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一握りの偉人に彼は含まれません
頭の混乱が一向に落ち着いてくれない。
とにかく結論から言えば。
めっちゃ恐い。
カラスなんて元から鋭い爪と嘴を持っているのに、それが旅客機並の大きさなんだから当然……ではなくて。
そこから降りてきた三人(三柱?)のお客様の方である。
僕から見て左から、少し浅黒い肌をしていて人懐っこい穏やかな笑顔のお爺さん。
腰に巾着と小槌を付けているのが印象的だった。
真ん中がかなりカスタムされた弥生人風衣装の若い男。
顔一杯の笑顔で機嫌は良さそうで、多分この人がスサノオ様だろう。
一番右にいたのは女性。つまり女神様、になるんだろう。
ただこの女性も左のご老人同様一見だと名前もわからない。
神様が染めもしないだろうから地毛がライトブラウン、と言えばいいのか後ろから光が当たって端々が明るい茶色に見えた。
何故かスーツ。
目の光が一番知的な感じで、服装も相まって第一印象は女神様と言うよりもキャリアウーマンだった。
「はじめまして。スサノオ様、とお連れ様方。深澄真です」
この度はご降臨下さいまして……とか言うべきか迷ったけど、結局ぐだぐだになりそうだったので止めて。
ストレートにいく事に決めた。
ちなみに巴には許可を出すまで控えている様に伝えてある。
巴なら無茶苦茶する事は無いだろう。
それはわかってる。
でも、彼らが僕のいた世界の神様であり月読様の縁者で僕を訪ねてきたのなら、僕が対応すべきだと思った。
「出迎えご苦労さん。悪いな、この“世界”の主自らにわざわざ」
「いえ! 月読様には凄くお世話になりましたので、悪いだなんて」
本当に。
月読様にはお世話になりっぱなしだ。
この方々なら今の月読様の状況をご存知かもしれない。
そう思うと、この程度の事はむしろ当然に思える。
それに、わかってる名前はスサノオ様だけだけど、荒ぶるイメージが強いからやっぱり、ねえ?
「そう硬くなるなよ。別にお前さんは悪い事をした訳でもねえし? それに、もしそうでも俺らは悪事を咎める立場にねえんだから。ん、おお、わかってるよ。さっき話してわかってると思うが、俺がスサノオだ」
女神様だろう人に肘でつつかれてスサノオ様が自己紹介してくれた。
「儂は大黒天。宝船でお馴染みじゃろ?」
お爺さんは大黒天と名乗った。
ああ、巾着は袋で小槌はよく手に持っているあれ。
なるほど。
ん?
大黒天様って、なんだっけ、確かまだ何か驚いた覚えがある記憶が……。
駄目だ、出てこない。
少し絵で見るよりも浅黒いし耳たぶも思ったより小さいけど雰囲気は七福神らしい穏やかな感じ。
スサノオ様とお付き合いがあるのに少し違和感がある優しそうな神様だ。
「私はアテナ。所によりパラスアテナ。貴方の国から遥か西にあるギリシャの神です」
お姉さんはアテナと名乗った。
紫色じゃないんだ。
って、それはいい。
大黒天様と違って想像とまるで違う。
だってキャリアウーマンだし。
メガネ似合うだろうな。
スサノオ様とお付き合いがあるのが以下略。
とりあえず一礼して、家に招待すべく案内を始めた。
道中、亜空の事を興味深そうに見ては感心した様子になったり色々聞かれたり。
僕が答えたり、巴が答えたりしていたけど、亜空の根本に関する事は流石に聞かれても答えられず。
僕と巴、竜との契約で発生したようです、と答えるだけになった。
「すみません、突然の事でおもてなしの準備が出来ておらず、今急いで進めていますので」
流石にすぐに食事や宴会の用意が整えるのは無理だ。
話しながらとは言え到着した時には皆忙しそうに動いていて、それがわかった。
ひとまず会議なんかで使う、一番広い部屋にご案内。
「だから気にするなって。面白い街を作ってるじゃねえか。面白いぜ」
「うむ。それに宴を用意しようと思うてくれているだけでも、嬉しいものだ」
「本当に。それに皆良く動いています。見ていて気持ちが良い」
「ありがとうございます。それで、その……今日は何かご用事などは? 何かなさりたい事があるなら出来る限り用意しますけど」
ちょっくら寄ってみたって感じの会話から始まったけど、それだけじゃないと思う。
「うん? 兄貴から頼まれた深澄真が気になった、ってのが最大の理由だぞ?」
「他に用事があるかと言われれば、まあ些事がいくつか、じゃのう」
「私はここに来て見たかった、ですね。実際この目で見ると亜空とは本当に面白く、興味の尽きない場所。あの子には少し伏せておくべき場所でもあると思いましたが」
神様の些事は人にとっては一大事。
この世界の女神の一眠りで一体何が起こったかを思えばよくわかる。
直接の原因じゃなくて最後の引き金だった感はあるけど。
「まだお時間を頂く事になるので、その些事を伺えれば助かります。そうだ、もしアテナ様がお望みなら亜空をご案内しましょうか?」
「俺と大黒の爺さんはお前に土産を持ってきた。アテナはあの馬鹿娘にちいときつい説教と首輪をな」
「スサノオ殿」
く、首輪?
恐ろしい単語が聞こえた直後、怜悧な目をしたアテナ様がスサノオ様を見てこれまた冷たい声を発した。
こ、恐いです。
「お、おう。わかってる。もう言わねえ」
「うふふふ。ああ、真殿。亜空の案内の申し出は是非」
「それでは、巴を案内につけます。巴、この方に亜空をご案内してくれる? あれとは違う本物の女神様だからくれぐれも丁重に」
「わ、わかりました。それではアテナ様、どうぞこちらへ」
アテナ様を促す巴の背を見て僕は忠告を思い出す。
仕方ない。
大声で言うのはあまりにも失礼だから念話でいくか。
(それと巴。ところにより嫉妬深い方でもあるから絶対に勝負事の類はしないように。良いね、絶対にだよ)
(ぎょ、御意)
(軍神でもある方だからミスティオリザード辺りから案内をお願い)
(承りました)
これでよしと。
さて、それじゃあ僕はスサノオ様と大黒天様を……。
足を止めていたアテナ様と巴が歩みを再開して部屋から消えるのを確認すると僕は振り返る。
そこにはニコニコしたスサノオ様と大黒天様。
しかし、破壊神に福の神に軍神か。
何か、妙な組み合わせだよな。
特に、大黒天様が。
だって福の神だよ?
それに仏教や密教、神道にも登場する多国籍な神様だし。
一説には大国主様とかとも同一視されるから偉い神様なんだろうなとは思うけどねえ。
……。
……。
マハ……カーラ。
お、お、お、思い出したーーーー!!
大黒天ってシヴァじゃん!!
破壊神じゃん!!
世界でも最高クラスの逸話がてんこ盛りな、冗談抜きで国くらい一呼吸で吹き飛ばしそうな神様!!
ギギギと。
主にスサノオ様を見ていた顔の向きを大黒天様に変える。
ニコニコしてらっしゃる。
「あの、大黒天様って。シヴァ様、ですよね?」
「おお、そう呼ばれる事もあるな。日本人の真殿には大黒天の名の方が馴染み深いじゃろうに、よく知っておるな?」
「恐れ入りますぅ……」
語尾がかすれる。
むしろ日本人でも七福神は全部言えないけどシヴァは知っているって人が多い気がします大黒天様。
多分福禄寿と寿老人がネックなんだろうと個人的には思う。
「しかし真。結構鋭い事を言うじゃねえか?」
「え?」
「嫉妬深いから勝負事はやめておけ、か。がははははは!!」
うっそお。
念話、駄々漏れ?
!!
アテナ様にもか!
「アテナ嬢の説教は中々きついが、悪気が無いんじゃから許してもらえるじゃろうて」
大黒天様にも聞こえてると。
え、えらい事言っちまった。
「ちなみにだ。その気になれば人の心を見るなんて事は容易い。お前の場合、アテナ程度までなら何とかなるが俺とか兄貴、それにこの爺さんクラスの神が相手だと無理だろうな」
ええええ。
「興味を持ってしまうとついなあ。魔術を使った“てれぱしー”、念話か? あれでなくとも見えてしまうじゃよ。儂も福禄寿と寿老人の影の薄さは心配しとるよ」
うわお。
神様、凄い。
亜空もあっさり見つけるし。
僕のいた世界の神様、本当に凄い。
「色々、失礼を」
「それよりもだ。真、最近お前死にかけたりしてないか?」
「い、いえ?」
何をいきなり。
「そうか。急な頭痛とか? 止まらない鼻血とかは?」
「……あります」
あのくそ虫から力をもらった時だ。
でも、死にかけたりは……。
って思っただけでも伝わっちゃうのか。
「……なるほど、それだな。折角お前に俺からも何か力をやろうと思ったのによ。死ぬ一歩手前まで力をぶち込まれているから何事かと思ったぜ。爺さん、わかるか?」
……。
物騒な言葉が聞こえた。
大黒天様が僕をまじまじと見る。
「あの娘、どこまで阿呆なのか。いっそ世界の管理、あれは五つだか六つだかしとったが、全部取り上げてウチのブラフマーの所にぶちこんでやろうかの。現世で影が薄い分、創造神育成講義ではスパルタ教師じゃぞ、あやつは」
大黒天様が重い溜息と一緒に、恐らくはあの女神の馬鹿さ加減に呆れている。
良かった。
神様の基準で見てもアレは駄目な部類だったみたいだ。
「で? 真はどうなってる?」
「死にかけじゃのう。むしろ良く生き残った。表面張力万歳な感じで辛うじて生きておるよ。仮にも創造の力を持った女神だと言うのに、あの愚か者め。ただの凡人に“言霊の極み”など押し込みおった」
「言霊の極み?」
もしかして言語を理解できるあの能力の事か?
極みってのはカッコいいけど。
そして、やっぱり僕はただの凡人なんだな。
いや大黒天様ほどのスケールで凡人の枠を出るのは相当大変なのかもしれない。
「俗に言う悟りの中の一つじゃが。ようはあらゆるモノと対話する能力じゃな。一部の偉人しか持っていない“れあ”な能力じゃぞ」
「僕は女神にヒューマンと話せる様にしてもらっただけで、そんな凄いのうりょ――」
あ。
最初にあの女神にもらったのは確かヒューマン以外との対話能力。
で、この前ヒューマンとも話せる様にしてもらった。
という事は、あらゆるモノと、って事になるのか。
「なるほどのう。あの娘、裏道を見つけるのが得意なようじゃな。確かに“言霊の極み”から一種でも理解を除けばそれはただの理解の枠に収まる。なんと姑息な」
「で、どうなんだ。真は大丈夫か?」
「お前が力を与えるのは諦めた方が良いな。ただでさえ真殿の容量の限界まで神の力が入り込んでおる。確か真殿は魔力の最大量を増やせるんじゃったな?」
「はい。そうらしいです」
「ならばそれを数回行なっておきなさい。それで何とか、能力をその魂に収められる様に手を加えてあげよう」
「あ、ありがとうございます。しかしこの亜空を広げてしまう作用もあるみたいで最近は控えているのですが」
「この世界についてはスサノオ、アテナ、儂で女神の目に着かないように細工をしておくから心配無用じゃ。世界の拡大を案じておるなら気にせずともいい。もしも目に余るならまた儂が来てやろう」
世界が広がるってあんまり問題じゃないのか?
というか女神に見つかる可能性はあまり結びつけて考えてなかった。
見つからないようにしてもらえるなら心強いな。
「女神、あの馬鹿。いなくても人様に迷惑をかけてくれる奴だな」
まったく。
スサノオ様の言葉に同感です。
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