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魔人の参戦⑤
私は、また負けた。
以前よりも確実に強くなったし、今回は地の利もあったと言うのに。
ツィーゲで手に入れた装備で皆強くなった。
リミアについて来てくれた冒険者達の考えや戦いぶりは王国軍にも良い影響を与えてくれた。
私にもだ。
あの辺境都市で出会った澪さんやベレンさん程では無いけど、学ぶ事は多かった。
白兵戦の実力だけじゃない。
貴族のしがらみに凝り固まった不自由な政治を打破する為の行動も始めた。
ステラを落とした後ならともかく現状では王都の位置はかなり危険だし、貴族たちがそれぞれに軍事力を持ちすぎているとも思ったから。
そちらでもそれなりの成果は上がっている。
次代を担う跡継ぎ達とじっくりと話を繰り返して、今の王国の在り方を間違っているものだと認識してもらう事に注力してきた。
王家への反乱が目的ではないし、魔族との戦争の最中に大きな内乱を起こす訳にはいかないから今は意識改革だけに留めているけれど。
大貴族でも王家にかなり近しいホープレイズ家の次男。
イルム君が早い段階で私に賛同してくれた事が、スムーズに行動を進める大きな助けになってくれた。
彼にはこれからも助力をお願いする事になると思う。
ステラを落とす為の作戦に向けて、私は自分ができる事を全てやっている実感があった。
なのに。
イオの奇襲で攻めるどころか攻め込まれ、謁見の間まで侵入を許してしまった。
逃げる気でいたけど、ここまで来られてしまってはそれも難しい。
イオに追われながら城を出て街を抜けるのは正直かなりきついってわかる。
私達にも周囲にもどこまで被害が出るかわかったものじゃない。
結局、支援結界のある謁見の間で早期決着を付ける方を選んだ。
イオは世界の果ての荒野から引っ張ってきたとか言ったミノタウロスとケンタウロスを使ってベルダを完全に抑え込み、私は一騎打ちのような形であいつと戦わざるを得なくなった。
ウーディの支援攻撃、チヤちゃんの回復と能力支援。
それに謁見の間の支援結界。
さらにホルンの宿る銀帯にベレンさんに作ってもらった剣。
例え黒く変色して最初から全開で来るイオを相手にしても渡り合えると思っていた。
今私の目の前で突然乱入してきた白い奴と戦うあいつと。
何の冗談かと怒鳴りたくなる気持ちが湧き上がってくる。
日曜日の朝にやっている特撮ヒーローみたいな格好をした奴はイオの攻撃を真正面から受け止めて、二発も打撃を受けながらイオを退かせ一撃を加えた。
私が力で挑むなと忠告したのが馬鹿みたいだ。
強い。
それも相当。
動きはぎこちないけど、白い奴は常にかなり高位の強化魔術を展開してイオと接近戦をやっている。
特撮なんて知っている私からすれば格好は相当恥ずかしいけど、あれはイオの攻撃をきっちりと防いでいる。
腕力や速度、基本的なスペックはイオよりも高く見える。
その分体捌きや立ち回りはイオの方が上だ。
……まあ、格好については私も他人の事は言えないのだけど。
ふと自分の体を確かめる。
傷らしい傷は無い。
既に自分でも回復魔術を使ったし、チヤちゃんにも癒してもらったから。
肉体的、精神的な疲労は大分あるけど、それは気力でねじ伏せるしかない事だ。
殆ど裸に近いから傷跡の有無なんかは実によくわかる。
恥ずかしいけど、でもこれが最高のパフォーマンスを発揮するのに必要なら……やらない訳にはいかない。
銀帯に宿る守護獣、ホルンとの共鳴でどうしてもこの姿になってしまうから仕方が無い。
銀帯とホルンを同時に“纏う”荒業。
憑依とは違って私自身の意思は全く阻害されないし、際どい毛皮製の水着みたいな布地しか残らないのが不本意だけど、形成される防御フィールドはドワーフのベレンさんからもらった防具を軽く凌ぐ。
黒いイオと戦うにはこの姿の力と速さが必要だ。
グラビアの方が幾らかマシなんて言っている場合じゃない。
だから私も割り切れた。
まともなブラフが通じない相手だったから、以前の私が見せたような弱さを演じてせめてもの油断を誘っても見せた。
殆ど、何の意味も無かったけど。
スタートダッシュで何度か有効な一撃は入れられたけど、お決まりの再生で全部チャラにされてしまったから。
そう……この剣。
やはり澪さんとベレンさんは凄い。
あの二人は私の得意な属性なんて、コレを作った段階でお見通しだったんだ。
風の力が封じられた大剣、だったもの。
イオとの戦いで私はやっとコレの力を思い知った。
無機質な声で、剣は私に呼びかけてきた。
求められるままに私は剣が発する力を強引に押さえ込んで見せた。
ホルンとそうしたように剣と一体化するんじゃなく。
剣と力試しをした感覚だった。
耳障りな金属音が何度も響き、大剣は私が以前使っていたバスタードソードのサイズに圧縮された。
元々透き通っていた緑色の淡い刀身は色濃くなり透明度を下げ。
代わりに一層風の力を感じさせた。
武器を理解しようとするんじゃなくて、力を渇望して力で従わせる事が条件なんて底意地の悪い仕様だと恨み言も浮かんだ。
けれどその威力は凄まじかった。
持っているだけで速度がさらに向上し、感覚が鋭くなっていく。
切れ味も格段にあがり黒いイオにも斬撃が通った。
得意とする火属性の攻撃を使えば風の力が威力を更に高めてくれたし、剣に属性を付与すればその炎は赤じゃなく刀身から吹き出るような緑色になった。
前は武器に恵まれなかった者が今度は武器に振り回されるか、と揶揄されもしたけど気にならない程の高性能だった。
風属性は火属性を高める。
私と私の戦い方には火の武器よりも風の武器が良いとベレンさんは考えてくれたんだろう。
イオには私の速さが追いきれず攻撃はイオをとらえ続けた、これで勝ったと途中思ったわ。
なのに。
あいつの切り札は黒くなる事じゃなかった。
腕にはめた武器であり防具であるあの大きいガントレット。
アレだった。
前回は身につけてなかった所を見ると、あの後作ったんだろうか。
四つの武具はそれぞれが四大属性と呼ばれる地水火風を宿していて、単純ながら攻撃に属性を纏わせてきた。
風で地で、動きを制限させられる。
水で火で、攻撃を弱められた。
あれさえ無ければ、イオが“慣れる”前に勝負を決められたのに。
たった一回パターンを読まれただけだった。
そこから私はカウンターを喰らい、フォローしてくれたウーディとチヤちゃんの魔術を防ぎもせずその身で受けながら迫るイオに、身体をバラバラにされるような連撃を加えられた。
蹴りも加えた六連、いや七連だったかな。
残りの魔力なんて度外視したウーディの術の連発で弾幕を張り、チヤちゃんに回復をしてもらった。
何とか詠唱できるようになった段階からは自分でも回復魔術を施した。
ウーディの魔力を相当犠牲にして戦力が低下した所で、状況が変化した。
黒い塊が金色の光を僅かに帯びて上空から謁見の間に突っ込んできて。
私達の前に禍々しいドクロと特撮の白い奴が出てきたんだ。
イオの言葉を無視して近づいてきて、私が気づかなかった伏兵をドクロの方が難なく片付けた。
敵とも味方とも決められない微妙な発言をした後、私と仲間はドクロに先導されて壁にもたれかかっていた。
恐らくは白い奴の部下だろうけど、静かにイオと白い奴の戦いを見ている。
助けに入る様子も無い。
私達の周囲に何かフィールドを張ったようだけど、それ以上は行動する気配さえない。
確かにあの白いのはイオを相手に互角以上に戦ってはいるけど……援護もしないのはどうなんだろう。
「彼は、貴方の主人なんじゃないの? 助けずにここにいて良いのかしら?」
「……問題ない。あの程度なら援護などあの方には邪魔にしかならぬ。勇者、響だったか。その武器、ツィーゲで手に入れた物か」
「いきなり、なに?」
「何、クズノハ商会の武器だと思っただけだ」
「知っているの!?」
「多少はな。どちらかと言えばその素材に、私は因縁があるようだが」
「素材?」
「ああ、昔荒野で風の精霊を食わせた実験体がいてな。ソレのカマに似ている」
「……あ、あれはお前が作った魔物だったの!? というかこれ、それが素材!?」
「まあ、その辺りは別に今は関係の無い事。そうやって素材になってしまう程度の個体にしかなれなかったのだしな」
「……言ってくれるわ。一体何者よ?」
「ラルヴァ。実験好きの元リッチだ。おい、そこの術師と騎士。動くな。じっとしていろ」
ラルヴァと名乗った骸骨は私と話をしながら、それなりに回復したベルダとウーディが立ち上がろうとしたのを制した。
ウーディはまだ魔力がロクに回復していない。
まだ行動を再開するには無理があると思う。
でも。
私はその理由を知った。
二人の視線の先には二体の敵。
ケンタウロスとミノタウロス。
荒野の出だけあって手強い。
私なら、やれる。
ここは私が出るべきね。
もう体も動くし。
「勇者。お前もだ。じっとしていろ」
「敵が見えないの? 私はあの程度の相手なら三分もあれば十分よ。任せて」
「……勘違いをするな。私は相談をしている訳でも意見を求めているのでもない。命令をしているのだ」
「随分な言葉ね。助けてもらっている事には感謝するけど、これは貴方にも利がある事でしょう?」
剣を手に、立つ。
あの白い奴程じゃない質だけど、それでも常時強化魔術を扱うのはかなり魔力を消費する。
少し力が抜けるのを感じて術をかけ直す。
気を抜くと解除されやすいのも難点ね。
その分、効果は安定しているから魔力量が多い私には結局合っている魔術だ。
「お前が怪我をする可能性が微塵でもあるなら私には害しかない。座れ、黙ってじっとしていろ」
元リッチという骸骨の反論を許さない口調。
こいつらは、どうやら本質的には私達の味方では無いみたいだ。
「すぐに済むわ」
「フィールドから出れば、お前の仲間を殺す」
「!?」
「私達が女神と交わした約定に、お前の仲間の無事は入っていない。お前さえ無事なら他のヒューマンがどうなろうと、私は構わん」
何て事を言うのか。
女神は一体何を思ってこんな輩を王都に?
言葉に冗談の色は見えない。
少なくともこいつ自身はヒューマンの命に全く価値を感じていないとわかった。
「……ならどうしろと言うの? ほら、来るわよ!?」
「私がやる。お前達はここでただ息を潜めていればいい」
「貴様、無礼にも程が――!」
「ベルダ殿、ここはあの御仁に任せましょう。この状態で敵を増やすのは悪手です」
ウーディが我慢できなくなってラルヴァに文句を言おうとしたベルダを抑える。
確かに、今は敵を増やしている時じゃない。
イオを迎え撃つと決めた以上。
王都に攻め込んできている魔族は速やかに追い出さないと。
その為には何とかラルヴァも出し抜かないと行けないかもしれないけど……。
「なら、お手並拝見ね。ラルヴァ殿の力、見せて下さいな」
少しばかりの厭味も含めて送り出す事にした。
確かにこのラルヴァも強い事は強いだろう。
あの瞬間移動と魔術の発動の速さ。
持っている武器も普通じゃない。
魔力はウーディが二人位のものだからチヤちゃんや私よりも低い。
レベルがそうであるように、魔力も術師の能力を完全に決定するものではないけど……。
あのケンタウロスとミノタウロスも半端な敵じゃない。
私なら付与した剣と圧倒的に相手に勝る速力で押し切るけど、術師らしいラルヴァがどう戦うのか。
見せてもらおうじゃない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
牛の顔を持つ巨躯の戦士が戦斧を振り上げた。
ふむ、これは亜人か、魔物か。
中々興味深いな。
次に遭遇する事があれば調べようか。
私が後ろに退いてかわした事で、斧は床に叩きつけられ、多少のキズを残した。
優秀な支援結界だ。
通常なら派手に破片が飛び散り床は見事に抉れていただろう。
「お前は弓か」
私に向かって射掛けられた矢を杖で叩き落とす。
ケンタウロスは亜人、かなり誇り高い種族だ。
武器には弓か槍を選ぶ者が多いらしいが、この者は弓のようだ。
前衛と後衛、役割がしっかりしている。
流石にさっきの伏兵よりは強いか。
「イオ様が戦われているのに、我らが遊んでいる訳にはいかぬ。どけ、リッチよ」
「お前の力は見せてもらったが、あの程度では我らには通じぬよ」
「……私は必要以上の力を見せるのがあまり好きではなくてな。失礼した。マスターは後で私にも出番をくださると言って下さった。ならお前達で慣らすとしよう」
ふふ。
戦士と言うものは、本当に誇りを利用しやすい人種だ。
二人の気質が明らかに変わった。
「良かろう。お前も同胞を倒した障害には違いない」
「お前の強さはある程度知っている。我が家では手の掛かる凶暴な家畜だよ」
「っ!!」
「愚か。余計な怒りを買う事に何の得があるか」
「さて。我らが騎乗するには馬は脆弱に過ぎてな。お前の事はよくわからぬ。すまん」
「っ!!」
ミノタウロス、ケンタウロスともに面白いように加熱してくれる。
では始めるか。
「私は元リッチでね。どうして“元”なのか。それをお見せしよう」
詠唱を終えた、私の内に向けた術を解き放つ。
「どこまで付き合ってもらえるか、楽しみだよ。“十三階梯”」
私が従者として若様にお仕えする事になった時、私の中に御しきれない力の塊が埋め込まれた。
同化し、だが私の力では無いソレ。
ようやく、全てでは無いまでもこの身の力に変える事が出来つつある。
お前たちは初めての獲物だ。
私の中で眠り、変質し、覚醒した。
……若様の指輪の力のな。
「第一から第四階梯まで解放。“杖”、“剣”、“杯”、“硬貨”」
「ぐっ!」
「これは……」
四倍とまでは言わないが、その付近まで魔力が跳ね上がるのがわかる。
身体の中に荒れ狂うような異質な魔力も感じる。
最大魔力を増大させるこの感覚は独特だ。
私は左手を見る。
そこには真紅に染まった四つの指輪が小指以外の骨の指に嵌っていた。
力も漲る。
第四階梯までは魔術強化、身体強化、魔力強化、装備強化の基本的な強化だ。
ここまでは私も特にリスクなく使いこなせる。
此奴ら次第では、もっと上まで解放していきたいが、少し酷か。
「お前たちも上官の前で奮起しているのだろう? 少しはもがけよ?」
私が杖を構える。
咄嗟に防御の体勢を取る二人。
その真下から床を変質させた槍が何本も突き上がる。
支援結界は有効に使ってやらんとな。
「ほう、馬は回避したか。牛は……一応耐えたか」
ケンタウロスが大弓を私の上方に放つ。
矢が途中でいくつにも分裂して雨の様に降り注いできた。
森鬼のアクアも似たような事をしたな。
「“燃え尽きろ”」
魔術ではなく特殊な言霊を利用して強引な術を展開する。
矢の全てを塵へと変えてやった。
「この、術師があああ!!」
今度はミノタウロス。
やれやれ。
まだ力の差が見えないのか。
斜めに振り下ろされてくる戦斧の一撃。
わざと防御行動を取らずに受けてやる事にする。
「馬鹿な」
私の肩口で斧が止まる。
魔力も装備も、そして物理的な身体能力さえ上がっているのだ。
そんなモノは防御の必要さえ無い。
「では、私の番だな」
黒杖を構え詠唱を始める。
絶望を表情に宿す二人を見ながら。私は止めの術を完成させた。
「なに、痛くはない。その命、私に捧げて逝くと良い」
連続だと驚きの半減かと思いつつ。
21000件のextraはこの流れが終わったら投稿します。
本編が連続している間にextraは余計だとお叱りがあったもので。
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