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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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生徒待つ学園都市に真立つ


 扉の奥からどうぞ、と声がした。
 案内してくれた女性はそれを確認し、僕に一礼して去っていく。
 前に会った時に比べると少しそっけないな。
 あのルトが寝込んでいるんだから、さぞ働きやすいだろうに。
 そういえばレンブラントさんとこのモリスさんなんかはそのまま扉を開けて招き入れてくれて、それから自分も室内に入ってくるんだけどここでは違うみたいだ。

「執務室にいるって言われたから大したことないのかと思ったら……相変わらず斜め上だなお前」

 以前来た時にはなかったベッドが奴の執務室にあった。
 ソファの配置も変わってる。
 見舞いにきた人に使ってもらうつもりなんだろう。
 ……まあ、このだだっ広い執務室なら病室代わりに使うのも不可能じゃないか。
 セキュリティもそこそこみたいだから安心も出来るだろうし。
 しばしの絶句の間、色々考えた僕は部屋の主、つまりルトに声を掛けた。
 臨時で置かれたベッドでそれはもう怪我人って格好をしたルトに。

「お見舞いありがとう、ライドウ殿。冒険者ギルドの長ともあろう者が、こんなに情けない姿ですまないね」

 何を殊勝なことを今更。
 大体怪我って何だよ。
 ルトは全身包帯で、左足なんて骨折の定番みたいに石膏か何かで固められて持ち上げられた状態で吊るされている。
 確かに絵に描いたような怪我人ルックだ。
 重症にも見える。
 でもこいつが寝込んだ原因は聞く限り全力ブレスの後遺症、いわば疲労だ。
 包帯とかいらんだろ。

「神々しい格好で馬鹿やって、帰ったらベッドで怪我人コスプレとは……ネタに命をかけてるだろ」

「コスプレとは失礼な。これは全部負傷による本物だよライドウ殿」

「全治一週間の疲労だって聞いてるけど?」

「……ライドウ殿。それは情報が古いよ。少し前まではそうだったんだけどね。今や僕自身の見立てで全治一ヶ月くらいだよ」

 ……僕自身の見立て、ってなんだ。
 医者に診てもらえよ。
 そういえば、この世界にはいわゆる大病院ってのはないな。
 小さな診療所はあるけど、ベッドの数と医療スタッフが集まった場所は見かけない。
 大抵魔術で済むし、薬も異様なまでに即座に効果が出るのが多い所為もあるんだろうけど……。
 医者か。
 竜も診られるってのは特殊だろうから除外するにしても、うん……獣医とか亜人医? とかってのを育ててみるのも面白いかも。
 薬局の一歩先みたいな感じにできないかな。
 育てるのにかかる期間もあるからいつごろから出来るかわからないけど、近いうちに提案してみようか。
 とはいえ実際育てるのは僕じゃないし、実際のカリキュラムを考えるのも組むのも僕じゃない。
 言いっ放し投げっ放しになるから気軽にやってみてとは言えないし、形になるかどうかも未定。
 ま、何かの切っ掛けにでもなればいい。

「自分で診療したのかよ」

「無論だよライドウ殿。こう見えてもそこらの医者や神官よりは治療の腕も上だと自負しているからね」

 さっきからライドウ殿、ライドウ殿と。
 言っていることもまともだし、今日は何を企んでいるのやら。
 変態な思考を聞かなくて済むのは助かるものの、不気味だ。
 いつもは真君、なのに。
 こいつがライドウ殿とか呼ぶのはギルド長として振舞う時くらい。
 でも今は執務室の中だし、その必要もない。

「で? 随分と他人行儀に話して、今日は何を企んでる? ル――」

「ライドウ殿!」

 ?
 言葉を遮るなんて珍しいな。

「随分と仲がよろしいようだ。彼には色々と謎の多い所があるが、また一つ増えてしまった。それではファルス殿、どうかゆっくりと休んでお体を労わってください。代理の方を立てる件につきましては事情もわかりましたので結構です」

 !!

「あまりお構いも出来ず、仕事の話ばかりになってしまって申し訳ありませんザラ代表。しばらくの間、よろしくお願いします」

「私どもの関係では見舞いなど口実、お気になさらず。……なるほど、ファルス殿も彼もどちらも秘密が多い。そういった所が打ち解ける切っ掛けだったのでしょうかな。ならば私も秘密を持つよう心がけてみましょうか、ははは」

 ……。

「ご冗談を」

「なに、お二人のご協力はロッツガルドの復興の大きな助けになっています。仲が良いのは実に喜ばしい事です。少々嫉妬したのかもしれませんな。では、また」

「ええ、そちらもご自愛ください」

 ザ、ザラさんがどうしてここにいるんだよ。
 界を展開しておけばよかった。
 大体、ルトも念話で教えてくれればいいだろうよ。
 あ、この部屋念話使えないんだっけ。
 ルト自慢のテクノロジー(自称)らしいけど。
 僕を招く機会が増えたから秘密を守るため、と説明されたのを思い出す。
 でも何故かルトが後ろ手に部屋の鍵を閉める画を想像して引いたな、確か。
 だからと言ってライドウ殿、ライドウ殿といわれるだけでわかるか!
 あの変態が呼び方を変えても陰謀を警戒する方が先だっての。
 ザラさんもザラさんだよ。
 気配の消し方とか商人じゃないだろ絶対、ってくらいに上手かったぞ。

(ライドウ、見舞いが終わったら顔貸せ。商人ギルドじゃなくて俺の店で待ってる)

 すれ違いざまに耳打ちされる。
 答えを聞かずに去っていくザラさん。
 ああ、次の予定決まった。
 ご飯食べて店に顔出して学園って予定だったのに。
 動かせる予定ばかりだったというのも恨めしい。
 なんだかんだでこの街ではお世話になっている人だけに断るのも難しい。

「ルト、お前ひどくない?」

「これでも気づいてもらえるようにフォローしたつもりだけど?」

 ザラさんが出て行った後、早速愚痴を食らわす。

「そもそも、先客がいるなら僕なんか待たせればいいじゃないか。見た感じ話自体はもう終わってたんだから」

「真君も、立ってるステージで考えればその位出来るようになってるかな、試してみようかな、なんてね」

「テストはテストでやってくれ……。いきなり本番でやるなよ……」

「ザラは確かに昔何かやってたかなって思うくらいには気配を消すのが上手だよ。でも、探れないほどじゃない。高ランクの冒険者なら出来るくらいの事は、真君も出来たほうがいいんじゃない? 何か探索に特化した魔術も持っているようだけど、そんなものに頼らずともさ」

「ぐ」

「それに。さっきも少し言ったけど僕は今結構な大怪我をしているんだよ」

「聞いたよ。全治一ヶ月だろ? ブレスで疲れただけじゃないのか」

「……寝込んでいる所に来客があってね。悪魔のような笑顔の女が二人だよ」

「女ねえ」

 ルトをここまでやるような猛者がこの世界にはまだいるのか。

「連中はこの部屋で休んでいた僕をあっという間に簀巻すまきにしてね。ケタケタ笑いながら殴る蹴るの暴行さ」

 ケタケタ……こわ。
 この変態のことだから恨みはそこら中で買っているに違いない。
 でも弱って休んでいる所に侵入して笑いながら暴行とは。
 日ごろの行いって大事だ。
 最近構ってやってないし、学園の生徒には少し優しくしておくのも必要かもなあ。
 うん。

「因果応報、深い言葉だよな……」

「……僕への同情がひとかけらもない言葉だね。一人は君のとこの侍かぶれだっていうのにさ」

 は?

「僕は身動き取れないくらいに疲労していたのに! あの侍かぶれと年増の砂漠トカゲが鈍器持参で闇討ちしにきたんだよ!」

 巴、お前やけにルトに優しい発言が多いと思ってたら。
 賄賂をもらった訳じゃなく、既にスッキリしていたからか。

 あれでも世話になっているのは確かですし、一度お見舞いにいかれてはどうですかな若。

 先日の巴の言葉を思い出す。
 この惨状を見た上で再生すると……狩りの成果を主に見せる忠犬のような発言に変わるな。
 あいつが忠犬タイプかどうかは置いておくとして。
 となるともう一人は砂々波、グロントさんか。
 彼女については白の砂漠から出てこないから僕が卵を持っていく話になったというのに。
 ルトをボコる為にロッツガルドにこれるなら、卵くらい取りにこれたんじゃなかろうか。
 ……それとも、それだけこの変態は上位竜の間でも迷惑を振りまいてたのか?

「なるほどなあ」

「大体ね、君があの神器のうっすーーーーいとこを引き当てたのがそもそもの原因じゃないか。一体どういうヒキをしてるんだよ真君は!? なのに巴の奴、わざわざ魔族の街まで若をストーキングか? 若は倒れられたそうだ、どうしてくれる? とか言っちゃってさ! グロントはグロントで、ほほほほ、としか言わないし! 怖いし!」

「っ!? 違うだろ!? 一週間寝込むようなアホな攻撃を仕込んだお前が元凶だろ!? 大体発動させたのは僕じゃなくて魔族の人だ! こっちはあの後お前のブレスという名の兵器を防ぐのにどれだけ苦労したことか!」

「キミがいなかったら絶対選ばれてなかったと何故か僕は確信してるね! 僕だってね、良い雰囲気のレストランで新しい秘書を口説いてる最中に強制召喚だよ! おかげで彼女、僕がいきなり逃げたと思い込んじゃって、寝たきりでそれをフォローするの物凄く大変だったんだ!!」

「それこそ知るか! こっちはあの散弾と後からのぶっとい奴を全部無効化してぶっ倒れたんだぞ! それでも一発は遠くの山に落ちてえらいことになるし。後で魔族に調べてもらって人的な被害はなかったって報告もらったから少し安心したけど! 街では数十人の死人も出たんだぞ、開き直るな!」

「地図に国クラスの黒穴作る勢いで設定したんだからその位はとうぜ……、え、数十人?」

 本当はもっといたかもしれないけど、僕の知る限りではな!

「そうだよ! お前のブレスの前の咆哮とかの所為で、魔族の小さい子やご老人を中心に数十人の死者が出たの! 他に負傷者を含めるなら桁が二つ変わるんだぞ! 自分のやったことを反省しろ反省!」

「え、あの一帯は消し炭というか、深い穴が出来たよ、ね? 紅璃のとこは無事だったって聞いたけど、あの辺りの魔族の集落は全滅でしょ?」

「な訳ないだろ。全部受け止めて消したよ。代償としてぶっ倒れたけどな。魔力がガリガリ無くなる感覚とか、一生知らなくていいようなもん味あわせてくれやがって。なんで僕がお前の不始末の処理で気絶せにゃならんのかと今思い出しても……うん、巴よくやった! って気分だよ!」

「……真君」

「何だよ、急に静かになって」

「どうやって、消したの」

「澪に集めてもらって僕が受け止めて、それで消した」

「魔術で?」

 ルトの雰囲気が変わった。
 なんというか、好奇心の塊とでも表現したい色合いの、強い光が瞳に宿ってる。
 目が据わっている状態もあいまって怖い。

「魔力体の変換とか何とかで。識に詠唱をサポートしてもらったから実はよく知らん」

 創造がどうの、は言わない方が良い気がして惚けることにした。
 真実を混ぜてバレにくそうな感じにして説明する。

「マテリア・プリマの変換……。それ、今出来る?」

「話聞いてない奴だな。識にサポートしてもらったって言っただろ? 無理」

「……そっか。あれを、実質一人で周りに被害なく……そっか……」

 なんかブツブツ言い始めた。
 新しいパターンだな。
 ただルトの他のケースを含めて言えることだけど、こいつの新しい一面はどれも残念すぎるから嬉しくない。

「おーい生きてるか? 一応、見舞いのついでにケリュネオンに送る冒険者の候補リストもらいたいんだけど、出来てるよな? もしもーし?」

「……真君。僕は傷ついた」

「それをいうなら怪我をした、又は傷を負っただろ? じゃなくて、こっちの話を聞けよ」

「違う。あの二人は僕の身体を傷つけたけど、真君は今僕の心をボッコボコにしてくれた。だから傷ついたで合ってる」

「……あのな。言っちゃ悪いがそれこそお互い様――」

「だから今日はもう帰ってよ。リストならここまで案内してくれた娘に預けてあるからもらっていけばいい。こんなザマだけど手抜きはしてないから安心していいよ」

「あ、そう」

「そう。さっきザラに呼ばれてたろ? もうそっちに行きなよ」

 そっけないな。
 実に助かる。

「わかった。お大事に」

「夜這い待ってる」

「ああ、巴とグロントさんに声かけとくよ」

「……」

「じゃ」

 いい加減、あれのセクハラにも慣れてきた。
 それじゃあザラさんの店に行くか。
 確か娼館……じゃなくて不動産の店だった。
 あの人が俺の店、というのはそこの事だ。
 表向き、ザラさんは娼館にはタッチしてない。
 黙ったルトを尻目に、受付にいたお姉さんからリストの入った筒をもらって外に出た。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「最近は外回りに出ていたとか? あの事件で一気に顔を売って大国はじめそこら中の国から呼ばれている、といった所か?」

「……ご推察の通りです」

 ザラさんの店を訪れた僕は、既に顔見知りになる位に挨拶した受付や事務仕事の人に迎えられ代表の部屋に通された。
 応接室じゃなくザラさんの部屋に入れる商人はそれなりに少ないらしく、最初は部屋に通される僕に疑問と驚きの目が向けられたもんだ。
 そこでザラさんに最近の外回り事情について看破されたところ。

「要領の悪い回り方をしていそうだな……と言いたいところだがグリトニアやリミアは断りようもないし、何事も最初は目の回る忙しさを味わう時期がある。こればかりは仕方ないか」

 お?
 怒られるかと思いきや、何だか優しい。
 風体がヤ○ザなだけに五割増しで優しさを感じる。

「ギルドの会議は欠席がちだが、代理がきちんと出てきているし問題はない。代理が識さんではなく亜人だったのは驚いたが、事件後、この街も亜人への差別が大分緩やかになってきたこともある。生き残った連中には亜人に助けられた者も多いからな。いつまでつかはわからんが、まだ掌を返してはいないようだ」

「それは良い傾向ですね」

「神殿はあまり面白くないようだがこの街の、と上につければ神殿も好意的だ。あそこの今のてっぺんはあれで中々話がわかる」

 ハスキーな声の女性、としか記憶してないけどそれなりに優秀なんだな。
 派遣先の街で上手くやっていくのは転勤する人には必要な能力だ。

「お前のとこの代理も一役買ってるぞ? あの、アクアとエリスだったか。彼女らは鋭い意見や面白い提案をいくつもしてくれている。冗談じみた口調でだが、笑ってない目でお前よりも彼女らの出席を望む声もある」

「……そこは冗談で、とだけ言ってもらえると」

「馬鹿、奮起をしろ奮起を。あの二人に起業を勧める声も毎回あるが、どちらも即断で断ってる。どういう訳かお前は良い手下てかを持つ幸運に恵まれている。大事にして、お前の成長にも役立てろ」

「はい……頑張ります」

「あれからレンブラントの奴に言われてお前を見てはいるが。別にふざけている訳ではないんだな、お前は。ただひたすらに追いついてない、それに尽きる。なのに周囲の環境と扱う品が別格過ぎてどんどん立場だけがついていく。軽くホラーだな」

 まったくだ。
 ……本当にまったくだ。
 それをまさかザラさんから言われるとは思ってなかったけど。

「まだまだ未熟で、足りぬ事ばかりです」

「ああ、まったく。お前を商人として本気で育てるなら周りと切り離した上でどっかの街の支店でも任せるのが一番だと思う。俺ならそうするな。が、お前の場合“戦う商人”だからなあ……いや“軍隊商人”か? 何か生ぬるいな、“殲滅商人”、“地雷商人”……。中々上手くでてこんがそんな分類だ。前例が無い」

 ひ、酷い例えられ方だ。
 しかも商人ってフレーズが完全におまけになってる感がハンパない。

「あの……それで私にご用件というのは」

 これ以上いじられるのも悲しいのでさっさと用件を聞くことにする。
 会っただけで胃が痛くなる事はもう流石にないけど、今日はこの後も学園にいっておきたい。
 イレギュラーな用事はさっさと済ませるに限る。

「ん、ああ。用件としては二つだな。一つは復興への今後の協力について。もう一つはエステルんとこの件だ」

 復興はともかく、エステルさんとこ?
 娼館絡みか。
 となると、『彼女たち』の事だな。
 僕には問題は特に報告されてない。
 エステルさんからザラさんに意見があったのは予想できるけど、何だろう?

「復興への協力ですか」

「ああ。現状お前は復興に従業員やら講義に参加している学生やらを寄越してくれている。かなりの助けになってるよ。そこで確認なんだが、今後もこのペースで協力を続けてくれるか?」

「もちろんです。まだ復興できていない区域はありますし、最後の変異体が暴れた辺りはまだ手付かずじゃないですか。あそこは公園として再整備すると聞いてますから一番の工事になるでしょう?」

「助かる。正直クズノハ商会の協力は復興のペースそのものを左右しかねない程の力になっているからな。あの突如現れた二本の巨木はこれからの学園都市のシンボルになっていける存在感がある。優先順位はあげられないが出来るだけ早く手をつけたいんでな」

 変異体も、これから街の人の憩いの場になっていけるなら死に場所としては悪くないだろう。
 公園だけに優先順位はあまり高くないだろうけど、復興の速度が現状以上を維持できるならそう遠い話でもないよね。

「それで、エステルさんの所では何か問題が起きているんですか? 世間に不慣れな娘達ですけど面倒ごとは起こさないと思っていたんですが」

「……問題は起きてないがな。ライドウ、お前あの娘達を一体どこからさらってきた?」

「……。ザラさん、それは笑えません。僕は純粋に仲介に入っただけですよ。あの娘達と仕事場の間を結んだだけです」

 人身売買とかする訳がない。
 僕がしたくない商売なんてクズノハ商会でやる気は一切ない。
 あの魔族のサリの事で既に憂鬱なんだ。
 奴隷売買はどうも僕には合わないみたいだ。

「ふ、冗談だ。しかし……まさか娼館のフリーパスを渡したら働きたい女を送り込んでくるとは思わなかったぞ。それと“利用”は一度もないようだなライドウ? エステルがお前が来ないのを寂しがっていた」

「勘弁してくださいよ。とてもそんな暇は――」

「女を抱く時間なんぞ、忙しくてもどうとでも作れるもんだ。本当に抱きたかったら、な」

「大体エステルさんは娼婦じゃなくて店の経営者でしょう?」

「経営者兼娼婦だ。あれが気に入った客なら相手もする。お前にも娼婦だと名乗っている筈だぞ? と言っても実際好きに出来る男は片手で数えられる程度、お前は自慢できるぞ」

「何の自慢ですか……じゃあ、あの娘たちに特に問題はないんですね?」

「概ねないが。強いて言えばもう少し人数を増やせないか、と言われてはいる」

「人数を?」

「お前からは亜人だと紹介されているが、実際客には特に何も言わずにヒューマンの娼婦として出している。極めて好評だ。ハマる客も大分でてきている」

 魔物というと引き受けてくれないだろうから亜人です、と伝えたんだけど。
 いつの間にかヒューマン扱いされてたか。
 問題になってないならいっか。

「ヒューマンとして、ですか。まあ見た目にわかる特徴もありませんしね」

「そうだ。客にはヒューマンしか受け付けないという馬鹿も少なからずいるが、自分で気付けないならそんなものこちらの知った事ではないからな。嫌なら気付けばいいだけの事。それならこちらも誠意を見せた上でヒューマンを出すさ」

 この辺りは僕にはない発想だな。
 ニセモノを出したり騙したりしても、見抜けない客が悪いという考え。
 ちなみに、この世界だと客にも目利きを求めるのは結構普通だから僕みたいに基本的に本物だけ扱う方が少数派。

「好評との事ですけど、他の女性からの妬みとかは大丈夫なんですか?」

「その辺はエステルが上手に手綱を握ってる。で、復興も順調で客も街の男から外から来た作業者やら学生の保護者やら色々増えてきてな。新しいハコを用意する流れになってる。で、あの娘達の村で出てこれる人はいないか、とな。エステルからせっつかれた訳だ」

「そうでしたか」

 学生の保護者とか聞こえた気がするけどスルー。

「お前に言われた通り、あの娘達の素性は詮索していない。だからこうしてお前に頼んでいるわけだが、どうだ?」

「……数人なら行きたいという者がいると思いますが。近いうちに商会の者に詳細な返答を届けさせます」

 実は石化の制御がある程度できるようになったゴルゴン限定だけど、何人かをロッツガルドの娼館に送り込んでいる。
 ザラさんの用件も彼女達についてだった。
 特に問題も起こしていないし、実に上手くいっているみたいだ。
 フリーパスをもらった時は宝の持ち腐れかと思ったけど、ゴルゴンにも僕にもザラさんにもプラスになる使い方が出来て嬉しい。
 ただ石化の制御というのがネックで誰にでも出来ている事じゃない。
 今のところゴルゴンでもかなりの強者じゃないと亜空から出るのは無理だ。
 その中から娼館に半数、商会の外回りや店員に半数といった感じで分けて動いてもらっている。

「頼む」

「こちらこそ働かせてもらって感謝しています」

「……いつか無断でやられてお前とドンパチ、なんて事にならなくて俺もほっとしてる。なにせ暴れる客の鎮圧もこなすからな、本当に重宝する。これからもウチで働いてくれるようお前からも伝えてくれ」

「わかりました」

「それと彼女達はクズノハ商会に寝泊りしているようだが、そちらの風評は大丈夫か? なんならこちらで住む場所も手配するが。もし何らかの風習があって同居が難しいなら娼館じゃなく別に家を用意してもいい」

「随分と、評価してもらえているんですね」

「俺は自分の仕事に前向きで優秀な奴は好きだからな」

 ……僕は前向きだとは思うけど優秀じゃないからなあ。
 ゴルゴンがちゃんと評価してもらえているのを素直に喜んでおこう。
 商会の方でも真面目に働いてるようだし、ありがたい。

「伝えておきます。ご用件がそれだけでしたら私はこれで失礼しますが」

「用件は以上だ。ただ、これは興味から聞くんだが。ライドウ、今度は海で何かやる気か? ここから海は相当遠いが、お前潮の匂いがするぞ? 外に営業とはいえ海は予想外だった。冬の海など荒れるばかりで大した商売も無いだろうに」

「ああ、これは」

「商売にかかわる事なら別に無理に話す事はないぞ。聞こうとは思わん。むしろ脇をしめろと叱りたいところだ」

「……ご指導ありがとうございます。いずれ商売になるかもしれない事なので伏せさせてください」

「それでいい。お前の誠実はここの商売ではとりあえず隠せ。それは理想だが通用する場所は少ないからな」

「はい。それじゃあ失礼します」

「わざわざ来てもらって悪かったな。気をつけ……る必要はお前にはないかもしれんが余計なトラブルはどこにでも落ちている。賢くな」

 なんというか。
 会う度に漏れなく説教までもらうな、この人には。
 やっぱり苦手だ。
 ええっと、ゴルゴンに今外に出られる人が何人いるかを確認するのを追加っと。
 亜空に戻ったら翼人には何人か海に関わってもらう人を出してもらう予定で考えている。
 ゴルゴンにも声を掛ける予定だったけどこれは無理そうだな。
 元々彼女たちは亜空で牧畜に近いことをやってもらっているからそのままでいいな。
 上手くいってるんだし。
 さて。
 海は新しい住人も絡んでくるから今すぐにやることはない。
 もうすぐ昼だしこの時間だと店はかなり忙しいから僕はよらない方が良い。
 あと用事はリミアへの連絡と学園。
 リミアとの連絡は店に届くから……先に学園か。
 今なら昼食時でジンたちを探すのも楽だ。
 講義中だと何度も探したり、伝言を頼んだりと面倒な事も増える。
 復興でこき使ってるだけに少しはフォローしておかないとな。
 講義の本格的な再開もそろそろ伝えておくのが筋だ。
 新しい生徒の募集についても事務局に先に連絡しておく方がスムーズだろう。
 ただ学園長やら講師の派閥が面倒ではある。
 こっちは会わない事を祈るしかないのが困りものだなあ。
 やや重い足取りになりながら、見た目にはすっかり元通りになった大通りに出る。
 さて、次は久々の学園だな。
五七五。
ただし学生と会うのは次回です、と。
ご意見ご感想お待ちしています。
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