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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

生徒のマナーが最悪な学習塾を豪快指導!
「地域の守り神」と慕われる暴力団員

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第20回】 2015年6月23日
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 今回は、有名学習塾で起きた事件を基に、企業とそれを取り巻く社会のホンネとタテマエを炙り出したい。事件の「主役」は、地域で知られる40代の暴力団員。一説には、「刑務所から出てきて日が浅い」と囁かれる。そんな組員が、あることをきっかけに塾に怒鳴り込んだ。塾や親たちが怯える一方で、地域の商店経営者たちからは、その行為が絶賛された。なぜ、このような奇妙なことが地域全体で起きたのか。その謎に迫る。


「はげ~」「坊主~」
暴力団員をからかう塾生たち

「おれをからかった子どもを出せ!」と塾に怒鳴り込んだ暴力団員は「子どもがいる教室に入らせろ」と脅し、室長に「あの3人の子の親を呼べ」と命じた

 午後8時過ぎ、JR中央線某駅の北口――。

 立ち食いそばのチェーン店がある。その前を通り過ぎ、30メートルほど歩くと、銀行の支店が見える。その横の道から、小学生たち数十人が小走りで出てくる。駅に向かうようだ。

 名門学習塾に通う子どもたちだ。塾の職員と思える、背広を着た男性が2人傍らに立つ。男性たちは、1年ほど前からここで子どもたちを見送るようになった。ほぼ1年前、この塾を舞台に「事件」が起きたからだ。

 その日の午後8時頃、地域を仕切る暴力団員3人が塾の横の道を歩いていた。教室を後にして、駅に向かう数人の男の子が通りすぎるときに、この暴力団員をからかった。「はげ~」「坊主~」「毛がはえない病気~」という具合だ。

 数人のうちの1人である40代の暴力団員は、どのような理由なのかは不明だが、髪の毛が1本もない。子どもたちの言葉にはじめは苦笑いをしていた。しかし、数人から10人ほどに子どもが増えて、一段と大きな声でからかい始めた。

 「はげ~」「坊主~」「毛がはえない病気~」――。

 そのとき周囲には、通りすがりの会社員や商店街の店主10人ほどがいた。暴力団員はつい最近まで、本人いわく「7~8年、刑務所にいた」人物である。地域を仕切るだけに、商店街の店主らとは一通り面識があるという。とんかつ屋の店主は、15年以上前から知り合いだ。

 「その刑期ならば、殺人なのかもしれない。髪の毛が1本もなく、ドラマに出てくるような暴力団員。うちの店にも若い組員を連れて、時々来る」

 暴力団員は翌日、学習塾に行った。そして、「責任者を出せ!」とすごんだ。塾の室長は怯え、おののいたようだ。暴力団員は、昨日の出来事を説明した。そのときは冷静だったという。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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