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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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識先生再び

 白の砂海でも思ったけど、この世界はまだまだ不思議な場所が沢山あるみたいだ。
 流石ファンタジー。
 イオとロナに迎えられた僕らは、数日の道のりを彼らと一緒に進んでいた。
 初日は吹雪いたけど、一日のサイクルは普通で、魔物の襲撃も魔族の皆さんが華麗に撃退してくれた。
 出てきた魔物はケリュネオンと同じ顔触れもあったから、対処方法を参考に出来ないかと見学してみたりもした。
 驚いたのは二日目の昼頃から。
 まだ昼なのに薄暗くなったと思ったら、そこから一気に空が暗くなった。
 小一時間も進んだときにはもう夜そのもの。
 地面も所々が氷に置き換わっていて、地表を撫でているような感じになった。
 吹雪の勢いも強まってとても人が踏み入る環境じゃないように思えた。
 でもここではそれが普通なのか、魔族側に慌てた様子はなく初日同様に防寒の結界を展開してキビキビ進んでいく。
 恐るべし北国住まい。
 結局、常闇とも言える状況で吹雪の中、氷の野を進む得がたい経験をした。
 三日目。
 朝が来ない。
 二日目の午後からずっとここは夜だ。
 太陽が出ない場所なんてあるのか。そりゃあ寒いわ。
 この日は、って今日の事になるんだけど、魔族に少し慌てた動きがあった。
 魔物の襲来だ。
 それ自体は珍しくもなくなっていたんだけど、どうやら出てきた敵のレベルが予想以上だったみたいだ。
 かなり迫力のある巨躯のライオン。
 体毛真っ白。
 ケリュネオンでも見たという報告は聞かないし、僕も初見だ。
 立派なたてがみをしたオス(だと思う)が何匹か襲ってきた。
 オス(仮定)が狩りをするのかって驚いたね。
 僕らに飛び掛ってきた時、その大きさがはっきりとわかる。
 前に出た魔族の兵が偶然にも煙草の箱の役割をしてくれた。
 大型のワンボックスカー位あった。
 そしてはやかった。
 慌てて陣形を整えようとした魔族の兵が一瞬で噛み殺された。
 凌いだ人もいたようだけど、僕の前に出た人は駄目だった。
 軽く言葉を交わした位の関係しか兵隊の人とは築いてないけど、残念な気持ちになる。
 供養になるかわからないけどせめてこいつを倒してあげようかと手を動かした時、そこに識の手が当てられた。
 顔を見ると首を横に振られる。
 なんのこっちゃと思ったけど、少し様子を見る事に。
 結局イオとロナも戦線に加わって白いライオンを撃破した。
 その後も想定外の事が何度か起こった。
 これまでとは明らかに強さの違う魔物が出没しては、同行していた兵を傷つけたり殺したりした。
 防寒の結界は維持されているし進行のペースも変わっていないけど、なんとも満身創痍を思わせる日だった。
 振り返ってみても、ちょっと普通じゃない気がする。
 今、ようやくの休憩を得て、僕らは識が用意したテントで休んでいる。
 ロナは僕らの分のテントも用意してくれていたが、それは辞退していた。
 一応こちらで準備するとは伝えてあったんだけど、この辺りの寒さを想定してちゃんと対応できる物を僕らが用意してくるか不安だったのか、万が一の対応として持ってきてくれたんだとか。

「ここまでの寒さだって識は想定してたの? これすっごい防寒も考えてあるっぽいけど」

「はい、魔族領は極寒の地ですから。このテントは即座に展開できて大抵の環境に対応出来るように作らせました」

「助かるよ。でもさ、魔族も一応用意してくれてたみたいだけど断って良かったのかな」

「ええ、これに劣るとは言え、どうせ夜は亜空に戻って休んでしまうのですから、あちらの好意を受けて差し上げた方が良かったんじゃありません?」

 あ、澪と同じ意見なんだ僕。
 って事は何か問題がありそうだなあ。
 そうか。
 魔族側から借りると何か探りを入れられる可能性がある?

「あちらはこちらの不備に備えただけの事、それにロナが用意した物になど頼りたくもありませんので」

 やっぱり。

「とロナがどうのというのは冗談ですが。お互いの立場を考えてロナはこの道中にそういった事は出来ませんから」

 ……。
 やっぱり、って口に出さなくて良かったー。
 ここはどうしてって質問してもいい感じだろうか。
 何となく、躊躇するな。

「どうしてです?」

 ナイスです澪。

「こちらは招待された客人で、ロナは魔王の言葉を我らに伝え案内をする役だからですよ。あれでもロナは魔王には忠実ですから、その任務を放棄するようなことはせんでしょうな。だから、例え奴の用意したテントを我らが使ったとしても、夜亜空で休んだとて問題は無いのですよ。内部を探る事は彼女にとっては絶対に出来ない事なのです」

「バレないようにやれば良いだけじゃありませんの?」

「私がおります。もしも私に気付かれたら。それに若の力も見ていますから半端な事は全て逆効果だとわかっていますよ、あれも」

 識って。
 ロナの事を本当によく知ってるんだな。
 馴染みの仲というよりは犬猿の仲って感じだけど。

「はぁ、面倒」

 澪は溜息を一つ吐く。
 ここの所、朝と昼はあんまり彼女が満足するような食事じゃないからなあ。

「で若様。先ほどはお手を止めてしまい申し訳ありませんでした」

 頭を下げられる。
 別に、謝ってもらう事じゃない。
 理由は聞きたいけどね。

「いや、別に謝らなくていいよ。でも、理由は何? ちょっと手伝おうと思っただけだよ?」

「ソレです。あれはロナの手です、若様」

「……え?」

「数まで予想していたかはわかりませんが、強力な敵に襲撃させて若様から協力を申し出てもらおうとしたのですよ、あの女は」

 いやいや、それは疑いすぎでしょうよ。
 味方も結構酷い目に遭ってるぞ?

「いやそれは」

「その証拠に。我々が出なくてもきちんと対処してみせたでしょう? 全部」

 ……。
 白いライオン、雪獅子も氷みたいな鱗の竜、フロストドラゴンも確かに魔族だけで対処しきったけど。
 それ理由になるか?

「……もう少し根拠がございます。彼らはあのような事態でも防寒の結界も切らさず、人手が減ってもすぐに陣形を立て直していました。見事な錬度と評価する事もできますが、私には予め予想していた反応のように見えました」

 防寒の結界はこれまで通り、戦闘中も解かれてない。
 陣形も、すぐに穴を埋めてはいた。

「そう言えば、戦闘中数名の兵が私達の方をしきりに気にしていましたね。ロナという女はさりげなくしていた程度ですけど」

 全然気付かなかったんですけど。
 暗い中の吹雪で、あんまり周囲に気を配ってなかったなあ。
 反省だ。

「ええ。魔族からは協力を頼めない。でもこちらから進んで申し出る分には受ける余地はある。こちらの力を少しでも見る事が出来るし、共闘は連帯感も生みますからな」

「部下が死ぬのも予想していたって事?」

「死ぬ可能性は考慮していたでしょう。実際には助かる可能性もあったでしょうが。負傷兵で治療を受けているのは助かった方の兵でしょうし」

「そこまでして、僕らを探ったり引き入れたりしたいもんかねえ」

「したいのでしょうね。全貌を知るなら何を犠牲にしても。全てを把握していない魔族ですら、まるで国の客を迎えるような厚遇をするほどには」

 それこそ、無駄なのになあ。

「たかが商会の代表を招く態度にしてはやっぱり度が過ぎてるよね。魔将が二人だもん」

「ええ。それにイオの自己紹介、ロナの挨拶。気付かれましたか?」

 あれか。
 僕も少しは違和感を感じてた。
 と言っても。
 言われてあれかと思い出す程度に、だけど。

「うん、何か変だったね。イオの方はまるで初対面みたいだったし、ロナの方は変異体の一件前みたいなフランクな感じだった」

「その通りです。イオは王都での事は出来ればノーカウントにして欲しい、ロナの方は変異体の一件の前の振舞いが本来の自分ですよ、と言外に伝えているものかと」

 なにそれ。

「ちょ、調子よくない?」

 でもそうだとすると。
 いや王都で会ったじゃないですか、って返さなくて正解だったのか。
 言ってたらイオの思惑を思いっきり否定しちゃうし。

「恐らく魔王から何か言われるでしょうが。そのような意図だと思いますよ。つまり」

 識は一度言葉を区切って目を細める。

「これまでの”不本意な”関係は一度水に流し良き関係を築いていきたい。魔族は本気で若様とクズノハ商会を欲しているようです。この分だと魔族の都に着いたらパレードでもしてもらえるかもしれませんな、くふふ」

 くふふ、じゃないよ。
 巴化してきてないか、識。
 そっちに行かれると僕の心のオアシスが消えてしまう。
 勘弁してくれ。

「パレード。パーティーならまだ価値もありますが」

「澪殿、パレードがあってパーティーが無いのはまずありえません。歓迎のランクとして宴は基本ですから」

「……なら良い事ですね」

 よくなーい。

「魔族独自の食というと、半分凍った肉をそのまま薄切りにして食べるものや、様々な味の付いた氷を利用した氷料理なるものがありますな。以前に訪れた時にはその程度しか見ませんでしたが、これほど偏った環境ですから他にも色々あるやもしれません」

「今日にはもう都に入れるのでしたか?」

「いえ、今日は集落で一泊すると聞いています。都は明日ですね」

「早く食べたいですね、若様」

「えっ、あ、うん。そうだね、楽しみだ氷料理」

 つい反射的に答えちゃったな。
 ……冬に冷たいものか。
 こたつでアイスは鉄板だけど、こっちではどうなんだろう。
 立って外の様子を見る。
 少し先がもう見えない氷の地面。
 星も見えない真っ暗闇に吹き荒れる風と雪。
 強風の音だけが一帯に響いてる。
 今いる場所が場所なだけに凍った肉とか氷とか言われても、いまいち食欲が湧かない自分がいる……。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 パタンと。
 静かに扉が閉まった。

「ルト! 貴方ねえ、何なのよいきなりランサーの卵を非常識が砂海を滅茶苦茶におばさんって!!」

 意味不明な言葉と共にそれまでは落ち着き払っていた妙齢の女性が顔を隠すフードを取り去って、部屋の奥にいる人物に向かって詰め寄っていく。
 上着のボタンを外しフード付きのローブを脱ぎ去ると彼女は横にあったソファに投げるように衣服を放った。

「っと。ご挨拶じゃな砂々波さざなみ。久しぶりの再会じゃというのに、いきなりこれとは」

「っ!? あ、ごめんなさい。つい……!?」

「予想通りか。いやー、真君なら絶対やってくれると信じてたよ! 砂海あそこは僕でも覗けないエリアだから、こうなると見れないのが心底惜しかった!」

 他には誰もいないと思っていただけに女はソファから立ち上がった人物を見て、謝罪するもすぐに絶句。
 そして奥にいた彼女の目標、ルトは満面の笑みと共に自ら彼女の所へ歩き出した。

「貴女、蜃!? え、でも少し違うような……」

「蜃じゃよ。いや蜃だった者というのが正解かの。とあるヒューマンと支配の契約を結んでな、今はの者の従者として忠実、従順に仕えておる」

「けい、やく? しはいの?」

 考えて話しているのではなく、鸚鵡おうむ返しに返しているような無機質な女の声。

「おう。よって今は巴と名乗っておる。先だっては帝都にも行ったぞ、主の供でな」

「あら。寄ってくれたらお茶くらい出したのに、水臭いのね。でも私もちょっと込み入っていたから仕方ないわね。お構いもしないでごめんなさい。折角貴女が荒野から出てきてくれたのに」

 旧知の竜との思いがけない再会に彼女、上位竜砂々波ことグロントは挨拶する巴に応じた。
 やはり、まだ状況が飲み込めていない。

「くくっ……で、グロント? 僕に何か用なんだろ?」

 ルトは巴の向かいのソファに腰を下ろして立ったままのグロントを見上げる。

「!! そうです、ルト!! あのヒューマンは何なのですか! ランサーの卵、上位竜の卵ですよ!? それをヒューマンになぞ預けて!!」

「でも強かったろ?」

「そ、それはもう」

「やっぱり僕より?」

「少なくとも貴方と喧嘩をした時よりは絶望的な気分になりましたね」

「はぁー、やっぱりかぁ。傷つくなあ、同じ上位竜にもこう言われるんだもんなあ。真君ナニモノになる気かねえ」

 ルトがソファの背もたれに身を投げて天井を見つめる。
 言葉の割に随分と楽しそうだった。

「まこと? いえ彼はライドウと言っていましたけど」

「ああ、どっちでもいいよ。真君がライドウだから。ま、あれだよ。僕らみたいに名前が二つあるようなものだ。気にしないで」

「はぁ。それなら……で済む訳が無いでしょう! きっちりと説明してもらいますよ! あの最終兵器みたいなヒューマンの事、ランサーがどうして卵になっているかって事、何で私がランサーの面倒なんて見ないといけないのかって事!!」

「……しかしさあ巴。凄いよね、冒険者ギルドの一室に、今上位竜がこんなに揃ってるんだよ? これってちょっとしたサミットだよね。さしづめD……5?」

 グロントは凄い剣幕で巴の隣、ルトの真正面に座ると彼に詰め寄る。
 しかしルトはその険しい表情も涼しく流して巴に話を振った。

「実質は3じゃろうが」

「惜しいなあ、グロントがランサー持ってきてくれたら6だったのにさ」

「発言できんのが増えても何の意味もあるまいよ」

「集まりが悪い近年では稀な出席率なのに……」

「ルト!! 何を意味のわからない事を言っているんです! 私は誤魔化されませんよ!!」

 グロントの剣幕はおさまらない。

「わかってるよ。ランサーの事だろ? 今説明するって……ほら、これ」

「……は?」

 ルトがテーブルに二つの卵をどこからともなく取り出して置いた。
 グロントの目が点になる。
 その卵が何かわかったからだ。

「こっちが夜纏でこっちが瀑布。はい、残念。上位竜はここにいる僕ら以外全員狩られちゃいましたー!!」

「……ええっと、え?」

「最初が一応御剣、ランサーで、次が瀑布でしょ、その次が夜纏で最後が紅璃。もう次々に殺し回ってくれてね」

「私、何も聞いてないわよ?」

「そりゃあ上位竜を的にするんだから、その辺りは良く考えて動いていたんじゃないの?」

「……っ!! まさかそれをあのヒューマンが!?」

「へっ? あー、違う違う。彼は事件を収拾してくれた人。犯人を倒してくれたの。それで皆卵になってて、ランサーについては守役もいない子だから近場の君に任せようかと思って真君にお使いを頼んだって訳」

「……犯人って何者よ」

「恥ずかしながら僕の血を妙に受け継いだヒューマンとドラゴンの混血が犯人。いや、倒した竜の力を取り込んで結構無茶な感じになっててね。帝国の勇者君なんかも死に掛けたんだよねー。いや、申し訳ない」

「帝国の勇者。ああ、魅了の。アレがいるから私も若返ってしばらく帝国を留守にしようと思ってたのに……」

 グロントは頭痛を抑えるような苦しげな表情を見せ、手を額に当てる。

「こんな状況だからそれは勘弁ね。もう少し落ち着いたら別にしてもいいよ。君の場合、記憶を残したまま転生できちゃうからね。その術、是非教えて欲しいもんだよ」

「転生せずにそうやって生きている貴方には不要でしょう。それで?」

「なにが?」

「あのヒューマン、上位竜を四匹も食らって力にした化物を相手にどうやって戦ったの? 貴方も協力したんでしょ?」

「ん、真正面から力で。僕についてはトドメだけ譲ってもらった感じ? おかげで彼には人材とか色々都合する羽目になってさ。まあ関わって楽しい子だから別に良いんだけどさ」

 グロントの目がまた点になる。
 口も顎が外れたようにパカーッと開いている。
 黙っていた巴が口元を押さえつつ笑いを漏らしていた。

「……ねえ、ルト。どこまでいつもの悪ふざけ? 私はどこから真面目に聞けばいいのかしら?」

「失礼だな。悪戯したのは真君への言伝くらいで、他は一切真面目に話してるよ」

「言伝?」

「うん、帝国に僕の叔母さんでグロントって竜がいるからランサーの卵届けてきてお願いって」

「やっぱりあれはお前の仕業かああああああ!!」

 瞬間移動かという素晴らしい動きでテーブルに片足をかけたグロントがルトの胸倉を掴んで持ち上げると、前後に激しく振った。
 今日一番の動きだ。

「ちょ、グロ、落ち、着いてっ!!」

「落ち着いていられますかぁっ!! 私ね、あんなに絶望的な思いしたの初めてよ!? ブレスは服も揺らせないし、術は発動して当たっても届かないし時々キャンセルもされる! 爪も牙も尾も何発当てても申し訳なさそうに頭をかいてるし!!」

「あちゃー、あの魔力体そこまで強度があるんだ。しかも随分安定してきてるような。恐いなあ……」

「恐いなんてもんじゃないわよ! 仕舞いには私の爪割れて砕けて物凄く痛かったんだからね!? ほら!!」

 片手でルトを吊るしながら、グロントは右手をルトの眼前に出す。
 綺麗な指だったが、言葉の通り爪が盛大に割れて見る人が顔を顰める痛ましい状態になっていた。

「治してもらえんかったか」

 巴がお茶を啜りながらグロントに声を掛けた。

「治しましょうか、って言われたわよ? でもね……はい、お願いしますなんて言える訳ないでしょう!? 散々殺気を撒き散らして攻撃をしてた私が疲れ果てた所を、無造作に掴まれて投げ飛ばされた後に言われたのよ!? 舐めないで、用事は何、って強がるのが精一杯よ!!」

「なるほど、竜が打ちひしがれてそれでは、若もそれ以上言えぬか」

「私にもね、一応上位竜という誇りが……若??」

 これまで顔も向けずに巴に応じていたグロントが、この時初めて巴のいる後ろに顔を向けた。

「ああ、儂も帝国に行ったと話したであろう? 主の供で、とな」

「ええ」

「儂の主はな、ライドウと言うんじゃ」

 場の空気が凍る。
 騒々しい空気を作っていたのはグロントであり、彼女が凍りついただけの事だが。

「……なんですって?」

「先刻言ったではないか。支配の契約をヒューマンと交わしたと。その相手がライドウこと真様。儂の主じゃ」

「支配の、契約。そう言えばさっき言ってた……ええええええ!? ヒューマンと、支配の契約!?」

「どれだけ時間差なんじゃお前は。芸人志望にでもなったか?」

「え、だって貴女。上位竜、ヒューマン? 支配って、それがあの子、ライドウ?」

「そうじゃ。おっとルトを降ろすでないぞ? そのままじゃ」

 グロントが放心したようになり、ルトを持つ手から力が抜けようとしていたのを巴が制する。

「あれ、なんでそういう事を言うかな巴。今夜は久々に上位竜で飲もうって話だったよね? 確か君の作った美味い酒があるとかで?」

 ルトは不穏な空気が頬を撫でるのを感じた。
 恐る恐る巴に確認を取る。

「無論、偽りはない。じゃがな?」

 巴はグロント越しのルトに向けてこれまでと異なる鋭い光を宿した目で続ける。

「酒宴の前に、少々聞きただしたい事があっての? まあもう自白は取れたが。よくもまあグロントへの禁句を若が言う様に仕向けてくれたのう? しかも連呼しそうな勘違いで」

「い、いや。それはさ、真君なら百パーセントグロントを殺したりする事もないし、かといってグロントに彼を殺せる訳もないってわかっていたからでね? ほら、良く考えてみなよ。真君の事がある意味一番よくわかるのは、やっぱ拳をあわせてみる事じゃない!?」

「……それで私は心に割と凄い傷を負いましたけど?」

「グ、グロント。落ち着こう。二対一なんて上位竜のやることじゃないと思わないか?」

「安心せい、グロント。後の酒宴にて存分にその傷、極上の酒で癒してやろう。じゃから今は……わかるな?」

 ルトと巴がグロントに向けた言葉を放つ。

「わかります。今は巴、だったわね。この悪趣味なお馬鹿に少しお話をしなくてはね、そうでしょ?」

「うむ。当然拳で、な」

「ええ、拳ね。丁度いいわ、コレが終わったら爪を治療しましょ」

「巴、お前最初からその気でここにいたね!?」

「ちと、好き勝手が過ぎたなルト。なに、夜までは長い。今のうちに休憩でもしておくがいい!!」

「どれだけ恐かったか思い知らせてあげますからね!!」

「ちょお!? 今日は本当に仕事が溜まっ……あがああああっ」

 その夜、巴が持ってきた日本酒は二人の竜姫の喉を存分に潤した。
 約一名の傷には沁みた。
ご意見ご感想おまちしています。
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