民主党、社民党、無所属の議員が5月22日、ヘイトスピーチ対策を主な目的とした「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律(案)」を参議院に提出した。今国会で審議に入るかどうかは今後の議員運営委員会で決まる。 法案によれば、人種等の共通の属性を有する不特定の者に対して不当な差別的言動をしてはならないとした(第三条2)。法が制定されれば、現行法では違法ではない「朝鮮人を皆殺しにしろ」などの不特定の者に対するヘイトスピーチも道義上、許されなくなる。少なくとも国が非難していることが明確になることで、一定の抑止効果が期待される。 第六条では、人種差別撤廃が国のみならず、地方公共団体の責務であることも明記した。これは、地方公共団体それぞれが独自に人種差別撤廃・禁止条例を制定したり、公共施設を人種差別行為に使わせないといった利用条例の新たなガイドラインを作るうえで追い風となるだろう。また、地域の民族的マイノリティーの状況に合わせた人種差別撤廃教育に取り組むなどの施策を促進すると見られている。 「人種等差別防止政策審議会」の設置も注目される。行政から一定程度独立した専門機関の設置は、より公正で的確な政策を担保していくうえで役立ちそうだ。 このほか、国と地方公共団体が人種差別を撤廃する政策を策定し、実施する義務を法律上の責務としたこと(第一条)は、人種差別撤廃政策を策定するための第一歩だ。人種等を理由とする差別の実態調査を国に義務づけた第一八条と併せ、国連人種差別撤廃委員会からの度重なる勧告を実現することにつながる。 民主党の有田芳生参議院議員は、「ヘイトスピーチの規制が目的ではなく、差別はいけないというごくあたりまえの法律だ。日本の人種差別撤廃に向けての第一歩であり、開会中の通常国会で成立させたい」と意欲を燃やしている。 「初の法案」評価 外国人人権法連絡会 弁護士や学識経験者らでつくる外国人人権法連絡会(共同代表=田中宏、丹羽雅雄、渡辺英俊)は同日、「人種差別撤廃施策を推進する日本で初めての法案」として評価する声明を発表した。ただし、何が差別となるのか、その範囲を画する「差別の定義」については、「判断基準が不十分」として明確化を求めた。 法案では差別の定義について、「不当な差別的取り扱い」、「不当な差別的言動」とした。これについては、「あらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」を条文に明記するよう求めている。 法案は不特定の者についての不当な差別的言動において、要件のひとつとして「著しく不安若しくは迷惑を覚えさせる目的」としたことには、「きわめてあいまいで、表現の自由に対する過度な規制に結びつく危険」と指摘、「侮蔑若しくは威嚇する目的」が妥当とする意見を加えた。 (2015.6.10 民団新聞) |