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ALSと闘う広告プランナー CMを制作
6月23日 15時49分

ALSと闘う広告プランナー CMを制作
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全身の筋肉が衰えていく難病のALS。その病気の現実を知ってもらおうと、「世界ALSデー」の6月21日から1本のCMが流れています。
CMを企画したのは1人のALS患者。
原因不明で治療法がなく、人工呼吸器を着けなければ、通常2年から5年で死に至ると言われるこの病気。
そんな圧倒的に不利な状況でも、治療法確立の旗を掲げ続けたいとCM作りに臨んだこの患者の思いに迫りました。
(文化福祉番組部 宮脇壮行ディレクター)

難病ALSと闘う広告プランナー

難病ALSと闘う広告プランナー
5年前にALSと診断された藤田正裕さん(35)。愛称は“ヒロさん”です。人工呼吸器を取り付け、体をほとんど動かせません。私が初めて出会ったのは、去年1月。人なつっこい笑顔が印象的でした。
ALS=筋萎縮性側索硬化症とは神経の障害から全身の筋肉が衰えていく難病で、全国に約9000人の患者がいます。原因不明、治療法もないため、人工呼吸器を着けなければ、通常2年から5年で死に至ると言われています。
しかし、患者の7割は「周囲に迷惑をかけたくない」と、呼吸器を着けていません。
ヒロさんは現在も、外資系広告会社でプランニングディレクターとして働いています。コミュニケーションは、唯一動かすことができる目の動きを感知し、パソコンに文字を打ち込む「アイトラッキングシステム」で行っています。的確な発言で会議を盛り上げるヒロさんの姿は、病気を全く感じさせませんでした。失われるのは体の自由だけで、心は奪われていない。そう思うと、閉じ込められた体の中で叫び声を上げるヒロさんが見えるようでした。

暗闇の中で生き続ける恐怖

暗闇の中で生き続ける恐怖
しかし、ALSは想像以上のスピードでヒロさんの体をむしばんでいます。
僅か半年でヒロさんは、トレードマークだった「笑顔」が作れなくなりました。さらに今、頼みの綱である「目」にまで進行が及んでいます。もしこのまま病気が進行し、まぶたまで動かせなくなったら・・・。
ALS患者にとって最も恐れていることが待っています。
それは、TLS=完全な閉じ込め状態。まぶたも開けられず、音だけが聞こえる暗闇の世界。体の感覚や知能、内臓機能は保たれますが、誰とも意思疎通ができません。
ALS患者のうち、TLSに陥るのは15%。しかし、患者であれば誰もが陥る可能性を秘めています。取材のため、以前別の番組で取り上げたTLSの男性の映像を見ました。
人工呼吸器の音だけが響く部屋で、意志を伝えられないまま生き続ける姿が今も頭に焼き付き、思い浮かべるたびに胸をえぐられます。

人生の思い出作りせず闘う

人生の思い出作りせず闘う
原因不明、治療法なしの難病ALS。遺伝性は患者の10%で、誰もが突然発症する可能性があります。皆さんがもしこの病気になったとしたらどうするでしょうか?
私なら大切な家族や友人と有意義な時間をのんびり過ごそうとするかもしれません。しかし、ヒロさんは違いました。圧倒的不利な状況は分かっていても、治療法確立の旗を掲げ続ける。だから、人生の思い出作りはしない。それがヒロさんの選んだ生き方でした。
ヒロさんはインターネットで世界中の新たな薬や治療法を独自に探しています。そんなとき知ったのが、イスラエルの企業が開発した幹細胞を移植する独自の治療法。治験に参加した患者の中には症状の大幅な改善が見られたという報告もあり、アメリカで現在治験が行われています。
また、欧米には、たとえ治験中の治療法でも特別に試すことができる「コンパッショネートユース(人道的な観点からの使用)」と呼ばれる制度があることを知りました。
ほかに治療法がなく、命の危険がある病気の患者の中には、治験中の薬が承認されるまで待てないという思いの人も多くいます。そこで、薬の安全性が認められているという条件で、彼らに使用を認めています。
しかし日本では、安全性の問題や責任の所在などの観点からまだ導入されていません。

「この制度が日本にできれば、残された時間が限られた患者の希望になるはずだ」 

ヒロさんの闘いが始まりました。

ALSは治せる病気と証明したい

ALSは治せる病気と証明したい
そんな彼の思いに共感し、集まってきたのは会社の同僚たちや友人たち。
さらに、ふだんは競合しているライバルの広告代理店からも有志も加わりました。みんな手弁当の参加ですが、会議は真剣そのものです。誰もがヒロさんの思いに突き動かされているようでした。
メンバーは話し合いの結果、ヒロさんの思いを込めたCMを作ることにしました。

CMの制作費用は全額、インターネット上で寄付をするクラウドファンディングで募集。サイトには同じALS患者や家族を中心に、応援の声と寄付が寄せられていきました。1か月でその数は300人を超えました。
そして、行われたCM撮影。
スタジオには監督や照明、アシスタントディレクターなど50人以上のスタッフが参加。白を基調としたシンプルなセットの中に、緊張感のある熱気がこもります。さらに、ヒロさんの声となってメッセージを伝えるのは、10年来の友人である歌手のAIさんです。

AIさんは声を失ったヒロさんに代わって、彼の心の叫びを代弁しました。

アイスバケツチャレンジから1年。ALSの悪夢はまだ続いています。
海外では、安全で未承認の治療を試し、回復した人もいます。
希望は見えてる。日本で一日でも早く治験を試せるように。
ALSは治せる病気だと証明したい。難病ってことばをなくそう

ヒロさんは、このCMを通じ、難病に苦しむ人たちに社会が関心を持ち、最先端の治療法が一刻も早く患者に届く仕組みを作るよう訴えています。

ヒロさんの活動は以下のサイトからどうぞ。
https://end-als.com/

また、NHKではALSをより深く知ってもらうためのキャンペーンを行っています。ぜひご覧になってALSのことを考えてみてください。

NHKソーシャルグッドプロジェクト
http://www.nhk.or.jp/sg-project/

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