中国に従いながら、米国との関係も維持を…
「二股外交」の策を弄し続けてきた韓国。
しかし気づけば、日本、北朝鮮、そして米国にもそっぽを向かれる「三面楚歌」に。
いよいよ中国の手のひらで踊るしかない状況に「従中」か「米陣営に戻る」か「中立化」か国論は分裂、焦燥感と閉塞感が社会を覆う。
揺れる韓国が招く北東アジアの流動化、新たな勢力図と日本の取るべき進路を、読み切る。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』に続く待望のシリーズ第5弾。オンライン未掲載のオリジナル年表なども収録。3月9日発行。
「セウォル号」以上の衝撃
鈴置:中央日報は「MERS恐怖、セウォル号の悲しみより2倍強かった」(6月16日、日本語版)との見出しの記事を載せました。
ツイッターとブログに書き込まれたコメントを、ビッグデータ解析で分析した結果だそうです。記事に引用された、高麗大のヒョン・テクス教授(社会学)のコメントは以下です。
- セウォル号は他人の悲劇について悲しむ事件だった。一方、MERSは本人や家族に直接的な被害をもたらす恐れがあるため、はるかに多くの反応が表れた。
木村:政府に対する不信感は「セウォル号」の時と同様に、いやそれ以上に高まりました。船舶事故は船に乗らなければ犠牲者になりませんが、伝染病はどこにいても危険にさらされるからです。
でも注目すべきは、今回は韓国人の嘆きの対象が、政府に留まらず「韓国そのもの」に向かったことです。MERSらしき自覚症状があっても、隔離されたくないと人々は病院に行かない。当然、感染者は増え続けます。
鈴置:自宅での隔離を命じられたのに出歩いた人々。検査中に病院の隔離室の鍵を壊して脱走、あとで感染が判明した人。感染の可能性が濃いのに診療した医者や教壇に立った先生――。こんな例が連日報じられています。
噂を流したら罰する
木村:MERSの発生源となった有名病院の名を当初、政府は隠しました。人々がパニックに陥ることを恐れたからです。さらに「MERSに関し、変な噂を流したら罰するぞ」と国民に警告を発しました。
でも逆に、隠したためにパニックが広がってしまった。政府と国民の間に信頼感がないことから起きた悪循環です。
政府の対応がまずかったのは事実です。しかし韓国人は「では、自分たちは成熟した国民と言えるのか」「我が国は先進国なのか」と考え込んだのです。
鈴置:中央日報の李夏慶(イ・ハギョン)論説主幹が6月17日に載せた「誰がMERSに石を投げるのか」(韓国語)は、まさにその空気を映した論説です。
「韓国は限界に達している。MERSを奇貨として国のあり方を根本から変えよう」との主張です。ポイントは以下です。
- この国ではどんな覚醒も、構造改革も不可能だと多くの人が慨嘆してきた。通貨危機ぐらいの衝撃がなければ変わることもできないとも言う。
- MERSの衝撃は、機能不全に陥った大韓民国のシステムを全面的に変えろと命じている。今や政府も、企業も、労組も変わらねば生き残れないのだ。
韓国の論説記事は悲憤慷慨調で書かれるのが普通で、割り引いて読む必要があります。でも「我が国は機能不全に陥っている」との危機感は多くの韓国人に共感されています。
そして、韓国社会を劇的に変えた1997年の通貨危機のような「国難」に直面せねば韓国人の目は醒めない、との慨嘆も決して大げさな主張とは受け止められてはいません。