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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

五章 ツィーゲ独立編

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実感なき日常と街並み

 その名の示す通り、アイオン王国の首都である王都リーブラ。
 最近まで名前もうろ覚えだったその街で王座の交代を求めた武力蜂起が起きたのは一月ほど前の事だ。
 革命が起きる可能性は既に聞かされていたし、準備も着々と進めてきてた。
 ただ……レンブラントさんが話していた中で最も可能性が低いとされていた革命の始め方が王都での武力蜂起だった。
 正確には起きる可能性も成功する可能性も低いが見込める効果は一番高い選択、だったかな。
 結果は一応失敗。
 王は殺せず、街の制圧も出来ず。
 だけど革命の狼煙を上げた連中は撤退を果たした。
 今の王家から見れば、追い込まれたけど何とか押し返して窮地を脱したってとこだ。
 ウチからは巴が様子を見に行ってくれたけど、到着した時にはもうクーデターを起こした側の敗走が始まっていて、情報収集の結果からも八割方街と城の占拠が完了した段階から何故か風向きが変わって一気に王国軍が押し返しきったとわかっただけ。
 しかも、これまでの戦闘が嘘のような機敏さと力強さでだ。
 何とも不思議な事があるもんだと思う。
 おそらくはどこかから強力な援軍が到着したか国宝クラスの魔道具を使ったか。
 ツィーゲではそのように判断している。
 そしてレンブラントさんが見積もっていたよりも革命を目論む連中の戦力は強大だと判明もした。
 まさか一気に城を落とそうと考え、それをあわや可能にするだけの力を持っているとは完全に予想外だったようだ。
 もしそうなっていたら混乱と内乱の内に独立を認めさせるツィーゲの独立劇が成立しない。
 新政権の混乱を突くやり方に変更せざるを得ないし、その時は単なる国と街の戦いになり早々こちらの要求も通らなくなってしまう。
 ま、王国にも切り札があるのがわかったのも役に立つ情報だし、それはほぼ負けってとこまで追い詰められてからの登場。
 外部の介入にしろ魔道具にしろ、そうそう頼り切りにできるものじゃないはずだ。
 驚きの始まりだったけど、初戦の様子から得られた情報も多い訳だ。

「最初こそあのまま終わってしまうかと気を揉みましたが……どうやらツィーゲの予想した通りの膠着、そして泥沼になりつつありますな。今やアイオンは完全な内乱状態ですぞ」

 ツィーゲはクズノハ商会内の自室。
 最近はここにいる時間も長くなった。
 そこで巴が楽しそうに報告を要約してくれている。
 革命の始まりから一月。
 まだ内乱は続いている。
 そしてツィーゲはアイオン王国に対して独立を宣言。
 当然許さないアイオン王国。
 その後革命勢力にもアイオン王国からの独立を宣言、今後どこがアイオンをまとめようとツィーゲは住民自身が治める考えを示した。
 もちろん、革命を起こした連中もこの宣言を認めなかった。
 つまりツィーゲは王国からも革命軍からもお前んとこは俺のもんだから勝手な事してんじゃねー、と言われている状況だ。

「ツィーゲに対しての反応は?」

「少しずつ違いが出ておりますな。王国からは似たような独立宣言の撤回と帰属命令、名ばかりの領主の家から代官を受け入れるよう命令、という様子をぎりぎり保った懇願の書状がやたらと届いておるようで」

「領主の方はもう泣きが入ってきて、でも王国の態度は大して変わらないままと」

「で、謀反を起こした連中、『草原の真なる~』云々の方は……」

「云々って巴、そこ興味なしか」

「ありませんなあ。御輿の王位継承権何位だかの者も剣も政も術も人並みの域を出ぬ凡夫ですし、勇者のように人を惹きつける能力も持っておりません。大国の王はかくあれという基準を何一つ満たさぬ者、まさにお飾り。どうせ奴らが国を獲った所で国名はアイオン王国のままでしょうし、どうでもよろしいかと存じますな」

「そ、そう。で、彼らの方の反応は?」

「ある程度の自治ならば認めても構わないから自分たちにつけ、という態度に変わってきたようです」

 軟化とも見られる変化だ。
 今アイオンは東西に真っ二つに分かれて争っているような状況で、ツィーゲは西の端。
 勢力的にはクーデター側の方にある。
 こういう状況で争いが継続してしまっているのも、まあ彼らの目論みが上手く運んだ結果なんだろう。
 西側にあった王国派、東側にあった革命賛成派はそれぞれ鎮圧されて塗りつぶされた。
 幾つか逃げ出した領主様たちもいたようで、この辺りの名簿を作って今度北方で頑張っているアーンスランド姉妹に見せてあげようかとも思う。
 稀らしいけど、それなりに逃げてんだよなあ。
 領民と領地を捨てて、すたこらとさ。
 うーん……、アイオンが色々末期なんだと思っておくか。

「……まだまだ、独立を認めるって話にはならないか。この辺りはレンブラントさんとツィーゲの議会次第だけど……」

「周辺都市は既にツィーゲの独立について水面下で認め。これまでと変わらぬ付き合いを求めておりますからここからが奴らの腕の見せ所でしょう」

「澪の話だと、隣の港町なんかはツィーゲの庇護下に入りたいんだっけか。アイオン王国ってのは、つくづく人望が無いようで哀れだね」

「儂はこれからその港町、コランに出掛けることになっております。この街の商会の一員として多少は働いておきませんとな」

「よろしく頼むよ。僕は冒険者ギルドを覗いて戦況を確認して、明日は学園都市だ。思ってた忙しさとは違ったけど、のんびりする時間がないのは同じだったよ」

「この段階でツィーゲの街まで戦火が届くのは、レンブラントや彩律の思惑が完全に外れてしまう事を意味します。それはそれで面白いですが、若の負担がまた増えそうな気も……」

「……やめてくれ、ちっとも面白くないから。気をつけてな」

「では行って参ります。夜の報告会には出席致しますのでまた後ほど」

「うん」

 巴が部屋を後にする。
 不意に外を見る。
 空も、街も、いつも通り。
 どこまでも青い空、喧噪の支配する街並み。
 独立宣言をして王国と革命側を両方相手にして戦争中な街とはとても思えない。
 僕は少なくともこんな風な毎日になるとは思ってなかった。
 一応、会議の中でこの流れは説明を受けたけど、実際ここまでその通りに進むなんて考えてなかったんだ。
 近くの街も、このツィーゲを狙うだろう近隣の領主も、この街に攻め込んでこなかった。
 ……違うか。
 正確には、攻め込ませなかった、だろうな。
 そして、今も攻め込ませていない、だ。
 僕も巴に話した通り、行動を開始する。
 店の様子を見て回りながら階段で一階まで降りて、そのまま通りに出た。
 一階部分には澪が意見を出した飲み食い処があるんだけど、これが好評で、混雑を回避するって目的もあってそっちは今別の入り口を設けている。
 まだ昼前だというのに、混雑を避けて早めの昼食を取ろうとする人達で既に列が出来ていた。
 避けられてないな、混雑。
 かといって今更席数は簡単に変えられない。
 あの量のお客さんを捌こうと思ったら、ピークタイムにはお客さんにも協力してもらって回転速度を上げるしかないんだよな。
 朝は朝で混むし……酒まで提供して夜遅くまでやるってスタイルにしなくて本当に良かった。
 従業員が過労死するよ、まったく。
 何度か頭を下げながら列の横を素通りして冒険者ギルドに急ぐ。
 相変わらずこの街は荒野を目指す冒険者と、彼らが待ち帰る希少な素材で大繁盛してる。
 その活気は今もまったく陰る事がない。
 これも、レンブラントさんの話していた通りだ。
 冒険者の数で言えば戦争開始時と比べてむしろ増えているくらい。
 実に、とんでもない。

「あれ、ライドウさんじゃないですか! お一人なんて珍しい!」

 っと。
 急に正面の人ごみのどこかから呼びかけられた。
 この声は……。

「トアさん。お久しぶりで。そちらこそ、お一人なんて珍しいじゃないですか」

「ちょうど皆出払ってまして。街からの仕事もこの間ので小休止ですし」

「街から、ですか」

「ええ。今この街に向けてどこからも出兵されてないって事です」

「お疲れ様です。じゃあ、これからギルドですか? 本業にお戻りに?」

「ギルドへは行きますけど、本業に戻る訳じゃないですね。荒野にはこの一件が片付くまで行かないかもしれません。今はもう、そこまで急いで荒野を目指す目的もありませんから」

「……なるほど。私としては冒険者の方には冒険者としてツィーゲと付き合ってもらいたいと思うんですが、非常時にはそうとばかりも言ってられませんかね、やっぱり」

「今は中々。それに所詮、私達は剣に過ぎませんから。いくら性能が良くても盾にはなれませんし代わりもできません。目下悩みの種ですね」

「とりあえず行き先は同じみたいですからご一緒しましょうか」

「喜んで」

 彼女の表情が曇る。
 今現在、ツィーゲにいる冒険者パーティの中でもっとも成果を上げ、また高い実力を誇るトアさん達も街に協力してくれている。
 彼女達以外のパーティも大勢ギルドからの依頼という形だったり直接街からの要請という形だったりでこの戦いに身を投じていた。
 役割はずばり攻め。
 トアさんの言葉にもあったけど、冒険者は攻めてなんぼの戦いをやるプロだ。
 拠点を守る戦いには正直あまり向かない。
 向かないと言ってもそれなりにやれるだろうが、実力を百の内どこまで引き出せるかは疑問だ。
 だからレンブラントさん以下、この街の議会は彼らを遊撃、奇襲部隊として運用している。
 僕もそれで正解だと思う。
 近場なら隠密行動から、遠くで組織された部隊なら識か澪が転移で冒険者を移動させ。
 正面からじゃなく補給線だったり奇襲作戦で軍隊を壊滅させ続けている。
 成果の方はトアさんが言ったようにほぼ満点。
 未だこのツィーゲに到達できた部隊は一つもない。
 行軍という過程がある以上、一定以上の距離からこの街に部隊を届けるのは絶望的だと相手側も理解し出す事だろうね。

「守備部隊ですか」

「大手商会の私設部隊なんかが合流してそれらしいものを作ってはいますけど。正直不安が残ります」

「彼らも実力は本物では?」

「もちろん。ですがこればかりは拠点防衛での実戦経験が豊富な、核になる人材がいませんと。ただでさえ戦闘を経験しないままの状態が続いていますから、いざという時が来てしまったら……」

「もしまとまった守備部隊が集められれば、その分攻撃に回れる人も増えるし、独立を認めさせる交渉自体も優位にやれる。確かに良いことずくめですけどね……」

 だがそう簡単にはいかない。
 実戦経験が豊富にあり、かつどこにも士官していない優秀な人材となると、これは相当難しいのは僕にもわかる。

「この街に家まで買って、妹と当面住む予定でいる私としては、どうしても気になりまして。ライドウさん、実は心当たりありません?」

「ないですよ。なんですか、実はって」

「そのコートのポケットから、あらこんな所に守備隊が、みたいに出してくれないかと思いまして」

 僕はどこの青狸かね。

「やれるものならやりますけれどねぇ。あ、ギルドですよ」

「ですね。いつの間にか注目されちゃってますし、妙な噂を立てられてもご迷惑でしょうから。では」

「リノンによろしく伝えて下さい。いつもコモエが世話になっていますと」

「わっかりました!」

 さて。
 戦況は何となくトアさんからの情報でわかったけど……。
 冒険者の戦力が今の所そのままツィーゲの戦力な訳で、どの程度維持できてるのかなっと。

「ライドウ様!!」

「うわっ!?」

 今日はこういう日なのか?
 どうもいきなり呼ばれるな。
 ギルドの人か。

「使いを出すところでした。上でレンブラント様と皆様がお待ちになっております。お時間は、ございますよね?」

「あ、ええ。あります。ただ今日は特に約束などは無かったかと」

「火急の要件で、意見を伺いたいとのことです」

「わかりました」

 冒険者ギルドにレンブラントさんがいる?
 独立交渉で何か困った事態になったとしても僕の意見なんてそこまで急ぎで求められはしないだろうから、何かクズノハ商会にやらせたい事でも浮上したんだろうか。
 あまり表舞台には立ってないけど、この件じゃツィーゲ側で動くって決めてる。
 何にせよ、行ってみるしかないか。
 ツィーゲは独立目指して戦争まっただ中。
 僕もクズノハ商会も。
 それなりに忙しい毎日を過ごしてる。
ご意見ご感想お待ちしています。
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