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晴天の彼女
四章開始です。
またお付き合いくださいませ。
学園都市ロッツガルドは本格的な冬を迎えている。
年に一度の学園祭の最中に始まった変異体による事件から数ヶ月。
相当の死傷者を出し、街並も破壊された惨劇だったのだけど、街は既に復興という雰囲気にはなかったりする。
一部にまだ更地の場所はあるものの、そこも区画整理の途中みたいな雰囲気だ。早くもこの街は息を吹き返して前に歩き出していた。
地球、日本とは街の成り立ちも違うってのもある。
でも最大の原因はやっぱり魔術だろうな。
瓦礫の搬出にしても再利用にしても建物の建築、道路なんかの敷設にしても。
現代も真っ青の速度で進んでいった。
学園が惜しみなく魔術師を放出してのそういった作業を実際に目の当たりにすると本当に凄い。
亜空で都市が高速で出来ていったのも今ならそれほど驚く速度じゃなかったんだなとか思ったりするくらいだ。
むしろ、エルドワを頭にした職人力を考えると丁寧にやっているから遅いと言っていたのも謙遜じゃなかったんだと納得したね。
「お待たせしました、ランチ大盛りです」
「ありがとう」
大盛りという割にはあまり盛られてないよな。
頼んだメニューに何度目かになる感想を抱くと、すぐには手をつけずに窓から外を見る。
ここは新しくなったクズノハ商会の店舗から歩いて五分の場所にある店。
僕としては当初、クズノハ商会はこの際郊外にでも少し広めの店舗でも作ろうかと思っていたんだ。
ただ仮設店舗での営業時に、元の店があった場所の近所の方が何人か店じまいをして引越しをするとかで広めの土地が売りに出された。
識とも話して、まとめて土地を買い上げ。
結局商会の位置は微妙に学園に近くなるだけというプチ引越しに終わった。
店の広さは前と比べてそれなりに広くなって、何人かバイトも雇いつつの新店舗開店も上手くいってる。
学園の臨時講師が無い日のお昼時に、こうやって近場ながら昼食を食べに来られるくらいにはね。
今日で、新しくなった大通りにあるご近所の店は大体制覇できたかなって感じ。
識なんかはルリアがいなくなったとは言え鍋がなくなった訳ではないので、相変わらずゴテツに行く回数が多いみたいだ。
「ここはカフェって所だなあ。人と話をするならともかく食事には向かないかあ」
量もあんまり無いし。
澪だと間違いなく満足しないな。
あいつ、店の雰囲気を楽しむ類の所は好みじゃないようだし。
客層はやはり学生をはじめ若い人が多い。
ウチの店にもこういう人たち結構いるよな。
珍しい果物も扱っているから、か。
それに実技で怪我をする事も少なくないロッツガルド学園の講義を受ける学生にとっては、傷薬や各種お薬は常備しておきたい品らしい。
あと、ウチでバイトしている学園生のジンやアベリアを目当てに来る連中も少なからずいる。
「なんにせよ。僕がいなくてもお店は順調ですよと」
ちょっと寂しい。
アクアとエリスも最近は頼もしくなってきてるし、普通の日に僕がいなくてもそんなに問題ない体制が出来てきている。
狙った結果なんだけどね。
学園祭以来、色々な方面からお呼ばれする事が多くなって僕自身があっちに行ったりこっちに行ったりと忙しいから。
この分ならそろそろ、急かされているリミアとグリトニアへの訪問、それに魔王との面談、あとルトが遠出をするなら頼みたい事がどうとかと言ってた件、そういうのに手をつけられるかもしれないな。
「はぁー、クズノハのフルーツセットが今日も買えなかった」
「あれはもう開店前からの抽選だからな、運だよ運」
「誰かあそこにコネがある奴でもいてくれねえかなあ」
「正規の店員でも融通してくれないって話だぜ? バイトにでもなれば自分が食べるだけなら何とかなるかもしれないが、バイト募集は今してないからな。偉いさんの識って人か店主のライドウ? と知り合いなら何とかなるかもしれんが」
「接点が無いんだよなあ、それに自分が食いたいんじゃなくて彼女に頼まれてるんだよ、そんなに食べたいならいっそ自分で並べってんだ」
「……もしかしてお前一回も食べた事ないのか?」
「ねえよ。たかが果物だろ? どっちかと言えば俺はたまに売りに出されるっていう武器の方が欲しいね」
「あれ、凄いぞ? お勧めというか、一度は食べてみるべきモンだ」
ウチの話をしてる。
悟られないようにクズノハ商会の話をしている二人に目を向ける。
学園生?
私服だからわからないな。
僕と同年代の若者二人だ。
にしても、果物ね。
相変わらず数量限定のカットフルーツ、結構なレア物扱いされてるんだな。
戻ったら倍率聞いてみようか。
「なんだ、お前食ったことあるのかよ。あれだけは値段に合ってないっていう奴も多いぜ?」
「そりゃ食った事無い奴か、食い物にさして興味が無い奴だろうよ。週に一回あれが食べれるなら、俺は他の日は甘い物なくてもいいなって位には美味いぜ。特に黄色の輪っかみたいなやつ、最高に美味い」
「二日に一回はカフェでデザート食ってるお前がねえ。黄色い輪ってクッキーかよ」
パインだな。
真ん中をくり抜くのが楽しくて何度か手伝いに行った事がある。
亜空のは結構量を食べても舌にピリッとくる感じがなくて食べやすい。
「薬にしても食い物にしても武器にしても、クズノハは何か他と違うんだよな。レベルってか品質そのものがっていうか」
「そこは同感。で、なにより」
「「店員がいいよな」」
「うん」
「うん」
店の接客を褒められると自分が褒められたみたいで嬉しい。
バイトをやらせてくれと縋りつかれた時、ジンにもアベリアにも接客はきちんと教えたからな。
ちゃんと実践してるみたいだ。
森鬼やドワーフもお客さんにはちゃんとしてるし。
知り合いとか常連になるとエリス辺りから少し不安が漂うんだけどね。
「わかるか! なあ、やっぱクズノハの看板娘っていうとあの人しかいないよな?」
「ああ、最初は戸惑ったけどな。あの人なら愛人にしたい」
「仕事は堅実で丁寧だからしっかりしてるんだろうし」
「可愛くて穏やかで優しい、他の女も見習って欲しいぜまったく」
それでも愛人止まりなのか。
ウチの店員に失礼な事を思いやがって。
女の子だろうから……アベリアの事かな。
あの娘、識しか見てない感じなんだけどお客さんウケ良いんだな。
しかし、仕事が堅実で丁寧?
その上に可愛くて穏やかで優しい?
そこまで褒められる娘か?
ウチには制服も無いから制服マジックとかも無い筈なんだけどな。
「まさに姫だな」
「姫だ」
「アクアさん最高」
「エリスさん最高」
「ぶっ!!」
ぐあっ、酸味のきついジュースが気管に!
痛い、凄く痛い!
なんて不意打ちしてくれる!!
思わず噴出してしまった僕に哀れむような目とおかしなものを見る目が向けられる。
じ、自業自得すぎて俯くくらいしかできん。
アクア?
エリス!?
あの二人脳みそ腐ってるんじゃないか!?
「あ?」
「はぁ?」
僕に、じゃない。
お互いに違う名前を言った事で彼らが対面にいる相手に疑問を投げかけてる。
どっちにも突っ込みたい気分の僕だったけど、まずは何とか自分に起きた惨事を収拾して呼吸を落ち着かせた。
アクアは、まあ仕事は堅実で丁寧、かもしれないけどお客さんに対してはどこか事務的な感じがある。
エリスは、ちっちゃいから可愛くは見えるかもしれないけど、どう見ても穏やかで優しくは無い。
と思う。
つうか、ヒューマンなのに亜人を愛人にしたいとか。
クズノハ商会がそれだけこの街や学生に浸透してきたのか、それとも若い人は考え方が柔軟なのか。
ひょっとしてあの変異体騒動の時にアクアやエリスに助けられて洗脳されたとかじゃないのか?
「おいおい、看板娘ならアクアさんだろうが。エリスさんも悪くはないけど、アクアさんあっての愛嬌だぜ?」
「何を言ってやがる、エリスさんのこっちの気分や要望を的確に察してくれる気遣いこそ無双の看板娘だろ、常識的に考えて。アクアさん一人じゃちょっと硬いだろう?」
JK出ました。
女子高生じゃないJK。
ウチの商品の話をしている時よりも遥かにヒートアップしてるな。
うお、立ち上がった。
まさかこんな下らない話で殴り合いでも始める気じゃないだろうな!?
止める、べきかな?
いや、それで僕が出て行っても解決しない気もするし関わりたくな……放っておくのが大人だ。うん。
「ちょっと!」
お、誰か止めに入ったな。
勇者だ。
密かに応援するよ娘さんたち。
「な、なんだよ」
「クズノハ商会の看板娘は識さんに決まってるでしょ!?」
「ちょ、あんたね! ライムさんでしょ!?」
……。
この店、来ないリストに入れておこ。
「はあ!? 看板娘って言ってんだろうが! 誰が野郎の話なんぞしてんだよ!?」
「意味合いで考えたら男でも女でも一緒でしょ! あそこは男の店員が凄くカッコよくて優しくて穏やかだから最高なのよ!」
帰るかな。
立ち上がると淡々と会計を済ませて出口へ。
ウチのコアなファンらしき人達の熱い論戦の結果には全く興味が湧かない。
むしろ最初に耳を傾けた事への後悔が少しあった。
テラス席で何をやってんだか。
店員さんも流石に苦笑いで静観という姿勢から、対処の方向で動く事にしたのかテラスに向かっていくのが視界の端に見えた。
ああいう評判は、少し困るかも。
晴れた日の明るい通りの光が眩しい。
「あの」
ん、僕?
呼びかけられて立ち止まる。
「すみません、この近くにクズノハ商会というお店があると聞いたんですが」
なんだ、ウチを探しているお客さんか。
「それでしたらこの道を――」
後ろから掛けられた声に振り返りざま案内を始めようとして、僕は固まる。
「……貴方、嘘」
それは、僕の台詞でもある。
どういう確率だよ、これ。
「っ……」
何通りか想定はしておいたけど、どれにも当てはまらない出会い方に言葉も上手に出てこない。
これが僕の生まれた星の下、なのか先輩にひきつけられただけなのか。
「確か深澄君、だったかしら」
僕の名前、知ってるのか。
数度言葉を交わしただけの知り合いと言って良いのかも微妙な関係だったのに。
いや、音無先輩ならあるか。
外も内も欠点なんて見当たらない人だった。
こんな人間がいるのかと疑った程。
本当に、どうして先輩はこんな世界なんかに。
「……音無先輩」
ローレル連邦に向かう為にリミアを出た勇者一行は強行軍の日程の為転移を駆使し、かつ学園都市には寄らない予定だった筈。
なのに今僕の目の前にいて、ウチの、クズノハ商会の場所を聞くリミアの勇者。
音無響先輩。
生徒会長だった先輩と会った時の印象よりも少しだけ鋭さを増した雰囲気の彼女を見て。
僕はただ呟くように先輩の名を口にするのが精一杯だった。
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