新国立デザイン見直し「1週間で結論」
下村博文文部科学相(61)は22日の記者会見で、建築家・槙文彦氏(86)らのグループが示した新国立競技場のデザイン見直し案に関し「前向きな提言であり、謙虚に耳を傾けた上で最終判断したい」と述べ、一部意見を取り入れることも検討する考えを示した。下村文科相はこれまでゼロベースでの見直しについて否定的だったが、初めて前向きな姿勢を示した。「1週間くらいで最終決定しなければならない」と話し、新国立競技場の整備問題が月内にも決着する見通しも示した。
下村文科相は会見で自発的に建築家の槙氏の名前を挙げ「最初から決まっているから、聞く耳を持たないということではない。いろんな方々から(ラグビーW杯に間に合うという)前向きな提言をもらっている」と述べた。
槙氏のグループからは、屋根を支える2本の巨大なキールアーチ構造が巨額の建設費と工期の長さにつながっていると指摘されており、「前向きな提言であり、謙虚に耳を傾けた上で受け止め、最終判断したい」と述べた。ただ「(現在のデザインを)白紙にして全部やり直すわけではない」とも話した。
これまで、下村氏は、ザハ・ハディド氏が提案した従来のデザインを踏襲することにこだわっていた。しかし、複数の政府関係者によると、政府、文科省幹部と槙氏のグループが今月中旬頃、都内で極秘に会談した。会談の中で槙氏らはこれまでの意見を書面でまとめ、提示した。提言では、監修者としたザハ氏との契約を解除し、施工者を維持した上で「屋根部分をゼロから設計を行うべきだ」と指摘。一般論として特殊なデザインの場合、予算の関係で再現が難しくなり、建設を断念したケースがあることを伝えた。
また、フィールド部分を覆う開閉式屋根をやめ、客席部分を覆う形にすることで整備費用を抑えることが可能となるとして、完成時期についても「ラグビーW杯に間に合う」との見通しを示した。槙氏は17日に自民党行革推進本部の特別会合でも、ゼロベースでの見直しは可能との見解を示している。
槙氏は自身が前面に出ることを否定しており「義憤からの行動」と強調しているが、槙氏の提言は、首相官邸や文科省内で急速に浸透しつつあるという。こうした水面下での動きを受け下村氏が槙氏の案を検討し、この日の会見で明言するに至ったとみられる。
新国立の整備費用はザハ案では見積もりが最大で3000億円とされ、コスト削減を図った場合でも2500億円と試算。槙案では最大で約1600億円と現行の予算案で収められる計画となっている。
◆【プラスα】「工期」「構造」で揺れる胸の内
下村文科相は、新国立のデザインを見直すか現行案のままとするかの判断時期について、「1週間くらいで最終決定する」と期限を設けた。
下村氏が今もなお揺れているのはゼロから見直した場合、複数の関係職員から「19年9月のラグビーW杯に間に合わない」と指摘されているためだ。ザハ・ハディド氏の事務所は再度の設計変更を拒否しており、現行案で着工した場合、「予算と作業員を集中投下すれば可能」との報告も受けている。だが、その際の整備費は3000億円近くとなることは確実で、世論の反発も予想している。
一方で、ゼロベース案について「謙虚に耳を傾けたい」とも語るのは、400メートルある2本のキールアーチ構造に問題があることを把握したためだ。屋根部分を担当予定の竹中工務店は東京タワーのほか東京、京セラドームなど屋根付きスタジアムを建設した経験がある。高い技術を持つと定評のある同社から「問題なく完成できる」との報告を受けていないことが判断を遅らせている。
政府関係者によると、下村氏は現行案で工事を行う場合、作業員の安全確保や工事が中断されるリスクを懸念。また、アーチ構造は地震に弱いとされ、避難場所など防災上の問題点があることも把握しているという。
新国立の完成メドとするのは、19年3月下旬。5か月後に控えるラグビーW杯の会場とするため、計画に無理が生じるという。政府内や自民党内では、ラグビー会場を新国立から別会場に変更した場合、「新国立の整備計画にも1年以上の余裕が生まれる」との声が根強い。自民幹部は「猶予はない。下村氏がどちらの案を採用するにしても決断を急ぐべきだ」と話している。(新国立競技場問題取材班)