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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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二人は眠い

 眠い。
 鏡に映る顔には半開きの目とクマが。
 眠い。
 昨夜は、と言うか数時間前までリミアの王都にいた。
 まだ暗かったけど最近は日が昇るのも遅い。
 向こうを出たのは早朝に近い時刻だった。

「亜空の皆、強かったんだなあ……」

 顔を洗いながらふと口から考えが漏れる。
 亜空に帰った僕と識は、先に帰還していた巴と澪、それにオークとドワーフに出迎えてもらった。
 あっちの戦果は物凄かった。
 僕達よりも早く帰ったどころか、損耗率ほぼゼロ。
 死者ゼロ、負傷者二と言う愉快な数字を聞いた。
 それで小さくとも国だったケリュネオンの領土、そのほぼ全てを確保したとか。
 リミアでも思ったけど、僕はこの世界の軍隊や国が保有するレベルの戦力を過大評価していたらしい。
 だってさあ。
 グリーンベレー、スペツナズ、オーストラリアコマンド、コブラ、CIAにKGBにサーカスにFBI……。
 あれ、段々違っていってるような。
 とにかく。
 そういうとにかく滅茶苦茶凄いらしい軍隊とか情報組織とか、テレビや映画で紹介されているのを見ていれば軍隊的なものは凄いんだなと思うじゃないか。
 凄いありきで考えていた僕はおかしくない、と思う、事にする。
 被害が少ないのは良い事だし、素直に僕の勘違いだった事を喜ぼう。
 怪我したのも、終わり間際にハイランドオークに尾を思いっきり踏まれたリザード、みたいな微笑ましいのだったし。 

「識は、無事かな」

 更には妙にツヤツヤした澪に見せられた手乗りサイズの竜が、向こうの大将だったとよくわからない説明をされた。
 国境代わりに断崖で線引きしておきました、とか巴もポロッと何かを挟みこんできた。
 しかし。
 その後で報告は中断される事になる。
 こちらの報告として識が、ソフィアとランサーに接触し若様とこれらを始末しました、と達成感を隠しもしない嬉しそうな顔で言った時だ。
 巴と澪の気配が、表情が変わらないのに一気に不穏な感じになった。
 続いて細かい報告として魔族との接触、女神の力について、と話し出そうとした識は、肩に巴の手を置かれ片手を澪に捕まれて。
 詳しい話を聞こうか、詳しく聞きましょう、と声を掛けられた。
 そのまま二人にれんこ、いや反省会に連れていかれてまだ会ってない。
 結局エマが引き継いで僕にはありがたい大雑把な説明をしてもらった上で亜空は解散。
 皆には疲れを癒してもらう事にして、エマから提案された祝勝会は翌日。
 つまり今日の夜という事にした。
 今頃エマ、は疲れて寝ているかもしれないけど誰かが指揮をとって宴会の準備をしているんだろう。
 でも僕はそういう訳にはいかない。
 むしろ昨夜の戦いに駆り出されたのがイレギュラーで、本来は今日ロッツガルドの変異体を始末するのが本番だったんだから。

「イオとかソフィアと戦った後で変異体と言われても、なのが本音だけど。眠い」

 されど朝から学園に行かなくてはいけない。
 一、二時間ほど寝て起床というわけだ。
 ロナが何か嫌な事言ってたし、金持ちの所に変異体が集まったのにも魔族の意図があるのは察している。
 ロッツガルドに住む亜人の中に魔族側に立つ者がいる、みたいな事だった。
 ヒューマンか魔族か。
 考えてみれば亜人がどちらを選ぶかなんてわからない。
 無条件に魔族と戦うと考える方が変だ。
 厚遇されている一部の亜人を除くと基本的にヒューマンは亜人を人扱いしないからなあ。
 そりゃあ実力主義の傾向があっても権利を認めてくれる魔族が良いって人もいるよね。
 これまでは魔族には凍てついた領土しかなかったから、仕方なく生活面の理由でヒューマンに寄っていた亜人もいただろうし。
 あの軍隊を見ると……向こうでも思ったけど魔王って結構凄い人なんだと素直に思える。

 コンコン

 ん?

「はい、どうぞ」

「おはようございます、旦那」

「ライムか。おはよー」

「朝早くすいやせん。学園からさっさと旦那を連れて来いと使い走りを頼まれまして。早めに学園に行ったのがアダになりました」

「もう皆は向こう?」

 確か、ドワーフとモンドを連れて学園で合流する事になっていたライム。
 彼が僕を起こしに来た。

「へい。学園長はさっさと片付けてえみたいです。後……気付くのが遅えとは呆れますが旦那と私らが動いていたのは学園長の直々の要請によるものだった、という事にして欲しいそうで」

 あはは……。
 確かに遅いね、言うのが。

「それと……講師のお偉いさんの何人かから、今回の一件、旦那はその皆さんの命令で住民の為に動いていたんだとしておくように、との事です」

 馬鹿ばっかりだなあ。
 どっちにしろ丸々受け入れるのは……無理。

「それって結構言われたまま伝えてくれてる?」

「へい」

 ライムは僕の言いたい事がわかったのか、頷いてくれた。

「ならどっちかって言えば学園長の方がマシだねえ。後で識とでも話して決めるよ。どの道初日や二日目、学園に行く前の行動は自発的な行動にしておきたいしね」

「仰る通りで。ところで旦那」

「なに?」

「外に女が一人いやした。この避難所で誰かお囲いにでも?」

 そんな女性はいない。
 特徴を聞くと、娼館で助けて以来何かと気にかけて話をしに来るあねさんな人だった。
 確か、エステルさん。

「ああ、いや避難所に連れてきた人だ。ここのヒューマンでは一番話した人かな。何の用だろ」

「一睨みしたら消えましたから大した用事でもないかと。てっきり朝から寝起きの、と下衆な想像をしやした、へへ」

「……勘弁してよ。ゴルゴン相手にお盛んなライムを基準にしないでくれ」

「……何事も過ぎたるは毒、と。旦那はもう少し遊びを覚えられた方が良いとは思いやすが」

「はいはい。んじゃ、学園に行こうか」

「識さんはよろしいんで?」

「さっきから念話を飛ばしているんだけど反応がなくてね。相当疲れていたみたいだし、ライムにお供をしてもらおうかと」

「喜んで。遅れましたが、無事のご帰還お祝い申し上げます」

「……巴か。あいつはまた」

 何でもうライムが知っているんだと思ったけど、巴が状況を皆に説明したんだろうと思いつく。
 もしかしたら澪かも。
 亜空に顔を出していない彼まで知っているとは一体どうなっているんだか。

「商人ギルドと闘技場のリザードとアルケーが悶えてました。こっちはハズレだったのか、と」

「当たりもハズレも無いんだけどね……。あ、今晩は祝勝会ね。ライムも存分に飲んでいいよ。明日に残らないタチみたいだからね」

 さっさと学園に行って用を済ませよう。
 ついでにルトに文句の一つでも言ってやるか。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 結論から言えば。
 ロナが匂わせた魔族の協力者の姿なんてものはどこにもなく。
 三体ほどのイオよりもでかい変異体がそこにいた。
 四メートル超の巨体が街の一角を破壊しながら暴れている。
 あいつら合体機能もあったらしい。
 ガシーン、じゃなくて、グチョ……グチョ、って感じだったみたいだけど。
 そして結局、学園の部隊じゃなくて僕らクズノハ商会がやる事になった。
 順調に変異体の掃討を進めていた学園の部隊は、全部の属性が通用しなくなった変異体に逆にフルボッコにされた。
 無属性魔術だと攻撃が回復に追いつかないから徒労にしかなっていなかった。
 蜘蛛の子を散らすように退却した彼らの後には、大外にいた僕たちが残る。
 はぁ……。

「あ、識はいいよ。寝てて」

「そういう訳には。若様を働かせて私が何もしないなど」

「いやいや僕もやらないよ。他の人に任せよう、面倒臭いし」

 ライムとモンドもいるしね。
 何とか討伐部隊に合流した識は僕以上に疲労感を漂わせていた。
 間違いなく寝ていない。
 昏睡とかならしていたかもしれないけど。
 だから外を固めていろ、と実質の討伐から外された時は僕は内心嬉しかった。
 僕も識も寝不足で疲れているから。

「それでは私達が」

 ライムとモンドが一歩前に進み出る。

「一体はワシらに残してもらいたいですな。折角こうして武器も持ってきましたので」

 エルドワの職人も身長を遥かに超える大斧を持ってやる気満々。
 どのくらい大きいかと言うと柄の長さもあいまって、斧が歩いているようにも見える大きさだ。
 立ててないと街中を歩けない。
 今みたいな状況なら別に問題も無いから突っ込まないけど。

「ならライムとモンドで二匹。エルドワで一匹ね。よろしく!」

「では……先手必勝一撃必殺じゃ!! 行くぞ!!」

 ドワーフは三人。
 真ん中の人が斧を担いだまま変異体の右端の個体に指をさすと、全員で走っていった。
 ……昨夜の話、彼らも聞いてたな。
 テンション高いわ。

「あれ、ライム達は?」

「旦那。樹刑は、良いんですよね?」

「……ああ、そういう事。そだね、折角だから復興に新しいシンボルでも用意しようか。並び立つ二本の大樹。ロッツガルドの新しい名物に加わるかもね」

「では」

「うん、存分にやっていいよ。ライム、あの大きさだからわかってるよね?」

「勿論。三分もかけませんや。用意はいいかモンド! って、もう行ってやがる!?」

「遅れるなよ、ライム! 図体ばかりの愚図とはいえ、なぜかな、巨大なものを相手にするというのはそれだけで中々高まる!」

 こっちも元気だ。
 普段ならモンドだけで樹刑を掛けられる相手ではないと思う。
 でかいし、混ざってる分だけ妙に耐性も高い。
 でもライムがいれば、ね。
 程なく。
 巨体の一つが輝きに包まれた。
 ライムは、誰かの力を高める事にけている。
 良くスポーツのダブルスなどでパートナーの力を引き出すのに長じた選手がいるけど。
 ライムはそれを特殊能力のように使う。
 合わせ鏡、というと大げさだけどそんなイメージで力を強化、増幅する。
 例えばモンドと組めば。
 一定範囲を一気に樹刑に落とす事も、本来は抵抗されてしまう相手に樹刑を決める事も出来てしまう。
 アクエリアスコンビとも相性が良い。
 どこにいても役に立つ器用な能力だ。
 面倒見の良い彼には結構にあっている。
 そんな事を考えていると二本の巨木が街に生えた。
 凄いな、あれ。
 四メートルどころじゃない。
 間違いなく学園都市のランドマークになる。

「唐竹割りぃぃぃ!!」

 お。
 いつの間にかエルドワも変異体の脳天に大斧、いや何故か更にでかくなっていた巨斧を振り下ろしたところだった。
 ライムとモンドがやったのはスライムみたいなのと四本足だったけど、こっちは人型で一番背が高かった。
 そいつが。
 綺麗に真っ二つに割られていく。
 正に脳天唐竹割り。
 というか、あのサイズから更に巨大化するのかあの斧。
 相手が滅茶苦茶制限されそうな武器だ。
 一対一じゃあ、使えそうにないよなあ。
 エルドワも長い隠居生活でよくわからない武器を作ってきたみたいだ。
 だけど、あれだと再生しないのかね。
 二つに割れた変異体を眺めていると、内面から泡立つように一気に膨れ上がった。
 あ、倒せたんだ。
 っ!?

「ちょ、まさか」

 悪い予感が当たった。
 一気に弾けたそれが街に雨の様に……。

「やれやれ、あれでは街が悪臭に包まれるじゃないですか。中心はともかく、降ってくる分はこれでと」

 識がお疲れながら頭上、建物よりも少し上くらいの高さに巨大な魔法陣を展開してくれた。
 それも一つじゃなく立体的にいくつも、空が魔法陣に包まれる。
 球形に展開しているのかな。

「凄いね、壮観だ」

「いえいえ、ただ触れたものを弱い威力で焼却するだけの、元は焼畑用に作った術ですので。数を放って格好だけは整えてみました」

「おかげで街が変異体のシャワーを浴びなくて済んだよ」

「考えもなくあのような斧を振り回して。後であのエルドワどももお仕置きですかな」

「も?」

「……」

「も、なのか識?」

「若様、二回は言わないで下さいませ」

 微妙に震える識。
 深くは、触れないでおこう。
 何にせよこれで終わりか。
 後は学園が調査して、非常事態は終わりですと宣言すれば街も落ち着いて復興に動いていくだろう。
 ……やっぱりこっちは、戦いって気がしないなあ。
 青々とした葉を揺らすのがここからでもわかる巨樹を見つめながら。
 あれって常緑樹なのかな、とか僕は考えていた。
三時のおやつにどうぞ。

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