日本叩きに失敗して悔しい
木村:2014年の仁川のアジア大会も運営にいろいろ問題がありました。これに対しマスメディアは批判しましたが、改善に向け政府が仁川市など運営組織を積極的に指導する、ということにはなりませんでした。「それなりの国」になったので、政府も国民も昔のように汗をかこうとは思わない。まして自らを手術する勇気など湧きません。そんな中、将来に対する漠然たる不安感が増しているのです。
「ゆでがえる」の心境ですね。
木村:この、韓国人の何とはなしの不安感と言いますか「頭打ち感」。実は外交にも通じるのです。
鈴置:韓国で「外交敗北論」がにわかに高まっています(「朴槿恵外交に噴出する『無能』批判」参照)。
米国と中国を後ろ盾にして日本を叩く――というのが朴槿恵外交の基本路線でした。でも、米国は韓国以上に日本を大事にする。一緒になって日本を叩いてくれるはずの中国も、日本との関係改善に動く。
日本を孤立させたつもりが、自分が孤立しているじゃないか――と韓国人は焦り始めたのです。
ユネスコはけしからん
木村:もちろん「孤立する焦り」の背景には歴史認識問題で韓国の要求を聞いてくれないどころか、あたかも自分たちの存在を無視するかのような日本政府や安倍晋三首相に対する怒りも存在します。でも、それ以上に、韓国の世界での立ち位置への不安が大きいのです。
韓国はG20のメンバー国となり、2010年にはアジアの国として初めて首脳会合を主催しました。韓国人は、堂々たる先進国となったと国を挙げて喜びました。わずか5年前の話です。
でもふと気づくと、自分たちが考えているほどには、世界の国々が韓国の意見に耳を傾けてくれるようには思えない。その不満を具体的に並べると、次のように整理できるかもしれません。
- 米議会での安倍演説に我が国があれほど反対したというのに、米国は許したうえ、盛大な拍手で歓迎した。米国が日本の方を重視しているのは明らかだ。
- 頼りにしていた中国も、いつの間にか平気で日本と首脳会談を行うようになった。ひょっとすると中国もまた、本音では我が国より日本を重視しているのかもしれない。
- ユネスコは日本の産業遺産を世界遺産に登録しかけている。遺産の施設の一部では朝鮮人労働者も強制労働させられていた、と我々は主張したのだが、それが真剣に受け止められたようには思えない。
- ユネスコの上部組織、国連の事務総長は我が韓国から出ている。なのに、よりによって「歴史」を扱う国連機関が日本の肩を持つとは理不尽極まる。
- 「MERS」で首脳会談をドタキャンしても米国からはほとんど反応がなかった。我が国の大統領がわざわざ訪米してオバマ大統領に会うのだから「慰安婦」をはじめとする歴史認識問題で、少しはリップサービスしてくれるつもりかもしれない、と期待していたのに。この問題に米国はあまり関心がないようだ。
- あるいは逆に、韓米間で懸案になっている終末高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)配備問題で、オバマ大統領が韓国に怒りをぶつけるかもしれない、と考えていたのに、この問題に拘っている様子でもない。我が国がこれほど悩んだ問題を、米国は真面目に考えていない。