私を含む14人が論文やエセーを寄せている。
すべてを克明に読んだわけではないが、私の見るところ、加藤直樹氏の「昭和19年を生きる」と椹木野衣氏の「絵画における「近代の超克」と「戦後レジームからの脱却」」に特に感銘を受けた。
両名とも、私がこれまで耳にしたことのない書き手である。
加藤氏は、近年我が国に蔓延している病的な「現実否認」を解明してくれる。
氏はそれを、明治期から戦後に至るまで受け継がれた「進歩」と「立身出世」の観念に求める。
これによって、我々の祖先たちは、アジアの民族主義の意味を理解できず、自己の前に挑戦し立ちふさがる他者を、恐怖の対象にしてしまったと言う。慧眼と言うべし。
椹木(さわらぎ)氏の方は、藤田嗣治や宮本三郎らによる戦争中の戦争絵画について書いている。しかもそれを、彼らより一世代若く、戦時中それに強烈なインパクトを受けた少年、成田亨の眼を通して論じている。
成田は、のちにウルトラマンなどの怪獣デザイナーとして名をはせることになった芸術家である。
藤田らの戦争画は、戦後、聖戦翼賛的なものとして排撃され、ほとんど我々の眼に触れないまま、歴史の陰に埋もれてきた作品群である。
彼らの作品の美術史的な意義を正しく評価し、それが成田を通して、かろうじて戦後のアニメーションなどに受け継がれてきた意味を論じる。実に目から鱗の、強烈なインパクトのある論考である。
時流におもねることなく、自分の感性と知性で進む人々だと思う。