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ルトの誤算
僕と巴、それに識は来賓でもトップクラスの権力者であるリミア王、リリ皇女、彩律さんらに詰め寄られリミアとグリトニア両国への転移を求められた。
後は神殿の人とかいたらそろいぶみじゃないだろうか。アイオンの人は一番偉いのはもうこの街を出発してステラに向かったらしいから。
商人ギルド要請で更に一度使ったので、もう限界に近いのです、と巴が嘘八百を並べて申し訳なさそうにしていると、リミア王とリリ皇女は頭を下げたり、少し裏を考えると脅迫としか思えない様な言葉を並べたり、手段を選ばずに転移を要請してきた。
彩律さんが時折宥めてくれてはいたものの、巴がのらりくらりと謝っているのに業を煮やしたお二方が僕に標的を変えてきた時なんて本気で怖かった。
流石に国を背景にされると迫力が違った。
胆力と言うか何と言うか。
リリ皇女なんて少し年上かなあ、位の年齢に見えるのにまるで僕とはオーラが違ったしね。
血筋か教育かわからないけど凄い人達だ。
不思議と怖くはあったけどザラさんに感じた様な苦手意識を刻まれそうな感じはなかった。
心の片隅に余裕が残っている状態で聞き流せはした。
(若、もう十分です。頷いてやってください。良い仕事でしたぞ)
巴の念話。
そろそろ巴に投げてやろうと思っていたところに、彼女から話を振ってくれた。
助かる。
[わかりました。緊急事態ですので仕方ありません。巴、出来るか?]
散々押されて引かれてを繰り返して、僕はついに頷いた。
元々出来るんだし、無理だっていうのは巴の嘘八百だ。
後は何とかするんだろう。
「……若、出来ぬ事はございませんし、やれと言われればこの巴、やってご覧にいれますが。この上二度もの転移を行えば剣がとても保ちません」
[どういう事だ?]
「破損するでしょう。おそらく、直せませぬが……本当によろしいのですか? クズノハ商会を支えてきたこの剣を」
なる、ほど……。
転移の根拠を道具に移す。
それはつまり、道具が壊れればもう使えないと相手にそう思ってもらえるのか。
僕はようやく脇差に転移能力をつけるなどという、よくわからない猿芝居の真意を知った。
これから転移なしでやれば良いのかな。
それとも、これからも転移を使う理由も考えているんだろうか。
ともかくここは巴の芝居に乗っかるべきなんだろうな。
[構わない。魔族との戦争を支えておられる方々の願いだ。私達で力になれる事ならば協力しよう。その剣の代わりがあるかどうかはわからないが、また縁があればどこかで会う事もある]
「……わかりました」
心痛に耐える、といった顔で少し悩んだ巴がリミア王とリリ皇女、それに彩律さんといつの間にかいたルトと一緒に僕と識から少し離れる。
王都までは距離が遠すぎる、とか帝国なら街道の端であるロビンまでが、などと色々と仔細を決めているようだった。
少しすると巴は脇差を抜き放ち、勿体つけて霧の門を開いた。
リミアの王と騎士がその門を潜って消える。何故か王子は残った。
次にリリ皇女と側近らしい数名が別に作られた門に消えた。こちらは侍従らしい人が数人残った。
そして。
脇差が砕け散った。
悲壮な顔をして膝を突く巴。
よくやるよ、それ偽物じゃないか。
もちろん、口にはしない。
巴を見る彩律さんと王子、それに侍従の顔に僅かだけど安堵が浮かぶのがわかった。
転移出来なくなった事への安心、なのかな。
確かに転移能力と、変異体相手に知られた戦力。組み合わせて考えると結構怖いのかも。
一応、辛そうな顔をしている巴にその感情はどうかと少し反抗したくもなったけど、先に巴のところに行って僕は巴の肩に手を置いた。
[大丈夫か、巴。済まなかった]
(くくく、奴ら安心しておりますな。全く、そんな甘い頭だから魔族なぞに良い様にされるのです。愚か愚か)
形だけでも心配して損した。
結局、しばらく一人にして欲しいと言われて許可してやり、その後はまた中庭の警備につくと言った巴とは別れた。
一人に、つまり亜空に行ってきますと僕には念話で言われたから今巴は亜空にいる。
そういう訳で僕達が今転移すると色々まずい気がするんだ。
「勇者がどれだけの力を持っているか、そこが勝負のわかれ目です。もっとも、魔族もそれを見越しての短期決戦を狙って仕掛けている。何かしら特異点になるものが無ければ魔族の思惑のまま事態は進むかと思います」
「ロッツガルドの僕らみたいに? 何か良い手はあるかなあ?」
「はい。我々が向かうのはまずいかもしれませんが、例えば存在を知られていない翼人やゴルゴン、それにアルケーを送って援護する手であれば使えるかと」
「それは駄目。僕達の誰も行かない戦場に亜空の種族だけを行かせて戦わせるなんて絶対駄目。それに翼人なんて空を飛ぶんだよ? 良い的にしかならないじゃないか」
「……若様。翼人は相当強い種族ですよ。ヘタをすれば彼らだけで国を落とせるほどに。一度、他種族と彼らの戦いも見てあげてください。絶望的に彼らと若様の相性が悪いだけなのです。それにゴルゴンとて、放てば戦闘を終わらせられる程の凶悪な能力を持っています。最悪後で任意の者の石化だけ解いてやれば問題はありません。即死を招く石化ではない、極めて特殊な能力の使い手なのですから」
亜空に住む人だけを使うと提案され全力で拒絶すると、識が割と本気な目で訴えてきた。
翼人、本当に強いか?
受け止めるどころか、僕の矢から逃げようと雲の上に隠れようとするほどひ弱なのに。
ゴルゴンだって、石化を無効化する結界を作られたら武器となる能力は硬質化して動かせる髪だけだ。
とても彼らだけで何かをさせるなんて、それも戦場に出して戦わせるなんて残酷だと思う。
「うーん……。識がそう言うなら、今度見てみるけど。でも今回は魔族の結構本気な攻めなんでしょ? それに勇者だって彼らを魔物とみて攻撃してくる可能性だってある。ちょっとそれは嫌だよ」
「む……そう仰るなら仕方がありませんな。成功率もこちらへのデメリットも中々上手い策だと思ったのですが」
「勇者をただ見捨てるのはしたくないんだけど、正面切って向こうにもいけない。困った。う、あのさ、識。王国の話ばっかりしていたけど、帝国はどうなるの? あっちが本当の囮だったら向こうはそんなに心配いらない?」
リミアの話題ばかりだったのに気付く。
そうだった、勇者は二人いた。
「そこが、私が不透明に感じている点です。正直に申しまして、わかりません。もしかして、と思うものはあるのですが果たしてそれが正しいか否か」
「話してくれる?」
「二面攻撃をするには、ステラ砦、魔族の戦力はまだ少ないのです。しかも帝国側は分散させています。そこに帝都を落とす意図は感じられません。ですが、囮と完全に判ってしまえば帝国の勇者には飛竜という高機動力もありますから王国の援護に行くでしょう。リミアを攻撃した魔族は王都さえ落とせずに帝国の勇者と王国の勇者に挟撃される形になります。帝国の勇者は一度に多勢を相手にするのが得意の様ですからその力は無視できるものではありません。戦闘が長引けばステラ砦攻撃の為に前線に構成しつつあった部隊までもが戻ってきて劣勢どころか全滅しかねません。これでは意味が無い」
「うん」
「よって帝国側を分散させた意図が、どこかにある筈なのですが、それがよくわかりません。私がもしかして、と思うのは若様が以前話された竜殺しの事です。もし彼女が帝国に向かった部隊に紛れていて帝国の勇者を確実に足止めすると言うのなら、分散の意図は読めませんがリミアの作戦への補強にはなります。ですが、竜殺しは未だ魔族についた事を世にあまり知られていない状況です。このような戦いで勇者と戦えば間違いなく世界中に裏切りを知られます。果たしてあの者がそれをするのかどうか、決めかねています」
「ソフィアか~。あいつの事はさっぱりわからないからなあ。会ったのも一度きりだし、何考えているかなんてわかる訳もない」
上位竜を連れている一点では共通する僕とソフィア。
でもその思考はまるで読めない人だ。
「ロナがどちらに現れるかにもよりますな。もしも帝国なら、やはり帝国は囮で部隊の分散は帝国の引き出しを見る為の捨て石、とも考えられますが、なんとも」
王国も帝国もかなりまずい状況ではあるみたいだ。
リミアの方がやばい感じだし、何かするべきかとも思う。
やっぱ同郷の人だし。
ロッツガルドで僕らが動いている間に世界がこんな事になっていたなんて。
この一件、何だか大きな事になりそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「真君が打った無自覚な奇跡の一手。あのタイミングでの念話の復旧。魔族による勇者殺害と時間稼ぎを目的とする作戦はほぼ完璧に作用すると思ったけど、これは少し荒れそうだね」
ルトは学園の一角にある塔から門付近にいる真と識を見る。
相当な視力だ。
普通なら彼らを特定する事は出来ない。
目の良い者で豆粒のような人影を見つける事が出来る程度。
夜ともなれば、さらに難しい。
「あの一手で彼は魔族との関連を否定する切っ掛けを作った事になるし、さらにクズノハ商会の力を大国に見せて脅威に感じさせる事も出来た。ロッツガルドで皆に親しまれ愛される商会となる以上のジャックポットみたいな大きな利点を得た訳だけど」
タイミングがもっと早ければ、遅ければ。
臨時講師ライドウもクズノハ商会も魔族との関連を否定するのが難しくなる状況も有り得た。
巴の立ち回り次第でもあるが、彼女の元々設定していた時期はルトから見れば少し遅いと思われた。
真のタイミングは良い時期の中でも更にピンポイントで良い。
何せ自ら提案したのではなく、権力者から強引に頼まれての事。
彼の狙いや意思などは無いと多くの人が思うタイミングだった。
自分で定められない、来るかもわからない好機を得たと言える。
長い時間を生きるルトでさえ、思わず驚きの言葉を口にした。
狙えるものではないからだ。
“そういう”星の下に生まれてなければ出来ない事。
ルトとて笑うしかない。
もっとも、思い出して堪えきれぬ笑みをこぼす彼には別の思いも混じっていたが。
「なにせ、真君だからなあ。時折大当たりを引く星の下にいても、あれだけ色々やらかすんだ。今回だってジョーカーも一緒に引いてるんじゃないかって、つい疑ってしまうね」
そう。
根拠はないが、真はついていない。
ルトはそれを良く知っている。
だからこそ彼が望外の結果をただ得るだけだなんてルトにはとても思えなかった。
意図せず上位竜と戦う羽目になり、ピンポイントに災害の蜘蛛と遭遇する。
出会った人の言葉はわからずに、普通の容姿なのに蔑まれる。
あっちに行ってもこっちに行っても、彼は何かに巻き込まれてきた。
ルトが思うとおり、まさしく“そういう”運命であるかのように。
「しかもその全てを、時にプラスに変えてここまできている。今回は、なにをしてくれるんだろうね、君は――ッ!!」
ルトは穏やかで楽しそうな目で見つめていた目を唐突に見開き上空、何もない星空に向けた。
「馬鹿な! まだ動ける筈が!? 無茶をするね、貴女も!!」
真が見たら驚いたであろうルトの焦りと驚きに満ちた表情。
その言葉の直後。
日中、雲の切れ目から陽光が差し込むに似た様子で。
夜空から金色の光が降る。
ロッツガルドの街の一角が、見る者を無意識に荘厳な気持ちにさせる神々しい光で溢れた。
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いち
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