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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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竜殺しの暴露

「こういう時は、何されても再生で済ませるタイプのタフネスが羨ましい」

 静かになった謁見の間。
 すっかり空中庭園ならぬ空中謁見の間状態になったその場所で、僕は防御姿勢を解いた。

「今の俺とほぼ同じ速度で戦闘を継続出来る状態になれるか。再生すら必要としないとは笑う他、ない!!」

 やや復帰が早かったイオが四つの拳コンビネーションで放ってくる。
 狙いは胸部。
 四発全部が鎧通しバージョンで柱を数本壊して吹っ飛ばされた僕に息の詰まる圧覚が加わった。
 いってえ。
 変身解いてイオの、あの自己犠牲アイテムの効果を消してやろうかと思ったけど。
 澪謹製の変態スーツの性能を確認していてあるものを見つけた。
 ヘルメット内部に網膜投影される近未来的な立体映像付きのマニュアル。
 無駄に凝ってるな。
 蜘蛛マークが付いた必殺技リストの一番下。
 キック以外使わなかったし、キックの前のなんちゃらかんちゃらは逆に脱力しそうだったから省略したけど。
 その時はご丁寧に音声入力ミス、威力低下ペナルティ四十パーセントとか出た。
 どこまでが玩具でどこまでが本気なのかわからん。

 強制変身解除。

 澪のコメントによると敵に同様のヒーローが出てきた場合に使うと良いらしい。
 使えば貴方もダークヒーローです、って部分は無視した。
 詳しく性能を見ると、超限定的なディスペルマジックだった。
 魔術の方が数倍楽だけど、イオとロナの繋がりを考えるならこっちの方が良いか。
 顔バレはしないから。
 それに接触しないと駄目って条件もイオの場合は結構簡単にクリアできる。
 待ってても向こうから来るしな、あの人は。
 反対回りで壊れるなんて事もないようだし。

「その鎧だけのタフさでも無い。更に強化魔術を使っているにしてもヒューマンとは思えんな」

「褒められている、と思っておくよ。あんな無差別攻撃があっても標的は僕のまま、勇者は?」

「……部下の反応も殆ど無くてな。この瓦礫だらけの中で勇者を探すよりも、まずはお前だろうさ。幸い、俺にはまだ数時間は時間があるからな」

「この攻撃をした奴は、僕の記憶だと貴方方のお仲間なんだけど、そこは?」

「奴らを知っているのか。つくづく、得体がしれん。が、奴らを知るなら首輪を付けられる存在かどうかはわかるだろう? 刃がたまたまこちらに向いていないから利用しているだけの関係だ」

「……なるほど」

「で。お前のその構えは? 次は何を見せてくれる?」

「さて、見てのお楽しみという事で」

 僕は立ち上がって半身になり、前に出た右手を高く上げている。
 手刀をイオに向けている形だ。
 イオの魂を力に変えて、その身に光の粒子を纏わせている術式の核を見つけ出す。
 澪のコメントは、心の目で相手の急所をどうとか書いてあったので、役に立たない。
 界をイオと僕を直径にする範囲にまで広げて力の流れを把握。
 光の剣の時に咄嗟に防御に変えていたからなあ。
 すぐに切り替えれたのは努力の成果か。
 うん。
 右肩、付け根近くか。

「では、見せてみよ!」

「……」

 筋肉のバネで恐ろしい瞬発力を得たイオが一直線に僕に迫ってくる。
 巨漢ってのは、本来それだけで脅威。
 体重は武器だ。
 そしてそれが筋肉による重量なら更に驚異の倍率はあがる。
 巨人が武術を学べば、本来体格で圧倒的に劣るヒューマンに勝目なんて無いと思う。
 でかくて速くてタフ。
 日本で遭遇しなくて本当に良かった。

「!?」

 落ち着いて狙いを定めていた。
 でも、イオはいきなり床を強く蹴って宙に浮いた。
 これは焦る!
 焦るが、彼との戦いで感じた冷たい感覚。
 深みまでは入らずにその領域に数歩だけ意識を進める。
 ……。
 相打ちで良い。
 今は、奴の最大の利点、その武器を奪う。
 最初に迫る蹴り。踵落とし。
 これは喰らえばダメージはともかく姿勢を崩される。
 だが半身の構えは回避がしやすい。
 成功。
 着地につけ込める隙は見当たらない。
 二本の腕が頭を掴みに来る。
 ここだ。

「スペルブレイク」 

「っ!!」

 真下に落とすように。
 右手でイオの右肩を斬る。
 狙い通りローズサインの力の集中する場所を含む直線を描き、右手が床についた。
 掴まれる頭。
 叩きつけられる。
 拳の連打、が十にも届かずに止む。
 この程度なら、問題無い。
 スーツは軋むものの、破壊までは至らない。
 顔面に蹴りが迫る。
 それを体を丸めて足を前に出す、奴と同じ蹴りで迎え撃った。
 多少の攻撃を受けても、相手の最大の武器を潰しておけば後が楽になる。
 殴られた分以上にはリターンがあった。 

「ふぅぅ……」

 息を吐いた。
 出来るだけ呼吸を大きく。
 これ以上冷たい方に入り込まない様に心を戻していく。
 イオを見る。
 彼はその場で立ったまま。
 僕が斬った場所は既に治癒されている。
 流石の再生力だ。
 ただし。
 その身に光はもう無い。

「……何をした」

「ローズサインを、破壊した」

「破壊だと!?」

「そう、破壊。既に消えた分が戻る訳はないだろうけど、もうアレの力は消え去った」

「馬鹿な、そんな馬鹿な事が」

「その類のアイテム、予備は持たない筈だ。まだ、戦うか?」

 イオとソフィアそれにランサー。
 同時に相手にしたくない。
 既にこの城が住めるか使えるかと聞かれれば答えはノーだけど。
 そんな連中を同時に相手取れば間違いなくここは更地以下になる。
 あの光の剣雨と爆発で、既に王都は都市としても終わっている。
 第二、それか第三の都市を王都にするか新しく作らなければいけないだろう。
 魔族はリミア王国に対して少なくとも二年か三年の時間を得た事になると思う。
 グリトニアがどの程度の被害かはわからないけど、ステラを渡したとしてもなお十分なプラスだと思うよ。
 勇者が健在な以上、イオも、まだ生きている僅かな魔族軍も退く気は無いんだろうけどね。

“永劫を生きる竜の王たち……”

「?」

「ソフィア……これは、強化詠唱か? 奴め、なぜいきなり王都などへ。帝都はどうなったのだ」

 強化詠唱。
 イオの言葉で僕の一帯に響く声の正体に気付く。
 確かにソフィアの声。
 ただ大声で叫んで詠唱している訳じゃない。
 あいつはまだ空にいる。
 その位置はもう把握している。
 ……あいつにそんな事が無意味な事もわかっているけどさ。
 この、今も続く詠唱は意図的に広い空間に声を響かせ、術の宣言を大々的に行う特殊な詠唱だ。
 かなりの威力向上が見込める。
 ただし術の構成が読まれやすく、相手に対策を立てられやすい。
 つまり。
 初見の術なら結構効果的。
 かと言ってそれなりの規模の都市や城には大規模魔術用の無効化結界がきっちり展開されているから、大砲みたいな魔術をさらにこれで威力を上げて街にぶち込んでも、あまり意味がなかったりもするんだけどね。
 一定以上のクラスの術に対応する無効化って良く考えられていると思う。
 一定以下のクラスの術だと強化詠唱していると気付かれるし、都市側もそれに応じた防御はするだろう。威力だって不足する事が多い。
 僕は……。

“刃竜、水竜、火竜、影竜……”

 かなり長い詠唱だな。
 それも流れは内向き。
 自分に使うバフスキル?
 詠唱付きの自己支援って相当凶悪な効果があるような。
 イオもソフィアの真意を測りかねているのか空に浮く米粒みたいな大きさの彼女を見るばかり。
 一応の味方でもわからないなら僕にわかる筈も無い。
 でも、備えはしておこう。
 まだソフィアの詠唱は大分続きそうだし、ランサーの方は街に降りたようだけどあまり動いていない。
 識もあの状態ならランサーを倒せるかどうかは別にして抑えるくらいは可能だろう。
 後は先輩が無理をしないでいてくれる事を祈るばかりだ。
 あんなに余裕のない先輩は初めて見る。
 何でもかんでも余裕の表情でこなしていく人だったんだけど……。
 異世界ともなると色々違うか。
 イオに警戒しながらスーツの内部で身体強化と魔力の体外構築を確認する。
 竜殺しとの再戦か。

“以下省略!”

「はぁっ!?」

 僕は思わず驚きの声を出した。
 急速に力がソフィアに収束していく。
 なんて理不尽な!

「死ね」

 その声は界によって気配を察して後ろを振り返った僕の耳に。
 脳天から真っ直ぐに一閃が走った後に届いた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 僕はソフィアと相対している。
 背にはイオの視線を感じながら。
 くそ、スーツが。

「あれで死なないか。それどころか防具を破壊しただけで無傷って、相変わらず面白すぎるわね」

 見覚えのある獰猛な笑み。
 記憶よりサイズの小さい同色の剣。
 界でわかっていたとは言え、こうして対峙するとやっぱり実感が……。

「ソフィア=ブルガ」

「ええ、そう。覚えていてくれて光栄ね。あれから私も色々あってね、貴方があの程度で死ぬ事は無いって確信していたわよ」

「魔人とやらに殺されていてくれれば、と僅かに期待したりもしたけど。お前もやっぱり生きているか」

 ニアミスで遭遇はしていなかったのか。
 まったく、運が良い奴。

「? 何を言っているの? でも嬉しいわ。あれに耐えるんだから。帝国の勇者君よりはずっと、強い」

「……勇者を殺したのか?」

 おいおい。
 勇者を殺したりしたら女神がそれはもう怒るんじゃ……。
 もしかして女神上等ですか。
 オラオラですか、ソフィアは。

「いいえ。今はまだ。彼には面白いものを見せてもらったから見逃してあげたわ」

「僕もお前を楽しませたみたいだし、今日の所は帰ってもらえない?」

「無理ね。私もランサーも貴方を障害と認識しているの。多分、いえ絶対に。お前は私達の邪魔になる」

「……勘?」

「ええ。今日こそ貴方の防御、切り刻んであげる」

 ソフィアの目に宿る殺気が臨界近くまで高まるのを感じる。
 今こいつと戦ったら、多分イオとやった時よりもずっと深く戦いに集中しないと怪我をする。
 だが、ソフィアは敵だ。
 僕を殺すと明言している、これ以上無い敵。
 なら、集中して何がいけない。
 戻ってくれば良いだけの事だ。
 そう。
 今の僕を忘れないでさえいれば、大丈夫。

「さあ――」

「双方、止まれ!」

「っ!?」

「あら」

「ロナ? お前がどうしてここに」

 ロナ!?
 ソフィアの一撃で僕が素顔を晒している今、彼女がここに来る!?
 どれだけついてないんだ僕は!
 女神から変身して響先輩でソフィアでロナ!?
 ジョーカー有りでポーカーやってファイブカード決められた気分だよ!
 こっちはロッツガルドでこつこつ頑張って。
 ようやくストレートとかフラッシュが出来て喜んだ感じなのに!
 全部台無しかよ。
 いや。
 今回は流石に駄目だ。
 僕だけじゃなく、商会も、亜空の皆も巻き込んでいる。
 巴も澪も識もだ。
 絶対に、諦めきれない。
 力ずくでも、無理矢理でも。
 例え当初と形を多少変えてでも。
 成し遂げなきゃ駄目だ。
 諦めて、たまるか。

「ソフィア、それから白い? ……え、貴方」

「……」

 バレた。
 くそ、いざとなればあっさりしたもんだな。

「ライ、ドウ?」

「なに!? こいつがライドウ!?」

 イオも、ライドウの名前は知っていたみたいだ。
 ロナから顔まで伝えられていたなら、ロナが来なくても振り返った段階で終わってたか。

「あら、ロナとも知り合いなんだ、ライドウ」

 ソフィアが思い出した様に言う。
 よくも、しれっと言ってくれるものだ。

「ライドウ、どういう事? 貴方はロッツガルドにいる筈よね? 何故、王都にいるの? どうしてイオとソフィアに睨まれているのかしら」

「……それは」

「女神と約定を交わしたそうだ。王国の勇者を助けて、ステラを落としたいらしい」

「わお、ライドウ。私に嘘をつくなんてやるじゃない。やっぱり女神の駒だったのね。それにしてもリミアは災難ね、貴方さえこなければ城や街はここまで焼かれなかったでしょうに。帝都の勇者を助けに来てくれていたら、私も御剣もここまで来なくて良かったのに。残念」

「……取引。女神とは取引をしただけだ。お互いに約束をしただけ。僕は別にあいつの駒じゃない」

 ソフィアはイオの言葉に過剰なジェスチャーで驚いてみせる。
 崩れていく。
 色々なものが崩れていく感覚を、僕は感じていた。

「ライドウ。私と、魔王様に会う約束をしてくれたわよね? ならば魔族と戦うのは言葉に反する行いでは無いのかしら?」

 ロナ。
 自分は言葉に含められた意図を汲もうとはしなかったのに。
 多分、僕がそうする甘ちゃんだったから、こういう事を言うんだろう。
 彼女にとって、ロッツガルドの僕は相当扱いやすいヒューマンだったんだろうな。
 識がいなかったらもっと、好き勝手に利用されていたかもしれない。

「魔王と会う約束は、確かにした。でも。魔族を一切害さないと約束した覚えはない。ロナ、お前ならわかるだろう。僕は、勇者の保護とステラの陥落を頼まれた。これは別に魔族を殺さなくても出来る事だ。同胞を失いたくないなら、リミアの勇者とステラ砦。この場は諦めてくれ」

「数日前まではロナさん、だったのにねえ。……そう。ロッツガルドでの変異体騒動、そんなにライドウを怒らせていたの。貴方はヒューマンに特別執着もしていないようだったから。あれには窮屈そうにしていた商人の貴方を助ける効果もあった筈だけど?」

「……敵対する商人を皆殺しにして?」

「魔族が放った変異体が勝手にした事で、よ。貴方に責任なんて無いし疑われもしないでしょう。たまたまそうなっただけなのだから。ライドウ達はただ避難をして、後は各国の救援部隊が変異体を討伐後、適当に戻ればそれなりの環境で商売が再開できたのに。あの事件、貴方にそれほどデメリットは無かったわ」

「余計なお世話だよ」

「……だったようね。ラルヴァ、いえ識か。あいつが傍にいるような商会だもの。倫理にさして拘るようには思ってなかったのに。裏で計算する一面が薄かったのは結構な誤算よ、まさか商人にあるまじき甘さと優しさで、あのラルヴァの協力を得ていたとは、ね……」

「ロッツガルドは、掃除させてもらったからな」

「連絡を受けているわ」

「……魔族は街を離れている筈だぞ?」

 幾らなんでも報告が早くないか?

「ええ、魔族は、ね」

 亜人……か。
 イオの率いる軍を見ても、青い肌をした魔族だけがヒューマンの敵じゃないのは十分わかったけど。
 そうか、あの街にいる亜人の中にも協力者がいたのか。
 数が多くても、四面楚歌なのはヒューマンの方だったりして。

「あくどいな」

「私は貴方との約束は守ったつもりよ? どうかしら、もう一度、取引をしない? 貴方の魔族領での商売を全力でサポートしてあげる。勿論、ヒューマンの国で商売するのも止めないわ。邪魔もしない。その代わり、この場は退いて」

「……女神との約束があると言ったよ。ロナこそ、イオを連れてさっさと魔族の拠点に戻れ。それからステラ砦から人員を退避させろ。残しておくなら無駄な犠牲が出るだけだぞ」

「そこにいるソフィアは既に人を辞めている強さよ? それに加えてイオも相手にして無事に済むとでも?」

「……僕も、これでも数々の人外に非常識と言われてきている。心配は無用だよ。良いさ、何ならロナも加われば? ちょっと、過小評価されてる気がするからさ」

「な……」

 ロナが絶句する。
 あまり僕に似合う言葉じゃない。
 だけどこの際二人も三人も一緒だ。
 識の手に余るなんて事は無いだろうけど、いっそランサーもこっちに来てもらっても構わない。
 集中集中。
 もう魔術は解禁だ。
 それに、修行の成果もお披露目といこう。
 どこまで自分がやれるのか。
 敵を相手に確かめるのも悪くない。

「ロナ、その言葉は驕りでは無い。ついさっきまで俺も、ローズサインを使って奴を攻めきれなかった」

「ローズ……!? イオ、貴方には絶対に戻れと伝えたでしょう! どうしてあんなものを使ったの! レフトに預けておいたのに、何で持っているのよ!」

「部下にだけあんなものを持たせられるか。それにレフトはかつて俺の副官だった男だ。俺の言い分に納得してくれたとも。なにより勇者をここで討てるなら私は後進に道を譲っても構わんと思った。あれは、予想よりも大分強くなっていたからな」

「あのねえ! 魔将までつとめた貴方が! 簡単に死んで道を譲るなんて言わないで! 確かに、私と貴方は仕える王は同じでもその忠義の方向は違うと思うわ。それでも類まれな武人であるイオという将を認められない程狭量でもないつもり。どうしても道を譲りたいのなら、なぜ教官を経てその技をきちんと残してからに出来なかったのよ……」

「あ、ああ。いや、すまん」

「それで? 貴方に残された時間は?」

「それがな」

「もう、光も全く出ていない……。都に戻る事も出来ないの?」

 悲痛さを感じるロナの声。
 仲間にはそれなりに優しくもあるんだな、この人。
 いや、イオも予想外な顔をしているから、もしかしてかなりレアな顔?
 ソフィアも僕に剣を向けているけど、動かない。
 僕は驚きながらも、こっそりと界を通常の隠蔽に戻して力の展開を終了。
 これまでの不運のコンボに比べたら些細な事だけどラッキーだ。

「ローズサインの効果は切れた」

「……そう。言い残す事は? 誰にであれ責任を持って貴方の言葉を伝えるわ」

「いや、あの男、ライドウに切られたんだ」

「……?」

「ローズサインの発動途中で、ライドウに、強制的にローズサインを打ち消された。何をされたのかはわからんが」

「……え? それは、もしかして?」

「……俺はまだ死が確定してはおらん」

「っっ!! なら! 最初からそう言いなさいよ、紛らわしい!!」

「むしろお前が落ち着け。話をまともにさせてくれなかったではないか」

「うっ……」

 ロナが僕を睨む。
 いやいや。
 僕は今のやり取りでどこも悪くないよ?
 というか、ロナの口ぶりからするならお礼を言われるケースのような。

「ふふ、ふふふ、あははははははは!!」

 ソフィアの大笑いが謁見の間に鳴った。
 夜空が見えるとはいえ、ここには見えない結界が張られている。
 光の剣で一時効果を失っていた支援結界だ。
 流石は王都。
 大国の城だけはある。
 一度破られてもすぐに再構築されるようになっているようだ。
 ソフィアはひとしきり笑うと僕らをまとめて見た。
 これでやる気を削がれていればと思った。
 相手がこいつじゃ儚い希望に過ぎなかった。

「そっか! イオが命を代償にしてもロクなダメージも与えられない! ふふ、ふふふふ!! 最初に“解放”しておいて良かったわね。私も全力じゃなきゃ勝てないかも」

「全力、竜殺しのか」

 イオが嘆息するように呟く。

「気分的には避難したいわね」

「僕も同感」

「そう言わないでよ。貴方にはそれだけの価値があるわ、ライドウ」

 ソフィアは悪戯を思いついた子供のような悪い笑顔をはり付けた。

「そうそう、ロナ。星湖の一件だけど」

「何、いきなり?」

「魔人の名前、今思い出しちゃった」

「はあ?」

 魔人の名前?
 ソフィア、こいつ湖を作って戦いを終わらせるような魔人とも、やっぱり交戦していたのか。
 それで五体満足で生きてる。
 凄い生命力だな。
 変わらずバトルジャンキーでいる所に変な感動を覚えた。

「再戦といきましょ! 魔人、ライドウ!!」

「……」

「!?」

「魔人!?」

 何か紅い光を付与してリーチが伸びた剣を片手に、嬉々として僕に迫るソフィア。
 ……え。
 まじん?
 僕が?
 魔人!?
 何でこいつとの戦いはいつもこうなるんだよ!
 一時停止から動き出した表層の思考、それをかき乱されたまま、竜殺しを迎え撃つ。
 掻き消えるソフィアの姿。
 わかってる。
 あいつの常套手段だ。
 どこから攻撃してくるかなんてわかる筈も無い。
 だから。
 僕はこういう力を望んだんだ。
 イオの時とは違い、肩幅に足の間隔を開いてその場に立ち止まる。
 回避を考えない、打ち合いの構え。

 ガギィィッ!!

 耳障りな音。
 左からだったか。

「これ、はっ!」

「お前の不意打ちには散々痛い目を見たからな。僕もそれなりに強くなってるって事だ」

 ソフィアの剣が僕から少し離れた所で止まっていた。
 いや、僕が“止めた”。

「ああ。何か違和感があると思ったら。ライドウ、いつの間に話せる様になったの? それが強くなったって事かしら?」

 多少は表情を崩したものの、ソフィアは剣を持たない左手に黒い闇の塊を掴んで僕に向けて突き出す。
 それも、鈍い音と共に剣と同じ場所で止まる。
こいつ、扱える属性が前よりも増えてる?

「共通語か。それはついさっきだ。どうした、ソフィア? 全然攻撃が届いてないぞ? さっきの、紅い斬撃でも使って見たら?」

 界を隠蔽から強化に移行。
 僕の身体から広がるように青白い、濃密な魔力の姿が可視化されていく。

「刃竜の剣、火竜の焔。ソレで、防ぐ気?」

「一撃で僕を殺そうとした自慢の攻撃だろう。もう一度、試しても良いと言ってる」

 イオとロナ、二人の息を呑む気配が背から伝わる。
 まだイオは動かないのか。
 それとも、ソフィアに巻き添えにされずに共闘できるかと推し量っているのか。
 ソフィアの持つ濃緑の剣を、再度濃く紅く強い光が包み剣を長くする。
 来る。

「なら試させてもらおうじゃない。 さっきのトリックも、暴かせてもらう!」

 一閃。
 正面から放たれた剣を構えも取らずに見守る。
 ソフィアがソレと言った、僕の周囲を包む青白い魔力と衝突した。
 そして。
 振り抜かれた一撃がその軌跡に色を残し。
 彼女が飛び退いたのを合図にするように爆発した。
 光の剣といい、ソフィアは火属性を得意としていたっけ?
 視界が晴れていく中、そんな疑問を感じた。 

「人型? あれ、魔力で構築しているの? いえ、でもあれ……そんな」

「……あれが奴の、本当の鎧、か」

 流石魔将。
 隠蔽していない以上、見られるし分析もされる。
 僕は頭の回転は早くないから。
 だから使い方によって恐ろしく強いとか、そんな事よりもシンプルにバレても特に変わらないような力を欲した。
 それが、これ。
 僕の身からイオよりも少し大きいサイズに構築された人の上半身の影。
 僕の魔力で作ったもの。
 バレても構わず、不意打ちにも対応し、一度に放つ魔力が伸びない僕でも大量の魔力を行使できる手段。

「……対物理障壁じゃ、ないわね。ライドウ、正気? あれだけの防御力を持っていて、更に防御スキルに特化したって言うの!?」

「竜殺しの溜めた一撃も余裕で耐えられる。自信がついたよ、ソフィア」

「魔術の発動も無かった。障壁特有の弾かれる感覚も。どういう事よ、それは、明らかに物理的に私の攻撃を防いだわね?」

 ソフィアが以前一度も見た事の無い顔をしている。
 あの攻撃にそれだけの自信があったのか。
 それとも、僕の得たコレが完全に予想外のものだったのか。
 ああ、見覚えがあると思ったら。
 巴や澪、それに識と同じような顔だな。

「ああ、僕は魔力を物質化出来る。戻すのもね。可視化が防げないのが難点だけど、僕にはそれを隠す手も別にあったから。その防御力は今見せた通り」

 ソフィアの一撃も爆発も。
 なんら構成される魔力体(仮)に有効打を与えていない。
 まあ、勿論。
 防御だけじゃない。
 攻撃にしても、結構反則だ。
 ……滅茶苦茶苦労したんだ。
 物質化自体も、その領域や形も。
 結果として某格闘ゲームの憑依キャラを参考にした。

「魔力の物質化……聞いた事も無いわ」

 ソフィアの言葉。
 だろうね。
 僕もエヴァさんから論文を見せてもらうまで、聞いた事がなかったし、彼の論文以外にそれらしいものも無かった。
 この世界では、完全に見限られた技術だから。

「ロナ、魔力の物質化とは、なんだ? 魔力で物を作るのか?」

「多分厳密には違う。ライドウがやっているのは……。魔力に、触れる事が出来る性質を与える、その類の事だと思う」

「つまり、あの魔力の塊で出来ているであろう人型の上半身は、その気になれば拳で殴り合いも出来ると? 凄いではないか! あの様に展開出来るなら術師の防御に」

「ええ、恐らく。でも……魔族でさえそんな技術は既に見限っているわ。その逆はともかく、コストパフォーマンスが悪すぎるもの」

 ロナはうなされているような口調で、信じられない物を見る目で人型と、僕を見る。

「イオ、貴方なら、金貨一枚を材料にして銅貨を一枚作れると聞いて凄いと思う?」

「……いや? むしろ阿呆かと思うが」

「そうでしょう? あれはソレよ。魔力を物質化するなんて割に合わないの。はっきり言ってこれ以上ないくらいに非効率的。特定の物質を魔力に変換するのは研究の余地があるけど、ね」

「対物理障壁は違うのか?」

「ソフィアが言っていたでしょう。対物理障壁は武器や拳の攻撃に反応して起動する術の一つよ。ライドウのやっているあれは、魔術ですら、ないの。わからない。ライドウが何故あんな技を得たのか……」

 ぶつぶつと考察をしているロナ。

「ソフィア、今度は僕の番だ」

 どれだけの魔力を持とうと、相応しい使い方が出来なかった僕にとって。
 この力は多くの可能性を開いてくれた革命的なものだ。
 まずは目の前の竜殺し。
 こいつを蹴散らして、トラウマを一つ、克服させてもらう。
真の得た力。なんと、さらに硬くなる。
だけじゃなく。
今回は姿だけみたいなものでしたが次もお披露目ですね。

モデルは某格闘ゲームのラ○ウ憑依、某オーバソウルな漫画のS○Fなどですね。
あれ、後者が微妙に伏字になってないかも。

そして、書籍についての続報がございます。
amazon様、楽天様などで予約が開始されました。
ご連絡頂いた皆様ありがとうございます。
私からも告知出来るようになりましたのでお知らせします。
活動報告にて書籍表紙を公開しておりますので、よろしければご覧下さいませ。

ご意見ご感想お待ちしています。
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