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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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真、乗り切る

 リミアの王子様かあ。
 いや王女様か。
 確か名前はヨシュア様。
 正直、まだロッツガルドにいたんだなって感じだった。
 呼ばれた時の心境はまさにそれ。
 用件は多分性別についての事なんだろうけど、まず僕がやるべき事はわかっている。
 ごめんなさい、って言う。
 以上。
 これだけわかりやすい対応も無い。
 国とか商会とか関わる話になりそうなら、即答できませんので後日改めてって事にすれば良いんだし。
 仕事で使える便利な台詞は率先して覚えている最中だったりする。
 そんな事を考えながら約束の会議室の扉をノック。

「どうぞ」

 返答は早かった。
 確かにヨシュア様の声。
 ま、大国の王子なんて人が他国の施設を使って罠を仕掛けるなんて事も無いよな。
 気にしすぎなのかも。

「お久しぶりです、ヨシュア様。本日はお呼び頂いて光栄です」

 下々の者っぽく接してみる。
 ちなみに王子の格好はこれまでと同じ男物の礼装っぽい感じ。
 ドレス姿で不意を突かれるなんて事も無かった。

「話せるようになった、とは聞いていましたが。すっかり流暢に会話ができるようになっているんですね。こちらこそ、呼び出しに応じてもらえて感謝していますライドウ殿」

 王子は変わらない丁寧な口調で応対してくれた。
 言葉については、会う人会う人に言われるので少し辟易してきてる。

「それで、私にご用とは?」

 予定通りごめんなさいから入って、先日の失礼については許してもらい。
 王族への社交辞令とか、言い方がいまいちわからないから今回は多少の無礼を承知で用件を聞いてしまう事にした。
 ……最近忙しいのもあるから、ささっと済ませたいのも少しだけある。

「……そう、ですね。なら早速本題に入りましょうか」

「お願いします」

「まずは、先日貴方が知った私の、その……」

 言いにくそうなヨシュア様。
 あの事だよなあ。

「女性、だという事ですか?」

「……ええ。このような格好を見てもわかると思いますが、この事実はリミア王国内部でもごく一部にしか知られていないのです。他国には一切漏れていない、筈です」

 筈、ね。
 魔族や帝国については少し漏洩の可能性も感じている、んだろうか。
 あ、ここの盗聴とかは大丈夫なのかな。
 ヨシュア様が結構な重大発言をさらっとしている辺り、きっと大丈夫なんだろうな。
 僕にとってまずい話をしている訳じゃないから僕が気にする事でもないか。

「はい」

「貴方が私を助けようとした結果の事故である事は勿論理解しています。ですが、この件については……他言無用でお願いしたいのです」

 お願い。
 ザラさんが皮肉まじりに話していたけど、お互いの立場を考えると確かにこういうお願いって命令に近い。
 少なくとも、そう感じられる。
 ま、この人はリミア王国からなのかもしれないけどクズノハ商会の活動を後押ししてくれようと動いてくれたみたいだし。
 僕としても、王子の実際の性別云々を言った方が良いか言わない方が良いか位はわかる。

「わかりました」

「……は?」

「え、あの。わかりました。他言しません」

「ええっと。貴方は私の秘密を知った、のですが」

 何も要求してこないの、とでも言いたげな顔だ。
 話を進めるにつれ強張っていったヨシュア様の表情が一気に弛緩した。

「他言は、致しません」

 はっきりと言ってあげる。
 むしろ聞きたい。
 大国の王子の秘密を知って、どうしろと言うのか。
 例えば、脅す?
 間違いなく面倒事になるよね。
 仲良くしてもらう?
 そもそも身分も、一方的に秘密を知るっていう関係も全く対等じゃないのに?
 友人になる図が浮かびません。
 それに……リミアは響先輩がいる国だ。
 そこの王子と無駄に揉めたくはない。

「……申し訳ありませんが、信用が出来ません」

「と言われましても」

「何か、望む事はありませんか? 私に出来る事なら尽力しますが」

 タダよりも高いものは無い、って考えか。

「今現在ですと、特に。急ぎ国に戻られて御国の復興に力を尽くされては、とは思いますが」

「……言葉もありませんね。確かに、私がすべき事の一つです」

 大体、王が帰国したのに王子がまだロッツガルドにいる事が不思議なんだ。

「では、そうしてください」

 実際、戻りたそうな顔も時折見せるし。

「同時に、貴方の調査と交渉も、私のすべき仕事ではありますが」

 困ったように笑顔を作るヨシュア様。
 まず、と切り出したのは僕との交渉も話に入るからだったのか。
 でも今どこかと大きな取引をしたり要請に従ったりする気は無いんだよな。
 ロッツガルドもこんなだし、亜空もばたばたしてるから。

「現状特に問題ない、とでも報告してもらえると助かります。当面、ロッツガルドの復興に忙しい身ですし、調査などされたならわかるかもしれませんが我々に特定の国にだけ協力するような思想はありませんよ」

「……そのようですね。他国もあなたを抱きこむ手を考えているようですが、あまり成果は出せていないようで」

「ええ。そして、今後も成果などあまり期待されない方がよろしいかと」

 多分、どこかの国の専属になる事は無いから。
 それどころか、ヒューマンだけの味方でいるかも怪しい。
 ……流石に言わないけど。

「……私に貴方の言った通りの事を報告しろと、そういう事ですか。ふむ……」

「無理強いをする心算つもりはありません。敢えて何かを望むなら、です。殿下のお立場なら私などに構うよりも、一刻も早く帰国されるべきかと思いますので、申し上げたまでで」

 僕がネックなら、それで戻れるって事だろうから。

「そう、受け取っておきましょう。しかし、交渉は無駄と釘を刺されてしまいましたね」

「学園と商人ギルド、それに最近は冒険者ギルドのファルス殿に神殿からのお客様と、とても新たな案件を受け入れる余裕などなく。申し訳ありません」

「……神殿だけなら、それなりに私の顔もききます。微力ですが、控えるよう伝えましょう」

「助かります」

 本当に。
 話し合いだけで実務が進まないのとか、凄いストレスなんだよね。

「忙しいところ、手間を取らせました。もう私からは……いえ、ライドウ殿。最後に一つだけよろしいですか?」

「どうぞ」

「私を、どう思いますか?」

 曖昧な質問だな、おい。
 どう思うかって。
 男装している事を?
 それとも、女性としての印象?
 国に戻らないで僕との交渉役に残されそうになってる現状?
 どれに答えれば良いのか難しいな。

「どう、ですか。質問の答えになるかどうかわかりませんが、大変だろうなと」

「大変、ですか」

「はい。そのお姿でいるのも、王族である事も、私のような変わった若造とこんな話をしなくてはいけない事も。大変なお立場なのだなと感じました」

「……ふふ、失礼。立場ですか。貴方は、随分と変わった考え方をする方のようですね」

 意外な答えを言ってしまったかな。
 率直な気持ちではあるんだけどね。

「では、失礼致します殿下」

 一応、女性である事には触れませんよ、と言う意味も込めて殿下、とつけて。
 頭を下げた僕はヨシュア様と別れた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「おや、ライドウ殿じゃないか。こうして顔を合わせるのは久しぶりだね」

「……ファルス殿。ご多忙なようで」

 ヨシュア様と話を終え、数名の講師と打ち合わせをした後。
 学園を出ようと廊下を進んでいた所でルトに会った。
 ルトも口にしたけど学園で会うのは確かに珍しいな。
 最近はあまり会ってなかったのもあるし。
 ……そういえば、こいつには一つ貸していたな。
 ケリュネオンの存在を冒険者ギルドとして認めてもらう事で返してもらう心算つもりでいるけれど。

「少しで良いんだけど、時間を取れるかな?」

「少しでしたら」

「良かった。それじゃ、あっちの尖塔でこの時間は無人の場所があるからそこに行こう」

「ええ」

 ルトの案内に従って人気の無い尖塔の上層に着く。
 へえ。
 結構眺めが良い。
 半壊したロッツガルドの街が一望できる場所だ。

「今回は悪かったね。まさか冒険者ソフィアがあそこで君の邪魔をするとは思わなかった。女神の干渉を見抜けなかった事と言い、真君たちにはただただ申し訳ないと思ってる」

「そのソフィアの目を通じて僕を覗いておいて、申し訳ない、ねえ?」

 よく言うもんだ。
 一応、ルトが僕に負い目を感じている節はあったから人気が無い場所でもほいほいとついてきた部分はある。
 それはそれ、これはこれと襲ってきても外に放り出すくらいの事は出来そうだと思っているのも、ある。
 貞操は大事です。

「あははは……実は高レベルの冒険者には僕もちょっとした安全弁でああいう事が出来るように――」

「今日はいつになく、簡単にわかる嘘をつくねルト。ソフィアであんな芸当が出来たのは、冒険者どうこうじゃなくて、あいつが竜に、いやお前に何かしらの深い関係があったヒューマンだからだろう?」

 そこに気付いたから、僕はこいつの視線にも気付けたんだ。
 ルトにしては浅い嘘をついたな。

「……今日はいつになく鋭いね、真君。ソフィアの秘密に気づいた?」

「何か、までは知らないよ。でも何かがお前に関係してるのはわかった。ただのヒューマンが突然変異を起こしたって竜の力を取り込むなんて反則、出来るものじゃないと思ったしね」

「なるほど、ね」

「それに、お前への執着が半端じゃなかった。……二人ともね。だから、“貸し”だって言った心算つもりだよ。うちの識なんてかなりきつそうだったんだからな」

「仮にも上位竜が、君と契約したとは言えリッチ風情に討たれるのがそもそもおかしいんだけどね。識君には色々教えたけど、それでもあの状態のランサーを彼が滅ぼせるとは思ってなかったよ」

 識自身も結構ギリギリだったってこぼしてたな。
 彼のためにもルトには言わないでおこう。

「識に伝えておくよ」

「よろしくお願いするね。とにかく、二人を片付けてくれて感謝してるよ」

 おいおい、この後に及んでまだ惚ける気なのかルトは。

「……あのなあ。お前、まだ済んでないだろ?」

「……え?」

「僕は、お前に。始末を“譲る”っていう貸しをした気でいるって事だよ」

「っ!」

「明日、いや早ければ今夜ってとこだよな? ったく、今日のお前はどうかしてるぞ? 僕なんかにあっさり見抜かれるような誤魔化ししかしないなんてさ」

「真、君。君は……」

「片付いたら、僕からそっちに今回の見返りをお願いしに行くから。しっかりしろよ、冒険者ギルドのおさ殿」

「……」

 いつものふざけた様子も見せずに、ただ僕を見つめ返すルト。
 なんていうか、僕はこいつにそこまで舐められているんだろうか。
 滅茶苦茶驚いている感じだ。
 ソフィアと、この場合はランサー、他の上位竜も含んで、になるのかな。
 全員分の結末を僕はルトに委ねた。
 それが、あいつへの貸しだ。
 巴は少しだけ気にしていたけど、僕としてはその一部始終を覗く気もない。
 ただ明日か明後日、ルトにケリュネオンの事を頼みに行くだけ。
 それでいい。

「男子三日会わざれば、と言うけれど。今の君は、まさにそれだねぇ……」

「そりゃ、どうも。じゃ、僕はそろそろ現場に戻るよ。事務室にも顔出さないといけないし、これでも能力以上に忙しい身でね」

 どこか呆けたルトを置いて、僕は塔を後にした。
もう少しです。
もう少しで返信速度がこれまでと同じに出来ます。
更新速度も戻せます。
睡眠時間をこれ以上削れないのでもう少しだけ、お待ち下さいませ。

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