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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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鯨から聞きました

 ゼフとの約束は何とその日の夜に取れてしまった。
 意識を取り戻したエヴァに謝って、折角だからとルリアのお見舞いもしてから。
 亜空に帰る前にロナ経由でゼフに連絡を付けたら、今夜にでも会おうという話に。
 フットワークの軽い王様だ。
 急な事だし色々と案件があるから歓待などは出来ないと言われたけど、僕は元々そういうのは望んでいない訳で。
 当然お願いしたのはこっちだから向こうの都に行く気満々だったし。
 ただ、それだと迎え入れる準備が云々と何やら誤魔化された感じで断られ、結局外、僕が魔族領に行った時にイオとロナと待ち合わせた場所で会う事になった。
 なんだろうね、待っててくれれば約束の時間には遅れないで行くって言ったんだけど信用してもらえなかったかなあ。
 わざわざこっちに近い場所を指定されちゃったのはそういうことなんだろうか。

 ゼフは魔王だし、彼が直接、しかも会う機会を作ってもらおうとお願いしたらその日に会ってくれるというんだから悪い扱いはされてないと思う。
 思うけど……。

 まあ、気にしていても始まらない。
 とにかく、ケリュネオンに役立つ情報があれば知りたいってのと、リミアで感じた疑問を彼にぶつけてみたいのは確かなんだ。

「若、聞きましたぞ!」

「巴か。時間を見つけては識と篭ってる、とか聞いたけど何してるんだお前」

 最近食事時くらいしか見かけない巴が珍しく僕の所にやってきた。
 僕は今エルダードワーフの工房に螺旋槍の改良案を伝えにきている。
 ここまでやってきて僕に話があるということは、何か成果が出たか、それともろくでもない思いつきか。
 考えたくないけど良くない事件ってこともあるか。
 万が一に良い事件って可能性だって……ないな。

「おお、その節はリュカの書庫の記憶、ありがたく読ませて頂きました。後ほどご報告を……とそのようなことはどうでもよいのです若!」

「えー」

 どうでもいいのか。
 かなり嬉しそうに二人して閲覧してた癖に……。
 ろくでもないに一票。

「セル鯨の奴めが、若がケリュネオンの雪山で温泉を掘り当てたと!」

「お、おう。掘ったよ。冬対策にも使えるし、名物にも出来るかと思って」

「温泉、湯治、草津に箱根に熱海! 温泉!」

「戻ってるぞ巴」

「ゆっくり浸かりたいですな」

 急に静かなトーンになった巴。
 しかし全身からは高まり続ける何かを発したままだ。

「気持ちはわかる。でもそのまま入れる温泉なのかどうか成分を確認して、工事の手を入れてからな。まあ、春には何とかなるんじゃないかな。源泉そのままだと温度が高いから薄める必要もあるし……そうなると下の川まで湯を引くのが結果的に楽かもしれない。何にせよ、今すぐは無理だね」

「真水なら熱くても精々沸騰までではないですか。何とでもなりましょう」

「ならんよ。それにそんな温泉を急ぎで作っても、使えるのお前らだけになるじゃないか」

「うー。駄目ですかな」

「待て、だよ。そんなに欲しかったら亜空で火山でも探せばいいじゃないか。そうすれば手を入れるのも人手を集めるのも簡単だし」

「……火山なら既に探してみたのですが。どうも、良いのが無いのです若。条件に合いそうな場所で穴も開けても精々鉱石が出る程度で」

 もう探していたとは。
 流石巴だな。
 温泉の存在を既に掴んでいたのも凄いけど行動に移していたのがまた凄い。
 だけど、そんなに難しいのか?
 僕は一発だったけど。
 もしかしたら亜空には温泉が出ないのかな。
 一応周囲にも聞いてみようか。
 セル鯨さんたち海王は実物を知っている訳で、海底ならそれっぽいものもあるかもしれない。
 見つかりさえすれば周囲から水を取り除いて温泉っぽいのを海底に作るって手もある。
 ……巴が認めてくれるかが若干の問題だけど。
 熊とか狼とかの獣に聞いてみるのもありか。
 もしかしたら既に湧いているのを知っている可能性も捨てきれないよな。
 鹿とか猿が入る温泉なんてのも向こうにはあったんだから。

「温泉、ここに飛んでくるくらい入りたかったのか」

「是非! そして燗をつけた酒を持ち込んで雪見酒をするのです! そんな初温泉は儂にとって至福! ケリュネオンなら今は一面雪、しかも既に温泉が出ておるとあっては、もう、儂は……!」

 何かの禁断症状に苦しんでいるかのごとく悶える巴。
 ここのとこシリアスな雰囲気で物憂げな様子の巴だったんだけど……巴は巴か。
 最近は必殺鍼灸医の坊さんがお気に入りみたいだから、余計に温泉に惹かれているかもしれないな。
 あの何度もある湯治話を読んでいた時は僕だって……巴のこんな姿を見てたら僕も入りたくなってきた。
 温泉活用は後回しにして、とりあえず先に温泉成分調べて入浴できそうだったら岩風呂作っちゃうか。

「なら、巴。まず成分調べていけそうかどうかを確かめてよ。いけそうなら亜空から動ける人集めて先に岩風呂作ってもいいよ。ただし! 参加した人は漏れなくケリュネオンの温泉絡みの土木にも参加してもらうからね。それから無理強いはしないこと」

「!! 無論です! こちらも少々行き詰まりも感じておりましたから願ってもないこと!」

「……さっき言ってた報告関連?」

「はい。識とも話しましたが、これ以上は若の許可とご協力が必要ということになりましてな。では、待っておれよ温泉!」

 巴が来た時と同じように扉に駆けていった。
 騒々しいけど、あの目をしている巴は頼もしいから助かりもするな。
 ただ、その報告とやらは後回しにするくらい面倒事の類なんだな……。

「おお、若」

 と思っていたら巴が扉に手をかけた状態で振り向く。

「なに?」

「若から許可を頂いたということは、これは若からの御命令、いえお願いごとということですかな?」

「……まあ、無理をさせる気はないからお願いだね」

「久々ですな、若のお願い事は。目標、二日じゃー!」

 今度こそ、巴は突っ走っていった。
 目標二日って、もしかして温泉作り?
 違うよな。
 だって調査から必要だって今話したばっかりだし、亜空だって暇な人ばかりじゃない。
 僕の家がある最初の街もまだ一部で建築は続いているし、海沿いの街は今整地の真っ最中だ。
 あの山は視界も悪いから作業も大変だ。
 二日で取り掛かるってことだろうな、きっと。

「若様! お聞きしましたよ!!」

 なにこの既視感。
 多少の声と言葉の違いはあるけどまるでさっきの焼き直しみたいな。

「エマ?」

 これまた珍しい。
 彼女は僕と会う時でも大体約束してからのことが多い。
 僕からは特に見つけた時に話しかける感じなんだけど、彼女の方からはその辺りきっちりアポを取ってから来る。
 こんな風に突然飛び込んでくるのは非常に珍しい。
 しかもドワーフの工房まで。
 ……今度こそ事件か?

「エマ。どうしたの?」

「セル鯨さんから聞きました!」

 ……エマまで温泉?
 大人気だな、温泉。
 亜空でもどっかからは出るだろうから、ちょっと真剣に探してみるか?

「温泉のこと? それなら巴に許可出したからそっちで進めて――」

「ドラウプニルを使われたそうですね!?」

「え、ドラ?」

 ウプニル?
 違った、温泉じゃなかった。

「ケリュネオンで貯水池に投げ込んだと聞きました」

 真剣な顔のエマ。
 違う話題みたいだ。

「あー、そっちね。確かに投げたね。見事に大爆発の大失敗、やらかしちゃったよ」

「あの指輪を池の水を加熱するのに使おうとしたとか」

「うん。冬の間自動的に熱湯を作るのに使えると思ってやってみたんだけどねえ」

 まさかああなるとは。
 水はなくなるわ池は破損するわ爆発の余波なのか熱い空気の塊みたいなのがぶつかってくるわ。
 おかげで周囲の雪が溶けて地面はぐちゃぐちゃ。
 あれが凍るとまた面倒だよ……つくづく悪いことした。

「以前ご報告しましたが、私他数名が中心になり廃棄予定のドラウプニルに蓄積された若様の魔力を何かに活用できないかと模索しています。ただ扱いの難しい指輪を廃棄するだけでは負担になるばかりか危険もありますから」

 そうそう。
 思い出した。
 エマはドラウプニルの廃棄以外の活用方法を探してくれていた。
 処理の手順を間違えれば危険な状態になることもあるからドラウプニルの処理は難しい。
 彼女の考えとしては、街の明かりや工房の動力、各種結界の維持に使えるようにするのが目標だったはずだ。

「使う前に確認するんだったよ。一応一個テストしてみて暴走することもなく上手くいったから調子に乗っちゃった。手元だけじゃなくて水の中に入れるとこまで確認するんだったな」

「若様の事ですからお怪我などはなさっていないと思いますが、私も少し慌てました。ドラウプニルは非常に扱いの難しい困った指輪です。お気をつけ下さいませ」

「やっぱ、扱い方特殊なんだ。確かに妙に不安定だった」

「力に属性や方向性を与えるところまでは上手くいくのです。問題は一定以上に力を高めた場合と、加工した者の手元を離れた時でして」

「一気に暴走する訳だね……」

 まったくとんでもない指輪だ、我ながら。

「扱いやすい程度の領域で手元にある内は非常に各種加工も容易なのですが。一度危険領域に達するとそれまでに与えた属性や仕様はそのままに出力を一気に跳ね上げていき、そのまま乱高下を繰り返した後、結局は限界点を突破して爆発する、という有様です……」

 な、なんてピーキーな。
 なるほどねえ。
 自動発熱装置にした時も、手元から離れて不安定になってからは一気に力が増してあの様だ。
 手元を離れると、とか駄々っ子か。
 ん?
 んん?
 何か引っかかるぞ。

「待って。エマ、ちょっと待ってくれ。僕の時は指輪自体は爆発してないぞ?」

 そうだ。
 今もあの池はちょっとしたマグマ池になったままだ。

「それです! それで私はここに飛んで参ったのです!」

 ああ、それがエマの珍しい行動の理由か。
 僕がやったのは駄目なりに一応イレギュラーな結果だったんだ。

「その時の様子をどうか詳しく!」

「儂も同席してよろしいですかな、若様」

「長老さんもですか?」

「若様の指輪は今のところ、エマ殿と協力してようやく一つ使い道が出来たところ。しかし若様の先ほどの体験談を詳しくお聞きすれば劇的に活用先が見つかるかもしれぬ、とまあ年寄り職人の勘に過ぎませんがな」

「……ちなみにその使い道、とは?」

「お見せするのが一番でしょうな。おい」

 エマの催促に便乗してドワーフの長老が話に加わった。
 僕の指輪の使い道ということで、何が出来たのかと気になって尋ねると長老は奥の方から誰かを呼んだ。
 さほど大きくない長老の声、なのにすぐ勢いの良い返事が返ってきた。
 すぐに一人のドワーフが姿を現した。
 僕とエマに気付くと深々と頭を下げる。

「アレを持ってきてくれ」

「わかりました!」

 奥に引っ込んだドワーフが長い包みを持って再び僕らの所に戻ってきた。

「お見せしろ」

「はい!」

 布の包みが取り去られると、そこから出てきたのは槍。
 といって螺旋槍じゃない。
 不思議な槍だ。
 刃部分は馬上で使うランスみたいに円錐形でごっつい。
 なのに柄も長い。
 円錐の手元側はお椀みたいになってて、守られるように透明で水晶みたいな球状のパーツがついていて、そこに柄がくっついている。
 刃が細くて真っ直ぐな普通の槍なら投擲槍ジャベリンっぽくもあるんだけど……なんだこれ。

爆槍ばくそうと名付けました。翼人の方々にお配りする予定です」

「爆槍……」

「透明な球状部分が見えるかと思いますが」

「ええ」

「そこに廃棄予定のドラウプニルをセットします」

「なるほど」

「で、後は投擲するだけですな。ランス部分が一定以上の衝撃を感知すると指輪が発動して爆発を起こす、というものです」

 それで爆槍ね。
 なるほど、兵器利用なら爆発どんとこいだ。
 一番簡単に思いつきそうな方向性でもある。
 実用レベルにするのはかなり難しかったと思うけど。

「ブリッドの威力を高めるのに指輪を使ったという若様の言葉から、真っ先に対応する武装をドワーフの皆様に依頼したものです」

 エマが補足説明してくれる。
 ブリッドに混ぜて破壊力アップは確かにやった。
 持って使う武器には難しいけど、投げて使うなら不安定な指輪の利用法としてはわかりやすいな。

「戦闘が無ければ使えませんが、戦場では一撃につき一つ指輪を廃棄できます」

 元々破棄したかったから捨てる感覚で使えるのもいい。
 中々理に叶ってる。
 彼女もそういうってことは、エマも本来考えていた方法とは違っても採用する価値を認めたってことだろうな。

「ですが」

 エマは続ける。

「若様が池に投げたドラウプニルは溶岩の中を漂って安定しているご様子。是非実物は見に行くとして、その時の状況や若様がした事から指輪の暴走を抑える手段が見出せるとすれば」

「本来想定していた生活面での活用が可能になります。そうなればドラウプニルは厄介な廃棄品から素晴らしい資源に一変します。夢のような話ですな」

 そしてそれに対応した道具作りが捗ると。
 僕自身が指輪を次々に生産している元凶な訳で、随分ありがたい話だ。
 協力しない手はない。

「役に立てばいいけど……」

 そういって、僕は大失敗の体験談を事細かに二人に話していった。

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