大西洋条約機構(NATO)加盟28カ国は24日、ブリュッセルで国防相理事会を開き、ソ連崩壊後で最大規模となる東欧への米軍増派を確認する。これは重要にして歓迎すべき戦略的選択だ。ウクライナに侵攻したロシアの東欧侵略を抑えることにつながるだけでなく、意義を疑われるようになってから久しいNATOに新たな息吹を与えることにもなる。
冷戦終結とともにNATOに対する考えは分裂した。欧州の領土防衛に的を絞るのか、より広範囲の有事対応の役割を負うのか。1949年のNATO発足を促したのは、欧州本土に攻め入ろうとするソ連に対抗しなければという思いだった。
■再び本来の使命へ
そのソ連が崩壊すると、NATOは「域外に出ていかなければ消滅」が通念になった。NATOは世界の警察官としてボスニア、コソボ、アフガニスタン、イラク、ソマリア沖、リビアで活動した。
特にコソボなど、所期の目的を達した活動もある。しかしアフガニスタン、リビアでの活動は、介入への懐疑論を広める結果に行き着いた。
したがって今回の国防相理事会は、NATOが自信を持って本来の使命に回帰する瞬間と見なすことができる。米国は戦車や重火器を東欧全域に配備する。また、ロシアの攻撃に対応するNATO即応部隊に特殊部隊も送り込む。
ロシアは自国領土に対する重大な外部的脅威にあたるとして、こうした動きに抗議している。しかし、米国とその同盟国の動きを、ロシアは過大に受け止めている。NATOが展開する目的は緊張を高めることではなく、ロシア政府が近隣諸国に与えている重圧に対処することだ。あくまでも、NATO加盟国の国家主権を侵害するようなロシアの行動を抑止することであり、不安にとらわれた米国の同盟国にとっては、あらためて北大西洋条約第5条に定められた「集団防衛」を確信させるものとなる。
ロシアに考えを改めさせるには、兵士や戦車を展開するだけでは事足りない。NATOは長年の防衛費の縮小傾向を転換させなければならない。1990年以降、欧州では多くの軍事施設が空洞化している。特にポーランドなどの東欧諸国がその傾向に甘んじているようだ。NATO加盟国は国内総生産(GDP)の2%以上を国防支出に充てることを目標としている。英国は、今年はこの目標をクリアできても、2010年代末までに2%を大幅に割り込むことになる。キャメロン政権は問題に対処する必要がある。
欧州各国の指導者は外部からの脅威に対する武力行使について、ある種の反省をする必要もある。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの最近の調査によると、フランス、ドイツ、イタリアでは、ロシアに攻撃された同盟国を守るために武力を行使すべきではないと考える国民が過半数を占めた。欧州の安全保障を米国に委ねながら自分たちは行動しないというわけにはいかないことを、欧州各国の政治家は国民に納得させなければならない。
ウクライナ危機が続くなかで、西側諸国は外交的解決をあきらめてはならない。米国をはじめとするNATO側にとって望ましいのは、ロシアのプーチン大統領が引き下がってウクライナ東部への介入をやめ、ウクライナとロシアの国境が固まることだ。しかし、プーチン氏が介入をやめるまで、抑止力と防衛力に的を置く政策で集団としての決意を示すことが最善の方法となる。
1945年から40年以上にわたり、この原則が欧州での紛争回避に役だった。現在の危機においても、NATOは「戦略的忍耐」のドクトリンを堅く守ることが理にかなう。
(6月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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