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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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魔人の参戦①

「疲れる、などと言う時でもありませんものね」

 澪が左手を前に出した。
 特に強く力を込めて手ではなく袖から、開放のイメージを放つ。
 彼女を中心にして不可視の魔力が高速で広がっていく。
 もしも見る事が叶ったなら、それは巨大で幾重にも重なった蜘蛛の巣であったと誰もが述べただろう。
 澪が人の身を得た後、不得手であった感知の力を高める為に身につけた術だ。

「期待しておるよ、澪」

「ええ、期待なさいませ。いきますわ」

 ケリュネオン。
 かつてヒューマンの小国があった場所。
 深澄真、いやクズノハ商会代表ライドウに従う者達が今、この地にいた。
 巴と澪を先頭にして、ずらりと並んだ魔物達。
 荒野にいたハイランドオークとミスティオリザードだ。
 合わせて百名にも満たない彼らは完全武装しており、月明かりに時折、武具が反射の光を返している。
 その彼らが澪の言葉に呼応するように、「おお!」と感嘆の声を上げた。

レーダー共有リンクか。実に便利な術じゃ。周りの事が手に取る様にわかる」

 満足そうな巴の言葉。
 澪が自らの感知するエリアを他者と共有させた瞬間だった。
 距離にして約二十キロ程。
 今回の作戦エリアを考えると十分すぎる広さだった。
 実質彼女が感知するエリアはもっと広大だが、その全てを共有しても意味は無いと判断したようだ。
 巴とは全てのエリアを共有していたが、オークとリザードには作戦エリアを含む限定的な範囲の感知を共有するに留まった。
 巴がレーダーと言ったのは的確な表現だ。
 今の亜空から出現した部隊は、個人個人が頭の中にレーダーを表示しているような状態にある。
 まだ接敵もしていないのに、拠点にどの程度の敵がいて、戦力がどう偏っているのかも丸裸になってわかっていた。

「さて、夜襲ですわねえ。どれ程に足掻いてくれるのか……」

「宣戦布告も……此度はその必要が無い。もう“済んでおる”からな。若の意向、此度は全て汲む」

「ええ。もう、我慢が出来ません。私は行きますわよ、失礼」

「む、澪! ……致し方なし、か。儂も完全に同感じゃしな。お前達、儂も今宵は手加減が出来るかわからぬ。澪は砦の奥か。なら儂は亜空の門を確保しに行く。しばらく儂らには近寄るでないぞ」

 澪の姿が一歩を踏み出すとゆらりと消えた。
 巴は行き先を確認して笑みを浮かべると、部隊を振り返った。
 普段中々見る事のない闘志に満ちた巴の表情と言葉に、オークもリザードも神妙に頷く。
 隠せぬ熱を、その瞳に宿しながら。

「皆も、同じ気持ちであろうな。ハイランドオークよ、ミスティオリザードよ。存分に暴れよ。逃げる者は追わずとも良い。わかっておるな、これは表向きケリュネオンと魔族の戦争じゃ」

 言葉を切り、大きく、巴は息を吸った。
 抜き放った太刀が天を突き、皆の意思を集める。

「若に捧げる戦じゃ! 歯向かう者全てを! 徹底的に! 蹂躙してみせよ!!」

 言うが早いか巴は地を蹴り、宙に浮き上がった瞬間に霧に包まれて消えた。
 直後、怒号のような雄叫びが一帯に響き渡った。
 勢い余って天に色とりどりのブレスが輝く。
 ミスティオリザードの仕業だ。
 開戦、いや殲滅ジェノサイドの始まりだった。
 大軍とはとても言えない部隊が、地鳴りのような轟音を上げて行軍していく。
 目指すは街を一部改修して砦として扱われている、ケリュネオンにおける魔族の本拠地。
 駐屯している魔族の軍隊の規模は、巴が調べていた段階でおよそ二千。
 前線を担う程の練度は無いが、軍隊として十分に戦闘に耐えるレベルの部隊だった。
 既に暴れ始めていた澪に気を取られてはいたものの、外から迫る魔物の混成部隊の存在に普段よりも一瞬遅れた程度で気付き対応を始める。
 夜間、既に閉じられていた門に防御力の強化を施し、即座に弓矢と魔術師部隊が外壁上に詰め敵の位置を把握。
 彼らに攻撃を仕掛けていく。
 悪くない動きではあった。
 内で澪が暴れている事を考慮すれば、評価に値する反応速度とも言えた。
 しかし。
 相手が悪かった。
 今彼らが相手にしているのは、勿論防衛部隊が知る由も無いだろうが、世界の果てで当たり前の様に生活し、しかも亜空で上位竜や災害の黒蜘蛛、それに魔人に鍛えられたデタラメな連中。
 ただでさえ強敵であるのに、彼らの士気は今、最高潮にある。
 手がつけられるものではない。
 実は巴や澪によって転移をしてもらえば、彼らは澪の様に外壁の中から戦う事だって出来た。
 しかし、わざわざオークとリザードは真正面から仕掛ける事を望んだのだ。
 全てはその力を、遠き地で戦う彼らの主に示す為。
 ケリュネオンの砦は、彼らにとって生贄。
 矢も、術も、彼らに向けて放たれる全てが阻まれる。
 ただの一矢も届かない。
 何かが違う。
 防衛部隊が異変を感じた時にはもう遅かった。
 襲撃者達が動いた。

「行きなさい!」

「応!!」

 巨大なメイスを持った大柄なオークの戦士が吠える。
 彼に比べれば華奢なオークの術師風の女性に命じられて大地を蹴った。
 その体が赤く発光し、前方に押し出される様に空を飛んだ。
 勇ましく命じた女性はエマ。
 普段デスクワークをする彼女からは想像出来ない程の戦士の顔をしている。
 とびっきりの強化魔法を突っ込んだ戦士に施して、彼女はまた、外壁上からの攻撃を防いでいく。 

「防御壁、強度は!」

「十分! かけ直しもすぐに対応出来る」

「よし、まずあのオークから潰すぞ!」

 襲撃をかけてきた部隊にいたオークの特攻。
 彼が門に突っ込もうとする意図を察して魔族達は即座に反応する。

「おおおおお!! 止められるものかあああ!!」

 放物線を描いて門に急接近するハイランドオーク。
 大柄な彼が持っても尚巨大な鈍器である長大なメイスを両手で持ち直し、振りかぶる。
 体勢を崩すことなど微塵もなく、彼は門にその一撃を叩きつけた。
 雷が落ちたような一際大きな音が夜の砦に響き渡る。
 もうもうと上がる煙から大きな影が一つ起き上がる。
 煙は彼の身からも立ち上っていた。
 砦を守る堅牢な門は、最早無残な残骸と化していた。
 未だ視界が整わない内に、と判断したのだろう。
 彼に対して幾つかの影が攻撃を仕掛ける。
 砦の中からの光で僅かにライトアップされたその様子。
 結末は無残だった。
 メイスが素早く二度ほど振り払われた。
 勢い良く突進とは反対側に吹き飛ぶ全ての影。

「荒野の豚を舐めるなよ。油断をするな、全力を尽くせ。俺よりも強い者など後ろに幾らでもいるぞ! お前たちが弱ければ俺達もまた全力を尽くせんではないか!」

「続けーー!!」

「やらせるな! どこの誰とも名乗らぬような者たちに、これ以上――」

「たかだかオークにリザードマン、それも百もおらぬような連中に!!」

 砦の中に雪崩込む亜空の軍勢。
 ただの百にも満たぬ。
 その通りである。
 一般に、魔族の軍の中であってもさほど高い地位にないオークとリザードマン。
 その通りである。
 魔族の支配下にある土地で、砦を守る彼らが世界の果てから来た強力な魔物の軍勢を相手にしているなど誰も想像が出来よう筈がない。
 ゆえに。
 全力で抗おうとその抵抗はただただ蹂躙されていく。
 亜空が放つ士気は未だに衰えを見せない。
 砦を守る二千の兵に、百未満の兵が、しかも分散して挑む。
 澪の恩恵により、敵の位置や状況を正確に把握しているリザードマン達は集結していく部隊を三人一組の最小構成で分散しては食い破っていく。
 無謀以外の何者でもない。
 真が言葉だけ聞けば、兵法を無視した戦いだと呆れただろう。
 本来なら門を破る事さえ出来ない兵数の差なのだから。
 だが。
 それでも砦の門は開き、開けた戦士は二千を挑発してみせた。
 彼をはじめ、亜空の軍勢全員が戦況を理解している。
 既に澪が大きな反応に辿りついた事、巴が目的とする地まで凄い速度で駆け上っていく様を。
 誰も彼もが、我も続けと拳に力を込めていた。
 魔族にとっては悪夢のような戦いは、まだ始まったばかり。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「あら、巴さんには悪いですけれど、私当たりみたいですわ」

「……何者かと、聞けば答えてくれるか。女」

「ええ、勿論。澪と申します。貴方は?」

「……魔王様にお仕えする兵の一人、それ以上を求めるか?」

「名前がわからなければ、後で誰をどうしたか、ご報告出来ませんもの。困ります」

 澪はころころと笑いながらその男に応じた。
 砦内部、元は大きな会議室であっただろう空間。
 彼女はそこで、彼女の言う当たり、つまりはここにいる連中の中では強敵であろう相手と出会っていた。
 上半身は人に近い姿ながら、下半身は大蛇。
 貫禄もあり、力も感じる。
 より大きな獲物を滅ぼして主人である真に報告したいと思っている澪にしてみれば、うってつけの獲物に見えていた。

「我が名はレフト。変異竜ミルディドラゴンのレフトだ」

「あら、竜族の突然変異。珍しい。蛇かと思いましたけど」

「澪と言ったか。宣戦布告もなく、一体貴様らは何者だ? オークとリザードを率いる部隊、ヒューマンの軍とも思えぬが」

「うふふ」

 澪は本当に上機嫌だった。
 嬉しくて嬉しくて嬉しくて。
 今戦場にいるのだと理解していても、その表情が綻ぶのを止められない。

「答える気もなし、か。済まんが、俺がここにいたのがお前達の不運。潰させてもら――」

「いいえ、答えて差し上げますわ」

「っ!?」

「私たちはもう宣戦布告を済ませていますわ。いえ、貴方がたがした方ですのよ?」

「……なんだと?」

「私たちはケリュネオン。この国から出て行くのはそちら、魔族の方ですわ」

「ケリュ、ネオンだと? ここにあったヒューマンの国か? お前は、亡国の軍だとでも言うのか?」

「違います。ケリュネオンは滅んでいません。ずっと、ここにあったのです」

「……狂っているのか?」

 レフトは澪のどこか恍惚とした話しぶりに怪訝な顔をした。
 彼から見れば、麻薬でも服用しているかのような澪の様子は不審に映っていて自然だ。

「ふふふ。“そう”なるのですよ、これから。私たちの手で」

 澪は態度も、言葉も改めないまま。
 レフトならずとも、狂気を感じたかもしれない。

「ステラ砦までの地は全て、我らが支配する地だ。このケリュネオンもまた魔族の開拓地の一つ! 世迷言に付き合ってやる程、暇ではない!」

「……だから都合が良いのですよ。貴方がたの言う事など、ヒューマンはあまり信じませんしね。この、彼らにとっての暗黒領域に滅びなかった国が一つあったと言った所で……誰にもそれを否定する事など出来ないのですから。その国がそこに確かにあるのならば」

「な、に?」

「なんて、実は私には良くわかりませんの。本当の所はその辺りはどうでも良いというのが私の本音。貴方を始末して、この地を若様に捧げる。それだけが一番大事な事。ここがケリュネオンだった所でも、ケリュネオンであり続けた所でも、どちらでも構わないのですわ」

「お前は、お前たちは一体なにを?」

 始めましょう、とばかりに澪は扇を手にしてレフトを指した。

「どうやら、ただ殺す訳にもいかんか。少々、話してもらわなければならぬ事がありそうだ」

 手に持つ大槍を澪に向けるレフト。
 半人半蛇の身がうねる。

「私に勝つ事が出来れば好きになさい。……うふふ、門を破りましたか。あの者達もまた、若様に勝利を捧げんと力を尽くしているようですね。無論、今日この日、それが出来ぬ者は私たちの中にはいないでしょうが」

「このプレッシャーは、単なる狂人の集団に出せるモノとも思えぬ。よもや勇者と出会う前にこのような戦いをする事になろうとはな」

 変異竜のレフト。
 この時偶然に砦に駐屯していた「魔将」の一人。
 魔族の幹部。
 澪はその大物の殺気を身に受けながら、目を細めて笑っていた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「なるほど、ね」

 帝都郊外。
 幾つかのデータを手にした女がポンと、その紙束を丸めて机を叩いた。
 青い肌で角が無い。
 タイトなスーツを着込んで、仰々しいコートを肩にかけている。
 魔将の一人、ロナだ。
 彼女は郊外とは言え帝都の中にいた。
 仰々しいと表現したコートは魔族の幹部だけに支給される物。
 ヒューマンの都で羽織るには随分と危険だ。
 それでも、ロナは気にした様子もなく、焦るでもなく室内に腰掛けたまま。

「おつかれ。私も人の事は言えないけど。ロナって大胆よね」

「ソフィア。別に適当に暴れてくれていていいのよ? 貴女の力なら勇者と鉢合わせせずにかき回せるでしょうし、それに帝国の秘蔵部隊とやらもあっさり皆殺しにしたじゃないの。どんどんやって頂戴」

 ロナはソフィアと、一緒に入室してきた少年に目を向けると一瞥して、また別の資料に目を通し始めた。

「手応えがなくてねえ。ロナのなるほど、を聞こうと思って来たの。この意味のわからない分散と攻める気があるのかないのかわからないやり方に、一体何の意味があったのかなと気になっちゃったのよね」

「帝国軍には十分被害が出ているじゃない。攻める気は十分にあるわよ。気にしないで欲しいわ。それにソフィアもランサーも。帝都で姿を見られるのはまずいんじゃないの? ここの部隊が押され気味だから後ろから援護してくれると有難いんだけどね?」

「始めはそうやって各個撃破されそうな部隊を囮に、私たちが挟撃を仕掛けて殲滅する。そんな作戦かとも思ったんだけどさ。違うでしょ? ロナは結構部隊を使い捨ててもいる。私らは部下じゃなくて協力者なんだから、情報の共有はして欲しいなあ?」

「……ふぅ。作戦状況下よ、一応二人は私の預かり。協力者なら円滑な作戦遂行にも協力なさい」

「だって、御剣」

「やる気を削がれる言葉だ。何かを掴んだと知れる、その相手から聞かされれば特にな」

 ソフィアとランサーの顔が不機嫌を隠しもせずにロナを見る。
 およそ真と対峙した時に見せたようなおどけた様子、女性の仕草。
 今のロナにはその特徴が無い。
 冷たい目と厳しい表情で上がってくる情報を整理して戦況の推移を見つめていた
 が、彼女は資料を読み取る目を一旦止める。
 将としての表情を保ったまま、協力者の二人を見る。

「帝国の勇者には、二面性があるわ。明らかに攻撃的だったり、かと思えば慎重になったり。それは作戦の性格とは無関係にスイッチしている。知っておけば後に有利になると思ったから、今回はその調査を主に行いたかっただけよ。後は帝国が育てていたっていう秘蔵部隊の実力を知りたかった。そっちはあっさり貴女達が引っ張り出してくれて、さらには一部隊とは言っても全滅させてくれたから助かっているわ。お陰様で対策が練れそう。どう、これで良い? 言っておくけど、貸しよ」

「なるほど~。帝国の引き出しを出来るだけ開けまくって中を見たかったって事。ふぅん、それはそれは。ま、あの部隊は大した事ないわ。別に私たちじゃなくても、どうとでも出来るでしょ。アンバランスで隙が多いから」

「冒険者ギルドのシステムに干渉しているのかと焦ったけど、何の事はない。漁ってみたら勇者の特性の一つだものね。王国にも伝えられていたら面倒な事になっていたかもしれないけど幸いその兆候は無い。あちらはイオが本気になっているから、今度こそ終わりでしょうしね」

「あの子のパーティはレベル制限が無くなっているみたいね。養殖みたいに高レベルの兵士が量産されてるのは不気味だったけど、レベルだけ高くてもねえ?」

「ロナ、貸しだと言うのなら勇者の二面性とやらも話してしまうべきだろう。なに、きちんと見返りは用意してある」

「……いやらしいわね」

 心底嫌そうに少年を見つめるロナ。
 ただでさえ、彼らは話すべき事とそうでない事の区別をつけない。
 わからなくてつけないのではない。
 わかっていてつけようとしないのだ。
 非常にタチが悪い。
 ロナが二人を全く信頼していない根拠でもあった。
 実力は認めざるを得ないとしても、この二人に背中を預ける事は出来ない。
 利害が一致していると、どこかで確信出来ない限り、重要な作戦へは参加させたく無いのが本音だった。
 だから今回も、リミア王都ではなく、帝都の作戦に同行させロナ自身が彼らの行動に目をつけているのだ。

「帝国の勇者、岩橋智樹は対軍装備に長けた勇者よ。飛竜の機動性、ロイヤルガードの防御力、ゴーレム使いの錬金術師による攪乱や各種のブーストを駆使してまず接近戦など相手にさせないタイプね。力押しに見えて、それなりによく考えている」

「そんな通り一遍の評価なんてどうでもいいんだけど」

「……わかった。今回の作戦でわかったのは、スイッチの特徴。多分彼は昼か夜、細かく言えば太陽か月、どちらが天にあるかでその戦い方を変えている。恐らく月の時間、夜にだけ彼は何かしら強力な回復能力を得ている、と思うわ」

「夜にだけ発動する回復能力?」

「ええ、聞いた事無いけどね。間違いないと思う。だから彼を追い詰めるなら昼。夜はやり過ごすか肩透かしを考えた方が効果的に作戦を進められると思うわ」

「……つまり、夜の方が強いのね」

「そうなるわね。明らかな突出や高威力の大技を使うのは大体が夜だし。ランサー、見返りは?」

「おお、そうであったな。リリ皇女がこちらに戻ってきておる。正確にはロビンから幾つか先の街まで来て指示を始めたようだぞ」

「っ!? 確か!?」

「勿論、確実な情報だとも」

「……ちっ、動いたか。ロッツガルドがどうなったか、にもよるけど。あの女が帰ってきたならここに長居は無用ね。目的は達したし、後は後方からでも十分か。一足先にステラへ……」

 ロナの顔に緊張が走った。
 大きな戦況の変化に繋がる情報だった。
 確実に、交渉など挟まずに話すべき情報だった。
 やはり、この二人は信頼出来ないとロナは再認識する。
 灯台もと暗し、の言葉そのままに帝都の中から、帝都を攻める指示を出していたロナ。
 彼女はすぐに資料全てを焼き払い、部屋の入口に向かう。

「……貴女達、何をしているの? 戻るわよ」

「ふふ、良い情報をもらっちゃったわ。これは返す分が足りないわね御剣」

「ソフィア、お前という奴は……」

 ロナは、同行すると思っていたソフィアとランサーが動かない事に首を傾げる。

「ロナ、ちょっとサービスしてあげる。貴方はさっさと川を渡って安全圏まで行きなさい。私は……勇者と遊んでくるわ」

「!? 貴女、話を聞いていたの!? あいつは夜の間は、現状手が付けられないわよ!? 指輪の力で力を封じても、今のあいつは自分に元々合う武器しか使っていないからそれほどの効果が無いの。以前ならあれだけで潰せた相手、でも今は状況が――」

「念話は繋げておいてあげるから、黙りなさいよ。あの坊やがどれほどか、貴女がそこまで言うならもう止まんないわ。……女神に関われば誰もが“アイツ”みたいになるのかどうか、楽しみねぇ」

 ソフィアが隠そうともしない殺気を全身から発散させている。
 後半は独り言の様に呟くだけで、誰に聞かせようとしたものでもない雰囲気だ。
 アイツ、が誰なのか。
 それを知るのはこの場ではもう一人。
 ランサーは小さく嘆息するとソフィアと共に姿を消した。

「ちょ、待ちな……。どこまでも扱い難い連中ね! しかしリリ皇女が帰還となれば流石にここは危険。戻るしかない、か。いっそここで死んでくれれば、不確定要素が減る分有難いわね本当に……」

 ロナは二人を追わずに建物から出る。
 偽装など使用していない、魔族の姿のままで。
 必要が無いと判断したのだろう。
 振り向きざまにそれまでいた建物を爆破すると、彼女は仕込んであった転移を発動させて帝都の外に脱出した。
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