これで安全保障関連法案の違憲の疑いは晴れた――。安倍政権がそう考えているとしたら、間違いだ。

 衆院の特別委員会はきのう、憲法や安全保障の5人の専門家から法案への意見を聞いた。

 安倍首相の私的諮問機関・安保法制懇のメンバーだった西修・駒沢大名誉教授は「限定的な行使容認であり、明白に憲法の許容範囲内だ」と述べた。

 西氏の主張は、日本は集団的自衛権を認めた国連憲章を受け入れており、憲法も明確に否定してはいないというものだ。

 ただ、歴代の自民党内閣は一貫して「憲法上、集団的自衛権の行使は認められない」との解釈をとり、西氏ら一部の憲法学者の主張を否定してきた。

 先の衆院憲法審査会でも、長谷部恭男・早大教授ら3人の憲法学者がそろって、すでに確立している政府の憲法解釈を時の内閣が一方的に変更してしまうことのおかしさを指摘した。

 自民党にすれば、法制懇にいた西氏によって長谷部氏らの違憲論による衝撃を打ち消したかったのだろう。しかし、その後の党内の動揺を見せつけられた後では、説得力は乏しい。

 きのうの特別委では、2人の元内閣法制局長官も、政府の解釈変更を批判した。

 阪田雅裕氏は「集団的自衛権の限定的な行使が、これまでの政府解釈と論理的に全く整合しないものではない」と一定の理解を示しつつ、ホルムズ海峡での機雷除去については「限定的でも何でもない」と指摘。「歯止めをなくして、日本が戦争をするかどうかを政府の裁量や判断に委ねていいと考えている国民は誰もいない」と語った。

 宮崎礼壹氏も「確立した憲法解釈を政府自身が覆すのは、法的安定性を自ら破壊するものだ」と断じた。

 こうした指摘に対し、安倍首相はその後の参院決算委で「その時々の国際情勢への対応をどうすべきか。これを考え抜くことを放棄するのは、国民の命を守り抜くことを放棄するのに等しい」と反論した。

 だからといって、時の政府の裁量で憲法の歯止めを外していいことには決してならない。首相の言い分はあまりに乱暴だ。

 政権は、国会会期を9月27日まで延長することを決めた。通常国会の延長幅としては、戦後最長となる。異例の大幅延長は、法案が合憲だと国民を説得することに自信を持てないことの裏返しではないか。

 時間をかけた議論はいいとしても、それで違憲を合憲にひっくり返すことはできない。