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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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神来たれども幸いまだ遠く?

「くはははっ! なるほどねえ、それでこれがその魔将君の末路って訳か!」

 スサノオ様がそれはもう大笑いをされている。
 宴はひとまず気に入ってもらえたようだ。
 彼に首根っこを捕まれてぶらさげられている小さなドラゴンが、その大声にびっくりしたように大きく目を開いて何事かとスサノオ様を見つめている。
 そうです、それが魔将レフトさんと言う人の成れの果てです。
 なりといい、幼児退行したらしい精神といい、すっかり可愛い子ドラゴンだ。
 可愛いのは外見だけで、目下魔王と話をする際の悩みの種になっている。
 どうすればいいかね、本当に。
 魔将だって聞いた時には殆ど反射的に返してきなさいと言ってしまったけど、考えてみるとそのままお帰り頂くのもかなり都合が悪い。
 何でケリュネオンなんて辺境のど田舎に、四人しかいない魔将の一人がいたんだよう。
 僕の決意のタイミングはそこまで悲惨ですか。
 そうなんですか。

「見事に力を食われちまってまあ、どこのペットだって感じだな」

「真殿にとってはあまり笑い事でもなかろう、そう笑ってやるものではないぞ?」

 大黒天様が僕のフォローをしてくれる。
 優しいんだけど、どっか恐いんだよなこの人は。
 さっきもヤタガラスの事を聞いたらとんでもない事を言うし。
 太陽の化身とか、資格を持たない人がみると目が潰れるなんて聞くけどどうなんですかって聞いたんだよ。
 そしたら。
 太陽なんぞ背負われたら熱いじゃろ?
 思わず握りつぶしてしまいかねん。
 と言われた。
 スケールが違う。
 握り潰すって何。
 かなり微妙な顔をしていたんだろう僕に、大黒天様は例えを交えて説明してくれた。
 煙草の火を手で握り潰す感じじゃよ、だって。
 ますます、もう、どう反応していいかわからなくなった。
 その程度の事なのかと。

「どう切り抜ける気でいるのです?」

 アテナ様が面白そうに聞いてくる。
 真面目な印象の女神様だけど、お酒が入ると陽気になる方だった。
 日本酒、お気に入りみたいだ。
 スサノオ様にも褒められたけど、ほぼ再現できているらしい。
 旨いと認めてくれた。
 お三方、日本酒が好きみたいだ。
 巴がちょっと妙なテンションで喜んでいたな。

「……出来る限り治療して、折を見て魔族の領地に放そうと思っていますが」

「気の長い話だな! おい、アテナ! お前はここにも真にも対して何も土産がねえんだから、ここで働け!」

 スサノオ様が何か無茶振りしてる。
 いや、アテナ様だけじゃなくスサノオ様にも大黒天様にも何かしてくれって気持ちは特にないですよ?
 それにここをあの虫女神に知られないようにしてくれるだけでもう十分だし。
 って土産?
 スサノオ様と大黒天様から何か頂いた記憶は無いぞ?
 まさかあのヤタガラスを置いていく心算、な訳はないよな?
 あれだけ大きいと流石に困るぞ。

「私が?」

「おう! 適当に体を戻してやって、あれだ、一月位記憶を消しとけば何の問題も無いだろ」

 そんな、安直な。
 それに識でもすぐに治せないから長期戦覚悟してるのに。
 神様なら即治療が出来たりするのか?

「……お酒飲んでてもそれくらいなら朝飯前ですね。むむ、お土産にするなら真君に絶対服従にして私の加護でも与えた方が」

 出来るんだ……。

「いいぞ、やれ、やっちまえー!!」

 煽るな!
 ……じゃなくて、煽らないで下さい。
 それと真君とか呼ばれるとくすぐったいのでいっそ呼び捨てとかにしてくださいアテナ様。

「これこれ、ここは儂らにとっては異郷の地じゃぞ? あまり当地に迷惑をかけておってはあの娘と大して変わらんではないか」

「……確かに」

「スサノオの言う様に体を戻して記憶を消しておけば問題あるまいよ。体に刻まれた恐怖は多少残るかもしれんがそこまで丁寧に消してやる事はないじゃろ。スサノオ、お前も酔っておらんのに嬢ちゃんを煽るでない」

「……ちぇ。面白そうだったのに」

「あの、スサノオ様。僕、お土産とかは別に……」

「そうか! 期待してくれているか真!! 安心しろ、必ずお前を驚かせてやるからな!!」

 酔ってないんだよね、スサノオ様は!
 そのていで洒落にならないおふざけをする気なのか!?
 知らない内に死に掛けただけに、体に神様の力を入れるのはちょっと御免なんですけど!?
 だが。
 結局スサノオ様も大黒天様もお土産の内容は何も教えてくれなかった。
 主賓がお酒をがんがん飲む神様たちだったからか、その日の宴は大いに盛り上がった。
 催しや食事も楽しんでもらえて嬉しかったけど。
 一番の目玉になったのは、アテナ様による魔将レフト君を使った手品だった。
 治れー!
 とアテナ様が上機嫌で口にすると。
 レフト君、インド神話のナーガを思わせるような威厳ある巨体に脱皮。
 物凄いインパクトだった。
 場内拍手の嵐。
 もう、手品としか……ねえ?
 精神は退行したままのレフト君が色々粗相をする様も酔っ払いどもには好評のようだった。
 アテナ様ご満悦。
 スサノオ様対抗しようとする。
 止める大黒天様。
 何故か始まるカラオケ大会。
 飛び交うパイ。
 ……本当に、凄かったな。
 あまり飲んでない気でいた僕も頭がクラクラしているし。
 神様に見送られて部屋に戻るという情けない事になった。
 いつもとはかなり違う宴は、やっぱり有志により朝まで続いたらしい。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 自問する。
 僕は、体に全く力が入らない状況で自問する。
 土が冷たいなあ、じゃなくて。
 僕はこんなものかと。
 この選択で正しかったのかと。
 ……。
 考えるまでもない事か。
 僕はこうして地に伏している。
 指一本も動かない。
 こんなものなのだ。
 では、キャリアウーマンなアテナ様を相手にしたのが間違いだったか?
 スサノオ様か大黒天様にするべきだった?
 冗談じゃない。
 間違いなく“この程度”じゃ済まなかったと思える。
 彼女しか選べなかったんだ。
 エルドワの作ってくれた僕の弓アズサも、名を付けてない打根も、視線の先で転がっている。
 破損はない。
 流石だね、超一流の職人は違う。
 情けないなあ。
 僕だけが。
 ボロボロになって動けない。

「真、ちょっとアテナに稽古をつけてもらえ」

 朝になって食事を終えた後、スサノオ様が唐突にしてきた提案に僕は当然勘弁してくださいと答えた。
 相手が女神、女の神様だっていうのが始めの理由だった。
 じゃあ、加減間違えたら消滅コースだけど俺か大黒の爺さんがいいのか?
 と真顔で言われて結局アテナ様と手合わせをする事になった。
 で、ご覧のざまだ。
 巴達も一部始終を見ていたし、澪などは途中で手を出そうとした気配があったけど、観戦しているお二方に押さえ込まれていた。
 そう言えば指一本動かせない位の疲労、消耗はこの世界に来てから一度も感じた事がないな。
 この感覚を追い続けて、少し前は“焦ったり”もしたけど今はあまり考えないようにしていた。
 まだ僕は自分の追い込み具合をわかってなかっただけだとわかって、大きな収穫だと思える。
 でも辛うじて、ぶっ倒れる前にありがとうございました、って言えたのは救いか。
 女神アテナ、軍神アテナ。
 名前にも実力にも偽りなしだった。
 恐ろしく強い。
 あの姿が本来の姿とも本気の装備とも思えないけど、僕は彼女を本気にさえさせられなかったんだろうか。
 多分本気なら神像にあるみたいな姿、ヒマティオン? とかを身につけるんだろうしなあ。
 オフィスウーマンのアテナ様にまるで歯が立たなかった。
 姿ゆえの油断が僕の中にあったのは事実、そして虫女神に何となく根拠のない優越を感じ始めていたのも事実。
 でも最初の一撃で女性、って部類への油断は消え去った。
 体を貫かれるまではいかなかったけど、魔力体を砕かれて無様に身をよじって迫る槍をかわした。
 相手は神様、だから最初から全開の密度で構築してたのに。
 それが開戦。
 アテナ様はハルバードを手に、更に次々ジャベリンを召喚して中距離、遠距離で戦いを展開した。
 僕もこの世界で覚えた魔術や弓、魔力体を構築しての戦闘方法を駆使して応戦。
 終いには僅かな魔力の消費も惜しくなって服も指輪も脱いで必中に頼った力の応酬に持ち込んだ。
 アテナ様は多分僕に付き合う必要なんてなかっただろうけど、それにも付き合ってくれた。
 でも結果は完敗。
 惜敗とかじゃなく、完敗。
 だって呼吸こそ乱れていたけど、アテナ様は汚れて所々破れたスーツをさっさと再構築して普通にスサノオ様達と話しているから。
 動けない僕とは大違いだ。
 僕の攻撃は殆どが彼女の丸くて大きな盾に受け流された。
 あの盾、宙に浮いて時に形を変え、時に複数になり。
 滅茶苦茶だ、とか反則だ、って何度も叫んだな。
 何となく、僕と対峙した人の気持ちが少しだけわかったかも。
 それでも何発か良いのが決まったんだけど、それも腕に防がれて払われたり、とにかく通用しなかった。

「……いやいや、最後の力任せは落第だが、総じてはよくやったぞ真。正直俺の予測よりもずっと食い下がっていた。途中までは余計なお節介をしたかと思った位だ」

 スサノオ様だ。
 目だけを動かして彼の声がした方向を見ると、従者の三人もこちらに駆け寄ってきていた。
 観客が巴達と神様だけで良かったな。
 亜空の皆に見せるにはちょっと情けない姿だ。
 はは、何とか余裕も出てきたか。

「驚いた。あそこまで食い下がる事が出来るとはのう。あまりにもこれまでの戦いで苦戦が少ないお主だけに、最初の油断のままに押し切られて終わりかと一瞬がっかりしたが、一安心じゃな」

 スサノオ様も大黒天様も鬼だな。
 僕の弓の先生に匹敵する厳しさを感じるよ。

「確かに、でも健闘でしたよ真君。さあ、治療してあげましょう」

 酔っ払った時の名残か、君付けしたままのアテナ様が一番優しい。

「いえ、アテナ様。それは結構です。久々の感覚なんです、このままで、お願いします」

 向こうにいた時には練習でしょっちゅう感じていた、何も出来なくなるような深い疲労。
 こちらに来てからは一度も感じてなかった感覚。
 明日は少しは今日よりも前にいけるだろうと、自分を信じる為に必要だった感覚。
 だからもう少し、浸っていたい。

「真、これが神だ。実際やってみねえとわからねえ事、あったろ?」

「……ええ」

「あの女神と万が一戦うことになったら、きっと必要になる」

「ええ」

 スサノオ様達が虫に何をしたのかはついに聞けなかった。
 でも。
 少なくとも退治はしていないようだった。

「あいつには幾らかの制約、世界への干渉範囲の制限と管理世界増加の一時停止なんかを含めてそれなりの罰を与えた。これですら、兄貴が無事に早期復活したとしての処置だがな」

「月読様、早く全快されるかもしれないんですか、それは良かったです」

 もしもそれが叶うなら。
 生きている内にあの方にもう一度会いたいな。

「ありがとよ。兄貴も喜ぶ。で、あいつにはそれらを破らない様に監視の意味合いのある物を装着させた」

「躾といえば、首輪。もっとも、相当嫌がったのでチョーカーにしましたけど。私はそのままトゲ付の首輪にしようとお二人に言ったのですけどね。殿方はいくつになっても女には甘いようで」

 アテナ様、こええ。

「意匠はこの際置いておく事にしただけじゃよ。まあ、何が言いたいのかと言うとじゃ。儂らがあの女神を名で呼ばない事でも察しているかもしれんが、儂らもアレに一定の配慮をせねばならぬ立場におる。その辺りを無視すると、アレと同じになってしまうからの」

 やっぱり、名前を言わないのは意図的か。
 何となく想像はついていたけど。
 つまり、あの虫は僕の知っている神様かもしれない訳ね。
 候補は何人か浮かぶけど、さて誰なのか。 

「あ奴は未だに神に相応しいだけの力は持ったまま。本来はもう真殿に何か出来るものでもないが、先の約束がある。あの女神は真殿がヒューマンに明らかな敵対をした時になら、真殿に直接手を出せる」

「……はい」

「もう少し俺らが早く到着していたら、あの約束の前にコトを済ませたんだがな。だが俺らもそれで仕方が無いとは終わってやらん。真に神と戦う経験を与える位の助力位はしてやらないとな。兄貴の神力を授かったお前とあの姑息な女神なら、お前の方がかわいいしな」

「ありがとう、ございます」

「おう。良いか、力任せになるなよ。途中のクールな戦い方は良かった。アレを使いこなせるようになれ。魔力の増大を恐れるな、弓を引け。お前はそれで良い。で、もしその時が来ちまったら決してチョーカーは壊すな。箇所が箇所だけにそうそう破損せんだろうが、監視がなきゃあの馬鹿は手段を問わずにお前を消そうとするだろうからな」

「ええ、決して恥じる戦いではありませんでしたよ」

「うむ」

 神様に褒められる位の戦いにはなってたか。
 はは、ちょっと安心した。
 あの女神に手も足も出ないなんて未来は御免だからな。
 チョーカーが取れなきゃ戦いは有利に出来ると。
 有難い情報だ。
 多分だけど、あの女神自身には外せないんだろう。
 監視の意味なくなっちゃうからな。
 でもこれで、この経験で。
 僕はまた自分を追い込めると思う。
 イメージは十分に残っているし。

「それじゃ。俺らはそろそろ帰るわ。後は従者にしっかり癒してもらえ」

「真殿、弓は必ず毎日引くのじゃぞ。儂とスサノオの贈り物を早く見つけておくれ」

「恐らくはもう、命ある内に会う事もないでしょうが。いずれその生をまっとうした時には迎えを出しましょう」

 突然だな。
 来るのもそうだったから、あまり驚かないけど。

「では。月読様によろしくお伝え下さい。貴方に頂いた力で何とか生きていますと」

「……ああ、必ず兄貴に伝えよう。本当に楽しかったぞ。そうそう、ヤタガラスは姉貴もお気に入りだからやれん。あれでも世にも珍しい女の太陽神で主神、怒らせると面倒でな」

 姉貴。
 ああ、アマテラス様。
 思考だだ漏れなのって、わかってもあんまり考慮できないもんだな。
 アテナ様と戦っていた時も大概だったけど、それも含めて僕はよく戦った、という事だろうか。
 まあ、あれだ。
 ヤタガラスさんは持って帰ってくれた方が嬉しいから言う事なしだ。 

「若!」

「若様!」

「若様!」

 僕に手を振って下さっていたお三方の姿が消える。
 それと同時に巴達がすぐ傍まで来て僕を呼ぶ。

「治療は、いいから。ごめん、わがままを言う。今日はこのままここでぶっ倒れさせて。ロッツガルドへは、うまく、言っといて」

 ずっと僕を眠りにひきずりこもうとする疲労に抵抗していたけど。
 神様ももういないし。
 ふう。
 急速に意識が遠のく。
 何もかも久しぶりだ。
 くっそぉ。
 女神といつか戦うならば。
 その時は絶対に、立って奴を見下ろしてやる。
 ギリギリなんて御免だ。
 見てろ、お前を、絶対に、圧倒してやる、から……。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「さてと。アテナちゃん、痛いところはどこかな~?」

「セクハラです、クシナダ様に訴えます」

「直で妻かよ!!」

「漫才は後にせよ。で、アテナの嬢ちゃん。実際防御に使っておった左腕は感覚がなかろう?」

「……いえ、右もです」

「途中真に相当追い詰められたよな? あの時本気装備も召喚するかと俺らニヤニヤが止まらなかったんだぜ?」

「……人間、いえあの娘が調整したヒューマン相手にそんな真似が出来ますか」

 アテナが腕組みをして仁王立ちする。
 大黒天がその直立する足を小槌で軽く打つ。

「ほれ」

「ひゃうっ!!」

 腰砕けになってアテナがへたり込んだ。
 流石はシヴァ、ではなく流石はアテナのやせ我慢、だった。

「真の魔力体に発想を得て、自分の魔力で自分の体を動かすとは大したもんじゃ。一人マリオネットじゃな」

「あれで真から流れを奪い取ったな。後は集中力を失ったあいつが一気に攻めを甘くして自滅に近い力技を連発、流石はアテナ、年の功だな」

「私はまだ若いです! 年がどうのなんてお二人に言われたくありません!!」

『わはははは!!』

 ヤタガラスに乗った神々が日本のある、真のいた世界へ帰還する途中。
 彼らは真とアテナの戦いを話の種にしていた。

「ま、あの分なら真の奴。女神とやっても大丈夫だろうな」

「十中八九は問題なかろうな。たいしたもんじゃ」

「……実際、プライドだけであのまま押し切ったのは認めます。あの子、既に人間としてみても枠組みを超えつつあります」

「されどヒューマン、なんだが。あそこには生粋の人間が二人も入り込んだからな。女神が既に詰んでいた未来を捻じ曲げるのに有用だったからだろうが、人間と真のコンボはコトだろうな」

のみ玄翁げんのう、に近いな。人間が可能性を少しでも刺激すれば、真はそれを後から強烈に叩き込んで開いてしまう。二人の人間によって無数に広がった並行世界の処理は実に面倒じゃったわ。真が加速させた所為も少なからずあったじゃろうな」

「その処理の後始末、贈り物とか言って真にさせる気でいるだろ爺さん。面倒な仕事の仕返しか?」

「ほほほ。若い内の苦労は買ってでもするのが良いんじゃよ。嬢ちゃんはもう会う事もないだろうと言ったが、中々どうして。儂は再会もあると見たな」

「……賭けるかい?」

「おうとも。嬢ちゃんは会わない、儂は会う。スサノオはどっちじゃ?」

「俺は、会うだな。ありゃあ歩くビックリ箱だ、何個か不可能を可能にしそうな気がする」

「ちょ、私賭けをするなんて一言も!」

「おいおい、アテナ様ともあろう方が人に言った事に自信が無いんですか? 適当な事言っちゃうなんてあの女神と同じ感じですか?」

「うぐっ」

「なあに、大した賭けじゃねえって。ほんのお遊びお遊び。気にするな!」

 スサノオに背をばんばん叩かれるアテナ。
 納得いかない顔で唸っている。

「それとは別に二つほど聞きたいことがあるんじゃが良いかな、嬢ちゃん」

「何でしょう?」

「一つは真の力よ。月読殿の力、真の中でどのような変質を遂げておった?」

「それは……」

「隠すなよ? お前がそこにも興味を持って真を探ってたのは先刻承知だぜ? だからこそ、お前に真の相手をやらせてやったんだからよ」

「……抜け目のないこと。それに既に想像はついておいででしょうに」

「やはり、亜空とかいうあの場所か?」

「ええ。空間を操る者との契約が引き金でしょうが、大量の神力を消費してちっぽけな空間を世界にまで広げたようですね。元々、彼の能力の成長に使われる筈だった部分も殆どが持っていかれています。ある意味で、彼とあの世界は繋がっていると言えますね」

「それで。兄貴の力の顕現があの妙な干渉能力だけになってたのか。あれ、何とも中途半端な能力だったからな。界とかいったか。影の薄さだけは兄貴ばりだったが」

「如何に古き神とは言え、月神の力が創造に寄与するなど、聞いた事もないが。人と神に新たな可能性を示すものかもしれぬなあ」

「やたらと日本チックだったのは、あいつのホームシックが影響してるって訳か。女神が見つけたりでもしたら面倒が増える所だったな、しかし」

 スサノオが呆れたように日本に似た真の世界を思い出す。

「それも多少影響していると思います。あちらはあの娘には干渉できないようにきちんとしておきましたから、もう心配もいらないでしょう」

 大黒天が大きく頷く。
 納得いったのだろうか。

「では、もう一つじゃがな。必中、やはり面倒じゃったか?」

「……ええ。あれはかなり厄介です。それに戦闘に没入したあの子は、感情を相当麻痺させるのか容赦もなく徹底的な戦いをしますから。何度も何度も執拗に狙われて、遂に腕があがらなくなった時には正直機械でも相手にしている気分でした。今思い出してもゾッとしますね」

「やれやれじゃ。あの子が開花させていく才能は弓の才だけで良いんじゃがなあ。真にとってもその方が良かろうに。既にあの必中は弓だけでなく魔術にも応用されとるし」

 大黒天がすっと目を細めてスサノオを見る。
 非難の混じった顔で。

「おいおい、俺は真がもしも神と戦う事になっても何とか切り抜けられる様に助言しただけだぜ?」

「……それで済むのを祈るほかないのがどうにも歯がゆくてのう。次にあの世界の事を聞くのが破壊依頼でない事を願っとるよ」

「それは俺も同じだ」

「私もです。神が関わったが為に滅んだ世界も、悲しい事に存在しますから」

 突然真を訊ねた三柱の神。
 彼らの残した贈り物に真が叫ぶのは、そう遠くない未来の話だ。
ご意見ご感想お待ちしています。
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