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成功と失敗
さあ、始めよう。
雪国温泉計画……じゃなくてケリュネオン活性化への第一歩。
一応ローレルの温泉を幾つか見て回って、温泉が出そうな場所の特徴は覚えた。
同じような所をケリュネオンで探して穴でも掘れば温泉が出るだろう。
何と意外な特別ゲストまで協力してくれているから成功は時間の問題だ。
「ふははは、実に寒い! 身が引き締まりますね、若様!」
笑い飛ばしているんだから、どこまで寒いと感じているかは謎だ。
特別ゲストその一、海王のセル鯨さんは吹雪の中でも豪快だった。
北の海にもいた経験があるらしいからこんな寒さどうってことないんだろうなあ。
と思っていたら。
「あり得ない。こんな寒いの絶対あり得ない。もう動けない、感覚もない。死んぢゃう……」
全裸と思われるセル鯨さんとは対照的に、着膨れするほど厚着してるのに座り込んでガタガタ震えてる女の子が一人。
こっちも元々の住まいはかなり北の方らしいんだけどなあ。
「レヴィは大げさだよ。大体、冬でも海にいる君らからしたら陸の寒さなんて大したことないでしょ?」
冬の海に飛び込んだら普通の人なら十分と保たないだろうし。
そこを生活の場にしていた彼女が陸で寒がっているのは不思議に思えた。
「若様。お言葉ですがここは相当に寒いです。その上風も強いですから……大体の海の種族には厳しいかと存じます」
セル鯨さんがレヴィのフォローに入った。
事実なのか、もう一度レヴィを見ると先の僕の言葉を全否定するかのように首を横に振ってた。
あれ?
「そうなの? 海の種族だから、住んでたとこが北の方なら寒さも平気かと思ってた。それに、そこそこ強い魔物が出るって言ったら来たがったのレヴィの方だったじゃないか」
温泉の話が出てローレルに下見に行ったあと、亜空に戻ると偶然海王ほか海の種族が屋敷のある街まで来ていて、そこで温泉絡みの話になった。
その時セル鯨さんが海底火山の噴火やら、海底でも高温の水や気体が発生して周囲の水温を上げている場所がある、なんて話をしてくれて結局ケリュネオンにも同行することになり。
海王の中にはその熱せられた水域で「入浴」する連中もいるとか。
水の中でお湯に入って入浴とか、よくわからない感覚だ。
ついでにバトルジャンキーなスキュラのレヴィも豪雪地帯の魔物に興味があったようで一緒に来ることになった、んだけど。
出発前の亜空では一番血気盛んだったレヴィが、今では一番弱っていた。
理由が寒いから、というのがまたなんとも。
「無理です……。こんな場所で戦うとか、自殺行為です……。帰りたい、本当にお家に帰りたいです若様ぁ」
こりゃ駄目だ。
ガタガタ震えて毛布にくるまっているレヴィを亜空に戻す。
うーん、意外な弱点を見つけたな。
「私とて、もう少し鍛錬が足りなければああなっておったかもしれません。北方の陸地での戦闘があれば、これは致命的。良い経験になりました」
セル鯨さんは特に帰りたいということもないみたいだ。
むしろ平気そう。
「じゃあ、行きますか」
温泉探しを再開しようと声を掛ける。
でもセル鯨さんは僕を見て感心したようにうんうんと頷いていた。
「……えっと、何か?」
「いや、感心しておりました。流石は我らが主たる方と。これだけの寒さでも普通に活動しておられる」
「セル鯨さんの方こそ、レヴィとは全然違うじゃないですか」
「私などは。元々我らは海に住まう者の中でも体温を調節する能力が高いですから。しかし若様は違う。本来水中で生活など出来ぬはずなのに当たり前に水の中でも活動され、陸においては寒い場所も暑い場所も構わずに進まれる。更に相手が空にいれば空まで駆けていかれる。最早敵無し、万能の地形適応です」
陸海空宇地形適応は全部Sに改造済みです。
じゃなくて。
地形適応って言われると、なんか人型兵器扱いされている気がしてくるな……。
「魔術を使っての無理矢理ですから」
「若様なら星空の海でも自在に動けるのでしょうな……。我ら海王には、己の能力を極め、なお一心に心身を鍛え続ければその者は星海にも適応する勇者となる、という伝承もありますがいやはや」
冗談で混ぜた「宇」に突っ込まれた気になった。
セル鯨、恐ろしい人だ。
「あはは、しかし僕も意外でした。海の種族が寒さに弱いなんて」
ケリュネオンからそこそこ行った所にある山を登りながら雑談する。
見上げるような凄い高さの山じゃないけど、火山だ。
ローレルの温泉地で見たような地下の空間やマグマ、それに水脈の配置具合も似ているから結構期待出来ると思ってる。
「ふむ……寒さに限らず、水の中で生きる種族は基本的には温度の変化には弱いですよ?」
「そうなんですか?」
「冬の海と言いましても、実際の水温は外よりも高いことが多いですし。夏などは人が海や川で遊ぶことなどからおわかりのように、外よりも水の中の方が冷たい。一年を通じて水の温度の変化というのは空気のそれよりも穏やかで、上下の幅も狭いのです」
「……確かに」
例を交えてわかりやすく教えてくれるセル鯨さん。
細かく説明するよりも全体を理解できるように話をしてくれている気がする。
「先ほど見た凍った川もそうですが、下は水が流れておりました。あれは、空気に触れる部分の真水が凍ってしまう温度よりも冷やされたからで、底部では水のまま魚や他の生き物が生活しておりました。当然、そこは今我らが歩いている場所よりも暖かいのです」
「いくら北の海で暮らしていても陸の寒さに慣れている訳じゃないってことですか。水の中の方が温度としては過ごしやすい環境だと」
「はい。川に分厚く氷が張り、山は白一色に染まり吹雪が止むことがない。そんな場所は、水中に暮らす者らにとってとても耐えられる環境ではありません。現に海の種族から亜空ランキングに参加している全員が、他の種族が使う熱や氷の術には苦しめられています」
水の中、かあ。
勉強になるなあ。
「勉強になります。水の中にいるから寒いのは平気くらいに軽く考えてました。あ、この下辺りかな。セル鯨さん、どうでしょう?」
「この視界で迷わずに進むことが出来るのも若様ならでは、なのでしょうね。しばしお待ち下さい。……む、確かに微かですが下から風呂の気配を感じます」
温泉イコール風呂と考えてくれるのが海王位だったというのも悲しいけど。
少しでも存在を知っていてくれた種族がいたのは実に嬉しい。
他の海の種族は危険だからと近付かなかったようで、海底火山ほか温泉についても知らない種族が殆どだった。
陸の方も似たような感じだ。
エルダードワーフですら存在は知っていても入浴するという考えは無かったらしい。
ともかく、セル鯨さんの肯定も得られた。
あとは掘るのみ。
「じゃあ掘ってみますか……あ、お客さんだ」
「やれやれ、レヴィもあと少し我慢していれば……いえ、あの様子ではとても動けませんでしたか」
セル鯨さんが苦笑した。
そしてゆっくりと構えを取る。
身の丈を超える三又の槍を前方に構えた。
数は三つ。
温泉チャレンジが待ってるし、僕がやってもいいな。
といってもアズサを持ち出すような相手でもない。
この山に生息しているただの魔物みたいだから。
ブリッドでいっか。
「若様。どうかお任せを」
僕の動きを察したのか、セル鯨さんが手を出すなと言ってきた。
まあこの人が負けるような相手じゃなさそうだから任せても大丈夫なのはわかる。
ブリッドを破棄すると彼から感謝された。
仕方ない、穴掘りの準備でもするか。
エルダードワーフの道具を取り出すだけなんだけどさ。
「擬態ならもっとわからんようにやれい!」
突き出された槍、じゃなくて頭部が雪に紛れた白い獣を木っ端微塵にした。
擬態というか、体を雪に溶け込ませていたような気がするけど……まあこの人の前じゃあ小さいことか。
周囲に青い血液と肉片が飛び散る。
ず、頭突きか。
角も無いのに凄い威力だ。
原型ないぞ、あの魔物。
続いてセル鯨さんは右に槍を突いた。
視界が悪いなんて言いながら、しっかり相手の位置は把握しているじゃないか。
セル鯨さんの槍に吸い込まれるように、空から急降下してきた鳥っぽい魔物が貫かれた。
頭から胴体まで串刺しにされた結構な大きさの鳥は内側から破裂、こちらも原型も留めてないな。
実にシンプル、そして強い。
ん、一匹彼を無視して僕に突っ込んでくる奴がいる。
速いな。
この動き、蛇か?
「小賢しいわっ!!」
しかし蛇の動きが止まった。
ああ、尻尾に近い場所を槍に貫かれている。
そして、ずしーんと地響きのような音が聞こえた気がして……。
蛇の傍らには鯨。
「せいっ!!」
拳がのたうつ蛇の頭部を粉砕した。
セル鯨さん、槍置いてきても問題なかったんじゃないかな。
「お見事」
「いえ。やはり陸、それも寒冷地となると動きも勘も鈍ります。一層の鍛錬に励みます」
鈍ってあれか。
完封だったのに。
この辺りの魔物はそれなりに強い、らしいんだけど海王の敵じゃなかったと。
「そ、そう。なら掘るから周りの警戒をお願いしま……おおっ!?」
螺旋槍。
まあ刃の部分がドリルな槍だ。
貰った注意書き通り、それをきちんと真下に向け押さえつけて固定、柄に魔力を流し込んだ途端。
いきなり回りだした!
いや、回るのはわかる。
形状から予測してた。
でも、それはドリル部分だけかと思ってた!
柄の方までまとめて、しかも勢いよく回転した為に槍は僕ごと回るわけでっ!
「若様っ!?」
「だい、じょうぶっ……たぶん!」
手を離せばいい。
頭ではわかる。
わかるけど遠心力で外に引っ張られる感覚、それに振り回されていることへの多少の焦りから僕は反射的に柄をより強く握っていた。
咄嗟の反応って理由が説明できない。
なぜか握り締めてた。
それにドリルだけ分離して回ってくれない以上、力任せに回転を止めると壊れるんじゃないかとも一瞬だけ思ったり。
「う、っわ!」
大地に食い込んだドリルは盛大に土を撒き散らしながら速度を増して地中に突き進んでいく。
セル鯨さんの声が既に遠く聞こえない。
底から噴き上がってくる石やら土やらを魔力体で防ぎながら僕も回転の為すがまま地中に突貫。
目が回っている以外は特に問題はないものの、流石にどこまでも地中を進むわけにはいかない。
意を決して柄から手を離した。
しばらく回転を続けていた槍も、僕が平衡感覚を取り戻す頃には動きを止め、ただ突き刺さる状態に落ち着いた。
凄いアトラクションだった。
とりあえず上を見る。
「大分掘ったな……これだけ掘って駄目となると、ここは失敗か?」
予定していた深さを大分オーバーしていた。
でも界で確認した時にはこの深さよりも手前で既に温泉の中に突っ込む筈だったんだけど……。
「もしかして、ずれたか? あり得るな、途中は訳がわからなかったし、どこかで斜めに入れちゃったってことも……」
どこかじっとりとした蒸し暑い空気の中、色々想像する。
当然、この槍も回転するのは先っぽだけに改造してもらおうとも決意していた。
「とりあえず、出るか。足場さえ作れば跳んでいけるだろ……って蒸し暑い空気? じっとり?」
あ。
上を見上げた僕は唐突に理解した。
一応ここは当たりで、でも僕のいる場所は結構まずいって。
それを教えるかのように見上げた先の土壁、その左側が不自然に盛り上がった。
直後に崩壊。
大量の水、いや熱湯が降ってくる結果になった。
「あぶなー。結構温度高いっぽいな。原泉そのまま入るのはきつそうだ……ほんと、魔力体あって良かったー」
満ちていく沸騰した熱湯。
その中で、熱湯が上に押し上げられるに任せていた僕も同時に浮いていく。
生身で浴びていたら大火傷、っていうか命に関わっていただろう事故を回避させてくれた自分の能力に感謝しながらとりあえず第一段階が順調に成功したことに安堵した。
一足先に熱湯が噴き上がった場所から、僕も少し遅れて飛び出し、無事着地。
「……まさか、一発で掘り当ててしまわれるとは……。恐れ入りました。本当に、この様な場所でも風呂は湧くのですね。お帰りなさいませ若様」
「風呂じゃなくて温泉、ね。思ったよりも湯の量が多い場所だったみたいだ。道を作るの大変かも」
「急ぎでなければしばらくはあそこに溜め、流れる分については街からも遠いため、放置で良いのでしょう。この付近の川に合流する方向ではありませんから」
「そっか。溜める場所作っておいてくれたんですね。ありがとうございます」
見れば下の方に茶色の擂鉢状の場所が見える。
早くも熱湯はそこに流れ込み始めていた。
「若様が潜られたので、一応の備えをと思いまして。幸い柔らかい岩場でしたので数発小突いただけで済みました」
拳か、それとも頭突きなのか。
槍じゃなさそうな口ぶりだけど確認するのが何となく怖い。
やっぱセル鯨さんは槍なんて以下略。
距離はあるけど何とか温泉はゲット。
工事は後々進めるとして将来的にはこれをケリュネオン温泉一号に出来るだろう。
となれば、街の方は……。
依然として続く吹雪の中、街に転移する霧を呼びながら僕は街の雪を溶かす温水のあてについて考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ケリュネオン郊外。
一見何もない雪原を前に、僕とセル鯨さん、それにエルダードワーフ数名とエヴァがいた。
ルリアは風邪をひいてダウンしているとか。
何というか、最近間が悪くてルリアとはあんまり会えてない。
識や澪からは結構話題にされるんだけどね。
今回は別にあの子に無理して来てもらうような件でもないから、エヴァさんに薬を渡しておくだけにした。
「あの、今なんて?」
「だから温泉は目処がついたよ、って言った。工事はすぐには出来ないけど、とりあえず掘り当てたから山で熱湯が噴き上がってる」
「あの吹雪が全く止まない山に登って、穴を掘ったんですか?」
「そう。まだ誰も住んでないし街からも遠いから、そこなら好きにやっていいって言ってくれたのエヴァでしょ」
「そうですけど、魔物の討伐もまったく手付かずの場所で穴掘りを即日で済ませるのは流石に……」
「魔物も馬鹿ではないよ、エヴァ殿。殆どの輩は力量の差を理解して尻尾を丸めているのばかり、飢えていたのか馬鹿なのか数匹は襲い掛かってきたが問題なかった」
セル鯨さんがエヴァに応対してくれた。
既に二人は自己紹介済みだ。
エヴァさんはクズノハ商会の従業員なら何が来ても、もう大丈夫ですからと遠い目をしつつセル鯨さんを受け止めてくれた。
やっぱ鯨はもっと大きいのを想像するよね。
「それは、セルゲイさんが?」
「私などでも十分に対処できた」
セル鯨さんは頷いて肯定する。
傍にいるドワーフ達も彼に感心しているようだ。
「大したもんじゃ。あの吹雪の中じゃと視界が悪い分魔物が有利じゃからの。中でも吹雪に溶けて物理攻撃を無効化してくる雪獅子、真っ白な空から正確に急襲してくるアイシクルフラム、それに音も無く高速で雪の中を泳ぐサイクロプスサーペント辺りはここらではあの山にしか生息しとらん強敵。それらには遭遇せずに済んだようじゃが他も難敵揃いの困った火山、いや大したもんじゃ」
「初見であれらに遭えば、どうしても後手に回るからのう。しっかしお前さん、若様の傍におるだけあるぞい」
「恐れ入ります。皆様のお仲間から頂いたこの槍のおかげでしょう。そのような強敵に遭わなかったのも幸運でした」
……多分、まさにその三匹に遭遇したんだと思う。
多分だけど敵無しの自分の縄張りに入ってきた僕らを、山の王者の感覚で襲ってきたってことなんじゃないかな。
なんとなく界で把握した姿形もそんな感じだったしさ。
ああ、最初に木っ端微塵になったの、あれ魔族領で襲い掛かってきたライオンだったのか。
確かにあの時は体が雪で出来ているみたいに武器の攻撃を無効化してた。
崩れたようになってもすぐ元に戻って攻撃してたからなあ。
セル鯨さんの前では問答無用に即死か。
あの山の御三家(仮)に合掌。
ドワーフとセル鯨さんは、そのまま武器やら戦いやらの話題に移って盛り上がっている。
「という訳で。何とか冬の間には街まで温泉を引けるようにしてみるよ。で、当面は」
「はい」
「ここが凍って使えない状態の貯水池だよね?」
目の前の雪原を示す。
頷くエヴァ。
「街からも少し離れている為、手入れも滞っている状況です。事実上使用不可ですね」
「なら丁度いい。とりあえず、溶かすよ」
火の玉を何発か作って放り込む。
当然雪と氷が溶けて雪原が池に戻っていく。
ふうん、この位の大きさか。
実験に使うにも丁度いいな。
「毎日若様が来てくれれば雪問題も解決なんじゃがなあ。日に五回か六回街と周辺の雪を溶かしてくれるだけでばっちり……」
流石にそれはきつい。
毎回三十分はかかりそうじゃないか。
「ライドウ先生でなければ、この数秒の作業の為に術師や冒険者を何名も、半日がかりで拘束する必要がありますから……ふぅ」
最後のため息が切ないエヴァ。
ではやってみよう第二弾。
温泉堀りも上手くいったからこっちも上手くいってくださいなっと。
ポケットから真紅の指輪を一つ取り出す。
エルダードワーフが管理している廃棄品のドラウプニルだ。
最近は一日に真っ赤になる量が多過ぎてかなり溜まってきている。
エマが処分について何か凄いことを考えてくれているとのことだけど、今回の件が僕の思い通りにいけばこれもその処分先として有力になる予定だ。
「それは、ドラウプニル」
ドワーフが指輪を見て眉をひそめて驚いている。
白ならともかく赤の指輪はそうそう持ち歩かないもんな。
エヴァさんは感情の窺いしれない薄目で状況を見守っていて、セル鯨さんは僕が何をするのか興味深そうにしていた。
手にしたドラウプニルを少し宙に浮かし、更に僕の魔力を加えて内部に蓄えた魔力に方向性を持たせる。
指輪自体が簡易的な魔術を常に発動し続ける状態を作り出していく。
指輪の外見が溶鉱炉の鉄みたいな鮮やかな明るい色を帯びる。
うんうん。
これで長期的に高熱を発する装置として使えるだろう。
「じゃあ、一応防御の準備だけしておいて。大丈夫だとは思うけどね。エヴァは僕、ドワーフはセル鯨さんお願いします」
「……わかりました」
何故か神妙な顔をしたセル鯨さんがドワーフを下げ、自分が前に立つ形で陣形を作る。
エヴァさんは僕が魔力体の腕で囲う感じでガード。
では。
「じゃ、いっきまーす」
「っ!?」
セル鯨さんの緊張が一気に高まった。
なんで?
不思議に思いながら、冬の間この寒冷地で池を熱し続けるにはこの位の熱量がいるだろうなと想定したマグマ色の指輪を水面に向けて放った。
!?
手元を離れた指輪が何故か出力を大きく増して一気に光りだした!?
その指輪が水面に触れた瞬間。
物凄い音がした。
何が起こったのか色々さっぱりわからないけど、とにかく凄い音だった。
視界も一気に真っ白になって、何がなんだか訳がわからない。
おかしい。
水が熱湯になって沸騰する、程度は予測していた。
もしかしたら飛び散るだろうな、とも考えてはいた。
でも想像とは明らかに違う結果が起きているのは確かだ。
「一体、なにが……」
少しして、周りに静寂が戻った。
エヴァさんやドワーフ、それにセル鯨さんも無事なのが把握できたところで、僕はゆっくりと池を見る。
周囲はさっきの熱風みたいな蒸気ですっかり雪が溶けて茶色の地面が露出していた。
貯水池はと言えば、かなり強引に外周を削られサイズが大きくなっていて、中の水はなくなっていた。
そして底の地面が真っ赤に染まっていた。
溶岩っぽい感じである。
おお?
指輪の奴め、強化し過ぎたか?
と冗談はおいといて。
冬仕様にしてもやり過ぎたってことか?
爆発の理由はわからないけど、それで水が全部消し飛んで指輪は底に落ちた。
爆発で吹っ飛んだりもしなかったようだ。
で、発した熱で地面を溶かしているってところだろうか。
溶岩の表面で指輪が漂っているのがわかるけど……。
手元を離れたあとの急激な状態の変化といい、何か不安定だ。
「……」
一番戦闘能力が低いエヴァの様子が気になって改めて見る。
流石に国のまとめ役だけあって気丈にしている。
口は真一文字にきつく結んでいたものの、驚きを表情に出してない。
「爆発、するような実験じゃなかったんだけど……はは」
「……」
何とかこの場の微妙な空気を流そうと笑ってみるも反応なし。
やばい、怒らせたかな。
「それにしても、なんだったんだあれ」
「……水面にあれだけ高熱を発する金属の塊を放った結果としてでしたら、至って普通の現象です若様」
またしても異世界の常識にやられたか。
発熱する野菜といい、非常識な。
誰にでもなく問いかけた僕の言葉に、セル鯨さんが少々引きつった顔で答えてくれた。
……ああなるって予測できたから緊張してたのか。
「そ、そうなんだ。予想できてたんだ」
「途中まではそれなりに制御されていましたので大丈夫かと思っていましたが……心の備えをしておいてようございました」
手元にあった時点までは上手く行く可能性もあったってことだろうか。
一応、あの指輪の魔力が切れるまで適度に発熱を続けさせて、この池に流れ込む水を熱湯に変えるつもりだった。
で、既設の水路で凍結するようならその部分から街に伸びる分だけ手を加えれば、この冬の間くらいは温水を利用できるかと考えていたんだけど……。
見事に大失敗した。
むしろ貯水池を一個潰すという大損害を出してしまった。
温泉事業と並行して、こっちも冬の間に直そう……。
「エヴァ、ごめん。見ての通り失敗だ。何とか直しておくし、僕の方でも色々寒さと雪の対策は聞いてみるから……」
「……」
「……エヴァ?」
様子がおかしい。
というか視線がさっきから動いてないような。
「失礼」
ドワーフがエヴァに近付いていって、もっていた槌の先端で無遠慮に顔をつつく。
身長が足りないからといって女の人にこれは酷い。
エヴァも怒るだろうに。
しかし、彼女は怒るどころか何の反応も示さなかった。
あれ?
「さっきの爆発で気絶しておりますな。儂らもたまげたほどの爆発では無理もありませんがの」
何とかしようケリュネオン。
連れ出して爆発で気絶させて事態は悪化なんて、申し訳なさすぎる。
ゼフと会う日取りが決まったら、北国での領地経営を少しでも教えてもらうのもいい。
魔族はケリュネオンをまともに開発していなかったようだけど、砦の維持くらいはしていたんだしな。
まっすぐ前を見据えて気絶しているエヴァを見て、僕は真面目にそう思った。
ご意見ご感想お待ちしています。
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