挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

145/187

魔族の闇と輝くアイツ

 まあ、こうなるんじゃないかなとは思ってました。
 もう魔族の人たちの都にいるのもあと僅かとなったこの日。
 僕は城の地下通路を延々と歩いた先にある大きなホールに案内された。
 実に広い。
 外周部には観覧できる席が設けられている所から、戦いを鑑賞する事もある場所だとわかる。
 親善試合の会場としては実に立派だと思う。
 流石に真っ暗闇の吹雪の中でやるとは思ってなかった僕も、これほど整った場が用意されるとも思ってなかった。
 上を見るとかなり高い天井がドーム状に続き、天辺はぽっかりと穴が開いて常夜の空が見える。
 で、何がこうなるんじゃないかと言えばだ。
 だだっ広いホールに僕一人。
 この状況だ。
 澪と識がいない訳ですよ、と。
 上位精霊を制圧するようなお二人の実力はもう十分に周知されている。
 だから今日はライドウ殿のお力を軽く示してくれればそれで構わぬよ。by余。
 要約するとこんな事を言われ、従者二人は観覧の席についている。
 貰ったものが凄かったからなあ……。
 多少の無理は聞くのも仕方ない気がするし、上位精霊の力を行使されたら会場がもたないというのもあるんだろうし。
 だって全国自由に動いていいよっていう通行手形と、魔王様の印籠みたいなのまでもらっちゃったもんなあ。
 いくつかの街で売れ筋を見て商いを始めてみても税金も取られないとか。
 亜人がたくさんいて物流が不足しがち。
 そんな未知数の可能性がある市場を無料開放してくれた事を思うと……。
 不慮の事態にならない限りは僕がお相手するのが筋だよねえ。
 今回のは不運というか、むしろ当然の対価。
 そう思ってここに立っている。

「さて、相手は誰なんだろうな」

 ホールに響くアナウンスが親善試合という催しの開始を伝える。
 観客はそんなに多くない上に、ロッツガルドの大会みたいな熱狂感もない。
 代わりに真剣な視線と息を呑んでいそうな緊張が僕に注がれている。
 一挙一動に注目されている感じ。
 講師として何度か、それに日本で弓術の披露がどうのという会で何度か、こんな感覚を味わった覚えがある。

「げ、想像してた最悪のパターン……やっぱり不運は健在か」

 対面から歩いてくる影は四つ。
 僕の予想だと魔将か魔王かが出てくると思ったんだけど、もしかしたら魔将全部とかあるかなあと思っていたりもした。
 あのノリからゼフ自身が出てくる可能性も考えてはいたんだけど、やっぱり魔王が彼を王と定めて仕える者の前で敗北するのはまずいんだろう。
 あの人はふざけても絶対に王としてやるべきでない事はしない気もしていたから、そこはあまり驚きはない。
 にしても、魔将全部か。
 イオとロナはまあ良いし、レフトも何となくわかるから良し。
 でも最後の一人はよくわからないんだよな。
 結局今日までまともに話してないし、あまり口を開いている所も見ない。
 いわゆる白衣を着た、ぼさぼさ頭の男だ。
 煙草とか似合いそうな感じ。
 見れば見るほどにヒューマン。
 亜人かと思ったけど、もしかしてこの人ヒューマンなんじゃないの?
 ほどなく、僕らはお互いに野球の礼をする距離、程度にまで近付いて止まった。

「……言っておくが、俺はヒューマンじゃないぞライドウ殿」

「あ、失礼」

 見ていたのがバレたか。
 そんなに目立たないようにやっていたつもりだったんだけどな。

「十六分の一程、亜人の血が入っているらしい。その種族の名も俺は知らんがな」

「……」

 いやいや。
 それはもうヒューマンといっていいんじゃないの?
 親でハーフ、祖父でクォーターでしょ?
 その上の上に亜人が一人いただけなら……見た目もだしヒューマンでいいじゃん。

「なるほど、話に聞く通りの男か。血や種族、外見などは構わない。興味深い、どのような教育を受ければそうなるのか」

「人は皆平等、とかですね。ご存知のようですが私はライドウ=ミスミと申します。今日はお手柔らかにお願いします」

「モクレン=カズサだ。これは試合とは言え真剣勝負、手を抜くような非礼は流石の俺もせんよ。このナリでも俺は魔族の一員として生きているのだからな。その身に秘めた力、少しでも暴いてやろうさ」

「はは、は……」

 戦士、じゃないな。
 術師だ。
 それも、ロナみたいなレンジャー兼務みたいな雰囲気じゃなく生粋の術師の匂いがする。
 あと……誰だかに近い雰囲気がある。
 この感じは確か、そう。
 錬金術師だ。
 研究者の持つ気配をこの人から感じる。
 ……懐かしいな、ハザルとかいったっけ、あいつ今もトアさん達のパーティで遺伝子レベルのうっかりやってるんだろうなあ。

「こうしてライドウ殿と立ち会うのは、戦場以外でお願いしたいものだが。今日は全力を尽くそう」

 四つの腕に一点ものと一目でわかる腕甲ガントレットを装着してやる気満々のイオが早くも闘気を立ち上らせて好戦的な顔で笑う。
 ……上は開いているし、最悪この人はまた場外ロケットパンチでいいか。

「……」

 ロナは超無口。
 一言も話さない。
 かと思ったら既に幾つもの魔術を展開して忍ばせている。
 その制御で手一杯だけど、表情はすましているといった状況だろう。
 開幕一番色々飛んできそうだなあ。

「先日は宴を中座して失礼した。私は魔将レフト。この通り魔物に過ぎぬが陛下のご器量により魔将の地位を頂いている。今日は陛下が認める貴殿の力を見られることを嬉しく思う」

「変異竜なんですよね。強大な力を持つことが多いと聞きかじっております。よろしくお願いします」

「っ!? 変異竜の名をご存知か。博識な方のようだ。こちらこそよろしくお願いする」

 ……。
 巴とか一般常識みたいに話していたのに。
 レア情報だったのかよ!

「では、あとは開始の合図を待つばかりですね」

『?』

 何故か魔将の人たちに不思議な顔をされた。
 お互いに自己紹介をする間、気を利かせてアナウンスも止んでいたんだろうし、あとはファイッとかカーン! ってなる感じでは?

「あれ、中々開始しませんね」

「……ライドウ殿。今日は我らと試合をしてもらうわけだが」

 イオが声を掛けてくれた。

「はい」

「詳細を聞いておらぬのか?」

「陛下からは軽く力を見せよとしか」

「うむ。では戦いについてだが」

「はい、皆さんと戦えばいいんですよね?」

「……」

 ち、違うのか?

「ライドウ殿。まさか、我らと一度に戦うおつもりなのか?」

「え? 違うんですか?」

 再び沈黙。
 いや、だってさ。
 イオが一番強いらしい魔将四人なんだから、一対一を四回やっても意味なんてないんじゃ?

「イオ、陛下のお許しが出たわ。ソレで良いとのことよ」

「だがロナ。それはあまりにも」

 ん?

「本人がその気でいるのよ? それに軽く力を見せるのにそれで良いと言っているのだから、それで良いのでしょうよ。……ねえ、あまり話したくないの、集中してるから」

「……わかった。良かろう」

 嘆息したイオの様子を合図に、魔将が動きを見せた。
 イオとレフトが前に、ロナが真ん中、モクレンが後衛。
 若干イオが前に出ているけど、2-1-1って感じか。
 慌てたように再開するアナウンス。
 魔将四人と僕の親善試合の開始を告げる言葉がホールに響く。

「じゃあ、手始めに……ブリッド!」

 床を蹴って後方に跳びながら四人それぞれに火のブリッドを放つ。
 手加減はするなと今さっき言われたけど、本気で受け取るほど僕も昔の僕じゃない。
 牽制という事もあって威力も速度も弱め。

「やっぱり当然みたいに無詠唱! モクレン、頼むわよ! ライドウの魔術は無詠唱で完全な威力が備わっていると思いなさい!」

「問題ない。術の高速展開なら俺も得意だ」

 やっぱり術師か。
 モクレンは短剣を杖のように扱って詠唱、それに指を使った詠唱……それに無声詠唱も併用!?
 おお、天才がいる!
 六つほどの術を同時に詠唱、展開したモクレン。
 僕のブリッドを全部きっちり弾く障壁を作り出し、しかも仲間に支援の術を幾つもかけたみたいだ。
 魔力はまだ彼らの周りを漂っているからまだ何か仕込んだのかもしれない。
 エマばりの術師か。
 久々に見た。
 並行詠唱するだけでも凄いことなのに、魔族は層が厚いねえ。

「モクレンに割く余裕は与えぬぞ!」

 おっと。
 イオが巨体に似合わない瞬発力で拳を迫らせていた。
 回避が間に合うタイミングじゃない。
 流石にそこまで早くは教えてくれないか。
 魔力体、どこぞの変態からマテリア・プリマとか無理やり名付けられたそれを使って攻撃を受け止める。
 ついでにイオを掴んで拘束、闇夜に向けて投げ飛ばす。
 見る人によっては合気道の達人が巨人を投げ飛ばしたようにも見えるかもしれないな。
 ……ただの力技だけど。

「ぐっ、おおおおっ!」

「次は……レフトさんだっけか。槍使いは久々だな」

 この人も戦士系みたいだし無理やり組んでぶん投げてみようか。

「悪いが、抗わせてもらう!」

 お?
 掴みにいけない。
 伸ばす端から腕が弾かれる。
 なるほど、これがカウンターの名手って奴か。
 迫る魔力体を見事な槍捌きでいなすレフト。
 凄いな。
 澪が技術を取り込もうとするだけのことはある。
 職人芸だ。
 面白い。

「っ!?」

 つい夢中でレフトの技に見惚れていると、後方から衝撃が伝わる。
 ロナだ。
 ああ、いくつも術を仕込んでいたんだった。
 一発目は魔力体をどうこう出来る感じではなかったみたいだけど。
 続く衝撃。
 一点に突き込むように、ロナが多分自分のラインナップから攻撃力の高い術を次々に解き放つ。
 かと言って正面ではレフトも槍を振り回しながら魔術も流れに組み込んで攻めの手を緩めない。
 挟み撃ちって状況だ。
 同時に捌くのは難しいな。
 ならレフトから。
 ロナは術を撃ち切ったら下がるだろうし。

「ブリッド!」

 無詠唱で僕の手からじゃなく、魔力体の先端からブリッドを五発ほどレフトに向けて放つ。
 振り回していた槍が止まり、前からの攻撃がやむ。
 まあ不意打ちだしまともな対応は出来ないだろう。
 じゃ、あとはロナを。

「捕まる訳にはいかないわね!」

「一手遅かったかあ。やる」

 ロナは素早く距離を取り、事もあろうに僕の魔力体の一部に足をかけて元の場所に戻っていった。
 僕を踏み台にした! とか言ってみたかったかも。

「私に見とれるのは危ないわよ?」

「え? うお!?」

 強力な衝撃が五回。
 まるで識クラスの術……って、僕のブリッドじゃん。
 そか、全部はね返されたって事か。
 自分の術を食らうってちょっと新鮮な感じだな。
 僕は澪の技の実験台にはなってなかったし。

「恐ろしく正確な攻撃だな。だがそれゆえに――」

「いやその先は何と言うかっ!?」

 凄い圧迫感!
 上!?

「遅いわ!」

 イオ!?

「戻ってきた!?」

「二度も間抜けに! やられはせん!!」

 落下の力を攻撃に完璧に載せた拳が魔力体に接触する。
 波紋が広がるように一帯に衝撃が行き届く。
 でもイオの目は終わりを告げてない。
 そのままもう片手で一撃、最後に蹴りも加えてロナと同じように魔力体を足蹴に距離を取っていった。
 風と衝撃が観客の方にまで威力を伝えていく。
 見えないはずなのになあ。
 感じちゃうタイプなんだろうか、二人とも。
 これだと隠蔽じゃなくて強化の方が良いかな。

「イオ殿みたいなタイプは、簡単に空を飛べちゃいけない気がするんですけどね……」

「簡単ではなかったわ! だが、それほどにみじめなやられ方をしたのだ、俺は!」

 俺とか。
 もうバトルモード全開だよ。
 やればできちゃう天才か、あんたも。

「で、時間は頃合かロナ」

「ええ、ばっちり。策にはめるには張り合いがないわね、ライドウ“殿”は」

 ロナが自分の腰の辺りに指をさして僕に微笑む。
 腰?
 !?
 何か黒いものが魔力体にくっついてる!?
 弾けるように膨張し続けてきたようなソレは時が来たとでも言いたげにその表面に赤黒いひび割れを覗かせた。
 にー、いーち、ぜろって感じだ。
 親善の意を感じない威力の魔術の展開を感じて僕は咄嗟に界を隠蔽から強化へと切り替えた。
 強烈な衝撃と爆発音、黒と赤の光が視界を覆う。
 時限爆弾の魔術版?
 凶悪な威力だ。
 強化に転じた魔力体を大分削られた。
 これがもしかしてロナの奥の手?
 と思ったのも、リミアの時もあいつは何か隠していた雰囲気だった。
 威力以上に魔力を削る効力がある術みたいだし、そうなのかもしれない。
 あいつの表情から察するしかないか。
 苦手だけど。
 爆煙と光が引くのを待つ。
 でも。
 それは悪手だった。
 足元で魔力の発動を感じる。
 ロナはもう術を残してなかった。
 っ! そうかモクレンって人もいた。
 四人揃うと性質悪いな魔将。
 魔王の四天王なんて仲が悪いのが鉄則なのに!

「儀式魔術を味わえ。弐之型“氷雨ひさめ改”」

 モクレンの声が聞こえた。
 魔力体が、周囲に荒れ狂う細かな針みたいなものにまたも削られる。
 儀式魔術とか言ったな。
 確か大規模な野戦なんかの戦闘で使われる個人使用とは一線を画す威力の術系統だ。
 並行詠唱だけじゃなくてそんなのまで個人で使うのかよ。
 ってか、僕は城でも大軍でもないぞ!
 一個人だ!
 愚痴をこぼす間にも細かな針は魔力体を削り、更に付着して氷に変じていく。
 動きを固められるか。
 ロナことカレンからかけられた氷の魔術よりもきついな。
 つい思い出したけど。

「では皆離れろ。ふぅ……」

 まだ何かするのか。

「参之型“墜星ついせい改”」

 未だ視界がまともにないのが困るな。
 ただ魔力体は凍り付いている分もあるけど強化の界を加えたから余程の事がない限りは大丈夫。
 一応術は見たいから凍っている魔力体を解いて周囲を一掃するか。
 もしそれで儀式魔術も散ってくれたら一石二鳥だ。
 削られて凍った魔力体の維持を止めて火属性を加えて解放。
 多分、ロナの術に負けないくらいの爆発と衝撃が僕を中心に生まれる。
 すぐに新しい魔力体を再構築して状況を確認する。
 魔将、は守りに入ってる。
 レフトに向かった熱波の一部がこっちに返ってきてるくらいか。
 まあ問題ない。
 で、さっきの儀式魔術はと。
 方向を探る。
 また上か。
 ツイセーカイだっけ?
 イオよりもきついのが降ってくるとも思えない、け、ど。
 ……溶岩?
 ドロドロのマグマがひっついた真っ赤な石が僕目掛けて空から突っ込んでくる!?
 流石、儀式魔術。
 スケールが違う。

「いくらなんでも親善試合的にどうなんですかね、これは!!」

「未だまるで無傷のお前がそこにいるなら、適当といわざるをえん!」

「私のアレでも無傷とか、どれだけかったいのよ……。社交辞令で火傷の一つでもしなさい!」

 無茶苦茶言うな!
 この!!

「火傷で済むわけないだろうがあっ!」

 すっかり具現化して皆さんからも見えているだろう魔力体から大腕二つ伸ばして溶岩球を掴む。

「馬鹿な……。軽減でも障壁を張るでもなく回避もせず。掴んだ? 燃え溶ける巨大な岩塊を?」

 ……そうだよ。
 よけりゃよかった。
 モクレンの呆然とした呟きにふと後悔。

「せーの、カウンター!」

「どこが!」

 僕が溶岩球を魔将に向けて投げた瞬間、レフトが失礼な大声を上げた。
 喰らう前に掴んで投げ返したんだから立派にカウンター、だよ多分。

纒紅玉まといこうぎょく、レフト、働けるな!」

「お任せを!」

 今の言葉で四つのガントレットの一つが強く輝いてイオの体が真っ赤になった。
 と、とことんスーパーロボットな人だな。
 飛ぶだけじゃなくてタイプチェンジみたいな荒業が出来る装備まであるのか。
 見た目火に強そうな雰囲気になったイオが、四つの腕全てで僕が投げた五mくらいのソレをがっしりと受け止めにかかる。
 ガントレットあっても素手みたいなものなのに。
 権化だ。
 スーパーロボットの。
 是非一軍で使いたい、じゃなくて。
 後衛二人は直線上から既に避難している。
 モクレンとロナ、どっちもただ下がるだけじゃなく支援の術を展開してイオとレフトを強化している。
 手早いね。
 残るレフトは、イオが本当に受け止めた溶岩の玉にひどく集中した表情を向け、手にした槍を今まさに突き入れた。

「ドッヂボールか!」

 もう一回僕の方に高速で突っ込んで来る溶岩球。
 おいおい、エンドレスになるじゃないか。
 さっきのモクレンの言葉じゃないけど、ここは回避が無難……。

「いやいや。そこは正々堂々といこう。ライドウ殿」

「モクレン、殿。いつの間に」

「術師には転移という移動法がある。最弱だが俺も魔将でね、ロナに怒られない程度には色々使える」

「で、その手の札は?」

 逃げようと見た先の空間に既にいたモクレンを見て、魔術が発動直前だとわかる札について一応聞く。
 まずい。
 足止めちゃった。

「前もって詠唱を仕込む形式の魔術。俺は符術と呼んでいるが、好きに呼べばいい。さて、我らの予測した展開だ。どう打開するか見せてもらおう。為せ、墜星改複製」

 モクレンから溶岩の玉がもう一つ。
 また挟撃。
 挟み撃ち大好きだな、魔将!
 仕方無い、受けよう。
 二つの溶岩が僅かな時間差で迫る。
 一つ目。
 魔将がいない方向に裏拳で殴るような感じで弾き飛ばす。
 またはね返されたら面倒だし。
 次、が速い。
 出来れば上に弾いちゃいたかったけど、片腕で受け止める。
 強度はマテリア・プリマが上だから、押されるような感覚を受け流した後は普通に止められた。
 よし、多分出来る。
 そのまま片腕を大きくして、溶岩の球を野球のグローブでボールをキャッチするように覆う。
 下手に握り潰すと盛大に爆発とかしてくれそうだったから全部包んで抵抗を押さえ込んだまま強引に――。

「陛下!」

 陛下?
 ゼフ?
 イオの言葉に少し驚いて声を向けられた方向を見る。
 あ、僕が一個殴り飛ばした方向だ。
 そこには人影が一つ。
 確かに、魔王だ。
 一体……あ、客席か。
 あのまま外壁に激突すると見ている人に被害が出るかもしれない。
 見れば動くのに邪魔そうなマントは外している。
 迎え撃つ気みたいだな。
 遠目ながらゼフの体つきが見える。
 凄い。
 激務の王様だろうに、異様に引き締まっている。
 何度か接して鍛えている感じはしていたけど、本職の戦士も真っ青の肉体だ。
 恐るべし細マッチョ、ゼフ。
 彼が腰にした剣を抜く。
 僕もゼフと同じ溶岩球を抑えているんだけど、思わずそれを忘れて見惚れた。
 綺麗な所作だ。
 それに抜刀と詠唱を同時に行っている。
 詠唱は抜刀を終えてなお続いているけれど、どちらも凄く滑らか。
 あれは、反復だけが可能にする動きだ。
 そればかりやっていた僕には確信できた。
 だから、ゼフの体から発される自信にも頷ける。
 対処できるという自信。
 せっかくだ。
 魔王の技を見ておこう。
 目前に迫った溶岩に対して、ゼフが手にした剣を逆袈裟に一閃させた。
 太刀行たちゆきが半端じゃない。
 持っている剣もゼフの技を受け止めるだけの業物で、そして彼の術を十全に発動させる為の触媒にもなっている。
 そして溶岩の玉が一瞬で彼の前で掻き消える。
 この世界で僕が見てきた中で、最も完成された武器と魔術の融合だった。
 剣と同時に使った術は障壁。
 ただし、触れた物を消し飛ばす対消滅とでもいうような特性の凶悪な代物。
 魔王ゼフは障壁またはその系統の術を極めた剣士、か。
 気づけば僕は、握り締めた溶岩を圧縮して、消してしまっていた。
 不思議な気分になる。
 アレは、僕の弓と同じかもしれない。
 ただそれだけに心を砕いた結果産まれた力。
 敬意とも共感とも判断できない本当に不思議な気分を覚える。

「そこまで! ライドウ殿、見事である。魔族が誇る魔将全員を相手にしてそれほどに立ち回る実力、確かにこの場にいる全員が見た事であろう。素晴らしき試合であった。後ほど褒美をとらせよう。では――」

 ゼフによる試合の終了を告げる言葉。
 けれどそれは最後まで紡がれる事はなかった。

「力の亡者に神罰を!!」

 空から聞こえたその声がゼフの言葉をかき消した。
 瞬間、何かが大量に降ってくる気配がして、轟音と炸裂する光がホールを満たした。
 魔将はゼフの所へ移動を始めていたけど、僕は何が起こったかわからず、とりあえず防御に専念。
 澪と識の接近を感じたのはその後すぐだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「随分と派手な登場だよね」

 すっかり室内から野外に変わったホールを見渡して呟く。
 しかし感心する。
 あの瞬間、魔将はゼフを守り、ゼフはホールの客席を守った。
 もちろん、全てを守りきれた訳じゃなく、何人かは犠牲が出たとは思う破壊規模だったけど。
 既に周囲に観客の気配はなく、界で確認すると城に到着して避難しているのがわかる。
 優秀だ。
 代わりに登場した十数人の完全武装した魔族を僕は見ている。
 力の亡者に神罰を、とか言った連中だ。
 この破壊も彼らの仕業。
 埃っぽいし瓦礫は一杯だし、立派な地下ホールだったのに見る影もない。
 識が少し触れていた魔族の闇、かな。
 精霊の暴走も人為的なものだったし、それも彼らかも。

「若様、ご無事で」

「精霊の件といい、これといい、魔族の警備も存外大した事がありませんわね。私も働けるから別にいいのですけど」

「ありがとう二人共。確かに帝国よりアクシデントが多いよね、魔族の都はさ」

 来てくれた識、澪にお礼を言って視線はゼフに。
 彼の傍らには何人かの犠牲の内一人が倒れているが、ゼフは彼女を治癒してはいない。
 テロリストと対峙中で、そちらを優先させている。
 代わりにモクレンが脇腹から血を流して意識がなさそうなロナにかかっていた。
 魔将でも負傷するような攻撃だったか、それともゼフ達には更に追撃があったのか。
 そこまでは僕も把握してない。

「本当に、場所も機も選ばぬな、お前らは」

「ゼフ。貴様の圧政を終わらせる為ならば我らは手段を選ぶ気はない」

 武装集団の代表とゼフが会話している。
 口上のぶつけ合い、でもあるんだろうか。
 ここから平和的な解決はないだろうし。
 実力はゼフ達が圧倒的に上だと思う。
 準備を整えているならその分がどう働くか、だけど……。
 何か、妙な力の流れも感じる。
 それが何かはまだわからない。

「余の圧政、か。わからぬな。そもそも女神以上の圧政など我らにあるのか? 余はむしろ魔族の存続と解放の為に政を進めておる。私心なく、な。」

「私心なくば全てが許されるとでも思うな。事あるごとに貴様は女神以上の圧政はないと言うが、神のご意志は政治ではない。人の治世と同列に語るのは傲慢でしかない」

「余を討ち、女神を受け入れるのが魔族の存続になるとでも申すか?」

「無論」

「……根拠はなんだ」

「我らも女神様が創造された種族だ。ご寵愛は少なくとも今日この日まで存続を許してくださっている。それが何よりの根拠だ」

 凄い。
 魔族の中に、ここまで女神に虐待されても、戦争起こしても理解してもらえないどころか勇者とか連れてこられたりしても、アレを信仰する輩がいるとは思わなかった。
 中庸というか、世界で必要とする者がいるなら応じようってスタイルの地と火の精霊の方がまともだろうに。
 狂信者としか思えん。理解不能だな。

「確かに、もしかしたら女神は我らに哀れみの欠片を向けるかもしれぬ。その結果、ほんのひと握りの魔族がヒューマンに隷属する立場で生き延びる事を許されるかもしれぬ。抗い滅ぼされる事に比べれば確かにそれは存続ではある。が、お前たちはそのような未来に魔族を導くのか? 子に孫に、女神の理不尽な偏愛を許せと。そう命じるのか?」

 ゼフの口調は静かだ。
 けど、怒りを感じる。
 あの虫が自分が愛するヒューマンをこれだけ殺した魔族を許すかどうかは何とも言えない。
 馬鹿そうだから、煽てて一心に信仰すればゼフの言ったような状況もなきにしもあらず、だけどさ。

「貴様は魔族を世界に害を振りまく存在に変貌させた! 世界は神の恩恵の下、少なくとも大乱はなく平穏であったのにだ! 貴様はヒューマンを侵略し、土地を奪い、今もなお戦争を継続している! そして我ら魔族の中に向けてでさえ、古く悪しき慣習を改める事なく黙認し、あらゆる命を粗雑に扱い続けているのだ! その罪は、臣下ともども万死をもって償われなくてはならん! 我ら魔族は、そうして初めてヒューマンに、亜人に、自らの蛮行を謝罪出来るのだ!」


「話にならぬな。魔族の意思は余とともにある。その結果、戦争という道を選んだに過ぎぬ。第一、戦争の前を良しとしながら、戦争以前から魔族にあった習わしを悪しきものとする。既にその言葉が矛盾しているのではないのか?」


「ならば、人を適性と能力で縛り職業の自由も与えぬのは幸福か!? 厳しい環境に一定の年齢までに適応できない子たちを間引くのは幸福か!? 強き者でさえ己の添い遂げる相手一つ選べず国が管理するのが幸福か!? 才能があるようだからと、生まれて僅かな時間しか子と過ごせない親がいくらでもいるこの国が、幸福なのか!? 全て貴様が黙認している事だぞ、ゼフ!! 答えろ!!」

 ……。
 魔族の、闇か。
 なるほど……。

「黙認ではない」

「言葉で誤魔化すか、魔王ともあろう者が!」

「黙認とされてはおるがな。実のところ、余は進んで認めておる」

「な、に?」

 ……。

「自ら持った適性と能力をもって己が暮らす社会に貢献することの何が悪い? この環境に耐えられぬ子が食い扶持ばかりを残して寝て過ごし、働ける者まで飢える位ならば余はその責を背負い、彼らを手にかけよう。この習わしは豊かな街に住む者や亜人には強制しておらぬが、存続したいと願う街や村に対して余は一切口を出さぬ。強き者が次代にその強さを残すのは国への当然の貢献である。強者のソレを一代にて終わらせることこそ国への損害だ。最後の親子の事についてだが、最も優れた者が王として民を導くは魔族のさがそのものだ。それを恨むのなら余や魔族の社会ではなく魔族に生まれた不運を嘆け」

「……農夫の子が、随分と偉くなったものだな」

「そのまま農夫が天職であったなら、と思わぬ事もないがな。お前こそ魔族を導くべき名門貴族の子が、家を潰したばかりか国家に反逆するなど。……随分と落ちたものだ」

「……せめてお前が、我らの悪しき慣習にだけでも疑問を持ってくれたのなら手を取り合えたかもしれなかったが。最早、意思は交わらぬか」

「同じだな。弱者の普遍的な救済は余の政にはない。一時の協力に終わるは明白だ」

「どこまでも力と選ばれし者に頼る政治が続くものかよ」

「優しい言葉に酔って隷属を良しとする者には永遠にわからぬよ。それよりも、ここまでやってくれたのだ……覚悟はあろうな?」

「精霊の暴走だけが我らの策とは思っていまいに。余裕の源はそこの化け物か? だが見せてくれよう、貴様らの知らぬ意志の示し方もあると言う事をだ」

「クズノハ商会の方々をそう称しているなら失礼を詫びよ。国を滅ぼす程の愚行はお前らも望まぬだろうからな」

 化け物程度は結構言われているからあまり気にならない僕がいます。
 じゃあお茶でも、と言われたら絶対に遠慮したけどね、テロリストな方々。

「それはいっそ都合が良い。今の魔族の国など一度滅ばねばならんのだからな」

「……ならばその無礼、余が代わって詫びておこう。馬鹿どもの首を並べて、な。イオ、レフト」

 ゼフ、イオ、レフトがその言葉で構えるどころかいきなり特攻。
 本当に見事なまでに首を撥ねて、十秒足らずで決着した。
 イオなんてビール瓶を手刀で開ける、曲芸みたいな芸当で。
 本当に厄介な巨人だな、この人は。
 器用で勤勉、かつ天性の才能あり、だもんね。

「策も使えずば意味はない、ですな陛下」

「いや命を懸けた時間稼ぎ、だったようだ」

 うん。
 何か、発動した。
 うっすらと漂っていた妙な力が輪郭をはっきりさせた。
 場所を探ると瓦礫に隠されるように、ゴテゴテした装飾を施された杖が床に突き刺さっている。
 あれ、だな。

「杖? もう発動し始めているみたいだけど」

「あれは、王笏? まさか! 澪殿、発動の妨害はできますか!?」

「そんなこと、簡単……ん? やけに古くて強い……。これは、打ち消せない?」

「そう、ですか。いえ、仕方ありません。もしあれが私の思っているものだとすると万が一ですが面倒に……まあ、万が一ですので大丈夫かとは思いますが」

 識が何か知っているみたいだ。

「識、あれ何?」

「……恐らく、エリュシオンの神器です。紛失した筈の物ですが、竜群王笏りゅうぐんおうしゃくかと」

「りゅーぐんおーしゃく?」

「エリュシオンの王に代々伝わる、竜を召喚する王笏です。色々と曰くある代物で、かの国の陥落は防げませんでしたが強大な力を秘めています」

 竜を召喚、ねえ。
 エリュシオン、竜。
 あれ、何か引っかかる。

「強大でも魔族が一度退けてエリュシオンは滅びたんだろ。識が慌てる程の事?」

「……あの神器は強大な魔力かそれに匹敵する血や命で発動するのですが。発動結果がランダムなのです」

「……ランダム?」

 テロリストの人たち、最後の切り札が他の国の神器って他力本願で、しかも発動結果がランダムって。
 玉砕しにきたようなもんだろうよ。
 言ってる事も気持ち悪かったけど、本当に理解出来ないな。

「……良くご存知だ。識殿は博識だな。あれは確かにレジスタントを名乗る奴らの切り札でエリュシオンの神器、竜群王笏だ」

「陛下」

 ゼフがこちらに歩きながら話しかけてきた。
 イオ、レフトもそれに続き三人とも首を複数手に持っている。

「我らの内憂に巻き込み、お詫びの仕様もない」

「いえ。それよりもあの王笏に対抗しなくて良いのですか?」

 尋ねるとゼフは首を横に振った。
 ゼフ、竜群王笏を知っていたみたいだ。
 存在を、じゃなくて所在をだ。

「最早何が召喚されるか運任せ。この場にいる者の幸運を祈るばかりだ」

「ちなみに、最悪の場合は?」

 幸運と言われると不運が気になるのは僕の性。

「上位竜を除くあらゆる竜がこの場に召喚され、狂気のままに暴れまわる」

 それなんて地獄絵図だよ。
 いや上位竜がいないだけマシか。

「あらゆる、ですか」

「うむ、世界の竜が一同に会するらしい。まあ、識殿が言われるようにその確率は万が一、だそうだが」

「それで竜群」

 確率万分の一が本当だとすると。
 ……0.01%?
 ないわー。
 命賭けられないわー。
 磐石と言って良さそうなゼフを崩すにはそれでも試す価値がある勝負なのか?

「……実の所。竜群が最高の結果だと言われているのは実績からの事、その上があるのを余は危惧してはいるが。そちらもモクレンに調査してもらった結果、あるとしてもそれはまさに万分の一以下、有り得ぬと言って良い確率だそうだからな」

 ゼロが沢山並びそうだ。
 安全圏という事だね。
 良かった。
 なら適当に出てきた竜を張り倒せばおしまいか。

「いけませんな」

「匂いますね」

 識?
 澪?

「何が?」

「若様なら引けそうな確率です」

「ええ。一週間の内に一生かかっても遭わないだろう存在に二度遭うような方ですものね」

 その片割れはお前だろうが。
 ……確かに、一週間足らずで巴に会って澪に会ったもんな。
 その確率は結構低そうでもある。
 洒落だろうけど、今この場で真顔で言われると中々クルね。

「二人共、何げに酷くないか」

「ほら」

「え?」

 澪の言葉に視線と手が示す先を見る。
 金色の光が一直線に闇の空に吸い込まれ、そのまま闇を引き裂いた。
 ……はぁ?
 久々に強烈な、昼みたいな光を全身に浴びる。
 一瞬閉じた目を開き、横にいたゼフを見ると……。
 初めて、彼が本気で焦りを滲ませていた。
 眉間には深く皺が入り、険しい表情で光を見つめている。
 先程までよりも強力な魔力を身に纏いながらゼフは不測の事態への対策を考えている、ように見えた。
 というかだ。
 この感じ。
 金色の光から感じる気配。
 あいつだ。
 繋がった。
 エリュシオン。
 王笏。
 竜。
 あいつしかいない。
 大当たりが、いや大外れがあいつかよ。

「まさか、実質生じえないだろうと結論が出た確率だぞ? そもそも竜群の上があると仮定しての二重の安全を考えての確率調査だった……」

 ゼフの言葉が耳に痛い。
 光の中心から大きな竜の影が姿を現す。
 西洋の竜。
 特徴はグロントを超える巨体と、その巨躯を更に大きく見せている翼。
 それも一対じゃない。
 三対の、大きさの異なる翼がその竜の特徴だった。

「……ルト」

 あの変態め。
 何を考えて僕の敵に回った?

「ルトだと。実在したのか……あらゆる属性を有する調和の竜。天竜、祖竜とも言われる上位竜の頂点。どうして、女神と対をなすような扱いをも受ける存在が、神器とは言え人が扱える道具の召喚になど応じるのだ」

 ゼフが苦しげに呟く。
 無理もない。
 この人がどこまで事態を把握していたのかは今はわからない。
 でも。
 王様は現実の範囲で現実に対処しなくてはいけない。
 そんな、信頼できる部下からの、現実に起こりえない確率とされた数字に対策を打つのは非現実的だ。
 ……逆に利用して何かをしようとした方が理解出来る。
 ゼフは、そういう王様だ。
 選ぶ事で前に進んで、でもその為には失う物やリスクがあるのもわかってる。
 やり方全部に共感はしないけど、わかる。

(……あー、久しぶりだね真君。この状況、ちょっと説明してくれるとありがたいんだけど)

 間の抜けた声が聞こえる。
 緊張感のない響き。
 念話だ。
 相手は一人しかいない。

(ルト。魔族領にまで出てきて僕と戦いたかったのか?)

(真君と戦う!? いやいやいや……って、まさか王笏の対象が)

(ゼフ以下僕を含むみたいだけど?)

(あっちゃー。参ったなあ……まさか王笏のネタで仕込んだ僕の召喚がここで発動するなんて。ねえ真君、実はどっかで確率の悪魔と契約でもしてない?)

(不幸を呼び寄せる契約なんぞするかよ。ただでさえこっちに来てから絶賛不運実感中なんだよ僕は)

(……この際、痛いのは我慢するから優しくしてね)

 ルトが言葉とは裏腹に凶悪な虹色の光球を作り始める。
 大きな口を開いた先にある光球、そこに力が次々に収束していく。
 お前、不可抗力なら帰れよ!

(痛くもしないから帰れよ)

(あはは、無理。この召喚は絶対。僕も手加減なしの一撃を強制されちゃってるんだよね。自縄自縛ってやつ。君も得意なやつね)

(皮肉はやめろ。じゃあ、せめて何をやる気か教えろ。あとはこっちでなんとかしてみる)

(あ、惚れそう。頼もしい! 六属性混合散弾ブレスって感じかな。近くにある城とか都市くらいまでなら余裕で消し飛ばせるね)

 気軽に凶悪な発言をするなと言いたい。

(……お前ってさ。一撃放ったら帰るわけ?)

(そうだよ。だって召喚獣ってそういう感じだったらしいから。旦那の遊んでたゲームでは)

(竜の遊び心って野放しにしちゃダメだってわかった)

 ルトの言葉を肯定するかのように、異様な高まりを見せる力が天井などないかのように上がっていく。
 地形が変わるなあ、この分だと。
 果たしてこの事態が本当に僕の不運のなした事かどうかはわからない。
 でも、魔族の都をこれで滅ぼしたらまずい気はする。
 すいません、僕って不運で。
 とか言えない。
 戦争に協力する気はないけど、いろいろ良くしてはもらってるし。
 それが力への評価だったとしても、事実は事実だ。

「まさか、このような失態をおかすとはな……」

 障壁を展開しながらゼフは苦笑している。
 残念だけど、彼でも全部は防げない。
 余波とか考えても都の半分は消し飛ぶ。
 人は半分じゃあきかないかもしれない。

「……」

 さっきの溶岩玉程度の攻撃じゃない。
 同じことは僕の魔力体マテリア・プリマじゃ出来ない。
 受け止めるのも弾くのも出来るけど、威力を殺しきれないから周辺に絶対に多大な被害が出る。
 それに散弾ってのも厄介だ。
 大きく展開するなら魔力体の密度が落ちるから。
 め、面倒くさい。
 いっそアズサであの口ごと射抜きたい。
 それやるとここを中心に巨大クレーターの出来上がりが確定。
 出来ないね。
 魔王達から距離を取り二人と相談を始める。

「澪、どうするべきだと思う?」

「避難すればいいのでは?」

 亜空に、と目が語っている。
 最高の避難先だ。
 僕らは無傷で済むし。

「……識は?」

「……魔術とはイメージの産物でもあります。若様の魔力体もまた然り。その延長でいくなら一応、若様が思ってらっしゃるような成功を見込める手がないではありません。ですが、私も避難をお勧め致します。魔族には不幸な事ですが、因果応報とも申しますから。こうなる因子は一応把握していたようですから覚悟するのもまた力の理に沿う生き方と言えましょう」

 手はあるわけね。
 じゃあやってみようか。
 どうせ僕はあのくらいなら死なないし、失敗しても僕が失うものはない。

「識、詳しく。澪も手伝ってね」

「おやりになりますか。では、先に私は魔王陛下に許可を頂いて参りましょう。ルト殿はまだまだ力を上げるようですし」

「若様がお決めになったなら私は喜んでお手伝いしますわ」

 識がゼフの所へ。
 僕が何かやって失敗した場合、魔族が一番酷い目を見るんだから。
 やっていいのかどうか、確認は必要だね。
 むしろ何もしてくれるなというなら、亜空に避難すればいいんだし。
 ロナは相変わらず治癒されているし、モクレンはかかりきりだ。
 かと言って識は貸せない。
 これから僕に協力してもらわないといけないから。

「六属性混合散弾ねえ。まあ、識の作戦を全力でやるだけか」

「共同作業ですわね。若様」

 輝くルトを見つめる。
 澪の上機嫌な声が、少し心を和ませてくれた。
相棒(PC)が昨日(停電で)亡くなりました。
猛暑も何とか乗り越えた猛者だったのですが……。
週末に新調する予定なので、9/30の更新はあまり期待しないで下さいませ。
今日の分については出勤前にネカフェから予約投下です。
急な事でしたので零時更新も間に合わず中途半端な時間となりました。
申し訳ありません。
感想の返信なども月末か十月頭になるかと思います。

ご意見ご感想お待ちしています。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ