「液晶王国」転落、正念場のシャープ

 経営危機に陥ったシャープが23日に定時株主総会を大阪市で開く。総額2250億円の優先株発行や資本金を5億円に減らす大幅減資を特別決議にかける。だがこれらの施策で累積損失を一掃でき、借入金を一部減らせても財務の不安はつきまとう。
 一時は世界の液晶テレビの半分を販売する「液晶王国」を築き上げた。強みとする液晶パネルを独自開発し、自社製品に活用。商品とデバイスを融合させる「スパイラル戦略」と呼ぶ経営で、ブランド力向上や技術革新をうまく進めてきた。
 その後、リーマン・ショックを経て市場環境は激変した。電機各社は利益が出ない事業から手を引く「選択と集中」に踏みだし業績回復を果たした。一方、シャープは液晶産業をつくった自負が強すぎ、もうからない看板事業にしがみついた。結果として、慢性的な赤字体質から抜けきれない。電機大手の財務指標と比較しながら、追い詰められたシャープの姿を照らし出す。

電機大手は「選択と集中」で成長の手がかり

凡例

 電機大手8社の経営指標を比較すると劣勢を強いられるシャープが浮かびあがる。財務の健全性を示す自己資本比率。シャープは2014年度(2015年3月期末)が1.5%と著しく低い。最終損益は2223億円の赤字(13年度は115億円の黒字)。設備の減損処理、原材料の価格下落を受けた評価損など一過性の要因があるものの、15年度も引き続き1000億円超の最終赤字になるもよう。
 株式の時価総額は8社のなかでシャープが最下位。足元の水準をリーマン・ショック後の09年3月末と比べると日立製作所は4倍、ソニーは2倍、各社とも1.5~4.0倍になった。
 「ニッポン電機」はリーマン・ショック後から続いた構造改革に区切りをつけて、それぞれが成長への道筋を示しつつある。日立、パナソニックはシャープを上回る大幅赤字を経験した。ただ、日立は社会インフラ、パナソニックは自動車、住宅関連へと「BtoB」路線を明確にし、安定した収益を出せる体質に変わろうとする。ソニーはデバイス、映画、音楽事業が堅調なうえ、不振だったテレビ事業に復調の兆しがある。
 シャープは10月からカンパニー制を導入する。液晶事業を「ディスプレイデバイス」、家電・通信などを「コンシューマーエレクトロニクス」など5つのカンパニーに移す。意思決定を迅速にし、一段のリストラを含めて思い切った立て直しにつなげる考え。

資本支援で欠損金一掃、自己資本に厚み

  • 売上高
  • 営業損益
  • 株価
2001年
  • 液晶テレビ「アクオス」を発売。
2004年
  • 亀山工場が稼働。液晶テレビを「亀山モデル」として量産。
2006年
  • 亀山第2工場が稼働。
2007年
  • 片山幹雄氏(現日本電産副会長)が社長就任。
2008年
  • 2008年3月期の最終損益は1019億円の黒字で過去最高に
2009年
  • 大型液晶パネルを生産する堺工場(堺市)が稼働
2012年
  • 台湾の鴻海精密工業と提携を3月発表
  • 奥田隆司氏が社長就任
  • 主力取引銀行と総額3600億円の協調融資契約を9月締結
  • 3000人規模の希望退職を実施
  • 米クアルコムと資本業務提携で12月合意。約100億円出資受け入れ
2013年
  • 韓国サムスン電子と資本業務提携を3月発表。約100億円出資受け入れ。
  • 高橋興三社長が就任。
  • 公募増資で約1200億円調達。
  • デンソー、マキタ、LIXILグループへの第三者割当増資で約170億円調達。
2014年
  • 欧州の家電事業からの撤退決定
2015年
  • シャープ単体、15年3月期に59億円の債務超過
  • 資本金を5億円に減資
  • みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行などに優先株を発行。2250億円を調達。

 シャープの財務状況は瀬戸際に追い込まれ、主力行から資本支援を受ける。リーマン・ショックの08年度からの7年間のうち4年が赤字。損失が積み重なり自己資本は毀損した。自己資本は07年度に1兆2000億円を超えたが、14年度末に301億円まで落ち込んだ。
 「液晶王国」の大黒柱である亀山工場(三重県亀山市)、堺工場(堺市)への過去の積極投資が重くのしかかった。工場の稼働率がいったん下がれば在庫が膨らみ、それでも運転資金を確保するため借入金を膨らませた。好業績期に攻め一辺倒になってしまい、資産効率を改善しなかったツケがたたっている。
 これまで主要銀行による協調融資や公募増資、国内外メーカーとの資本業務提携でなんとか乗り切ってきた。今回も資金繰りが苦しくなったうえでの資本増強だが、依然として高水準の有利子負債は消えないままだ。

液晶頼み抜け出せず、再生には次の一手

  • 全体売上高
  • 液晶部門売上高
  • 液晶パネル価格

 シャープは再建できるか。主力の液晶事業の動きが良くも悪くも方向づける。14年度の液晶パネル事業の売上高は7729億円で、連結売上高の28%を占める会社の顔であり、収益の屋台骨に違いない。もっとも市況変動にさらされやすく業績の浮き沈みだけでなく、経営の命運さえ握る。
 それだけに、採算性が悪い大型液晶パネルからスマートフォン(スマホ)向け中小型パネルにシフトするなど手立てを講じてきた。中小型液晶パネルは中国スマホ向けメーカー向けを開拓しけん引役だったはずが、競争激化によってライバルに顧客を奪われた。
 液晶ビジネスは資本集約型事業の最たる例で、巨額投資を続けられなければ勝ち残れない。シャープも設備投資の大半を振り向けてきたが、資金繰りにもがくなかで、攻めの資金投下は遠ざかる。液晶を中核にした成長シナリオは一筋縄でいかず、事業売却などの選択を迫られる可能性がある。

亀山第2工場(三重県亀山市)は中小型液晶の生産比率を17年度に約8割に引き上げる

不退転の覚悟、もはや聖域はない

 金融支援を受けても、ひとまずの資金繰りに一息ついたにすぎない。不採算事業の縮小・撤退、工場閉鎖などの痛みを伴う改革は手つかずなままだ。経営再建は本業で稼ぐ力を押し上げられるかにかかる。ただ、シャープが描く再建計画では液晶頼みのイメージをぬぐえない。液晶ビジネスが再び大赤字を出してしまえば、八方ふさがりとなり存続すら危うくなる。「不退転の覚悟」「もはや聖域はない」(高橋興三社長)。信頼を取り戻すためにも甘えを許されない。

取材・制作
森園 泰寛  清水 明  安田 翔平  山崎 亮
データ出典
各社決算資料
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