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制圧する男と女
魔石の採掘は、驚くほど順調な滑り出しを見せた。
鉱山が手付かずであり、作業員も十分。
なにより、ポイントカタログで購入した量産型サハギンと量産型ゴブリンが、休息と食事を必要としない、というのが大きかった。
見た目は生物的ではあるが、ポイントカタログで購入したモンスターはあくまで生物とは違うものであるらしい。
ともかく、助かることに変わりはない。
魔石は順調に集まり、ひとまず軍艦の倉庫をいっぱいにする量になる。
それを期に、軍艦は一度港に戻ることとなった。
遠話ですでに成果報告はしているのだが、やはり実物があると無いとでは違う。
「これほどの量が採掘できるとは思いませんでした。今後はもっと大型の船が必要でしょうね。港に戻り次第、手配します。通信要員と護衛をおいていきます。使ってください」
軍艦の船長は、十数名の兵士をメガフロートに残してくれることとなった
全員が女性兵士なのは、おそらく自分に気を使ってくれたのだろう。
そう、ナナナは思っていた。
驚くことに、全員がなんらかの魔法を扱える人員なのだという。
貴重な人材ならば、自分のために割くのは申し訳ない。
そういったナナナに、船長は苦笑する。
「貴女という重要人物を護衛するという意味では、これでも足りないぐらいですよ。一応、ここは隣国との国境沿いですからね。ないとは思いますが、念を入れねば」
船長によれば、まずないとは思うが、隣国の兵士がやってくる恐れもあるのだという。
そうなった場合、戦闘は避けられないだろう、ということだった。
ナナナも、さすがにそういった危険を想定していなかったわけではない。
とはいえ、これだけの施設とモンスター達がいるのだ。
最悪の場合でも、逃げ切ることは可能だろうと考えていた。
メガフロートには、すでに量産型サハギン、量産型ゴブリンが、あわせて三百体近くいるのである。
これだけの戦力があってどうこうされるのであれば、どこにいても危険だろう。
その上で魔法を扱える兵士が守ってくれるというのであれば、これ以上の安全はないはずだ。
「気を使っていただいて、有難うございます」
「いえ、大切なお客人ですから」
そういって笑い、船長は言葉を続ける。
「予想以上に積荷の量が多くなりましたので、次はもう少し大きな船もつれてくることになります。近くの港にはいないようなので、次に来るのは十日かそれ以上先になってしまいますが……」
「はい、わかりました。お待ちしています」
「不安も多いかと思いますが、何かあったら残っているものに言いつけてください」
この船長は、いい人なのだろう。
そういった立場になる人にしては若く見えたが、ナナナは船長に好感を持っていた。
船長は、次に来るときまでの分として、かなりの量の食べ物と消耗品をメガフロートへと運び込んだ。
やはりナナナは恐縮したのだが、自分の部下の分でもある、といわれれば、断ることもできない。
その後、いくらか打ち合わせをして、軍艦は港へと戻ることとなる。
今度戻ってくるのは、言葉通りなら十日後となるだろう。
それまでに、やっておきたいことがいくつもある。
まずは手始めに、人が滞在する場所を作らなければならないだろう。
軍艦があったときはそちらで寝泊りしていたので、ポイントカタログで購入する必要がある。
自分の分だけではなく、護衛をしてくれる兵士たちの分も用意しなければならない。
魔石を船に運び込むための道具も必要だろう。
船で来た人員が休憩をするためのスペースも、あれば便利なはずだ。
そういえば、海底鉱山図面などもあったほうがいいかもしれない。
考えなければならないことは、いくらでも思いつく。
そのためにはかなりのポイントが必要になるだろうが、そちらは心配する必要はなさそうだった。
現在ナナナのポイントは「860,000,000」もあるのだ。
これは、この世界に来た直後よりも多い数字である。
ポイントが増える理由はわからないが、メガフロートという目下最大の買い物を終えた以上、これでしばらくポイントの心配はないだろう。
「さあ、これからがんばらないと!」
ナナナは気合を入れるため、ぐっと握りこぶしを作った。
ロックハンマー侯爵が放った兵士がこのメガフロートを確認したのは、この日の夜のことであった。
現在のナナナの主な仕事は、量産型サハギンと量産型ゴブリンの監督だ。
彼らは基本的に妙にテンションが高く、ノリがいい。
休息や食事の必要もないのだが、なぜか時々奇妙に一箇所に集まり踊りだしたりするのである。
しかもどういうわけか、日本のサブカルチャー的なものが多い。
たとえば、秋葉原系アイドルを応援するためのファンの団体行動、いわゆる「オタ芸」などをし始めるのだ。
最初は休憩なのかと思ってほうっておいたナナナだったが、彼らはまったくやめる気配がなかった。
それどころか参加するものがどんどんと増えていく始末だ。
どうしたものかと指揮官サハギンに相談したところ、意外な答えが返ってきた。
「ツッコミマチ、ジャ、ネェーデスカネ」
一瞬何のことかわからなかったナナナだったが、とりあえず言われたとおりしかってみることにする。
結果は、予想以上のものだった。
量産型サハギン達は待っていましたとばかりに、蜘蛛の子を散らすように自分の仕事場へと戻っていったのだ。
どういうことなのか頭を悩ませたナナナだったが、途中で考えるのをやめた。
おそらく意味などないのだろうと思ったからだ。
そもそもがポイントカタログで購入した、よくわからないモンスター達なのである。
よくわからない行動をとるのも、仕方ないのだろう。
それ以降は定期的につっこみを入れて量産型サハギン達を叱咤するのが、ナナナの仕事になったのだ。
一応迫力を増すためにポイントカタログで「シャムシール」と呼ばれる曲刀を購入してみたのだが、これもかなり効果があった。
なんとなく海賊っぽいと思い購入してみたのだが、どうやら量産型サハギンたちは「オヤビン」が海賊っぽければ海賊っぽいほど、やる気を増すようなのだ。
それに気がついてからは口調も少し荒っぽくしてみたのだが、彼らは痛く感動していた。
いよいよ持って意味がわからなくなってきたナナナだったが、そのころには深く考えることはあきらめていた。
世の中、いくら考えてもわからないものはわからないのである。
わからないといえば、ナナナの着ている衣装だ。
一度額の汗を脱ぐために量産型サハギン達の前で帽子を脱いだのだが、そのときちょっとした騒ぎが起きた。
「オ、オヤビンガキエター!?」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ウチュージンノ、シワザダー!!」
「な、ナンダッテー!?」
量産型サハギン達がナナナを目の前で見失い、混乱に陥ったのである。
ちなみに、見えないところでは何度も服を脱いでいた。
シャワーを浴びたり、寝るときには、この「サブカルチャーの女海賊っぽい服装」をしていないのだ。
混乱する量産型サハギン達を見て、ナナナは思いつきで近くにいた女兵士に帽子をかぶせてみた。
結果は、無反応。
今度はナナナがかぶってみると、今度は突然オヤビンが現れたと騒ぎになった。
どうやら量産型サハギン達は、この衣装をセットで着ている場合か、ナナナが身に着けている場合に限り、「オヤビン」として認識しているようなのだ。
その日はそれで精神力が切れてしまい、とりあえずそれ以上実験する気力は起きなかった。
いつかすることがあるかもしれないが、それは当分先になるだろう。
「なんか、よくわかんない物体だなぁ……」
「イヤァ、ソレホドデモ」
なにやら照れている指揮官サハギンを無視し、ナナナは深いため息をついた。
そのときだった。
あれこれと仕事をしている量産型ゴブリン達が、騒ぎ始めたのだ。
「どうしたの?」
「ナンカ、ウエカラオチテキマスゼ、オヤビン!」
「オヤカタ! ソラカラオンナノコガ!」
「アオイイシ、ゲットジャゼイ!?」
「クウチュウタカラジマハ、ホントウニアッタンダ!」
なにやら量産型ゴブリン達が騒いでいるが、どうやらそれどころではなさそうだった。
本当に、空から何かが落ちてきているのだ。
海から何かが近づいてくることは心配していたナナナだったが、まさか真上から何か来るとは思っていなかった。
自分のうかつさを呪いながらも、ナナナはあせって声を張り上げる。
「だれかっ! 兵士さん達を呼んできてっ!」
「「「マム・イエス・マム!!」」」
上空からの落下物が轟音を上げてメガフロートに降り立ったのは、この直後であった。
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鳥型の魔獣の背中に乗り、ミツバは海上を見下ろしていた。
なにやらでっかいイカダのようなものが見えるが、目標はそれらしい。
飛び立つ前に散々説明された内容は、すでにミツバの記憶から六割がた消滅している。
ミツバ自身その消滅に気がついていないので、おそらく迷宮入りだろう。
とはいえ、そんなことは百も承知なものばかりなので、バックアップは完璧だ。
「相手は日本人と思しき人物のほかに、剣を下げた一般人らしき服装の人物も何人かいます。正体は不明ですが、深く考えないでください」
「りょうかいっす! それについては自信があるっす!!」
深く考えない。
それについてだけは、ミツバは人に負けない自信があった。
なんにでもむやみに自信があればいいというものではないという、実によい見本だろう。
ミツバに声をかけたのは、レインだ。
遠話魔法で遠くから話しているので、今この場には居ない。
改良して水上も進めるようになったという「鳥カゴ」で待機しているのだそうだ。
「落下したら、すぐに首飾りを見せて、自分の所属を相手に伝えてください。ちゃんといえますか?」
「大丈夫っす! 自衛隊副隊長ミナギシ・ミツバだってきちんと名のるっす!」
「絶対にやめてください。ロックハンマー侯爵領、地方騎士ハンス・スエラーの従者、と名乗ってください。それから、休暇中で海に遊びに来たという内容も付け加えてください」
「全部覚え切れないっす!」
「そのときになったら、またお知らせします」
とりあえず覚え切れそうにないので、ミツバは覚えるのを放棄した。
出来ない事はできる人に任せる。
それがチームワークというものなのだ。
ただ、とりあえず遊びに来ているというのは伝わるのではないかと思っていた。
何しろミツバの今の格好は、水着に浮き輪装備という、夏満喫中スタイルなのである。
今ミツバが着ているようなデザインがこの世界にあるかどうかはわからないが、その辺はフィーリングで伝わるだろうとミツバは思っていた。
強い思いは、必ず人の心に通じるものなのだ。
装備している浮き輪は、コウシロウが千里眼で見つけやすいよう、目印代わりのものである。
丸く加工した木材を、赤いゴムで覆ったものらしい。
ごつくてかわいくはないのだが、その実用一点張りっぽさが自衛隊っぽくてミツバは気に入っていた。
「それから、間違っても体重操作を過て浮島を破壊しないでください。キョウジ殿によると、ミツバ殿の落下攻撃はその気になれば戦略級の威力も発揮可能なそうなので」
「なんかすごそーっすけど、ぜんぜん意味がわかんねぇーっす!」
「キョウジ殿いわく、軽い核爆発程度の火力だそうです。核というのがどんなものなのかは知りませんが」
「へぇー! すっげぇー!!」
とりあえずすごそうだということは、理解できた。
どのぐらいすごいのかはよくわからなかったが、とにかくなんかすごそうだ。
気をつけねばならないと、ミツバは気を引き締める。
「では、時間です。落下を開始してください」
「うーっす!」
レインに促され、ミツバはすっくりと立ち上がった。
普通、空を飛んでいる鳥の上で立ち上がるなどというのはまず不可能なのだが、ミツバには可能なのだ。
身体能力と運動神経とか、そういうのが人間のものを基準にしちゃいけないレベルで高いからである。
「ミツバさん、マジきぃーつけてください! ちょー深けぇーらしーっすから! 海!」
「だいじょうぶっす! ばっちり着地決めてやるっす!」
鳥型の魔獣にびしりと親指を立てて見せる。
そして、そのまま何気ない動作で歩き始めると、ぴょーん、と軽い様子でジャンプする。
「高く羽ばたいてるところから、ふらいん・ざ・すかいっすー!!」
まるでちょっと高い段差から飛び降りたような気軽さである。
が。
実際は東京スカイツリーの倍近く高い位置からの落下だ。
空気はかなり薄いが、風圧がすさまじい。
息をするのも苦しいはずであり、普通ならばゴーグルなどがない限り目を開けていることは出来ないだろう。
だが、それは普通の人間ならばの話である。
すでに人間とか生物とか、物理現象とかからも開放されちゃってる系女子であるミツバに、そういったものは関係ないのだ。
落下しながら、ミツバは目的の場所である、でかい浮島をにらみつけた。
メガなんとか、という名前らしいのだが、残念ながらミツバの記憶力によって忘却のかなたへと消え去っている。
ミツバの目測によると、このままでは直撃コースから外れてしまう予感がした。
思ったよりも風に流されているらしい。
「よっしゃー! きどうしゅうせーっすー!」
ミツバは気合を入れると、横方向へ蹴りを繰り出した。
足を伸ばしたのではなく、蹴りである。
蹴ったのは、空気だ。
ミツバはその気になれば、「空気を蹴って空中浮遊」が出来る脚力を持っている。
落下方向を修正するなど朝飯前なのだ。
微妙に軌道修正しながら、ミツバは落下を続ける。
そして、いよいよ到着する、というときになって、ミツバは能力「自重自在」を発動した。
落下の勢いを殺すために、自分の体重を一気に軽くしたのだ。
もともとかなり軽くしているため、落下速度はミツバの大きさの割りにゆっくりである。
そこにさらに減速を掛けることで、着地の衝撃をさえにかかったのだ。
キョウジに言わせるといろいろ物理法則などを無視しているらしいのだが、そんなことを言ったらミツバの存在はどうなってしまうのか、という話になるだろう。
出来るものは出来る。
無茶を通せば道理も引っ込むのだ。
かなり減速と軽量化をかけたものの、着地の瞬間には少しは抵抗があるだろう。
ミツバは落下予測地点を確認し、周囲に誰もいないのを確認すると、そのままの位置で落下の衝撃に備えた。
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爆発のような衝撃音が響き、びりびりと空気が揺れる。
巨大なメガフロード全体が揺れるようなことはなかったが、それでも落下位置が近かったせいか、ナナナの足にはわずかな衝撃が走った。
ちなみにひざが震えているのは、単に恐怖心からだ。
恐怖を感じるのも、無理はないだろう。
何しろ空から落下してきたのは、水着姿で浮き輪を装備した少女だったのである。
少女は妙に真剣な表情をしており、両腕を組んで足を肩幅に開いていた。
落下してくるときからその姿勢だった様に見えたが、あまりにも早すぎたためにナナナにはよくわからない。
ただ少なくとも今現在、目の前の少女がとても男らしい仁王立ちを決めていることだけは、よくわかった。
その少女の正体。
言うまでもないだろう。
上空から落下してきた、ミツバである。
ミツバはかっこよく着地が決まったことに満足しながら、ゆっくりと目を開いた。
「ここが、あの女のハウスっすね……!」
言葉に特に意味はない。
インターネットの初期を彩ったネタのひとつである。
年齢的に知っているかどうかはアレだが、彼女の言動にはネットスラングが多く含まれているので今さらだろう。
ミツバはゆっくりと周囲を見回すと、目当ての人物を見つけ視線をむけた。
くわっ! と効果音がつくほど力強く見据えたのは、近くに立っていた少女である。
ミツバはその少女を見て、強い衝撃を受けていた。
あの威力はすさまじく、落下の衝撃の数千倍といっていい。
まずミツバが注目したのは、ナナナがかぶっている帽子だ。
ドクロをあしらわれたそれは、確かな高級感を漂わせている。
形だけを整えた安物では、絶対にないだろう。
職人か、それに順ずるものがきちんと作った逸品であると見受けられる。
続いて、コート。
たくさんの飾りがつけられているものの、全体的なバランスを崩していない。
まるでそれが当然であり、そうすることこそに意味があるのだ、といわんばかりにすばらしいものであった。
前を全開にして羽織るように着ているのだが、それでもわかる、惚れ惚れするようないい仕事だ。
さて、最後に最も注目すべき点。
それは、これまたドクロに彩られたかなりきわどい感じのビキニに包まれた、乳である。
そう、乳。
ミツバはその少女、ナナナの乳をガン見していたのだ。
ナナナの身長は、ミツバと同じかチョイ低いぐらいだろう。
しかしその乳は、圧倒的なまでにミツバを突き放していた。
おそらく、いや、確実に、イツカやムツキよりもでかい。
ミツバの知る中でこれに勝てるとしたら、レインぐらいだろうか。
ケンイチの牧場にある露天風呂で見たことがあるが、あれはすさまじかった。
きっと夢とか希望とか、そういうものがあふれかえるほど詰まっているに違いない、と、ミツバは思っている。
だが、それよりも今は目の前の少女のことだ。
顔立ちは、どちらかといえば幼い感じだろうか。
目は大きく、可愛らしい印象だ。
ミツバはこういう少女のことをなんと表現すべきなのか、よく知っていた。
そう。
ロリだ。
大きいお兄さん達が大好きなアレである。
そしてこの少女は、巨乳であった。
ロリ巨乳である。
そのロリ巨乳の少女が着ているのは、いったいなんだろうか。
ミツバにとって、それは考えるまでもなく答えの出ているものだった。
こんなにわざとらしい海賊服となれば、そうとしか考えられない。
なんかのキャラのコスプレだ。
ゲームなのか漫画なのか、はたまたオリジナルキャラなのかはわからない。
だが、間違いなくなんかのコスプレのはずだろう。
ナナナは顔立ちもかわいく、美少女であった。
美少女なロリ巨乳が、すごくきわどいエロいかんじのコスプレをしている。
これはミツバにとって、まさしくすさまじい衝撃であったのだ。
「奥深けぇー。くーるじゃぱん奥深けぇーっす」
「へ?」
しみじみとつぶやくミツバに、ナナナはどうリアクションしていいのかわからず、聞き返した。
だが、なにかしらの感慨に浸っているミツバには、その声は届かなかったらしい。
「き、きさまっ! なにものだっ!!」
そうこうしている内に、メガフロートに残っていた兵士達が走ってきた。
どうやら量産型ゴブリン達が、ナナナの指示を忠実に守っていたらしい。
落下してきたのが見えていたのか、彼女らはかなり殺気だった様子だ。
突然空から人が落ちてくれば、警戒するのが当たり前だろう。
ミツバは大きな声に反応して、我に返った。
ちょうどそのとき、耳元にレインの声が響く。
その催促と「こう名乗れ」という内容に合わせ、ミツバは声を張り上げた。
もちろん、水着の中に入れて落とさないようにしていた、紋章つきの首飾りを掲げることも忘れない。
「自分は、ロックハンマー侯爵領、地方騎士ハンス・スエラーの従者、ミナギシ・ミツバっす! 今は休暇中で、むっちゃ遊んでるさいちゅーっす!」
その言葉に、ナナナと兵士達に衝撃が走った。
ただ、その種類は別々のものである。
ナナナは、むっちゃ遊んでて、どうやったら空から降ってくるんだろう、と思っていた。
格好から見て、遊んでいるのは間違いないだろうとは思うが、どうにも理解不能だ。
兵士達は、「ハンス・スエラー」の名を聞いて、一気に戦場の緊張感を突きつけられていた。
彼らの国は、以前にハンスたちの国と戦争をしたことがある。
それは、ハンスが敵国の将をとった、あの戦争だ。
兵士達にとって「ハンス・スエラー」とはつまり、自分達を敗北に追い込んだ大きな敵の名前なのである。
その従者が、目の前に現れたのだ。
空から落下してきたことも、それで理解が出来た。
何かしらの魔法を使ったに違いないと考えたのだ。
魔法繁栄のこの世界で現実の兵士として戦っている彼女等にしてみれば、それは当然の判断だろう。
実際には多少異なるのだが、まあ広い意味では似たようなものである。
ミツバは相手が固まってるのもかまわず、さらに言葉を続けた。
「そこの日本人フェイスのロリ巨乳なレイヤーの人に話があるっす!」
そこからの兵士達の行動は早かった。
腰に下げていた剣を抜き放ち、数人がナナナをミツバから遠ざけようと動き出す。
残ったものは、いっせいにミツバへと攻撃を仕掛けたのだ。
彼らは、海軍将校から密命を与えられていた。
もし敵国、ハンス達の国と接触し、捕まる、あるいは殺されそうになった場合は、ナナナだけは絶対に逃がすように。
ナナナの能力は、戦争と戦後賠償で疲弊した祖国にとって、支えに成り得る。
最初は半信半疑だったが、今は違う。
これだけのものを瞬時に作り上げ、管理し、それを動かしうる魔物さえ生み出す能力。
「支えに成り得る」のではない。
「必ず支えになる」だろう。
魔石とは、彼女達の祖国が持つ技術にとって、根幹を支える大切な素材だ。
それをたった一人で、採掘供給しえる人材。
いや、おそらく今後それ以外のところでも、ナナナは大きな力を発揮するだろう。
それを今この場で、「ハンス・スエラー」の手に渡すわけには行かないのだ。
彼女達にとってハンスは、いわば悪鬼羅刹と同義語なのである。
圧倒的な火力で周囲をなぎ払う魔法使いを、まとめて相手にして倒しきる化け物なのだ。
味方にすればこれ以上なく頼もしい存在であるハンスだが、敵から見れば悪夢のごとくだろう。
「魔術師殺し」という二つ名は、味方よりもむしろ敵にとってのほうが影響が大きいのだ。
ナナナは突然体を覆われ、驚いて身をこわばらせた。
兵士達はナナナを抱えあげると、一気に走り出す。
ミツバの方へと向かった兵士達は、一斉に魔法を打ち出した。
風、水、氷、可視可能なエネルギーの塊。
複数種類の攻撃魔法が、ミツバに殺到する。
この世界において、遠距離攻撃魔法はその大半が一瞬で複数人を倒しうる威力を持つ、圧倒的な破壊力を持っていることが大半だ。
兵士達が放った魔法も、例に漏れず普通の人間相手ならば過剰な攻撃であった。
だが、相手はミツバである。
「うをぉ!? 最近のワコウド、キレやすすぎっす!?」
そんなことを言いながら、地面を一蹴り。
ジャンプをしながら体を走り高跳びの要領で回転させると、その動きでもってすべての魔法攻撃を回避してのけた。
びしっと三点着地で地面に降りるのとほぼ同時に、後方で魔法が炸裂する。
驚いたのは、攻撃を仕掛けたほうだ。
「ばっ!? ばかなっ! 同時だぞ!?」
「くそ、やはり化け物かっ!」
表情をゆがめながらも、兵士達は剣の切っ先をミツバへと向ける。
状況が理解できず目を白黒させるナナナだが、抱えられているせいで身動きが取れなかった。
遠ざかっていくナナナをちらりと見て、ミツバは低いうなり声を上げる。
「これだから股間に大地のエネルギーをためてビームビームする先行的ロボットを知らない世代はこまるんすよ!」
ミツバの怒りのポイントはよく出来ない人が多いだろうが、当人にはわかるのでそれでいいのだろう。
落ち着いて交渉しようとしたが、突然魔法をぶっ放されては拉致もない。
ここは戦う場面である。
ミツバはそう腹をくくると、ファイティングポーズをとる。
「交渉決裂ですね。今からいくので、持ちこたえてください。なるべく殺さないようにお願いします」
レインからの遠話が、ミツバの頭の中に響く。
「うーっす!」
戦闘許可が下りた。
ミツバは気合入れがてら返事をすると、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
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海上を進む鳥カゴの上で、ハンスは頭を抱えていた。
突然相手が襲い掛かってくる。
想定していなかった事態ではないが、出来れば起きてほしくない事態だった。
「海賊、山賊、利用されているのか、そういう気質の日本人なのか。どれだろうなぁ……」
「キョウジ先生が、隣国の兵士じゃないかってつぶやいてました!」
口に出すのもいやだったので言わなかった考えに切り込んできたのは、鳥カゴの舳先に鎖でつながれているムツキだった。
普通なら虐待とか暴行とかいう単語が浮かんできそうな光景だが、当人がいたって楽しそうなので問題ないだろう。
「常に何通りもの可能性を考えて行動しろ! 世の中大体それよりも斜め上に悪いことが起きるんだ、とも言ってました! そのとおりですよね!」
「そうだな」
恐ろしくネガティブな考え方だが、あながち間違ってもいないので文句も言えなかった。
実際今の状況は、まさにそれだろう。
「それにしても、キョウジ先生ってすごいですよね! これの材料と組み立て考えたのも、キョウジ先生なんですよ!」
確かに鳥カゴやゴーレムのほとんどは、キョウジが材料をそろえ、どんなものに仕上げるか考え、イツカが作り上げたものだった。
たしかに、そういう意味でキョウジはすごい。
当人は、恐ろしく自分のことを過小評価しているのだが。
この改良された鳥カゴにしても、驚くべきものだった。
もともと船の形をしているのだが、それに収納可能なゴム製のヒレが取り付けられている。
回転動力を作ることが出来ないゴーレムならば、水中動力として効率がいいのはそこになるだろう。
以前遊びに行った湖で何度も実験したというそのヒレの力は驚異的で、鳥カゴはムツキの髪の毛が風になびくほどの速度で海上を進んでいる。
湖でしか試したことがないので不安だといっていたが、問題はなさそうだった。
というよりも、この速度は脅威的だ。
ハンス自身あまり船などには詳しくない、というか、人生で数回しか海も見たことがないのだが、これほど足の速い船というのは見たことがない。
隣国に魔石を動力にした船があり、それがすさまじく早いと聞いたことはあったのだが、残念ながらハンス達の国はそういった技術に強くなかった。
なぜ強国として成り立っているのかと一瞬疑問が頭を掠めたが、答えは簡単だ。
領土が広く、人口が多いからである。
人の多さはそれだけ、遠距離攻撃を使える魔法使いの数につながる。
そういった魔法使いの数の多さは、そのまま戦力の強さなのだ。
「いかんいかん。切り替えよう」
ハンスは頭を大きく振るうと、鳥カゴの内部を覗き込んだ。
ハンスとムツキがいるのは、鳥カゴの上部甲板である。
中には、レインと、コウシロウの二人が座っていた。
ケンイチとキョウジ、イツカは、浜辺で待機中だ。
「イツカ! 聞こえるか!」
「はいはい。きこえますよう」
鳥カゴの中に向かって叫ぶと、すぐにイツカの声が返ってくる。
この鳥カゴの内部には、音声通信用のトラップが仕込んであるのだ。
大きく、平たい面のあるものにしか仕掛けられないイツカのトラップだが、こういう大きな乗り物に使うには非常に便利である。
「他の二隻とゴーレムの様子はどうだ!」
「特に問題ありゃーせんねぇー」
今回は改良型の鳥カゴを、合計三つ持ってきてた。
ハンス達が乗っているもの以外には、戦闘用ゴーレムを載せ、同じようにメガフロートへ向けて進めているのだ。
ゴーレムにはジャビコを通して指示が出せるので、無人での運用が可能なのである。
まず、ゴーレムだけを乗せた二つを先行させ、その後ろをハンス達が乗っている鳥カゴが追いかける。
メガフロートに到着と同時にゴーレムを出撃させ、上陸地点を確保。
ハンス達がそこへ乗り込んで、制圧するという筋書きだ。
かなり無茶な方法だが、それが可能な戦力は整っているというのが、ハンスの判断だった。
イツカの応えに、ハンスが一つ頷いたのと、ほぼ同時。
コウシロウが、ハンスのほうへと顔を向けた。
「全鳥カゴ進路上、海亀。体当たりでしょう」
短く、鋭く。
滑らかに告げられたそれにハンスは返事をする間も惜しんで、甲板上へと顔を出した。
「ムツキ!」
「聞こえてました!」
言うや否や、ムツキの頭上に三つの閃光が迸る。
人の胴を軽く越える太さの光の矢が、三本。
それらは鳥カゴの進路上の海面へと滑るように飛来すると、浮かび上がろうとしていた大きな何かを貫いた。
刹那、小さな爆発が起こり、その物体は四散する。
貫いたのは、コウシロウが言っていた海亀、ナナナがポイントカタログで購入した、運搬用の大型海亀だ。
「三匹命中! でも、手ごたえありませんよ! やっぱりナマモノじゃないみたいです!」
事前に千里眼で確認したところによると、緑色の子鬼、半魚人、海亀は、中身に何かしらのエネルギーが詰まっただけのモノなのだという。
そういった魔獣も、この世界にはいるといえば、いなくも無い。
だが、今回の状況を考えれば、生物というより、魔法かなにか。
日本人達の能力のようなもので作り上げられている、と考えるほうが現実的だろう。
「死体も残っていませんねぇ。やはり、能力で出したものなんでしょう」
「それにしても、体当たりをしようとしてくるとはな」
甲板から顔だけを出して言うコウシロウに、ハンスは顔を顰める。
そうしながらも、ハンスは目に強化魔法を施していく。
眉間から僅かに光が漏れ始め、ぐっと視力が強化される。
それと同時に、魔力感知力にも強化をかけた。
すると、まだ何匹かの亀が進路上に入り込もうとしているのが確認できる。
「ムツキ、視力強化を使え! 亀が上がって来てる! 全部落せるか!?」
速度を落とし、回避をしようとすれば、亀の体当たり程度どうという事もないだろう。
だがそれでは、貴重な時間が奪われてしまう。
今は魔術師が全てミツバのほうに気をとられているからいいが、こちらに気が付かれたら攻撃を受けるかもしれない。
その恐れを少しでも減らすため、目立つ鳥型の魔獣ではなく、鳥カゴを使って移動してるのだ。
鳥カゴは水中を、半分以上水中に沈んだ状態で進んでいる。
音も殆どしないため、かなり視認がしにくいのだ。
ムツキは自分の腰に取り付けられた拘束具と、そこから舳先へと繋がれた鎖を指でなぞる。
ぺろりと唇を舐めると、自分の目へ強化魔法を「三重に」かけた。
ムツキは、一人で幾つもの魔法を発動させる事ができる。
それを生かして、通常の強化魔法を複数発動させる事により、強力なものへと昇華させているのだ。
今のムツキの視界は、かなり範囲は限定されているものの、コウシロウと同じレベルになっていた。
見えるなら、後は魔法を叩き込むだけ。
「いけます!」
「よし、頼む!」
「任せてください! 減刑、よろしくお願いします!」
ニヤリと口の端を吊り上げならがそう軽口を叩くと、ムツキは頭上にいくつもの魔法を浮かべた。
光、水、火、土、風、雷、力場。
様々な属性の、様々な魔法の大盤振る舞いだ。
そんな様子を見て、ハンスは頬を引きつらせる。
「ふぅーはっはっはっはぁー! 魔道の王たるこの私の前にひれ伏すがよいわぁー!」
なにやら自分の世界に没入したムツキは、とてつもない勢いで魔法をばら撒き始めた。
亀のついでに、水中を逃げ惑っている半魚人も叩き潰しているらしい。
「まあ、敵が減る分にはいいか」
若干諦めたように呟くと、ハンスは大きくため息を付くのだった。
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ナナナを連れた兵士達は、ミツバから見て建物の反対側へ回ろうと走っていた。
相手は今の所一人だが、もしかしたら仲間がいるかもしれない。
こちらは全員魔法使いであり、普通ならば一人相手に逃げるなどという選択肢は無いだろう。
袋叩きにしてしまえばよいのだ。
だが。
だが、である。
ミツバが口に出した、「ハンス・スエラー」という名詞が、兵士達からその油断を掻き消していた。
紋章を出しての名乗りは、兵士にとっての誇りだ。
謀る事などありえない。
もしそのようなことをしようものなら、どこの国でも敵にも味方にもさげすまれ、「法的にも」罰せられる。
つまるところ、ミツバがハンス・スエラーの従者であることは確実なのだ。
ケチな海賊程度なら、それだけで震え上がるかもしれない。
しかし、正規軍人であり、ナナナの護衛である彼らはそういうわけにも行かないのだ。
まず考えるべきは、ナナナの身の安全である。
ミツバから遠ざけ、場合によっては逃走しやすいように経路を確保する。
相手の目の届かない場所であれば、そのどちらにも合致するだろう。
身を隠す場所の無いこの場所でそれといえば、倉庫や家屋の裏しかないのである。
「あ、あのっ! あの人は隣国の兵士なんですか!?」
「そうです! それも、最悪の!」
兵士の歩調が緩んだところで、ナナナはやっとの事で言葉を搾り出した。
返って来たのは、焦りを隠そうともしない口調である。
ナナナも、隣国の兵士と接触するかもしれないという話は聞いていた。
そういった場合は、逃げるか、倒すかしなければならないとも。
しかし、ここにいるのは全員魔法が使える人員であり、通常苦戦は考えられない。
そもそも、ここに隣国の兵士が来る恐れ自体が少ないのだ、とも聞かされていた。
にも拘らず、自分を守ってくれている兵士達の、この慌てようだ。
いくらナナナでも、尋常ならざる事態なのだということは分かった。
こういうときは、プロフェッショナルである彼女等の指示に従うのが一番だろう。
だが、それでも伝えておかねばならない事があった。
「彼女! あの子、多分、日本人です!」
ミツバの外見と言動を見れば、おおよその日本人がそう結論付けるだろう。
ナナナにとっては、自分と同じ日本人が相手だという事実を伝えよう、と思っただけのことだった。
この世界に日本人が複数来ていることを聞いたとき、もしかしたら敵対するかもしれない、ということもナナナは考えていたのだ。
中々考えたくない事を思いつけるだけのゆとりと時間を、ファヌルスからは与えられていたのである。
だが、その言葉はナナナを守る兵士達にとって、とてつもなく重大なものであった。
“魔術師殺しの”ハンス・スエラーの従者が、日本人である。
つまりそれは、隣国にも、憎き戦勝国側にも、ナナナと同じような力を持った存在がいるということだ。
しかも、憎んでも憎んでもまだ足りない、ハンス・スエラーの部下として。
「さいってい……」
兵士は引きつった笑いで、思わずそう漏らした。
他の兵士の顔も、似たようなものだ。
額に浮いている脂汗は、走ったからとか、暑いからといった理由からのものではないだろう。
「それだけでも、本国に伝えないと!」
「ムリ。次の連絡は相当先」
残念ながら、このメガフロートには遠話を自分から使える人員は乗っていないのだ。
遠話の印を付けられ、受けることが出来る人間が居るだけなのである。
「くっそ! サイアク!」
悔しげにそう口にした女性兵士だったが、その目に異様な光が飛び込んできた。
驚いて顔を上げると、そこにあったのは、自分の正気を疑うような光景だ。
とてつもない数の魔法が展開され、荒れ狂う嵐のように海面、海中でその破壊力を撒き散らす。
それが、徐々に自分達のほうへと近づいてくる。
コレまで気が付かなかったのは、海上特有の海風のせいだろう。
遮るものがない事で吹き抜ける風が、破壊音を紛らわせていたのである。
正体は、絶好調で魔法を使いまくっているムツキだ。
それを指示したハンス、キョウジは、その海風も計算に入れて、ムツキに使う魔法を指定していた。
「何なのよ、あれっ!」
「じょうだん……!」
殆ど悲鳴のように声を上げながら、兵士達はそれでも仕事を果たそうと動き出した。
凍りつくナナナを後ろに庇い、一人が先導しながら建物の中へと誘導する。
残るものは、それぞれの魔法を発動状態にして敵を見つけようと目を凝らす。
半分以上を海中に沈めながら進む鳥カゴは、波が邪魔をして遠めだと視認がしにくいのだ。
魔法攻撃の中心が目印になるかとも思ったが、それも途中でぱったりと止んでしまう。
攻撃が止んだからとはいえ、敵もいなくなったわけではない。
全員が海面を注視する中、一人が海面を高速で突き進んでくる板のような物を発見する。
いやらしいことに、わざわざ海面に近い色が塗られており、発見しにくくなっていた。
「見つけたっ!」
だが、見つけてしまえばこちらのものだ。
兵士は仲間に報せるために声を発しながら、見つけた物体のほうへと掌を向けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
持ちこたえろ、といわれて戦い始めたミツバだったが、思わぬ事態に困惑していた。
ハンスの従者として、自衛隊の隊員として、ミツバは毎日のように訓練を行っている。
走りこみのような体力づくりから、障害物を乗り越える訓練。
中には当然、組み手のような戦闘訓練も含まれている。
また、ミツバは「眼球を槍で突かれても、槍の方が圧し折れる」という頑丈さを生かし、暴徒鎮圧訓練の教材になる事もあった。
そのため、ミツバは一対一は勿論、一体多の戦いにもなれている。
さらに、ミツバが普段相手をして貰っているのは、ハンス、レイン、コウシロウといった、かなりの実力者ばかりであった。
ロックハンマー侯爵が派遣した騎士称号を持つ者と組み手をすることすらあり、実はミツバの戦闘における経験値はかなり高いものになっているのだ。
そんなミツバの目から見て、目の前にいる兵士達、えらく弱く見えていたのである。
ハンスさんやレインさんに、比べると、動きに切れが無い。
魔法の威力だって、ロックハンマー侯爵の所から来た騎士達よりもはるかに低いと言わざるを得ないだろう。
一人巨砲主義のムツキなどとは、比べるべくも無い。
最初は手加減されたり、様子を見られているのかとも思っていたミツバだったが、相手の表情等を見るに、そうではないらしい事が分かった。
ミツバは彼らの正体について知らないので、海賊の類だと思ってる。
それにしたって、体術や剣術は自衛隊のゴブリン達よりも低く、魔法もザンネンというのは、どういうことだろう。
答えが見つからず、ミツバは首を捻っているのだ。
ちなみに、ミツバと戦っている兵士達の名誉のためにいうと、彼らはけっして弱くないのだ。
兵士として、恥ずかしくない錬度と技量を持っているといって良い。
単に、ミツバの基準がおかしくなっているだけなのだ。
ミツバが普段戦っているのは、「魔法を使う複数人を倒しうる戦闘能力を持つ」ことが条件である、騎士称号を持つ者ばかり。
それも、その中でもトップクラスの実力を持つハンスと、毎日のように組み手をしているのである。
イヤでも実力も付くし、基準がおかしくなるのも当然だろう。
何より悪い事に、ミツバ自身自分が置かれている環境が、特殊なものである事に気が付いていないのだ。
よって。
ミツバは特に苦労も無く、真っ当な実力を持つ兵士である彼らを、複数同時に相手をすることが出来ていたのだ。
服を切られたり、うっかり怪我を負わないように攻撃のすべてをかわしながら、ミツバは悩んでいた。
この人達、思ってたより全然弱いじゃねぇーっすか。
ちょっと力入れて殴って、背骨とかやっちゃったらどうすっかね。
ミツバにとって人間とは、力を入れて殴ると死んでしまう相手なのだ。
思い悩むミツバの頭の中に、レインの声が響いた。
「もうすぐそちらに到着します」
「あ、レインさん。この人達むっちゃよわいんすけど、殴ったらまずいんすかね?」
コウシロウから、ミツバの戦闘の様子を聞いていたレインは、相手が正規の兵士レベルの能力を持っていると確信していた。
その上で、ミツバがその相手を「弱い」と判断するであることも、計算に入れていたのである。
ミツバの普段の訓練は、レインもよく知っているのだ。
その内容は、正規の騎士でも耐えられるようなものではない。
肉体の酷使的な意味は勿論、技術的な意味でもそうだ。
国内最高峰の剣士であるハンスが、毎日付きっ切りで訓練を施しているのである。
実に羨ましい。
ミツバを殺して、レイン自身が立場を変わりたいと思ったこともしょっちゅうだ。
まあ、それはいいとして。
とにかく、現在のミツバはただの死ぬほど頑丈な腕力バカではない。
高度な戦闘技術を持った、死ぬほど頑丈な腕力バカなのである。
今現在のミツバにとって見れば、確かに目の前の相手は弱く見えて当然だろう。
それが分かった上で、レインは特に感情もこめずに言い放った。
「彼女達もそれなりには使えるほうです。気をつけて殴れば死なないでしょう。とりあえず、私達が行くまでにそこにいる全員気絶させて置いてください」
「うーっす!」
レインとしては、その方がハンスの負担が減るし、怪我をする確率も低くなると考えていた。
いや、当然この程度の雑魚相手にハンスが怪我をすることは、まずありえないだろうとは思っている。
だが、世の中には万に一つということがあるのだ。
恐れは全て潰すに越したことは無い。
ミツバとしては、レインがやっていいというのだから、いいんだろう、という程度の考えだった。
というか、ミツバにとって見れば思考はその程度で十分であり、それ以上悩む必要など皆無なのだ。
単純明快。
それがミツバの思考回路なのである。
もっとも、そこまで複雑そうな名称を付けられる代物なのか怪しいところではあるが。
ともかく。
することさえ決まれば、ミツバの行動は早かった。
「うっしゃぁー!」
気合一声、拳を握りこむと、一番離れた位置にいる相手を探す。
後方で魔法を練ろうとしていた相手を見つけると、そちらに向って拳を振りぬいた。
「ミッツバーキャノン!」
実に気の抜けた技名と同時に、ミツバは掌で空気を押し出した。
ミツバの手にかかれば、空気すら打ち出すことが可能な武器になるのだ。
完全に常識を逸脱した行動だが、できるものは出来るのだから仕方が無い。
面食らったのは、この攻撃を喰らった兵士である。
突然顔面を不可視の何かに強襲され、身体をのけぞらせた。
ミッツバーキャノンの威力はかなりのもので、その一撃は脳を揺らして意識を断ち切るに十分なものである。
防御もせずに眉間を打ち抜かれ、兵士はそのままがっくりと気絶して崩れ落ちた。
コレには、周囲にいた兵士達も一瞬動きを止める。
ミツバが攻撃をしてこないのは、避けるのに必死になっているからだと思っていたのだ。
あるいは、回避に専念する種類の魔法使いなのか、とすら思っていた。
魔法を撃とうが剣で攻撃しようがかすりもしないのは、そういうことだと思っていたのである。
そこに来て、突然の攻撃だ。
一瞬でも驚くのは、無理もないことだろう。
普通ならば付け入るすきにもならないだろうその一瞬だが、普段から隙を見せればパカパカ殴られるような訓練をしているミツバには、攻撃に転じるに十分な時間であった。
「ふっしゅー!」
ミツバは大きく呼気を吸い込み息を止めると、全神経を奮い立たせ、超集中状態へと入った。
この状態に突入すると、音が消え、色が消え、ミツバには周囲の動きがゆっくりと感じられるのだ。
スポーツ選手が言う、ゾーンというやつである。
もっとも、ミツバがその状態になったとしても、ハンスは容赦なく攻撃を当ててくるし、回避してくるのだが。
ミツバは一番手近な一人に視線を向けると、しっかりと腰を落ち着けて拳を繰り出した。
腕の動きだけでなく、腰の捻りと重心移動を組み合わせ、しっかりと体重の乗った拳を繰り出す。
兵士の腹部に浅く入った拳を、ミツバはすぐに引き戻した。
気をつけないと、内臓とかが破裂してしまう事もある。
拳を引き戻し、次の相手へ。
同じように打ち込み、次へ、次へ。
周囲四人の腹に打撃を打ち込んだところで、ミツバの集中力がブツリと切れた。
その瞬間、世界に音と色が戻ってくる。
同時に、さっきまではゆっくり動いていたはずの打撃を打ち込んだ兵士四人が、数歩分ほど宙を舞い、ドサドサと地面に落下していく。
ミツバが打撃を打ち込んでいたのは、時間にすればコンマ数秒の出来事だったのだ。
倒れている兵士達が全員白目を剥いて気絶しているのを確認すると、ミツバは静かに構えを取った。
「自衛隊流、徒手格闘術。二十六式音速正拳連弾っす」
厳かっぽく言っているが、名前は完全に今考えたものである。
だが、そんな事とは知らない兵士達には、随分な威圧になったようだった。
周囲を取り囲んだ兵士達は、警戒した様子でじりじりと後ろに下がり始める。
それを見て悦に入っていたミツバだったが、そこでふとあることに気が付いた。
先ほどの超集中状態のときに、身体を通して腰の辺りで抑えていた木製浮き輪が、割れてしまったようなのだ。
恐らく、うっかり肘鉄でも入れてしまったのだろう。
「ばかなっ! 自分のカッコよくて粋でイナせでキュートでスタイリッシュなグラットン・ウキワがっ!」
絶望に打ちひしがれた表情で、ミツバは叫んだ。
言うまでも無く、名称に意味は無い。
思い付きである。
だが、その怒りは本物であった。
ミツバは拳を強く握り締め、プルプルと震わせる。
そして、力の限り叫んだ。
「な、なんてことをするんだぁー! ゆるさぁーん!!」
理不尽極まりない怒りである。
もしこの場にキョウジあたりが居たら、突っ込みの嵐が巻き起こったに違いない。
だが、残念ながら今現在状況を理解できる人物は一人もいなかった。
一方的で、圧倒的な、暴力の宴の幕開けである。
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海上に見つけた物体に向け、兵士は掌を向けた。
だが、次の瞬間、その掌に激しい痛みが走る。
何かに弾き上げられたよな衝撃で、腕が跳ね上がった。
「ぐっ!」
兵士は掌を押さえ、小さくうめいた。
攻撃を受けたと察知して、すぐさまそれが来たと思しき方向を睨みつける。
掌に走った衝撃の正体は、一瞬だが見ることが出来た。
指の先ほどのサイズの、小さな鉄のツブテだ。
含有魔力が低い金属は、多くの場合小さな破片では人を傷付けることは出来ない。
どんなに勢いよく飛ばしても、精々素手で殴った程度の衝撃を与えるだけだろう。
今しがた兵士の掌を襲った痛みは、つまりそういう類のものなのだ。
「気をつけて! 妙な使い手がいるみたい!」
「分かってる、見えた」
痛みを散らそうと手を振りつつ言う兵士に、他の兵士が頷く。
兵士達は、今しがた飛んできた鉄のツブテを、魔法の類だと思っていた。
勿論、正体は言うまでも無く、コウシロウによる狙撃だ。
強化魔法さえ使えば、この世界の人間は銃弾を目で捉える事すらやってのけるのである。
見えるのと避けるだけの実力があるのは違うわけだが。
「一体どこからっ!」
苛立たしげに言いながら、他の兵士が海へと目を凝らす。
次の瞬間、兵士の目は、自分の眉間に向って飛来する鉄のツブテを捉えた。
バチン、という音を立てて、兵士の首が後ろに弾かれる。
短い悲鳴が上がり、兵士はタタラを踏んだ。
だが、ダメージはその程度らしい。
この段になって、ようやく兵士達は海上にいる敵の全貌を捉える事ができた。
手前に二隻、奥に一隻。
船の形をした箱のような、見たことも無い形状の船が一直線に突っ込んできている。
「なにあれっ!」
「知らない! とにかく近づけないで!」
最低でも、敵ということで間違いないだろう。
瞬時にそう判断すると、兵士達は魔法でそれらを攻撃しようと身構える。
「一番奥の船に人が乗って! 多分攻撃してくるのはそれ!」
一人の兵士の声に、全員の攻撃目標がそこへと動いた。
船の甲板には、三人の人影が見える。
魔法で狙えない距離ではないが、しかし、断続的に飛来する鉄のツブテ、銃弾がそれを阻害した。
狙いをつけようとするもの、魔法を撃とうとするものを優先に、まるで何をしようとしているのか間近で見ているような正確さで攻撃を仕掛けてくるのだ。
手を拱いている内に、手前二隻がメガフロートへと接岸する。
接岸、というより、体当たりのような勢いで、ほぼ減速なく真正面から突撃してくる二隻の船に、兵士達は反射的にその場から逃げ出す。
二隻同時に舳先をメタフロートの岸へとめり込ませたその船、鳥カゴの上部甲板がバックリと開く。
そして、内部から大柄の人影のようなものが飛び出した。
数メートルの距離を軽々と飛び越えたそれは、一体が上陸するや、次々と後続がそれに続く。
鋼鉄の全身鎧を着込んだ兵士。
あるいは、金属で作られたオークのようなそれは、重々しい外見からは考えられない身軽さで走り出した。
全て同じ外見を持つこれらは、イツカのゴーレム達である。
パワーと装甲を重視した、最新の強襲型だ。
「なん、何だこいつ等は!」
「知らん! とにかく止めろ!!」
言葉というより、もはや悲鳴だった。
すぐに剣は意味をなさないと判断した兵士達が、個別の魔法攻撃でゴーレムを破壊しようと動き出す。
だが、それもする暇があればこそ。
先ほどの二隻とほぼ同じ勢いで、最後の一隻がメガフロートの岸へと強制接岸してきたのだ。
どういうわけか水の皮膜のようなものを纏った鳥カゴは、メガフロートの横腹に轟音を上げて激突する。
振動と音が兵士達を襲うが、どういうわけかそれを仕掛けた鳥カゴは傷一つ無い様子だった。
恐らく、水の皮膜のせいだろう。
それよりも問題は、鳥カゴが岸にぶつかる直前に、飛び移ってきた二人の人間だ。
かたや粗末な服と防具を身に付け、片手に剣をぶら下げた男。
両足に光を纏っている事から、強化魔法を使っているらしいことがわかる。
ナナナを守る兵士達にとっては、最悪の相手“魔術師殺しの”ハンス・スエラーだ。
もう一人は、背中に金属製と思われる何かを背負った、黒髪の男。
この世界では数丁しか存在しないハンドガンを両手にした、フジタ・コウシロウである。
二人は上陸を果たすや否や、言葉を発する事も無くすぐさま次の行動を開始した。
申し合わせていたのだろう、それぞれ別々の方向へと向き直ると、そのままの勢いで駆け出す。
半分以上混乱した状態にある兵士達は、それでもなんとか対応しようとそちらへ体を向ける。
しかし、ハンスもコウシロウも、攻撃の暇は与えてくれなかった。
コウシロウは二丁の拳銃を兵士へと向けると、乱射するような勢いで、正確に狙いの位置へと弾丸を叩き込んでいく。
金属弾であるため貫通はしないし、一発のダメージは小さい。
それでも数にものを言わせたその攻勢で、兵士は戦闘力を大幅にそがれた。
顔を庇って硬直する兵士の腹を、コウシロウは容赦なく蹴り抜く。
ハンスのほうはといえば、兵士が何か行動をする前に懐に飛び込み剣を持つ手をひねり上げ、鳩尾に拳を一撃。
抵抗らしい抵抗もさせないうちに、無力化していっていた。
ハンスとコウシロウが一人ずつを拘束すると、その足元に金属製の何かが転がってくる。
二人から少し遅れてメガフロートへと降り立ったレインが投げたそれは、魔法封じの手枷だ。
「助かる!」
「ああ、すみませんねぇ」
それぞれに礼を言うと、二人は素早くそれを拾い上げ、拘束していた相手の両腕に嵌めた。
すぐに仲間を助けようと周りの兵士が襲い掛かるが、横合いから伸びてきた何かに、その全員が絡めとられる。
無色透明なそれは、水で作られた触手のようなものだった。
「やっぱり! この距離ならいけますね!」
はきはきと元気そうに言ったのは、鳥カゴの舳先からぶら下がっているムツキだ。
どうやら、接岸の衝撃でずり落ちたらしい。
腰に巻かれた鎖は拘束具というより、安全器具だったようだ。
「ムツキ! そのまま押さえていろ!」
「オマカセです!」
水に絡み付かれて動けなくなっている隙に、ハンス、レイン、コウシロウの三人は、次々に兵士達の腕に手枷を取り付けていく。
魔法と両腕を封じられた兵士達は、ムツキのゴーレムが捕縛する。
僅かの間に目に付いた兵士を全て捉えると、ハンスは周囲を見回した。
兵士を捕縛している以外のゴーレムは、量産型ゴブリンと量産型サハギンの相手をしているようだ。
量産型ゴブリン達はゴーレムの拳の一撃で無残に四散し、空気に溶けるように消えていっている。
「おや。あちらはゴーレムさんに任せて大丈夫そうですねぇ」
「その様です。楽でいい」
肩を竦めるハンスに、コウシロウは面白そうに笑いを返す。
だが、一番の問題はまだ片付いていなかった。
日本人、ナナナの捕縛だ。
だが、コレに関しては問題はなかった。
コウシロウは無言のまま、近くにある家屋のような小屋を指差す。
ハンスは一つ頷くと、近くにいたゴーレムの身体を叩く。
それだけで意図が伝わったらしく、ゴーレムは妙に人間臭い動きで親指を立てた。
コウシロウが叩いて示した場所に近づくと、その場所へと拳を叩き込む。
木製の壁は、金属の塊であるゴーレムの前には無力だったらしい。
あっけなく破壊されたその向こうには、数人の兵士。
そして、黒髪の少女、ナナナが居た。
驚いた表情で身体を強張らせる彼女等に、ハンスとレインは剣を、コウシロウは銃を、ムツキは空中に漂わせた無数の魔法の矛先を向ける。
「抵抗しないでもらえると、非常に助かるんだが」
真剣な表情で告げるハンスの言葉に、兵士達はどうしていいのか迷うように押し黙る。
その後ろに庇われるように隠れているナナナは、意をけっしてポイントカタログへと手を伸ばした。
だが、それはすぐに気が付かれてしまう。
「お嬢さん。動かないでくださいねぇ」
「け、拳銃……!?」
コウシロウの言葉に顔を上げたナナナは、向けられたものを見て思わずといった様子でそう漏らした。
その言葉を聞いたハンスとコウシロウは、僅かに眉根を寄せる。
拳銃。
この世界では、ハンスの街にしか存在しない武器の名前だ。
見ただけでそれがわかるというのは、今の場面を考えれば日本人だけと考えていいだろう。
短くため息を付くハンスに、レインが声をかける。
「向こうも、すべて片付いたそうです」
これは事前に決めておいた合図の一つで、「ミツバが敵を全て制圧した」という意味合いのものだ。
ハンスは一つ頷くと、小さく首を横に振った。
「はっ」
レインは短く返事をすると、剣を降ろして鳥カゴのほうへと走り出す。
改めてナナナと兵士達のほうへと視線を戻し、なるべくゆっくりと話しかける。
「私の部下が、君達の仲間を拘束したそうだ。大人しくつかまってくれると、非常に助かるのだが」
それを聞いた兵士達は顔を見合わせると、確認するように頷きあった。
ゆっくりとした動きで手にしていた剣などの武器をハンス達のほうへ投げると、両手を頭の後ろで組む。
降参したというポーズは、この世界でも共通だった。
ナナナも、それに習うように手を頭の後ろに回す。
「どうぞ」
鳥カゴから戻ってきたレインは、両手一杯に魔法封じの拘束具を持っていた。
差し出されたハンスの片腕にいくつか引っ掛けると、そのまま別の方向へと走っていく。
レインは、ミツバが倒した兵士達の拘束に向ったのだ。
「先に言っておくが、この魔法封じは遠話の受信も阻害する」
定期連絡さえ来れば、せめて情報だけでもと思っていた兵士達の一縷の望みは、その一言で断たれた。
遠話の受信は、数日間使わないと消えてしまうものである。
それはこの世界共通のものであり、ハンス達のような職業のものにしてみれば気をつけて当然のものなのだ。
「よし、今から手枷をつけるから、暴れんでくれよ」
そう宣言して、ハンスはコウシロウに目配せを送る。
すぐにその意味を理解したコウシロウは、ハンスから手枷を受け取った。
警告と威嚇には、ゴーレムとムツキで十分だろう。
二人で手枷をかけようと動き出した、そのときだった。
「ちょっとまってくださいっ!!」
ムツキの鋭い声に反応し、ハンスとコウシロウは素早く武器を兵士達へと向けなおす。
何かしら抵抗の予兆を、ムツキが報せたのだと瞬時に判断したからだ。
だが、実際にはそれは違っていた。
「どうしても、先に確認したい事があるんですっ!」
真剣さの滲むムツキの声に、ハンスとコウシロウは顔を見合わせて首を捻る。
もしかしたら、何か思うことがあるのかもしれない。
同じ日本人と思われる同性同士、なにか気になる事があるのだろうか。
ハンスはそう考えると、兵士達を警戒しつつナナナに声を投げる。
「どうかしたのか? 気になることが?」
「とても、とても大事なことですっ!」
常に無いムツキの様子に、ハンスに僅かに緊張が走る。
「そこの、あの、ロリ巨乳の海賊さん!」
「ろりっ」
「ぶっ!」
「ごほっ!」
ムツキの大声に、ナナナを守っていた兵士達が咽た。
ハンスの顔が盛大に引きつるが、ムツキはお構い無しだ。
「その、そのコスプレ! 何のキャラですかっ! 私、すごく興味あります!!」
しばしの、重苦しい沈黙が訪れた。
兵士達は唖然として固まっている。
コスプレというのは、この世界にも存在してた。
どうやら兵士達も、確かにナナナの恰好はコスプレっぽいと思ってしまったようだ。
そんな気持ちが伝わったのか、当のナナナは顔を真っ赤にして身体をプルプルと震わせていた。
どうやら恥ずかしいらしい。
コウシロウは、いつもの笑顔のままピクリとも動かなくなっている。
「……はぁー……」
ハンスは強烈な胃痛と頭痛を感じ重苦しいため息を、搾り出すように吐き出した。
戦闘中に深いため息など、緊張感が無い。
などと咎める人間は、幸いな事にこの場には存在していなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局、今回は十数名の相手を拘束するという、大捕物だった。
コウシロウの千里眼で、事前に敵の情報は粗方掴んでいたのだが。
流石のハンスも、相手全員が遠距離攻撃魔法の使い手だということに、大いに驚いていた。
一応その可能性も視野に入れ、それを制圧できるだけの戦力の用意はあった。
火力だけで言えばムツキは魔法使い数十人分に匹敵するし、ハンスとレインは騎士称号を持つ凄腕だ。
敵が逃げようとしても、千里眼のコウシロウから逃れる事はできないだろう。
一点突破のミツバに、物量的なものはゴーレムが補う。
この2、3倍の敵を相手にしても、制圧する事ができるはずだ。
大体にして、今回は切っていない手札も、まだいくらか残っているのである。
その一つであるところのケンイチは、不満そうな顔でハンスに詰め寄っていた。
「どーゆーことっすかぁー! オレ、見せ場ねぇーじゃねぇーっすかぁー!? ああ!?」
「分かった分かった。すまんすまん」
頬に突き刺さってくるポンパドールに辟易しながら、ハンスはテキトウに謝った。
今回は遠出という事もあり、ケンイチの部下である魔獣達は数があまり居ない。
鳥型の魔獣と、ケンイチの相棒である黒い天馬しかいないのである。
もちろん、コレだけでも一大戦力である事は間違いない。
ケンチイの部下はどれをとっても、一匹で正規兵一個小隊を壊滅させるようなレベルの魔獣なのだ。
中には、小さな国なら滅ぼすような勢いの物までいる。
彼らが待機をしていたのは、万が一敵がメガフロートから逃げ出した時の事も考えてのものだったのだ。
隠密性が求められる接近には適さないという理由も、勿論あったのだが。
「こちらにも向こうにも死人が出なかったんだ。いいじゃないか」
ハンスの言うとおり、今回も死人は出なかった。
ミツバにボコボコに殴られていたものも中にはいたのだが、それにしても外傷だけである。
それも、キョウジの手によって既に治療済みだ。
「まー、そーっすけど……」
口ではそう言いながらも、ケンイチは不満たらたらなようすで焼き魚にかじりついた。
彼らはまだ、件の漁村に居る。
捕まえた兵士達とナナナは街の、正確にはイツカのダンジョンの牢獄へと送っていた。
移送と監視は、セブエルをはじめとしたロックハンマー侯爵旗下の兵士達と、レインが当たっている。
ハンス達がこの場所に残っているのは、メガフロートを監視するためだ。
どうけりをつけるにしても、それはあまりにも物が大きすぎた。
とりあえず数日は、こうして監視をしつつどうするか考えるしかないだろう。
「ケンイチさんはまだいいですよ! 釣りしてたじゃないですかっ! 私なんてほぼただ働きなんですよっ!」
半泣きでそういいながらおにぎりを貪っているのは、再び拘束具を取り付けられたムツキだ。
今回の活躍で、ムツキの刑期はかなり減刑された、かに思われた。
だが、実際に減刑された期間は、たったの一日だったのである。
その理由は、採点者であるレインの超劇辛減点方式採点の結果であった。
魔法が派手すぎ、さっさとシールドを張れる事に気が付かなかった、水を壁にして迷彩代わりにできる事を帰りがけに気が付いた、などなど。
元々減刑される予定だった年数は恐ろしい勢いで削られていき、最終的には半年弱しか残らなかったのである。
酷い、あまりにも酷いとムツキが泣きながら抗議をしたのが、運の尽き。
文句があるならやらん、とばかりに、最後に残った減刑分までごっそり削られ、最終的には「減刑一日」という泣くに泣けない結果となったのである。
「しょーがないじゃないですかぁー! 魔法使う機会なんてほとんどないのにぃー! 気が付けっていうほうがむちゃなんですよぉー!」
滝のような涙を流しながら、ムツキはおにぎりを頬張っていた。
そこはかとなく幸せそうなのは、一緒におかずとして摘んでいる刺身などの魚料理が美味しいからだろう。
「まぁまぁ。ゆっくり食べて、元気を出してくださいねぇ」
そういいながら、コウシロウはテーブルの上に新たな料理を乗せていく。
ちなみに、彼らが居るのは、海沿いの海岸だった。
既に日は沈み、空には星が瞬いている。
近くには石を積み上げて作られたかまどとランタン、そして、ケンイチが連れている妖精以外光源は無い。
まるでキャンプのような状態ではあるが、あまり嬉しくないのは一応監視という仕事の最中だからだろう。
「それに、今も監視のお仕事中なのでしょう? がんばればきっと、沢山減刑してもらえますよ」
「そう、そうですよねっ! 私、がんばりますっ!」
コウシロウに励まされ、ムツキは元気良く握りこぶしを作る。
監視やら減刑やら出てくる単語はいかめしいが、会話はなんとなく老人と孫っぽい。
いつもは孫っぽいポジションに納まっているミツバも、この場所に居た。
ただ、とても会話が出来る状態ではない様子である。
「がるるるるるるる!」
自分の胴体と同じぐらいのサイズの肉に齧りつき、ミツバは無闇に周囲を威嚇しまくっていた。
恐らく、獲物をとられないようにする本能なのだろう。
その肉の塊は、海から戻ってきたミツバが、近くの森で取ってきた鹿系の魔獣の肉である。
仕事の労いもかねて一人で食べる事を許可されたミツバだったが、どうも妙なスイッチらはいったらしいのだ。
それでも誰も気にも留めないところが、ミツバに対する信頼の証だろう。
「ハンスさん、ケンイチくん、ミツバさん、ムツキさん。それと、私。今居るのは五人でしたよねぇ」
「何人かこちらに来ていますが、村のほうの警備に回っています」
「ああ、それは大変ですねぇ。後で何か差し入れをしないと」
コウシロウはそういうと、いそいそと急造した料理スペースへと去っていく。
どこか楽しげなのは、やはり彼自身が料理が好きだからだろう。
「おーい、みーんなぁーん」
森のほうから響いてきたのは、酒瓶を振り回すぶんぶんという音と、のんきそうな酔っ払いの声だ。
振り向くと、そこに居たのは案の定イツカであった。
その隣には、おっかなびっくり酒瓶を警戒しながら歩いているキョウジも居る。
「おー、おつかれぇー。全員、牢屋ぁーぶちこんだのかぁー?」
「おうともさー。イイカンジにぶちこんでやりましたよう。ムツキちゃんの同居人一気に増えたね」
一先ず捕まえておく場所も無いという事で、ナナナと兵士達はイツカのダンジョンにしばらく拘留という形になっている。
輸送するにしても、あの人数となると時間も手間も掛かるのだ。
処遇も含め、しばらくはイツカのダンジョンで捕縛しておく事になるだろう。
「でもなぁー。魔力吸収のトラップ使っても、あんまり魔力の吸収効率宜しくないのよねぇー。やっぱりムツキちゃんは別格だわ」
「えへへっ!」
肩を竦めていうイツカの言葉に、ムツキはてれたようにはにかむ。
照れどころではない気がするのだが、当人が嬉しそうなのでそれで良いのだろう。
「説得というか、会話のほうはどうなんだ?」
「あ、はい。とりあえず僕とイツカさんで当たってみたんですが、やっぱり少し落ち着いてからじゃないと難しいですね。僕達が日本人で、危害を加えるつもりは無いというのは伝えたんですが……」
状況が状況だけに、それを信じろというのも難しいだろう。
コレばかりは、時間をかけるしかないかもしれない。
「ただ、なんていうか……」
キョウジは言いにくそうにしながら、ちらりとイツカのほうに顔を向けた。
コクリと頷いたのは、話したほうが言いという合図だろう。
キョウジは意を決したように頷き返すと、大きく息を吸って口を開いた。
「まだ確認は取ってませんし、言葉の端々から聞き取った印象なんですが」
言葉を区切るキョウジに、ハンスも表情が曇る。
「どうも、僕ら以外にも日本人が居るみたいなんですよ。それも、複数人」
それが、ナナナと会話をして居て感じた印象であった。
勿論決定的な単語は出ていない。
ただ、「やっぱり」とか、「私達以外にも」などという言葉から受けたものだった。
少し聡いものならば、すぐに気が付くレベルのものだろうそれらは、ナナナがうかつな少女だから出たものではないだろう。
突然あんな戦闘に放り込まれれば、平和な世界で生きる日本人なら、おおよそは混乱するはずだ。
ちなみにキョウジには、自分なら泡を吹いて気絶するという自信があった。
まあ、どうでもいいことだろう。
「そうか。そうなるか」
ハンスは呻く様にそう言いながら、眉間を指で揉んだ。
正直、ケンイチ達以外の日本人がこの世界に来ていて、それが集まってどこかに居る、という恐れは、考慮していないわけではなかった。
ただ、出来ればそうならないで欲しかった事実である。
「あと、これはレインさんからなんですが……」
キョウジは言いにくそうに言いよどむと、胃の辺りをさすり始めた。
その仕草だけで、ハンスには異様なまでの嫌な予感が押し寄せる。
「あの、抵抗してた人達。所属を証明するようなものは持っていなかったみたいなんですけど。やっぱり隣国の正規兵だろう、って」
「そうか……だろうな……そうなるよな……」
ハンスは半笑いを浮かべながら、頭を抱えた。
おおよそ考えうる最悪のケースが、ここに実現したのである。
間違いである可能性が、ゼロというわけではない。
だが、それはあまりにも希望的観測だろう。
この場合は恐らく、「隣国にも日本人が居て、なにやら色々動いている」と考えるべきケースだ。
「これから先、まだまだ面倒ごとが山積みになるわけか」
地獄のそこから響いてくるような低い声で、ハンスは搾り出すようにそういった。
彼にしては珍しく、この予感は当たることになる。
ハンスに降りかかる受難は、まだまだこれからなのであった。

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