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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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早速の勉強

 革命って、政権が変わったりする、あの革命だよな?
 レンブラントさんも聞き返した僕に頷いてくれているし、間違いないはずだ。
 この国って、アイオン王国のことか。
 つまり王族に反旗を翻す輩が出てきたってことになる。
 ……あれ、大事件?
 なんでレンブラントさんは落ち着いてるんだ?

「そう、革命だ。詳細についてはライドウ殿から頼まれた件も絡めて、おいおい話すが時期はまあ……夏までにはコトが起こるだろう」

「夏!? も、もう半年もないですよ!?」

 アイオン王国は魔族と直接軍をぶつけて戦闘している前線国家じゃないとはいえ四大国の一つ。
 リミアやグリトニアだって後方で同盟関係のでかい国が内戦やらかしだしたら戦争どころじゃなくなるんじゃ。
 いやいやいや。
 僕の決心がどうとかよりも余程大事じゃないか。
 この国が内戦状態になればツィーゲだって戦火に包まれるかもしれないんだから。
 まさか、考えたくはないけどまた魔族の陰謀か?

「ははは、流石に大きく動き出す前の段階で動きを掴ませてくれるような組織では革命などという大それたことはできん。半年程度の余裕をもって動きを掴めただけでも上々だよライドウ殿」

「ちなみに、この件は魔族の手引きによるものではありません。無関係ではありませんが、深く関わってもいない模様です」

 モリスさんに心読まれた。
 それにしても……僕としては革命なんて大事件が半年後に画策されてるってだけでとんでもないことだし、半年なんてすぐだと思っている。
 いるんだけど。
 どうやらレンブラントさんとモリスさんは半年という時間を十分な時間だと考えているみたいだな。
 ただ……。

「で、あの。革命について僕に相談というのはなんでしょう」

「うむ。率直にいえばその時のツィーゲの身の振り方について君の意見も聞きたいと思っている」

 ツィーゲの、身の振り方?

「そして革命についてのライドウ様のお考えをお聞きしておきたい。そのようなところです」

「僕の考え、ですか」

 そもそも僕はアイオン王国について深く知らない。
 はっきりいえば、ツィーゲという街しかこの国を知らない。
 諜報に長けた国家で、あとは騎馬部隊が自慢なんだっけ。
 その程度の理解しかない。

「すみませんが、正直なところアイオン王国自体の国情を知りませんので、まだ僕の中に意見らしいものが出来上がっていません」

 一通り考えて、僕は素直に現状を明かした。
 見栄を張るところでもない。

「それはいい」

「は?」

「いや、その方がいい、というべきか」

「……えっと」

「この国個別の事情などを知った上で革命に意見があれば、それも勿論聞きたかった。だがそれ以上に私が知りたかったのは、ライドウ殿が“革命”に対してどう考えているか、の方だったのでな。一般的な革命、というと奇妙だがライドウ殿はそれをどう考えている?」

 アイオンの事例関係なしに、ってことか。
 革命ねえ。
 曖昧なイメージだけど国のトップが交替するってことだよな。
 主に武力蜂起とかの非合法的な手段で。
 その結果革命が成功すれば政治や経済のあり方が変わったりする。
 どう考えているか、と聞かれたらやっぱり時の政権によって見方も変わるよね。
 良い政治をしているなら革命なんてやるべきじゃないし、悪い政治が横行していたなら革命で変えるのはありだ。
 その際に色んな副産物もあるんだろうけど……必ずしも駄目じゃないと思う。
 なら僕の考えとしては場合によってはあり、ってことだろうな。

「僕は、どんな場合も正しいとは思いませんが、革命が必要な時もあると思います」

「ほお!」

「これは……」

 結構曖昧で意見としてはボロクソに言われそうだったけど、二人の反応は純粋な驚きや感嘆を感じさせるものだった。

「変な事言いました?」

「……いや。革命は悪、ではないのだなと思ってな」

「政治が腐敗しているなら、革命は起こるべくして起こる。そんなこともあると思います。そしてそういう場合の革命なら、必要だろうなとは……」

「国を治める王はね、国を治める権限を神に認められている、とされている」

 女神にか。
 でも結構ありがちな考えだよな。
 王様には正当な権利があって国を治めてるんですよ、ってな感じで。
 なんだっけ?
 世界史でやったよな。
 ……王権神授説。
 そうだ、それだ。
 この世界の場合実物がいるからただの方便じゃないかもしれないけど。

「つまり神殿も、そして一般的な人の観念においても革命とは絶対的な悪だと考えられています」

 モリスさんも説明を補足してくれた。
 なるほど。
 だから場合によっては必要とかって考えはそれだけで異端になるのか。
 これから気をつけよう。
 そもそも革命なんて話題になったのが今日が初めてで、二度目があるかはともかく。

「となると、まずいことを言いましたね。すみません、気をつけます」

「いや。ライドウ殿は正しいと思うぞ。もっとも、表に出すべきではないから控えようというのも正しい考えだが」

「はは。ありがとうございます」

「ふむ。だがこれは大分話しやすそうだな……」

「まったくです」

 なにやらレンブラントさんとモリスさんが目と囁きで何かを詰めている。
 気のせいか応接室なのに何故かきな臭いような……。

「レンブラントさん? もしかしてその革命に参加してる、なんてことは……」

 恐る恐る聞いてみる。
 戦争で儲ける商人にはならない、と以前聞いたけど革命勢力の信念に共感したっていうなら十分考えられる。
 儲ける為じゃないわけだから。

「私は無関係だよ」

「あ、そうですか」

「今はまだ、な」

「……」

「今回アイオンで起きるであろう革命についての資料は後で渡そう。まあ、先にまとめて言ってしまえば悪い意味で愉快な馬鹿どもだ」

「駄目じゃないですか、それ」

「うむ、駄目だな。ツィーゲの役人などを見ていても日々感じる事だが、本当に駄目だな」

「ええ……」

 僕じゃなくモリスさんがしみじみと頷く。
 レンブラントさんも駄目だと二度も強調して言ったけど、そこまでか。
 僕はツィーゲに赴任してる役人さんは見たことがないけど、こんな感じの評価の人なら会わなくて良かったかも。

「ライドウ殿、このツィーゲは誰の所有か、ご存知か?」

 レンブラントさんが呆れた表情のまま僕に聞いてきた。
 まあその程度は知ってる。

「確か王族の、第四王子だったと思います」

 まだ小さいんだよな。
 聞いた時から数えて、今は六歳?

「その通り。今の王が、溺愛する第四王子に、彼が生まれて間もなくの頃に与えた」

 子供への贈り物だったのかツィーゲ。
 何か切ないな。
 ということはそれまでは王様が持ってたんだな。

「それまでは王様の所有だったんですね」

 直轄領とか、ってやつだろうか。
 まあ親から子への贈り物なら特に貴族に力を取られたりするものでもないんだろうから、ありといえばありのような。
 実の子だしねえ。

「……」

「……」

「な、なんでしょう?」

 納得しかけていた僕を、二人が若干のジト目で見ている。
 耐え切れず口を開くとレンブラントさんが短く嘆息して、話し出した。

「このツィーゲは、アイオンでは二番目に裕福な都市だ。これは納税額で判断しての数字だが」

「へえ……」

 凄いな。
 確かに活気もあるし、荒野もある。
 人の出入りも激しいし、街として力を持っているのは知っていたけど、この辺境にあってアイオンで二番目に税金を納めている街だったとは。

「王都からの距離こそマイナス要因だが、人口、経済規模、荒野の玄関口としての立地、黄金街道の端、冒険者の質……この街の持つ価値は私が言うのもなんだが測り知れない」

「ですよね」

「その街の主たる権利を、王が、まだ自分でできることなど無いに等しい子供に与える」

 あ。
 なるほど。
 レンブラントさんが呆れてる原因わかった。
 ツィーゲの権利を誰かに与えるってことはその人が凄い権力を握ることにもなる。
 そんな権力をまだ小さい子供に与えれば周囲の人間がよからぬ事を考える可能性は高いし、第一その子の為にもならない。
 いくら可愛いからって、子供の親として正しい選択じゃないな。
 子煩悩が政務に影響するのは駄目だよ。

「それで……」

「自ら自分の持つ権限を投げ捨てるような馬鹿な真似をするような王ではね。ただでさえ子沢山な上に跡継ぎ問題を更に複雑化させる実に巧妙な一手だった。狙ってやったなら策士と呼べるな」

「狙って、はいなかったんですね。その言い方だと」

「まだ自分が健在なのに、湯水のように金を納める街を真顔で幼子に譲る。かといって有能で忠実な部下をセットにする訳でもない。革命を起こしたくなる連中の気持ちも多少わかるよ。あの当時は私も王に似せた土人形を夜な夜な殴打したものだ」

 ……おう、殴打。
 どんだけむかついてたんだ。
 子供への贈り物にされるのはともかく、別に普段の生活が変わるってもんでもないだろうに。

「……以来、この街に赴任する役人は第四王子の母に取り入った新興貴族の息がかかった連中が入れ替わり来るようになりまして。この連中がまた、貴族としては決して珍しい事でもないのですが、揃いも揃ってこの街からいくら吸い上げるかしか見てないような輩ばかりでしたので……」

 またも弁士モリスがフォローした。
 そりゃあまた。
 心労がマッハだったんだな。
 見事に日常にも影響したんだ。
 そりゃあ殴るな。
 別に本人じゃないんだし、ただ王様に似せて作っただけの土人形を密かに殴るだけならレンブラントさんも相当こらえてたんだろうな。
 その役人とか王様に見られたりしなければただのストレス発散だもんね。

「頭のおかしい小役人どもと、脳みそまで筋肉が詰まった馬鹿将軍どもがわんさかやってきてな。あれはレンブラント商会史に残る危機だった。まったく、子供を可愛がるのにも限度がある」

「商会史に残る危機……」

 しかし子供を可愛がるのに限度がないのはレンブラントさんも同じ気がするんです、僕。

「娘や妻に手を出そうとしたり、妙な縁談を持ちこんできたのは一線を越えたと判断して色々手を回したがね。とにかく税金を上げろ、金を寄越せと五月蝿くてね。どれだけ数字を見せてやっても話が進まんのだよ、あの連中は。わかった、で、いつなら金を用意できる? というのだからな……」

 僕もたまに相手したことがあるけど、言葉は通じるけど話ができない人種だったんだな。
 あれは鬱陶しい。
 僕の場合は巴もんと識えもんに流すと大体後日丸く収まるからその場を流すだけで良かったけど、実際ああいうのってどう対処するんだろうな。
 にしても税金か。
 レンブラントさんってこの街で凄い力を持ってる商人だってのはわかってるけど、税金を決める話にまで参加できる人だったのか?
 それってもう一商会の領分を越えている気もするんだけど。

「税金ですか。でもそれだと役人の人が決めたら口出しはできないんじゃないんですか?」

「通常ならライドウ殿のいう通りだ。が、彼らも人だからね。その思考にこちらの考えを混ぜる事はできる。もっとも単純な手段としては接待などだな」

 接待か。
 役人をもてなして考えを聞いたりお願いをしたりしてこちらの思惑に乗せるってわけだ。
 なるほどなー。

「接待ですか。では税金についてもその時に?」

「細かくは省くがそうだよ」

「ツィーゲの住民の税負担が現状で済んでいるのは旦那様が尽力なさった結果なのです、ライドウ様」

「ちなみに今の税金ってどんな程度なんでしょう?」

「目に見える負担で三割、手を変え品を変えで後一割。大体街に収入の四割程を納めてもらうようにしているな」

 四割。
 わからないように一割ってことは、三割負担が住民の認識か。
 だとしても結構凄いな。
 十稼いだら四持ってかれて六しか残らない。
 ただモリスさんの口ぶりだとこれでもマシな方みたいだから、ここでは普通か軽い位かもしれない。
 どの位が適正なんだろう。
 支払う側からすればゼロに近い方が良いに決まってるけど、そうすれば公共のサービスも悪くなるんだろうしなあ。

「四割、ですか」

「貴族どもは七割は絞りたいと言っていたがな。それでは街が死にかねん。いくらツィーゲだと言ってもな。経験からの私見に過ぎんが、税金というものは収入の半分を超えればマイナスの影響しかないと思っているのだ」

 七割はないわ。
 それ生活できるのかって思うし。
 働く意欲も無くなるだろ、七割。
 しかも七割は、ってなんだよ。
 本当はもっと取りたいのかよ。
 ただレンブラントさんが限界だと思ってる半分ってのも大概酷い気もする。

「それは酷いですね。でも、その無茶をどうやって四割にさせたんですか?」

「簡単だよ。七割取った税から、奴らが自分の懐に入れようとしていた分の利益を、うちからの賄賂という形にしただけだ。別に聖人になった訳ではないよ。街が死ねばうちもただでは済まんのだし、第一この街に対して私は……それなりの責任というものを担っている」

 責任を担っている、と言ったレンブラントさんの顔に複雑な表情が浮かんだ。
 強い決意を伝えながら、後悔や悲しみ、愛情も混ざった、今の僕には絶対にできない顔だった。
 一つの街で長く暮らして、色んな経験をして商会をやってきたから、きっと思いいれも強いんだろうな……。
 それにしたって、とんでもない額の賄賂だろうなあ。
 金額は聞かないでおいた方がよさそうだ。

「随分と苛烈な戦いだったんですね」

「ああ。今は落ち着いているがね。……で、といった背景もあってだ。ふざけた賄賂と密告の手伝いまでやらされる現状、我がレンブラント商会に限らずツィーゲの商会からアイオン王国への印象はよろしくない」

「わかります」

 というか、これで王国に心情的に忠誠を誓えるなんてのはもはや不思議の類だろう。
 無理だって。
 僕としても、既にアイオン王国大丈夫かって思ってるし。

「なので今回の革命の画策についても、未だ国には報告していない」

「え!?」

「今報告すれば革命は小さな反乱で終わるでしょうが……」

 報告する気が無い。
 つまり革命を起こさせるつもりでいるってことだ。

「この激動の一年ほどを経験して、まさに日々変わっていくツィーゲを見て、私も大分考えが変わってね」

「……」

 それは、僕が原因の一つだろうな。
 ツィーゲの変化も、レンブラントさんの考えを変えたのも。
 僕が関わっているのはわかる。

「前々から、考えるようになってはいたのだ。果たして、街の統治や運営に貴族や国が必要か、とね」

「……」

 ツィーゲの場合、貴族は持ち回りでこの街にやってきて何年か監督してまた去っていく存在だ。
 しかもあまり仕事はしていないのが現状らしい。
 となると、今のツィーゲのあり方から見て貴族という因子が無くなっても統治も運営も困らないことになる。
 ただ、維持していくにあたってアイオン王国の名が外れるのはどうだろうか。
 安全という面で見るとマイナスもある気がする。
 なんだかんだいってもアイオン王国は大国の一つだから。
 ようやく、レンブラントさんの相談内容がはっきりわかった。
 この人は、ツィーゲを独立させようとしてる。
 アイオンで起きる革命を切っ掛けにする気なんだ。
 沢山の富を生み出す街として認識されている以上、例え辺境に位置していても平時じゃ中々独立なんてさせてもらえないだろう。
 だから、今なんだ。

「国家としての体裁を持つかどうかまではまだ議論を持つ段階にもなっていないが。当面は何名かの代表者を立てての自治体を形成し、まず独立都市ツィーゲとして生まれ変わる。私の中でこれは、かなり現実味のある考えとして熟しつつあるのだが、ライドウ殿はどう考えられる?」

 独立都市。
 やっぱり。
 レンブラントさんはツィーゲの正確な人口も、食糧自給率も、即時動ける戦闘力も把握している。
 荒野からの物資の出入りも、周辺都市との関係も全て熟知している。
 ここのところ、澪と識が一時期入り浸って何故か発展した北の港町なんかともかなり密に人や物のやり取りをしているとも聞いてる。
 レンブラントさんは僕から見て経験豊富な商人だ。
 その人が僕なんかに話をする段階ということは、きっと周辺にも暗に了解をつけているか協力の約束を得ているのかも。
 決して自分の欲や望みを前に出して無茶をするタイプじゃないこの人が、独立なんて考えを表に出しているってことは、独立の手順にそれなりの自信と根拠があるんだろう。
 勿論、僕としては彼の力になれるならなりたい。
 ただ自信の根拠にされるほどクズノハ商会をあてにされているのなら、それは少し困る。

「ツィーゲは僕にとって本格的に商売を始めた、第二の故郷のような街です。アイオンから独立することがこの街の利益に繋がるなら、その立場には個人的に賛成です。ですが、どこまで皆さんに協力できるかはこの場では明言はできません」

 クズノハ商会として巻き込まれるなら立場は即決しない。
 まず持ち帰る。
 これ僕の基本。
 今回の場合どこまで協力するかって感じだから、厳密には大まかな立場は決めているとも言えるんだけど。
 これこれまではしますとこの場で約束しちゃうのはね。

「王国側につく気は無いのかね」

「え、ありませんけど」

 それはない。
 僕の方にツィーゲを裏切る理由は全くない。
 ライムの故郷だし、店で働いてくれている皆にもよくしてくれてるから。

「ふっ。そうか。なら今回の革命に乗じて独立してしまおうという考えを黙認してくれる程度には味方でいてもらえるわけか」

 レンブラントさんは安心したように微笑んだ。
 何気に酷いな。
 僕らが獅子身中の虫にでもなると思ってたんだろうか。

「ツィーゲを裏切る程、僕はアイオン王国に義理もありませんよ」

「それはわかっていた。ただな、もしも革命に乗じるという考え、そして都市が国から独立するという一見無謀でしかない考えがライドウ殿の持つ何らかの信念に反するのであれば、独立は見送るべきかと考えていたのでな」

「っ。そんな、僕なんて」

「だから戦いを嫌う住民などの避難案やら非戦闘員の保護方法など、ライドウ殿に納得してもらう為の色々な手をモリスや側近達と何日も考えていたのだよ」

「あは、ははは。僕が気にするまでもなく、レンブラントさんならその程度は織り込み済みでしょう」

 僕一人を納得させる為にレンブラント商会のトップが集結して会議とか。
 なにそれ、笑えない。
 ソフィアだっけ?
 個人でそれなりの国なら滅ぼせるってやつ。
 僕も一部の人にはそういう存在として扱われているのかと思うと、なんか複雑な気分だ。
 レンブラントさんの中でも、多分びっくり箱みたいな存在になってそうだな。

「ライドウ殿を意識して、より考え抜いたものになっているのは間違いないな。それに……真正面からではないといっても大国を相手にしようというのだから、他も色々と考えていかねばならんよ」

 ……その色々、が僕が思考を放棄してきた部分でもある。
 すぐには無理でも、あと一歩、もう一歩と踏みとどまって学んでいかないと。

「……」

「つまり実に丁度良いということだ。折角だからライドウ殿もこの機会に色々見ておくと勉強になるぞ」

「は!? いや確かに本当の革命とか独立とか、凄い教材だとは思いますけど」

 全てが終わった後、史料にまとめられてたらね!?
 自分が巻き込まれた場合、勉強どころじゃないよね!?

「結局、実地に勝る経験はない。前に出て立ち回るのではなく、一歩下がって見ている分には……凄い教材程度で済むかもしれんしな」

 う。
 凄い教材とか、つい言っちゃったのはまずかったかな。
 これでも前よりは思ったことを即座には口にしなくなったんだけど……。
 失言もそれなりに減ったって自覚あるし。

「ところでライドウ殿。たかが商人に過ぎん私が辺境都市ツィーゲの独立などという大それたことを考え、こうして君に話すまでになったのはどうしてだと思う?」

「それは、やはりこの街を誰よりも知っているレンブラントさんが外の情報も集めた結果かな、と。あとは革命なんていう特大のアクシデントが事前に判明したからでしょうか」

 革命に乗じるって言ってたもんな。
 なんというかさっきまでよりも自信ありげだし、自惚れって訳じゃなく僕が賛成したのも原因だったりして。
 流石に言わないけど。

「それもある。更に言えばさっきの君の賛成もかなりの自信になっている。が、今回具体的な案として独立を考えた直接の切っ掛けは、ある人物との接触、そしてその人となりを知った結果だ」

「ある人物との接触ですか。その方は……」

 ヒューマンがごたごたを起こして一番得をするのは魔族、で間違いない。
 でも今回魔族はないだろうな。
 ゼフとか息子さんは意外とレンブラントさんと共感するものも多そうだけど、モリスさんが魔族の関与はあんまりないって言ってたから。
 あそこは僕に気を遣ってるし、やっていたとしても精々お金を出すとか誰かを軽く焚き付ける程度のことしかしてないだろう。
 先輩や智樹に限らず、リミアとグリトニアの面々がレンブラントさんに独立を決心させる原因になるとは考え難い。
 後ろでなにやらかしとるんじゃってなるだろうし、それこそ革命そのものを潰したい立場の人達だ。
 ローレルはアイオンと国土の隣接も一部である上に魔族とも直接ドンパチしてないな。
 ……でも女神の部下の水の精霊を深く信仰してるお国柄だ。
 つまり神殿同様に革命自体認めるわけにはいかない悪、な訳だ。
 やっぱ、アイオンの王族が一番臭いか。
 国力の低下に繋がるから可能性は低いけど、一番ありそうなのはアイオンの王族、いや有力者だ。
 革命の賛成者で、かつ今は割りを食ってる立場にいる有力貴族。
 おお。
 レンブラントさんに協力しそうだし、アリなんじゃないか?

「この国の大きな貴族様のいずれかですか?」

「ふふ。順当に考えれば至るだろう考えの一つ、ではある」

 外れた!
 結構自信あったのに!

「違いましたか……」

「なに、世を知りたいライドウ殿には早速の面白い現実というやつだ。ではその方と引き合わせよう。もっとも……初対面ではない筈だが」

「……え?」

 レンブラントさんの合図でいつの間にかドアに手を掛けていたモリスさんがノブを回して誰かを部屋に招き入れた。
 彼女は僕を見て、だけど表情を変えることなく深くお辞儀をした。
 なんで、この人が。
 驚きでまともに言葉が見つからない。
 口は開けず、頭の中もただ混乱してた。

「ライドウ殿。お久しぶりですね。リミアを動かして頂けるなんて、その節は本当にお世話になりました」

「あ……ええ」

 溜まった唾を何とか呑み込む。
 この人は、さっき僕が除外した人だ。
 普通に考えればこの場にいる筈も、レンブラントさんに同調する理由もない女性だ。
 なんで?
 なんで?

「君がそこまで驚くのは初めて見たかもしれんな」

 レンブラントさんが愉快そうに笑う。

「……彩律さいりつ、さん」

「はい。ローレルの中宮、彩律です。今をときめく商人殿に名を覚えて頂けているなんて嬉しい限りです」

 ローレル連邦の、精霊神殿を取りしきる中宮。
 そんな人がどうして革命を利用して独立を謀る話をしているこの場所にいるんだ。
 それも、事情を知っている風で。
 彩律さんに続いて、何人かの人が部屋に入ってきた。
 その中にはツィーゲで見た顔もあり、初めて見る顔もあった。

「さあ、では顔合わせがてらお互いの考えと立場を明らかにして話し合いをしようか。なに、初回の打ち合わせだ。円滑に進む必要などない。まずは主張から始めよう。簡単ですまんが軽食と酒も用意した。……ゆるりとやろう」

 ぜ、前言撤回。
 もう思考放棄して亜空に帰りたいです。
 この時僕はキャパシティオーバーなんて甘いなもんじゃない、途轍もなく恐ろしい何かを感じた。
 これ絶対、まずは、って段階の勉強じゃない!
 なんでこう全部無茶苦茶な所から始まるかな、この世界は!
ご意見ご感想お待ちしています。
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