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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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巫女は踊る

 土が抉られて噴き上がる。
 強く大地を蹴った跡だ。
 視界の至る所でその様子が展開されていた。

「巴達も驚いてる。凄いな」

 この間も相変わらず魔力体に攻撃が加えられ続けている。
 威力や性質も様々に変えられ、僕の防御を探ろうとする意図が感じられた。
 それを、僕に知らせようとさえしているようだ。
 その後の僕の反応を探ってる、ってところだろうな。
 トウダ。
 人形のような巫女だと思っていたけど、今の彼女の様子は主体的だ。
 戦いになると雰囲気が変わる。
 まるで、僕みたいな女だ。
 見えない攻撃は止まない。
 見えないほどの速さで攻撃を続けながら、ずっと自分のターン。
 理不尽なまでの強さだ。
 ただ……。

「……ふぅ。そろそろやるか」

 目で見えなくても、やりようはいくらでもある。
 まだ攻撃力が上がりそうな相手に、不安はあったけど界を強化から探索・感知に転化。
 感じる。
 一時も同じ箇所に留まらない、点の動き。
 それでいて、どこにいても僕に明確な殺意を抱いて遠慮なく向けてくる。
 もちろん狙いは絞れない。
 全くだ。
 はっきりいってこんな相手、狙い撃ちようがない。
 だから、狙わない。
 点が僕を中心に動き続けているのはわかった。
 距離を探る。
 トウダが僕から離れる、その限界の距離を。

「名乗ったきり姿も見えないんじゃ、やりづらいよ」

 見切ったその範囲全部をく。
 眩い光が相応の熱を持って巴達のいる近くまでを満たした。
 詠唱はしない。
 極力なんの前触れも見せずに放った。

「ふふふ、まさかトウダと名乗った私に熱で攻撃を加えるだなんて」

「なんか久々に見た気がするよ、トウダ。熱はまずかった?」

「火の凶将……なんて別称もトウダにはあるんですよ、ご主人様」

 そうなんか。
 まあ、トウダだから遠田さんじゃないだろうとは思ってたけど、もしかして神様の名前だったりしたかな。
 意外とト・ウダとかトウ・ダだったりして。
 殺気は依然何ら変わらず僕に注いでる癖に、神社で話してた時とまるで同じ表情で口を開くトウダ。

「しかし随分と、殺し慣れてる感じがするね」

 個人的に恨まれる覚えはない。
 ただ殺す気でやれと言われて、そうできる人だってことだ。
 この巫女さん、トウダは。

「ご主人様も襲われ慣れてらっしゃいますね。微塵も動じておられない。それに見たこともない強靭な障壁も使えるんですね。知りませんでした」

 ダメージはなさそうだ。
 炙り出せただけ、か。
 上出来。

「何故か襲われやすいんだ、この数年ね。それよりさ」

「なんでしょう」

「僕の弓の事まで、神様に聞いてたの?」

 トウダの動きはそうとしか思えなかった。
 僕の命中力を前もって知っているとしか。
 果たしてそこまで事前情報が与えられているのか。
 もしそうなら、どうして界や魔力体については知らないのか。
 疑念というほどじゃないけど、少し引っかかる。 

「珍しい才能をお持ちとは伺っております。ただ内容までは」

「あ、そう」

 答えないか。
 弓の事は知ってて、界は知らない。
 戦い方のスタイルは現時点だと、僕の経験で探すと響先輩に近い。
 近いというか速さ主体で丸かぶりだ。
 先輩はここまで動き続けるようなことはしてなかったのと僕の中距離、遠距離攻撃への警戒度が違ってるくらいだな。
 攻撃の瞬間も姿が見えない分、トウダの方が面倒臭いかもしれない。

「さて、では」

「うん」

「殺し合いを続けましょう」

 トウダの姿がまた消え……なかった。
 その場に留まった彼女の両手から溶けた鉄の色をした紐っぽいものが一本ずつ出現していた。
 薄笑みを浮かべた巫女の姿は消えない代わりに、それらが一瞬うねって消える。
 紐じゃない、鞭!
 これまでとは異質の衝撃を魔力体を通して感じた。
 なるほど……姿を消さずにやってみせるってことは、僕も彼女に試されてるんだ。
 へぇ。
 なんか、戦ってる気がしてきた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





『……』

 トウダを名乗る巫女と真との戦いを観戦する三人は無言で戦況を見守っていた。
 感じるものがなかった訳ではない。
 真の従者である三人は、それぞれに考えを巡らせていた。

(やりおる。契約前で比較するなら確かに儂や澪よりも上じゃ。若を前にして殺意を保ち、なおも試そうとする。読めんままの気性も臆病ではない。あれを従者とすれば若と女神の戦いに助けとなるのだけは間違いない)

 巴は、炎の鞭が荒れ狂う中で数々の武器を手に真に攻めかかる巫女の姿を細めた目で観察していた。
 小型の投擲具に棍、短剣とまるで武器の見本市を見ているかのような光景だった。
 魔術の制御を当然にこなし、かつ多様な武器で間合いを問わずに戦う。
 並みの者には絶対にできない。

(ルトのそれとは違う、享楽ではない。だが純粋に敵意とも憎悪とも取れん。最初に目が合った瞬間、ほんの刹那の間に感じたあの気配の意味は一体……儂の気のせいではないと思うんじゃが……)

 後の言動と仕草。
 そのどれとも一致しない最初の一瞬だけの反応。
 巴は巫女に感じたその瞬間の気配に疑問を抱いていた。 
 一方で戦場では、真を中心に風が集まり上空まで届く竜巻を形成した。
 更に竜巻に炎の鞭が触れ、両者は溶け合って凶悪な紅い柱と化す。

(若様だけじゃなく、私達をも探る目でした。大体名前がないなんて名乗らない理由になりません。ならば名がない旨を若様に最初にお伝えすればよいのですから。それに、ここに来てから突然に名乗って見せたりして。今もそう。一つ一つ若様や私達を試しているようでどうにも気に入りません)

 澪は巫女がさりげなく真と従者に向けていた観察の目、それから試そうとしているようにも取れる巫女の行動に不快感を抱いていた。
 言葉の全てが正しいようで、しかし薄っぺらいようでもある異質な印象を感じているのも不快の原因の一つだった。

(識を特に気にしていたのだって変です。好意を向けている様子じゃありませんでしたもの。あれは好ましい人を見る目じゃありません。あれこそ観察です。今だって、若様の力を試そうとしている。……本当に気持ち悪い女ですわ。何を考えているのか)

 戦いの様子を見る澪は、巫女の力については特に感想を持っていない。
 誰が強いかなどは彼女にとってはあまり意味がないからだった。
 真を上回る存在でないことを澪は見抜いた。
 だからもう、巫女が真を試す行為をしていることが不快なだけで彼女の力には興味を持っていなかった。
 紅い柱が中から引き裂かれ、真の魔力体が姿を露見させる。
 巫女の魔術にも全く砕ける様子がない。
 だがトウダも退かず、動揺を一瞬で抑え込むと次の手を繰り出した。
 間合いを詰め、腰の刀で一閃。
 魔力体に阻まれるも、その軌跡を凍てつかせた。
 連撃であっというまに魔力体が氷で固められる。

(視認どころか気配を感じることさえ困難な速度を持ちながら、わざわざ若様の前に姿を晒す戦い方にシフトした。試しているのか。愚かな。だが……巴殿や澪殿にはあまり興味を向けなかったのに若様と私には妙に興味を持っているようだった。その意図はなんだ? 最初の戦い方は若様の特性を知っていての選択だが、そこに魔力体は考慮されていなかったように思えた。わからんな。わからんが……少なくとも強い。若様が戦力を所望されるならば納得できる力ではある)

 識は巫女が彼に向ける視線を恐らく誰よりも理解していた。
 それは、識のような人種にとっては珍しいものではなかったから。
 観察。
 僅かな情報でも探り出そうとする目。
 好意などとは全く異なる興味だ。
 巫女の意図を見抜いていたからこそ、識もまた彼女が口にした茶番を切り捨ててみせた。
 今、巫女と真の戦闘を見ていて実力だけは確かだと感じた識。
 彼は異界の神の使いだという、実質“まったく何の身元保証もない”女の素性を探ろうと思考を走らせる一方で、不意に唇を噛みしめた。

 真が戦力を欲した理由。
 それは自分達や亜空を案じてのことだと容易くわかるからだ。
 真は女神と戦おうとしている。
 しかし近しい者を犠牲にしたくないとも考えている。
 なら力ある協力者や仲間は多い方がいい。
 巴と澪が何と答えるかは識にはわからないが、彼自身が真から女神との戦いから無事に戻る自信があるのかと聞かれたなら今は頷く事はできない。

 だから、悔しかった。
 もし巴、澪、識の三人が真とともに女神を相手にして勝って戻る自信があると明言できるほどに強ければ。
 或いは真は、この巫女を従者として迎える気にならなかったのではないかと、識にはそう感じられていた。

(せめて私が十三階梯だけでもマスターできていれば……な)

 自虐的な笑みを浮かべた識。
 真達のいる場所から強烈な余波が幾度も彼と他二人の従者の髪や服を揺らす。
 その程度で済んでいるのは三人が周囲に障壁を展開しているからだった。
 発生源である戦いの方は、加速度的にその激しさを増していた。

 凍ったままの魔力体の腕をロケットパンチにして発射する真。
 短い詠唱で手元に白色の光を収束させて放ち、氷の拳を撃ち抜くトウダ。
 拳を砕いてなお真に迫った光は彼の直前で一転、闇と化して彼の周囲を漆黒に染めて視界を閉ざした。
 識が戦いの場に向けた目を横に移動させる。
 その先には巴がいた。

「巴殿。そろそろお開きにした方がよろしいのでは?」

「ん、うむ。そうじゃな。若と契約する強さだけはありそうじゃ。若の加減がきいとる内に終いにしてやるか」

「ええ。このままいけば若様が……」

「何を言ってるのです、識。巴さんも。若様が折角楽しんでおられるんですから、決着まで黙って見ていればいいのです」

「澪。お前は若が殺す喜びに身を浸しても構わんというのか。いや、お前は確かにそれでも何の問題もないのかもしれんがの」

 巴の表情が歪む。
 対して澪はきょとんとした顔をしていた。
 巴と識は真が先日召喚した門に対して何をしたか理解していただけに、彼がまたその心境に到達するのではないかと心配していたのだ。
 識もまた巴の意図を肯定するかのように頷いていた。

「殺す喜び? 何のことです?」

「先日召喚した門じゃよ。若の怒りに触れた、あの」

「ああ、笑っておられたとか」

「そうじゃ。若自身あまりご自覚がないようじゃったがな。あれがもし殺し、壊す喜びに目覚めかけておられる兆しなら……」

「今の若様にその兆しがあると言うんですか、二人は」

 澪の言葉に巴と識はどこか神妙な表情で頷いた。
 真の姿は闇に包まれたまま。
 しかし、トウダを高速のブリッドが精密に襲う。

「ぷ、うふ、うふふふ」

 二人の顔を見て澪が笑い出す。

「なんじゃ、いきなり」

「どうされました?」

「だって、あまりに見当違いな事を心配しているんですもの。おかしくて」

「……見当違い?」

 巴が少しの間の後、澪に聞き返す。

「ええ。若様は殺しを喜んだりする方じゃありません。今嬉しそうになさっているのは、次は何をしよう、どんなことをやってみよう。ご自身の内から次を生み出していくのが純粋に楽しいからですわ、きっと」

「なぜおわかりになるんです?」

 きっと、と言いながらも澪の口調に推測の色はない。
 知っている事を話している様子だ。
 識はその自信の根拠が気になって澪に質問した。

「何を今更。そもそも殺すだの壊すだのに喜びを感じるのは、命や物になにかしら強く執着するからですよ?」

「……」

「若様にはどちらに対してもそれがありません。ですから殺す行為に酔うなんて、絶対に有り得ません。なぜかと聞かれたら、そんなところですわね。二人とも、若様のお傍にいて気付いていませんでしたの?」

「……」

「ほらほら、見てくださいな。あの巫女、武器も使い果たして魔力も相当消耗してます。亜空であんな魔力の使い方をするのは悪手ですわ。周囲の力を利用するにしても、そこらに魔力が溢れている所で戦うのとは訳が違いますものね。そのやり方を知らないんでしょう」

「澪、お前。どうして若が命に執着していないと思った?」

「? 巴さん?」

「教えてくれんか」

「怖い顔をして一体なんですか。わかりやすい所でしたら、若様が命の大切さとかそういうのを口にする時って凄く……言葉が借り物みたいなんです。まるで誰かの言葉かどこかの本から持ってきたようなものばかりで、若様が本当にそう思って言ってらっしゃるようには聞こえない、とでも言いましょうか。あ、勿論例外はありますよ? 若様は身内だと感じた者の命は凄く大事に扱う方です。それは……あ!」

「借り物、か……」

「巴さん。終わりそうですよ」

 澪は何事もなく聞かれた事に答えつつ、言葉を途中で止めた。
 闇から抜け出した真が魔力体を纏ったまま、トウダに突進をかける。
 突進と、その後に繰り出された振り払うような腕の動きもトウダの身体に触れることはなかった。
 真が上を見る。
 巫女衣装の端々を損傷したトウダの姿がそこにあった。

「……ああ。火、水、風、土、光に闇に無属性まで自在に扱ってあの身のこなし。何が誇れるのは速さくらいじゃ。一通りこなす上に得手えては近接戦闘技術が剣に槍、魔術は火に風、質は言うまでもなく速度か。あれで器用貧乏というつもりなら完全に嫌味じゃな」

 何か言いたげな顔の巴は、澪の言葉で巫女の様子をみて彼女の力を評価した。
 嫌味なほどに何でもこなす存在。
 巴は不意にルトの姿を思い出した。

「あ、若様がアズサを」

 識の呟き。
 言葉の通り、真がブリッドを放ちながらいよいよ弓を取り出して構えた。
 トウダは迫るブリッドを防ぎ、先よりも長い炎の鞭を生み出して発動の直前に真のブリッドを打ち消したりと変わらず器用な真似をしながらも、その様子に緊張を見せた。
 速力を活かそうにも、精密射撃がガトリング並みの連射で撃ち込まれる状況でタイミングが得られないでいる。
 三人の従者と、トウダの意識が真が番えた矢に集中する。
 そして……。

「この上で、あれか」

 巴だ。
 トウダと真のいる場所を両側から包み込むように、
 彼女があれと言ったモノ、白銀の腕が無機質な手のひらを広げていた。
 包まれている空間が微妙に歪んでいる。
 トウダの表情もまた歪んでいた。
 ブリッドの迎撃がなくなり、巫女の防御が障壁のみになる。
 当然それだけで防ぎきれはせず、少しずつ負傷が重なっていく。
 一対の腕が徐々に近付き、包み込む空間が小さくなると、比例するようにその空間が景色をレンズ越しに見るような歪みを濃くしていった。
 真のブリッドが止む。
 巫女は見えない何かに締め上げられている、そんな身のよじり方を見せた。
 腕が真とトウダのいる空間に何らかの制約を掛けているのは明らかだが、一方で真は弓を引いた姿勢のまま。
 やがて腕は空中で捕らえられた巫女を包む場所で止まった。

「ブリッドと弓に意識を集中させておいて、自分ごと動きを封じましたか。お見事ですね」

「言わばこちらのホームでの戦いとはいえ、あれだけやる相手にさえ涼しい顔で済ませられる若がいっそ面白いのう」

「当然の結果ですわ」

 足をもがれたも同然の巫女と、地上から彼女に狙いをつける真を見て。
 巴達は戦いの終わりを察した。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「終わりだね」

 空中に捕らえたトウダを見上げて話しかける。
 狙いはもう、つけ終わった。

「……う、うぅ。まだ」

「大した体力と器用さだったよ。火の凶将とか言った癖に氷とか風とか何でもかんでも使ってくるし、焦った焦った」

「全てを捌いた、ご主人様に言われても。トウダと呼ばれた事があったのも事実です。それにまだ……戦いは続いています」

「まだやるの? 体力はともかく魔力はもう殆ど残ってないようだけど?」

 全部使い切ったんじゃないだろうけど、トウダの身体に残っている魔力は微弱だ。
 彼女は大技を結構連発していた。
 僕のブリッドにもカウンターを放ったりした。
 ただ、僕ならともかく、この亜空であんな詠唱の魔術の大技を次々使うのは良くない。
 通常の詠唱はある規模を超える術のものならどれでも、周囲や精霊の魔力を借りて行使する仕様になってる。
 大量の魔力を自分一人で全部まかなうのは現実的じゃないからだ。
 一発撃ったらぶっ倒れかねない魔術なんて使い勝手が悪すぎる。
 でも、亜空にはそもそも大気の中に溢れる魔力なんてものはない。
 木や草、動物の中には濃く存在するから、魔力が濃密に存在する場所だと錯覚してしまうんだけどね。
 注意深く魔力の出所を意識すればわかることだ。
 だからここで普通に魔術を使って戦ったりするのは独自のコツがいる。
 トウダは、それを知らなかったみたいだ。

「私はまだ動けるし、武器も残っています。戦意も失っていません。まだご主人様を、殺す気ですよ、私は」

 殺意以外の感情が見えない言葉がトウダから僕に降ってくる。
 はぁ。
 囮のつもりだったけど、一発当てるしかないか。
 上手いこと彼女に刺さった所までイメージできなかったから必中までしか出来なかったんだよな。
 先輩の時も妙に難しく感じたんだけど、僕のイメージだけじゃなくて他に何か条件があるんだろうか。
 うーん。
 ん?

「じゃあ、悪いけど当てるよ」

「勝利とは、相手を最低でも無力化させて初めて言える言葉です。どうぞ」

 一瞬、挑むような目になった、気がした。
 ソフィアとかみたく正真正銘バトルジャンキーな人なんだろうか。
 スサノオ様や大黒天様からの紹介ということで、馬鹿なと切り捨てられない疑惑だな。
 ともあれ戦いは終わりだ。
 トウダの胸から少し狙いを逸らして、肩口を射抜く。
 悲鳴はない。
 彼女はそのまま落下した。

「すぐ治療させるよ。お疲れ」

 巴達を手招きする。

「……完敗です。見事な一撃でした」

「そう。あ、僕のことだけどさ、ご主人様って柄じゃないから呼び方は改めて欲しい」

「どのように、お呼びすれば?」

「真か……まあ、皆呼んでるから若で」

 すっかり若様だもんなあ。
 もう流石に変更は難しいだろうし。
 呼ばれ慣れてきてるのも事実だ。

「わかりました。では真様、不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」

「こちらこそ。あ、トウダ。ちょっと聞きたいんだけどさ」

 神社で聞こうと思っていたことを思い出した。

「なんでしょう」

「境内にあったあの大きな木。それから参道にも何本か見かけたんだけどさ。あれって桜だよね?」

「はい。生憎とソメイヨシノはございませんが何種か桜がございます」

「やっぱり。じゃあさ、桜が咲いたら境内で花見をさせてもらってもいいかな」

「あの社は真様のものです。どうぞ、お好きなようにお使い下さい。なんでしたら少し早いですが、咲いてもらいましょうか」

 肩から矢を生やしてぶっ倒れる女性との会話にしては、日常的すぎて異様な雰囲気だった。
 しかしながらそんな中で聞き流せない一言があった。

「咲いてもらうって、え?」

「その程度の融通でしたら可能ですよ」

 火属性だと言いながら多彩な戦い方をしてみたり、妙に器用な人だな。
 トウダ、ってのも正に名前の一つってことなんだろう。
 でも助かる。

「なら、お願いするよ。ちょっと懐かしい気分でさ、皆で花見なんてのもいいかなって思ってたところなんだ」

 神社に皆を連れてきて、お花見もやる。
 一石二鳥じゃないか。
 そんなやり取りをしていると、巴達が到着した。
 僕が頼むまでもなく巴と識がトウダの治療に入る。

「お疲れ様でした、若様」

 澪は僕に手拭いを差し出してくれた。
 汗はかいてなかったけど、折角だからお礼を言って受け取る。
 神社、か。
 社のある方に目を向ける。
 お寺にパルテノン神殿もついてるけど、多分普通の代物じゃないよな。
 聞きそびれたし、とんでも機能があるならちゃんと聞いておこう。
 ……いや、普通が一番だとは思ってるけど、いた巫女さんが巫女さんだからなあ。
 でも、嬉しい。
 やっぱり嬉しいね。
 流石に作り方という面ではまるで知らなかった神社だけに、完成品がいきなり出てきてくれたのは本当に嬉しい。
 折々にはお参りに行って、いずれはお祭りなんかもしたい。
 亜空でそういうの、根付いてくれるだろうか。 
 皆にはどう説明をしよう。
 海に続いて贈られたとんでもない贈り物に、僕は顔が緩むのを感じていた。
三時のおやつに月導をどうぞ。
ご意見ご感想お待ちしています。
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