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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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瑠璃の火山

「という訳で自由時間だね。外出許可もあっさり下りたしどうしようか?」

 非常に疲れた魔王との会談を終えて用意された部屋に戻って一息。
 澪と識を見る。
 やー、あれは凄かった。
 まさに魔王様、だね。
 子供さんも四人が四人とも、にこやかーな雰囲気で何やら話を振ってきたけど、常に返答それ以上の何かを見られていたような……。
 かといって一方的に質問攻めに遭うんでもなく。
 こっちからの質問にはあっさりと答えてくれる事が多かったし、頼んでみた外出許可は護衛とか監視がつくこともなく許可してもらえた。

「私としましては、少々ロナと話をしておこうかと」

「ロナと? あ、そっか……識は彼女と元々知り合いだったね」

「ええ。特に旧交を温める、でもありませんが。どうもあれは、こちらを余計に警戒しているようですからな。宴までまだ時がありますので“誤解”を解いておきます。魔王から先ほどの会談の内容は伝わっているでしょうが、そうなると行動は早い方がいいので」

 誤解?
 ん、何かロナに危惧を抱かれるような事したかな。
 特には……してないと思うけど。
 そうなりそうな芽がある、って事かな。

「……そう、か。じゃあ街に出たりはしないね?」

「はい、それは後日ゆっくり」

「澪は?」

「早速街に行って参ります。面白そうで美味しそうな所がいくつかありましたので」

 弾んだ言葉の澪。
 パレードで澄ました顔していたかと思えばさり気なく周囲をチェックしていたというのだから凄い。
 役者の緊張をほぐす言葉で、客をじゃがいもだと思えとか何とかを思い出す。
 澪からすれば、あれだけの魔族や亜人からの視線や歓声もじゃがいもが如きものだったんだろう。
 ……いや、あれは食べ物だからひょっとしたらそれ以下?
 どちらにしても見習いたい図太い精神だ。
 前回帝国行きの時には巴に代わって亜空の事とか、見ていてくれた澪だけど、今回の遠出には断固一緒に行くと言って聞かなかった。
 巴は前に行ったから今回は留守番だと、力説していたな。
 子供かと。
 何か、帝国から帰ってきてから巴は巴で上機嫌で、澪の言葉にも反論一つなく留守番を快諾していたし。
 もっとも、一応用事もあると言っていたから元々同行はしないつもりでいたのかもしれない。
 僕としては識に二回も同行させたのが少し心苦しい。
 でも一番安心して一緒に来てもらえるから、つい……頼っちゃうんだよなあ。
 識だけでも残せば、ロッツガルドの講義を休講にしなくても何とかなった気もするんだ。
 ちょっと反省だね。

「食べ歩き、か。夜は夜で宴会を開いてくれるようだから、あまり食べ過ぎないようにね。それから街に行くのに特に向こうから護衛が付くとか聞いてないけど、もし誰かにけられても乱暴な対応は控えること」

「はい、心得ています。撫でるだけにしておきます、若様。でも、もし心配して頂けるならご一緒に行かれませんか?」

「僕? 行きたいんだけどね。どうせだから先にルトのお使いを済ませちゃうよ」

「ルトの……? ああ、卵ですか」

 澪はルトの名に少しだけ考える素振りを見せ、思い至ることがあったのかポンと手を合わせた。
 正解だ。

「うん。紅璃あかりの卵」

「そうですわ、でしたら私もそちらに一緒に行っ――」

「あー、無理。何でも昔の澪がちょっとだけ、やらかした場所の近くみたいでね。何かあるといけないから」

「昔の私が……」

「まあ、さっさと終わらせて戻ってくるよ。さっきの会談で聞いた感じだと片道で何時間もかからない所みたいだし」

「確かに、北に数日と言っておりましたな。白の砂海と似たような感じとみて、若様なら数時間で行って、帰りは霧を使えば十分でしょう」

 識が補足してくれる。
 その場所の話題は向こうからしても予想していなかった話題なのか、キョトンとした顔をされた。
 魔族の領内にある地名を僕が口にすれば、それは不思議だろうと思う。
 ルトの根回しは今回、先方に直接されているようで魔族には特に話をしていないとの事。
 前回と違って今回は守役もりやくなる方々がいるので、そこまで配達すれば任務完了だ。

「では、仕方ありません。残念ですけど今日は新レシピ獲得に励みますわ。後、亜空の者へも何かお土産を探してみましょうか」

「それはいいね、後で美味しい店とか僕にも教えてよ。お土産になりそうな物もね」

「はい! 食べ歩き、是非致しましょう」

「それじゃ、行ってくる」

 部屋の窓を無造作に開けてベランダに出る。
 眼下に見える中庭は、幻想的な光でライトアップされていて凄く綺麗だ。
 でも僕はそっちは程々に上を見る。
 真っ暗な空を。

「いってらっしゃいませ、お早いお帰りを」

「お風邪を召されないで下さいね」

 二人の言葉を背に受け。
 バルコニーみたいに広い空間のあるベランダを蹴る。
 中空に魔力を固めてそれを足場にして、また蹴る。
 そうやって暗い空に駆け上がっていく。
 都を覆う結界を出てしまい、風と雪が周辺を支配する所まで来た。
 目的地の方向を確かめて、彼方に一つ目印のマーカーを設置。
 目では見えないけど、感じる。
 これで吹雪でも方向を見失う事はない。
 部屋にはちゃんと帰還用の霧の門を作る為の下準備も完了している。
 こっちは戻ってきたら片付けておけばいい。
 さて、目指すは氷原の火山。
 間違いなく秘境。

「瑠璃の火山か。やっぱ名前の通り青いんだろうか、綺麗な所だと見応えもありそうなんだけど」

 少しばかりの期待を抱きつつ。
 僕は吹雪の中に飛び込んでいった。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 魔術がなかったら確実に遭難しているだろうな、と思う雪嵐の闇の中。
 既にさっきまでいた都の光もまるで見えなくなっていた。
 白の砂海と同じくらい過酷な環境なんだろうな。
 暑いと寒いの違いはあるし、向こうはトラップが一杯で、こっちは自然が猛威を振るってるだけってのもあるけど。
 しかし、紅璃ってのは炎を司る竜らしいのに、何でこんな寒い所にいるんだろう。
 いや火山だから、実際にいる場所は寒くはないのかもしれないけれども。
 外はコレだよ。
 ソフィアの様子から想像すると、紅璃って空を飛ぶ火を吐く竜、なんだ。
 どうもいる場所のイメージが合わない。
 レーザーみたいな熱線? 火線? を吹く火竜。
 ファンタジーの象徴でもあるドラゴンの、更に王道をいくような竜だ。
 レーザーはいき過ぎているものの、まさにレッドドラゴン。
 雄大な姿を見てみたくもあった。
 チラッと布袋を見る。
 今は、卵だからなあ。
 ドラゴンの成長が早いとしても、多分僕の生きている内には見れないだろうなあ……。
 ソフィアめ、余計な事をしてくれたもんだ。

「おお、あれか? 距離的には……あれだよな。でも真っ赤だよ?」

 ぼんやりとピンクのもやみたいなものが見えたかと思えば。
 更に何度か空を蹴ると僕の目に氷原に似つかわしくない、真っ赤な光が見えた。
 それは山のような形を為していて。
 近付く内に宝石のルビーみたいに煌いた、一際高い山がそこにあった。

「これだったら紅玉火山とかになっていそうなんだけど……うーん?」

 無名の場所って事はないと思う。
 目立つし、ただもの(?)じゃない感がある。
 とりあえず、着地。
 足元もキラキラして赤い。
 これルビーだったら凄いよな。
 億万長者的に凄いよな。
 それらしい色のガラスだったら……いやそれでも凄いよな。
 うん瑠璃の火山(仮)、見応えは十分。
 後で少し採取してみようか。
 南の海でつい貝殻を拾ってしまう気分とはこういうものかもしれない。
 経験はないけど。
 ちょっとだけ、欲に動かされた考えだけど。

「ここがそうなら、誰かが住んでいる筈だよねっと」

 界を探索に回して一気に山全体まで広げる。
 多少魔力体が可視化して、魔力自体も漏れ出るけどそれは仕方ない。
 まだまだ百パーセントの固定化とか、完全に消耗なく循環させるなんて出来たものじゃないから。
 それが出来れば永久機関だもんな。
 目指す所としてはそれは良いかもと思う。
 攻防一体だし、ばれてもデメリットが少ない。
 問題があるとすれば、常時可視化の状態で展開してると多分人が寄りつかなくなるだろうって事くらい。
 誰からも見えるスタ○ドを常に出して歩いてたら、一日に何回「貴方憑かれてますよ」と言われるかわかったもんじゃない。
 目に見えて面倒。絶対に嫌だ。

「いた。向こうに洞窟ね、なるほど」

 向こう、山の中腹ほどに中に入る穴がある。
 その奥に百人には満たない程の命の反応。
 亜人か、魔物だな。
 よし、行こう。
 特に罠もなく、魔物も出ない。
 ここまでに比べればむしろ安全な位だな。
 僕の不注意で真正面から相対しちゃった大きめのフロストドラゴンをはたき落とした位で、特に戦闘らしい戦闘もせずほとんど振り切りでここまで来た。
 でもエンカウント率だけなら実はそれなりにあった。
 全部相手をしてたら、死骸が目印になって誰がどこからどこへ移動したのかわかるくらいには遭遇してる。
 それだけに、ここを安全だと感じた。
 住んでる人達がそれなりに巡回して安全を確保しているのかもしれない。

「おっと……へぇ」

 横穴のある場所に到着する。
 特に躊躇いもせずに中に入ると、少しして様子が変わった。
 なるほど。
 思わず言葉が漏れ、歩みを止めて周囲を見る。

「なるほど、瑠璃ね。中は真っ青とはまた」

 外は赤で、中は青。
 ……残念だけど環境を含めて住みたいとは思わない場所だ。
 綺麗だけど、観光までが限界。

「あ、お迎えかな?」

 しばらく進んだ所でこちらに近付く存在を感知して、足を止める。
 一人だ。
 特に魔術を行使しているふうも、攻撃態勢を取っているふうもない。
 しかし、青いな。
 青い光は安眠に良いとか何とか聞いた覚えがあるけど、ちょっと疑わしくなる。
 ガセだったのかも。
 何とも落ち着かない。

「……名をお聞かせ願います」

 現れたソレは、僕を見て微かに動揺を見せた。
 でも言葉を発し、自己紹介を求めてきた。
 驚くべきことに、共通語で。

「ライドウと申します。ルトの依頼を受け、上位竜紅璃、様の卵をお持ちしました」

 危ない危ない。
 様をつけ忘れるところだった。
 グロントの件で少し慎重にやろうと思ってたのに、出てきた人(?)がちょっと不思議だったからつい。
 スライム?
 まあ、青い水がジェルみたいな半固形になっている感じのあれが、人型をしている。
 一応顔らしい凹凸はあるみたいだけど、何と言うか……。
 あ、女性なんだな。
 胸だろう部分がある。
 服を着ていないから、今僕は素っ裸の人と話している訳で。
 それは女性らしいんだけど。
 いかんせん彼女どころか向こう側まで透け透けなので性的な感想が一切湧かない。
 凄く失礼な意味で紳士でいられる。
 流石にこのレベルに欲情するのは相当な強者つわものだと思う。
 智樹でも多分……いやあいつなら案外見境なくいくか?
 いや、でも……。
 って何を考えているんだか。
 とにかく、すみません。
 ついでにルトからの情報が確かなら、昔澪が皆さんを絶滅寸前まで追い込んだそうですみません。
 言葉にはしないけど、謝っておく。

「そちらが、アズマ様でしょうか?」

 アズマ?
 一瞬、鼓動が跳ね上がる気がした。
 懐かしい名前。
 でもこの、スライム人(仮)とでもしようか、からその名前が、僕の知る意味で出るとは思えない。
 心を落ち着かせる。
 あ、卵を見ている。
 もしかして。

「……失礼、そちらが紅璃様でしょうか」

 やっぱり、竜の名前か。
 アズマって言うんだ。
 ちょっと親近感が。
 親しい知人と、同じ名前だから。
 って、日本人どころか名前だけでこんなに反応してるようじゃ駄目だな。
 大体、名前は同じでもこっちのアズマは男だって話だし。
 そっか、上位竜って男四人(匹か?)で女三人なんだな。
 ……いや、待てよ。
 元はルトは女なんだから女の方が多いのか?
 でも今はアレ男だろ?
 考えるのも精神に優しくないけど、前に僕の子供がどうのと言っていたから女にもなれる筈、って考えると。
 うん。
 間を取ろう。
 上位竜は男三、女三。
 他一名でいいや。

「あの、ライドウ様?」

「あっ! はい、そうです紅璃様です! すみません、ちょっとボーっとしちゃって」

「お疲れなのですね。無理もありません、ここまでの道のりはどのルートも過酷ですから。後ほど身体を休められる場所にお連れしますが、まずは卵を……よろしいですか?」

 背に担ぎ、脇から覗いていた袋を彼女にわかるように開き、中から卵を取り出す。
 それを見た時、スライム人に畏敬の感情が表れた。
 卵でもわかるんだ。
 流石は、守役だろうか。

「確かに、確認致しました。疑いを持った失礼をお許しください。どうぞ、我々紅璃様の守役が住まいにご案内致します、ライドウ様」

 良かった。
 今回は何事もなく終わりそうだ。
 あ、そうだ。
 この外の赤いのと中の青いの、少し持って行っていいかこの人達に聞いておこう。
 あと、ルトからどう話を聞いているのかも。
 ……あの変態にそう易々とは踊らされないからな。
 僕もグロントの時みたいな無益な戦闘は御免だし。
 グロントさん、多分最後の方いじけてたしなあ……。
 それから……そうだ、ちゃんと間に合う様に都に帰らないと。
 こういう場所って時間の感覚も怪しくなるから。
 我ながらのんびりした事だとは思うけど、ちょっとずつは前に、ね。
 二つ目の卵配達を無事に終え、僕は若干安堵しながら秘境の景色を満喫した。
ご意見ご感想お待ちしています。
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