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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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二人きりの密会

 月と星の存在感が凄い夜空の下。
 僕とゼフは二人きりで会っていた。
 二人で会おう、とはゼフからの提案だった。
 今回聞きたかった内容を考えると問題もなかったから提案を呑んだ。

「外で他人と二人など、何年ぶり、いや十何年ぶりか。昔に戻ったようで懐かしいような、新鮮であるような。不思議な感覚だ」

「僕が都にお邪魔しても良かったんですけどね」

「済まぬな。招くとなると、色々と都合もあるのだ。といって、我らの大事な客人で、かつ恩人でもあるライドウ殿の頼みであればな。会わぬという選択はない。早めに会えるよう調整するのが限界であった」

 ゼフは相変わらず、底の見えない笑顔で笑う。
 ただ魔族の古都で会った頃とは、少し雰囲気が違う。
 外だからかな。

「……で。余に聞きたい事があるのだったな。何が聞きたい? 魔族の秘密兵器か? それとも次の侵攻の時期と、その目標か?」

「そんなこと興味もありませんよ。からかわないでください」

 まったく。
 仮にも魔王やってる人からそんなことを聞き出そうとする奴なんていないだろうに。
 流石に冗談で言っているとわかる顔でそんなことを言い出すなんて困った人だ。

「ははは! 興味もない、か。多少でも情報を得られれば巨額で取引できる商品になるであろうに。ライドウ殿が出所となれば信じる者とてそれなりにいるであろう? ヒューマンも馬鹿ばかりではないからな」

「勘弁してくださいよ。僕は情報を売り買いするような難しい商売をする気はないですって」

「乗ってはくれんか。残念だな。虚実織り交ぜて奴らを翻弄してやろうと思ったのだがな」

 くくく、と笑うゼフ。
 人を毒饅頭の売り手にしないで欲しいよ、はあ。

「そんなことされたら僕らは完全にヒューマンの敵になりますよ。別にヒューマン側とかは意識してませんけど、魔族側でもありませんからねクズノハ商会は」

「わかっておるさ。少しだけこちら側に靡いてくれんか試しただけだ。許せ。時にライドウ殿、サリはどうだ?」

「ふぅ。サリですか? まあ、それなりに馴染んでやっているようですけど」

「ほう、呼び捨てにする程度の関係にはなっておったか。それは安心した。……して?」

「して、とは?」

「うむ。子を孕んだか?」

「ぶっ!」

「どうした」

「何を言い出すんですか、貴方はサリの父親でしょうが!?」

「ああ。そしてライドウ殿はサリの主人だ。自然な問いかと思うが」

 何を慌てるとばかりにゼフは心底不思議そうな顔をしていた。
 どうして奴隷となると真っ先にそういう方向で考える奴が多いのか。
 別にただ働く奴隷だっているだろうに。

「妊娠なんてしてませんよ。そもそも原因がありませんから」

「初めてだからと拒むような娘ではないと思っていたのだがな」

「……念の為に言っておきますが。僕が求めてないんですよ」

「なんと。ライドウ殿、男というのは若い内から性衝動を抑えこみ過ぎるとろくな事にならんぞ?」

「心底余計なお世話です」

 なんで魔王からそんな心配をされにゃならんのか。
 しかも手を出せと言われている相手はその実の娘ときた。
 困った王様だ。

「夏ごろには孫がどこぞに生まれるのかと密かに楽しみにしていたというのに。余の空回りになりそうではないか」

「確実になります」

「はぁ……」

 本気で残念そうにしてるよ、ゼフ。
 これが演技だったら凄いってレベルで落ち込んだため息だった。

「とにかく、サリは元気ですから」

「わかった。では――」

「手は一切出してませんし、キスもしてませんから!」

「いや。今日の用件は何かと聞きたかったのだ。それからあれから迫ってきたらキスくらいは応じてやってくれ」

「……ああもう」

 何だかなあ。
 後半は一層真面目な顔してるし。

「わざわざ王である余に、と前置きするくらいなのだ。どのような話か、楽しみでもある」

「では。お聞きしたいのは、二つ。一つはケリュネオンに関連することで、もう一つは何と伝えればいいか、魔族についてとでもいいましょうか」

「ケリュネオンの話から聞いたほうが良さそうだな」

「今、かの地では街作りが進んでいます」

「うむ」

「ですが皆、慣れない気候の為に思うように進んでいないのが現状です。そこでより厳しい寒さで生き抜いてきた魔族に、領地の経営だとか開発、それに維持などについてお聞きしたくて」

「なるほど……しかし、ケリュネオンか。中途半端に雪と寒さがある土地だったな。あまり、参考になることは言えぬと思うぞ?」

「ですが、氷原ですらあのような都を作る魔族なら何か知恵があるのでは? 少しでよいのでコツ、いえ工夫を教えてもらえれば……」

「ふふふ。ライドウ殿、その土地での生活の知恵は方法そのものを結果だけ知ったとてそれを十分に活かすことは出来ぬ。結局は根元の部分を知らねば行き詰まるものだぞ」

「はあ」

 とにかく目先の豪雪を何とかしたいから十分活用できなくても今はいいんだけどな。

「実のところ、ケリュネオンのような地域は我らとしてもあまり治めた経験がない。もっと厳しい環境でなら都市ごとドーム状の結界で覆って、狩猟を中心としたスタイルで暮らすが。あの辺りは先ほども言ったが中途半端なのだ。夏季と冬季の差が激しすぎて、かえって今の我らには住みにくい」

 確かにケリュネオンの、今街がある場所は夏になれば平地なら雪もなくなる。
 中途半端と言えば中途半端だけど、それでも耕作地にも出来る以上、魔族にとっては人を住まわせる意義はあるような気もする。
 これがリミアなら土地なら他に十分あるのになんでわざわざそんな厳しい土地に、ってなるだろうけど。
 それにだ。

「ケリュネオンには魔族の砦と軍がありました。ならそこでの生活も知っているのでは?」

「採集や狩猟程度になら、な。その情報については必要ならそちらに進呈しよう。だが、見て回ったのなら既にわかっていると思うが、ケリュネオンには砦以外にまともな街はなかったであろう? それに住民にしても一般人などかなり少数だったはずだが?」

「ええ。軍関係の人が大半だったと聞いています。それに街らしい街もなく、整備されていたのは精々主要な道くらいだったと」

「それが全てだ。ケリュネオンの砦についてはいずれ中継として必要になる場所だと感じておったから部隊は常駐させておったが、当面街を置く気はなかったのだよ。物資や部隊も転移などを使って外部から移動させたものが殆ど。再利用できるものがなくて申し訳ないことだが、な」

 う。
 強奪した立場だしそんなことで文句が言えないのはわかる。
 ちくりとやられた気がした。
 ……ゼフの言うように、ケリュネオンには街として使えそうな場所は砦跡くらいしかなかった。
 村や街の跡はいくつかあったけど、それもヒューマンのものばかりだった。かなり徹底的に破壊されていて、とてもそのまま使えそうな感じじゃなかったな。
 そして砦の跡は今、こちらの都合、亜空の気候絡みでケリュネオンの首都機能を持った街として再生している最中だ。
 魔族が国としてケリュネオンを扱っていなかったのは、ゼフがいうように本当のことらしい。

「……そうか。丸ごとドーム結界を作って都市を作る手間をかけるほどの魅力があそこにはなかった、ということですか」

 魔族の街で見たけど、あれってかなり魔力がいるんだよなあ。
 ケリュネオンでやるのも現実的じゃない。
 最終的にあの街に住んでる人で何とかできる対策じゃないと意味がないんだ。

「残念ながらその通りだ。位置、気候ともに人をって再度開拓する程の価値は感じなかった。あれで雪というのは厄介なものでな。放っておけば道を埋め、家を潰す。かと言って単純に熱で溶かした所で今度は氷になって新たな障害になる。付き合うならそれなりのメリットがなければな」

「わかりました」

「最低限の設備を置いてあとは放置しておくのが、余の出した結論だった」

「はい。一応ですが、採集や狩猟についての情報をいただけますか」

「よかろう。最早我らには無用のものだ。そうだな、こちらの街での行商開始の時期に多少色をつけて早めてくれれば嬉しいが」

「手配しておきます」

 いつ始めたって頑張って早めましたと言えば問題ないだろう。
 準備は元々急いでもらってるから僕が手配することが既にないってのが本音だったりする。
 違うか。
 今現在みんなに急いでもらっている時点で僕はもう手配したんだから、気に病むことがないだけだ。

「では、もう一つの話を聞こうか。そちらが本題のようだしな」

「……」

「時間はあった。話す内容もまとまっているであろう?」

「……陛下にお尋ねします。もし魔族にヒューマンと揉める理由が無くなれば、魔族は戦争を止めますか?」

「……」

「お答え、いただけませんか」

「……無論、止める。しかしライドウ殿、その問いは限りなく無意味でもある」

 沈黙を破ったゼフの言葉は低く重かった。
 僕の問いを肯定したものの、無意味だとも言った。

「どういうこと、でしょうか」

「確かに魔族はヒューマンと戦争する理由が無くなれば戦争を止めるであろう。が、その理由がなくなるということはヒューマンと魔族にある程度の決着がつく事を意味する。故に無意味だと言った」

 理由がなくなることが、決着?
 魔族は女神に虐げられ、ヒューマンにも虐げられて北の貧しい地に追い込まれた。
 そこからの反逆というのが魔族が女神に反旗を翻したことの原因のはずだ。
 となれば、魔族が豊かな地を得れば戦争の理由はなくなる。
 そうだろ?
 例えばその場所は改良を進めたケリュネオンだったり、今の魔族領で内政を進めた結果だったり、それから……亜空とかも。
 もしそんなことで戦争が終わるっていうなら、女神の為とかじゃなくて協力するのもありだ。
 正直、今の響先輩は危ない。
 戦争が継続していくとすれば、先輩はどこかで命を落としかねないと思う。
 なら亜空を一部魔族にあげることも含めて多少は考えてもいいと思っていた。
 それに亜空に魔族を入れた時点で、彼らはこっち側には僕らの同意なく関われなくなる訳で。
 悪く言うと隔離も出来る。

「魔族は、豊かな土地を求めて戦争を始めたと聞いています。己の置かれた立場への反逆とも。それならば魔族は今十分に豊かな土地を得たとは言えませんか? 現状ならば、ヒューマンとも休戦交渉は出来ると思うのですが。ここまで魔族は凄く有利に戦闘を進めてきた訳ですし」

 なんなら、現状で納得するように多少の働きかけをするのも手伝える。
 前線でがっつり戦っているリミアとグリトニアは勇者もいるし交渉は難しいけど、スパイばっかでへたれ国家っぽいアイオンとか賢人を受け入れてる変り種のローレル連邦ならある程度は交渉できるんじゃないだろうか。
 少しでも頷く国があれば、手の打ちようだってあるんじゃないかとも思える。

「土地については、ライドウ殿の言う通りだ。豊かな土地は得られた。が……女神も、ヒューマンもまだまだ力を残しておる。今休戦交渉などしたら奴らに、どうぞ力を蓄えて反撃してくださいと言っているようなものだ」

「それでも魔族には十分な力だってあるでしょう?」

「今の戦況を見て言っているのなら、それは大間違いだライドウ殿。よいか? 戦争を始め、現状で戦術や技術で優位に立っていたとしても、それらは戦う中で全てとは言わぬまでも相手にも流入していくものだ。女神がまともに加護を与えるようになった今、数で大きく勝るヒューマンは急速に我らの優位を吸収し、立場もやがて逆転するだろう」

「まさか」

「神の力と、絶対的な数の差とは、ライドウ殿が思うほど軽い要素ではない。我らの現状は、ある意味で今が頂点と言っていい。女神の干渉を抑えるぎりぎりのラインを見極めた上でヒューマンと戦争をする、そんなこれまでのやり方ではな……」

 後半の言葉は搾り出すように、悲しい目をして言い放ったゼフ。

「だから戦争は止められないと、そう仰るんですか」

「親のいない間に憎い兄弟を殺してしまおうと思ったが、結局間に合わずに親が出てきた」

「?」

「だから仕方なく、今は親の目を窺いながら兄弟と加減した喧嘩をしている。さて、では何とか相手、その兄弟を殺すにはどうしたらいいと思う、ライドウ殿?」

「えっと……そもそも兄弟喧嘩で殺しあうんですか? 想像できないんですけど」

「そうだ。殺しあうほどに憎みあった兄弟同士の喧嘩だ。ちなみに親は相手の味方だな」

「すみません、わかりません」

「そうか……例え巧妙に相手を殺したとて親の愛など望めぬし、かといって偽りの笑顔で嘘の握手をしたところでその兄弟の間の憎悪は消えぬ。まあ結局、我らの戦争とはどれほど理由を求めようとそこに帰結するのだと、余は思うのだ。現に、魔族が戦争を続ける大きな理由にもなっている。……いや、環境的な理由は最後のほんのひと押しをしただけであって、本来の、心の底にあった考えは最初から何も変わっていなかったのかもしれぬ」

 親が女神で、ヒューマンと魔族は兄弟か。

「憎しみですか。やっぱり、女神が全ての元凶なんだ……」

「それは確かだが。今更女神が何をしようとヒューマンと魔族の間の溝がなくなるものでもない。魔族も、そしてヒューマンも、無論休戦の不利益をライドウ殿に説いた余も。その溝は相手の血でしか埋まらないと考えておるからな」

「……殺し足りないと」

「そうだ。説明した現実的な戦況の推移も勿論あるが、そんなものは極端に述べれば建前に過ぎぬ。最早親である女神の制止さえ振り切って拳を振り下ろした以上、憎悪を吐き出しヒューマンの血を大地に溢れさせるまで、魔族も止まることがなかろうよ」

「っ」

「王として判断するならライドウ殿が腹に持っている考えは選択肢の一つとして十分にありだ。選ぶ王もいるだろう。優しい王ならば、きっとな。だが選ばぬ、選べぬ王もいる。余のように。……今の余は、民の多くがそれを望むなら戦争を止めぬ」

「っ、僕が……何を考えていたとお考えですか」

 穏やかなのに射抜くような光を宿すゼフの目。
 わかる訳がない。
 亜空の存在は誰にも知られていないんだから。

「ライドウ殿は我ら魔族に新たな土地を用意することができるのだろう? 荒野の果てか、それとも我らも知らぬ北や西の海の果てか……そこまではわからぬが。魔族をこの大陸から移住させ、そして戦争を終わらせられないかと、そう考えておるのではないか?」

「……」

 嘘だろう?
 土地を用意するなんてとこまで、どうして。
 休戦交渉の手伝いまでなら予想されることもあるかと思ってたけど。

「図星か? 恐ろしいな、興味などないと言っていたライドウ殿が戦争の原因など詳しく調べておるようだったから、ちと探りを入れたつもりだった。やれやれ、サリの目も大したものだ。自給自足する商会か、なるほどな。それだけならまだ辛うじて国ではないが……既に商会の枠からははみ出た組織、といえるか」

 自給自足する商会?
 いや、今はどうして移住が受け入れてもらえないかの方が大事だ。

「……どうして、選んでもらえないんでしょうか」

「先も言ったが、憎しみだ。その提案が為されたとして、移住に乗るのは少数に終わる。ああ、その中にはあの一件で暴れたような思想を持った連中も間違いなく混ざるな。余としてはライドウ殿がどうしても提案したいというのであれば民に知らせてもよい。ここで人を削られるのは今後の戦争で大分不利になるが、クズノハ商会を敵に回すことを思えば仕方あるまい」

 あの一件……ルトのやらかしてくれたあれか。
 ということは、あの環境と状況でも女神を一心に信じて平和路線を主張する人達ってことだよな。
 あれは正直きつい。
 はっきりいって、根本的な思考が違う気がする。

「女神の信者ですか……何というか凄い平和路線主張してた人達ですよね。こっちが両手を挙げて降参するなら相手は攻めてこない、的な。やたらと自分達を悪者にしてるみたいだったのも変でした」

「ヒューマンがああなら楽に勝ててよいのだがなあ。余にも奴らの思考は理解できぬ。亜人を千年以上もそれが常識であるかのように格下扱いしてきたヒューマンに、今更改めて奴隷宣言などしてどうなるというのか……」

 あー、そこはゼフと全く同意見だ。

「ですね。まあ土地については正直良い事ばかりでもないので、魔族に不利になるというなら忘れてください。そんなつもりではありませんでした」

「ははは、あの連中が混ざるといった脅かしは冗談だ。……当然のことだが魔族にも純粋に嫌戦感情の強い者はおる。少数なのは事実だが、この十年の戦争の空気に疲れた者達だな。戦う事に疲れた者、失う事に疲れた者、奪う事に疲れた者……様々だ」

「はあ」

 そりゃあ、そういう人もいるよな。
 確かに多数の戦争賛成派の中じゃそういう人達は息苦しいだろうな。

「女神信者でもなく、ただ戦争に疲れ平穏を望む者となると、余もただ切り捨てることは望まぬ。魔族の体制に禍根を残さぬなら、余の裁量で救ってやっても構わぬとも、思っておる。今のところ、発言力がそれなりにある者で十数人おるのだが、どうだ?」

「どう、とは? それに発言力があるというのは?」

「魔族に土地を与える。つまり、サリがそれなりに使えたから今度は魔族を直接商会内に取り込んで役立てたい、それがライドウ殿の真意だろう? その程度は余にも察することができる。隠さずともよいさ。種族の能力が認められるのは純粋に嬉しくもある。……発言力云々は、余がそういった者達の中で一番早く手を下さなければいけない対象であるという、まあ救うという考えであれば急ぐ要素がある者達という意味だ」

 ?
 さっきは凄い慧眼だと思ったけど、今度は特大の暴投だ。
 別に魔族の知識や技術は特にあてにしてないぞ?
 発言力の方はわかった。
 声が大きくて目立つ存在から対処しなきゃいけないから、ってことだろうな。表面上は従ってる潜在的な嫌戦感情の持ち主だったり、現状で魔王のやり方をどうこうできる可能性がない人なら急いで対処する必要はない、ってことだと思う。

「いえ。人手はあって困ることはありませんが……ただ僕はこの程度で戦争を終わらせられるなら、と思っただけですが……」

「……それは半分は建前であろう?」

「あの。全部本音です」

「……」

「陛下?」

 ゼフが黙ってしまった。

「……参った。ライドウ殿は、余などには計り知れぬ考えを持っておるようだ。己を恥じるばかりだな。何もかも損得の計算と取引を基準にしてしまうというのも、因果なものだ」

 独り言のような、やや力のない掠れた呟きだった。

「あははは、よくやることが非常識だとは言われます。最近特に」

「非常識は恥じることではない。我らもそれでヒューマンと戦っておるようなものだ。だが、そうであったか。となれば……そ奴らはもらってくれぬか」

「十数人の魔族の方々ですか」

 別に十数人くらいなら、しかも戦争に疲れてて女神信者でもないなら構わないとも思える。

「うむ。実際のところ、余からすれば厄介払いでもあるからこうなると心苦しい頼みになる。ライドウ殿とサリの前例がなければ、そもそも選択肢ですらなかったのだしな。そちらに仕事があるのならサリの同僚にでもしてやってくれればよいし、軟禁でも監禁でもしてもらって構わぬ。望むなら女だけに絞っても……」

「何がなんでもそっちに持っていくのは止めてください」

「仕事をさせるだけなら性別はあまり関係ないか。これは失言であったな」

「その件は、持ち帰って相談します。ただ……受け入れるとしても全員サリと同じ契約を施してもらいますよ」

 魔族だから信頼できるとか、流石にそこまでは考えてない。

「事実上永久追放と同じだから構わぬよ。このまま魔族の中におれば未来はもっと悲惨であろうしな。だが契約にはライドウ殿の身体の一部が必要になる。それは協力してもらえる、ということでよいか」

「? 主人は僕じゃありませんよ。魔族ならサリに面倒を見させるでしょうからあの子が主でいいでしょう。もちろん、決定じゃないですが」

「……ライドウ殿は本当に底が測り知れんな」

「凄い深読みしたり僕の心を読んだり、ついでに人の厄介払いにクズノハを使おうとしたり。陛下の方が余程測り知れませんよ。ホントに」

「……余とライドウ殿ではそもそも比べ物にもならぬだろうよ。余の底など、知れておる」

「え?」

「いや。色よい返事を期待している。がしかし、己よりも遥かに強大で気紛れな存在を相手に王として振舞わねばならぬ緊張とは、まったく……」

「陛下?」

 いや、しか良く聞こえなかったけどゼフは何かおかしそうに喉元で笑っていた。

「ではライドウ殿。また近い内に連絡を待っている。そちらの都合でいつでも連絡してくるといい」

「あ、はい。ご足労頂いてありがとうございました」

「サリによろしく伝えてくれ」

 ゼフは魔術で作った球体に包まれ、そのまま宙に浮いて飛んでいった。
 調べたら近くに大型の魔物が待機しているみたいだから、そこまであれで飛んでいくんだろう。
 そこからは騎乗して転移陣まで移動して、都に帰還ってとこか。
 しっかし亜空はばれなかったものの、土地の提供はばれてたな。
 わかるものなんだろうか、王様って人種には。
 リミアではそんな気配なかったから全員じゃないのかもな。
 ゼフは、どこがとは言えないけど何か違う気がするし。

「殺し殺されの戦争は、そう簡単に終われないか。先輩も言ってたけど、ゼフも同じ考えなんだな。殺さずに、誰かが耐えるか忘れるかすれば憎しみの連鎖は終わるんだから、か。移住して終わりって、要はそれを求めることだよな。今自分の口から吐いて現実味全然ないわ。ゼフに言わなくて良かった。呆れられるところだった」

 海王の話を聞いた時、僕だって兄の方の海王を皆殺しにしておけば憎しみも残らないし亜空でセル鯨さん達が身の振り方に悩むことはなくなる、なんて思ったんだ。
 それで殺し尽くす以外の憎しみの鎮め方を他人に、しかも王様に説くなんてアホだった。
 新天地をどうぞ、じゃあ戦争なんて止めだ、なんて上手くいく訳がなかったんだ。
 やっぱり軽い考えで戦争に干渉しようなんて駄目だな。

 とりあえず僕はクズノハ商会として活動することと、どこかにいる女神を引きずり下ろしてやることだけ考えてれば、今はそれでいいや。
 商人としてだって、ツィーゲとロッツガルドではギルドの会合や近所の寄り合いにも何とか無難に参加できるようになってきた。
 お客さんとだけじゃなく商人同士の付き合いの重要性もわかってきたところだ。上にお金をごまかさずに払ってればどうでもいいなんて事はなくて、明文化されてなくても暗黙の約束はいくつもある。
 ここんとこの外国営業で貴族とかのあしらい方も学べてる。
 こっちはまだとても十分とは言えないけど。
 ただ地道にやっていけば、どんなことでもそれなりに経験は積んでいけるもんだ。
 要領が悪いし、手を広げた分選択もしなきゃいけないから思うようには前にいけない。
 だからゆっくりになるのは仕方ない。
 進んでいける限り、ただ続けていこう。
 今更だけど、そう思った。

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