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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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同郷

 正直、先輩については有名人だし動向も掴みやすかったから、偶然に出会うというケースは想像してなかった。
 面識のある識が一緒の時じゃないだけ不運も極まってないからよしとすべきか……納得いかないけど。
 今日の識は確か、終日亜空だったな。
 となると先輩に会う可能性はまずないと。
 えっと、先輩と僕の共通の知り合いっていうと、リミアの王様とヨシュア王子だよな。
 だからあの二人が先輩にライドウとしての僕の事を話していると想定した方が無難な訳で。
 でも先輩は僕を深澄真だと認識しているからライドウだとは思ってない筈で。
 だから僕としてはライドウって名前を名乗るべきなのか隠すのが得策なのか?
 名乗ればクズノハ商会の主がライドウだって事も知れるし、先輩はクズノハ商会の事も知っていて来ようと思ったんだよな?
 となると隠しても遠からずバレるような気もする。
 待てよ。先輩に僕がライドウだと知られて困るか?
 リミアの王都に行った時には名乗っていなかった、と思う。
 つまりここでライドウと名乗らなくても近く露見する可能性が高いのか?
 なら嘘をつかない方が結局はプラス?
 偽名なのは行動を掴まれたくないやつ(女神)がいたと説明すればいいんだし。
 それに嘘ついてキョドっても先輩にはバレそうな気が凄くするんだ。
 ……。
 うん、ライドウと名乗ろう。
 その方が楽だし、後々にも良い。
 十分に混乱した頭で色々考えて何とか結論を出す。

「深澄君?」

 硬直していた僕を呼ぶ先輩の声。

「あ、先輩実はですね……」

 目の前で怪訝な顔をして僕を見る先輩に、僕はライドウと名乗っている事を伝えた。
 何故かライドウの名前にひどく驚いた様子の先輩。
 王様と王子様。
 一体何を先輩に話しましたか!

「あ、貴方がライドウ? それって、クズノハ商会の主の名前と同じよね?」

「は、はい。僕がクズノハ商会の主やってます。その、周りに助けられて何とかですけど」

「深澄君が、ライドウ……。っ、ちょっと待って、そこも大事だけどそれよりももっと大事な事があるじゃないの!」

「え?」

「貴方も、勇者なの? 女神から勇者はこの世界に二人だって聞いていたのに。貴方がいるって事は、三人目って事なのよね?」

「あ……、いや僕は先輩方とは少し事情が違いまして。女神の言った事は正しいです。勇者は二人、僕は勇者じゃないですから」

「でも召喚されたんでしょう。彼女に」

「はい、まあ。あ、すみません。まずはクズノハ商会、ウチに案内しますね」

 元々先輩はウチに用があったみたいだしな。
 このまま外で話すよりもそっちのが落ち着ける。

「クズノハ商会に? ん……そうね。それじゃ少しお邪魔させてもらおうかしら」

「ええ、どうぞ。少しって事は、先輩お急ぎの用事でもあるんですか?」

 ローレルに向かってる最中の筈だから暇じゃないだろう。
 どうせだからその辺りも聞いてみようかな。
 お互いに質問ばかりになりそうではあるけど、少し楽しみでもある。
 仲間が何人かいた筈だけど、今は一人だし。
 武器である剣を布に包んで背に持っているのも妙ではある。
 この学園都市ではあまり武装して歩いている人はみなかったりするから。
 先輩は勇者なんだから盗まれる心配もない高級宿に宿泊していると思うから預ければ街を歩くのも楽だ。
 治安の悪い場所に出向こうっていうのなら持ってた方が無難だけど、そうすると仲間を連れていない理由がよくわからなくなる。
 とにかく色々と考え事をして、再会の瞬間に思い出した過激な衣装の先輩の姿とそれを見た僕の格好を頭の中で打ち消していく。
 その所為もあって、僕は短い時間ながら先輩を案内する間は言葉も少なく。
 先輩も何か思う事があるのか僕の後を黙ってついてくるだけだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「でね、クズノハ商会には良い腕をしたドワーフがいるからって言われたのよ」

「その剣の手入れが用件でしたか。でも先輩、ウチの職人に出来たとしても今日中には多分無理かと」

 商会の応接室で先輩の話を聞くと、急遽学園都市に来る理由を話してくれた。
 途中リミアの王都での一戦にも触れたけど、識とかラルヴァって名前から僕らに辿り着いた訳じゃなくて心底ほっとした。
 リミアローレル間なら一応通り道にならない事もないロッツガルドに寄った理由がクズノハ商会の職人とは。
 リミアの人たち、結構ウチの事調べていったんだな。
 それか、音無先輩を寄越してリミア王国への協力要請でもする気だったのか。
 日本にいた時も人を惹きつけるオーラがある人だったからなあ。
 当然、今もね。
 日本で遠目に眺めていたままの先輩だ。

「武器の手入れが一日で終わるなんて私も思ってないわ。一週間ほどでまたここに寄れるから、その時までに出来上がっていれば問題ないの。ここにベレンさんがいれば話が早いんだけど、いらっしゃる?」

 ベレン?
 なんでベレンの名前が?

「ベレン、ですか。彼はツィーゲにあるウチの一号店で働いてもらってますが。ご存知でしたか」

「この剣、ベレンさんに作ってもらった物だから。少しもらった時とは形が違っちゃっているんだけどね」

 ベレンが先輩に武器を作った?
 知らない間に妙な縁が出来ている。
 ツィーゲに一月ほどいたって言うからその時か?
 沢山ある店からウチを選んでもらえたのはありがたいけど、先輩達も荒野で腕を磨いたりしていたならよく遭わずにいられたもんだ。
 運が良いのか悪いのか。
 しかし、作った出来合いの物を渡したんじゃなくてしっかり先輩用に武器をねえ。
 それに名前もしっかりと覚えているくらいに関係があったなんて。
 当時聞き流していたからきちんと確認しておこう。

「少々お待ちください。今ここで働いている職人が来ますので」

 ベレンが作った武器ならウチで預かって問題ないな。
 今夜にでも亜空で見せればいい。
 一週間もあればベレンなら自分で作った武器くらい手入れもしてくれるだろう。

「お呼びでしょうか、若様」

「ふふっ」

 先輩がおかしそうに笑う。
 帰ってきた時に盛大に「お帰りなさいませ、若様!」って言われた時はポカンとしていたけど、どうやらツボだったみたいだ。
 僕が若様と呼ばれるのを聞くたびにこうだから。
 微笑を浮かべる先輩から布に包まれたままの剣を受け取り、やってきたエルドワに渡す。
 やっぱ先輩は綺麗だわ。
 この世界でも遜色なく美人に見えるんだもんなあ。
 この分だともう一人の勇者も美形なんだろうね。
 会うのが楽しみなような、うざいような。

「この剣の手入れを頼みたい。出来るか確認を頼む」

 商会代表として職人に聞く。
 あまりフレンドリーなのも良くないと言われてるんだよな。
 特に亜人に対しては外部に向けてだけでも、きちんと線を引いて振舞うべきだって。
 レンブラントさんとザラさんの二人からの言葉だから正しいんだろうと実践しているけど違和感はやっぱりある。

「はっ。では拝見させて頂きます」

「お願いします」

 先輩は真面目な顔に戻って露になる剣とドワーフを見つめて座ったままの姿勢で一礼。
 僕に対するよりも丁寧……。
 に、日本人だもんな、職人への尊敬は大事な事だよ、うん。

「これは、傷みもありますが、少々無茶な状況で使用されてきていますな。激戦をくぐってきたとお見受けします」

「……ええ。何度も命を救われています」

 注意深く剣を診ていく職人。
 僕は彼に視線を向け、気付いた彼に念話を送る。

(ベレンの作なんだって。亜空で彼に見せれば大丈夫だろうから、引き受けてくれる?)

(これはベレン殿の作品でしたか。すぐに気づけぬとは未熟でございました)

(よろしく)

(承りました)

「オトナシ様、と仰いましたか」

「はい、どうでしょうか。手入れをしてまた元のように振るえるようになりますでしょうか?」

「問題ありません。よく見れば私どもの身内の作でございます。三日も頂ければ十分な仕事が出来るかと」

「本当ですか! それではお願いしても?」

「それは、私如きが決められる事ではありません。私は見立ては出来ますが、仕事を請け負うかどうかまでは」

 チラリと僕を見るエルドワ。
 いいって。
 そういう小芝居は今はいらないんだって。

「勿論、お引き受けします。他ならぬ先輩からの頼みですし。異世界で出会った日本人仲間でもありますし」

「ありがとう、深澄君」

「いえいえ。もう行っていい、くれぐれも丁重に扱うように」

「お任せください。それではオトナシ様、確かにお預かりいたします」

 剣を持ち、深く頭を下げて退室するエルドワの後ろ姿を見送って、軽く息を吐いてソファに深く沈みこむ。

「やっぱり無理してたんだ、あの態度」

「商会の頭として振舞う時はああいうのも必要だと教えられまして。やっぱりわかりますか」

「わかるわよ。貴方は、部でも後輩にああいう態度に出れない人だったじゃない」

「よくご存知で。僕の事なんて覚えてもいないかと思ってましたけど」

 決して目立つ方でもなかったし。

「貴方、深澄君はそうだけど。弓道部自体はそれはもう凄く目立ってたから。あの部で生き残って副部長にまでなったとなれば、ある程度は気になりもするわよ。ああ、中高なかこうでは貴方も一部から勇者って呼ばれてたんじゃなかった?」

「……妙な事を思い出させないでください。別にイケメンじゃなくたって弓が好きで弓道部にいて何が悪いんですか」

 弓道部で一年以上、美形じゃなくても残った僕にはそんな投げ捨てたい呼ばれ方もあった。
 イケメンと美少女を目当てに入部する奴も当然の如く多い部だったから、一年生は入部からしばらくの間は結構なシゴキを加えられる。
 振るいにかけられるってやつだ。
 そこで美形も含めて弓道自体が目的になっていない子なんかはかなり脱落するんだ。大体例年秋頃には選定完了となり、練習が気持ち優しくなる。
 それでもあの容姿の連中が残るのは、まあ七不思議みたいなものかと思うけど。
 一年以上普通の人が持つと勇者呼ばわりされるのもどうかと思うけど。
 そう言えば、久々に部の事や高校の事を思い出したな。

「ごもっとも。うーん、私としては貴方がこの世界に来た経緯も詳しく知りたい所なんだけど……」

「だけど?」

「何だか急に懐かしくなってきちゃったな。こんな話、誰とでもは出来ないし、日本の話でもしよっか」

「ええ!?」

 良いのか?
 僕としてはこの世界に来た事情なんかを聞かれるよりもずっと楽だから有難い。
 ただ、あの音無響先輩だぞ。
 文武両道の完璧な人だ。
 勇者としてだって、聞こえてくる噂は立派なものばかり。
 意味もなく思い出話なんてする人か?
 いや、違うと思う。

「そう言えばさ、私がこっちに来るしばらく前なんだけど、弓道部の部長さんと、一年の弓道部で可愛いって噂になり始めてた娘が揃って不機嫌になってた事があったのよ。同じ部なら覚えてるでしょ」

 っっ。
 思いっきり覚えてる!
 けど、いきなり話せない話題から!?

「あれって副部長の貴方なら何か知ってるんじゃない? 向こうにいた時は話せない事もあったでしょうけど、ここだったら物理的に時効みたいなものだし、話せるわよね?」

 物理的に時効ってなんですかそれは!

「そ、それは」

「今日はもう予定も全部おしまい、にするわ。元々、私の私的な事ばかりだったから別行動にしたんだしね。剣の事も片付いたし、お互い日本を思い出してみるのも良いものよね、きっと」

 にっこりと笑って見せる先輩はやっぱり綺麗なままで。
 向こうでの力関係を何となく思い出し始めていた僕は笑顔の圧力に押されて頷く。
 先輩後輩って結構有無を言わせない何かを感じるんだよなあ、体育会系の部活だった僕としては。
 ま、日本の話だったら特に警戒が必要だって事も無い。
 女神とか、ラルヴァとか。
 そういう一部の事に気を配っていれば、同郷の人がする他愛ない楽しい会話で済むか。
 話し上手で聞き上手な先輩との会話は予想よりもずっと弾んでいき。
 僕たちは応接室で長く談笑しながら故郷を思い出した。
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