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シリーズ・日本のアジェンダ 「憲法改正」でどう変わる?日本と日本人

権力者はやりたい放題、国民の義務ばかりが増える
日本人が知らない自民党憲法改正案の意義とリスク
――小林節・慶應義塾大学法学部教授に聞く

ダイヤモンド・オンライン編集部
【第2回】 2013年7月26日
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 だが、かつての大日本帝国憲法は神である天皇から下げ渡された憲法であり、日本国憲法はアメリカから与えられた憲法です。よって、日本人はこれまで、革命などを通じて自らの手で憲法をつくった経験がなく、アメリカやドイツのように自らの手で憲法を改正した経験もなかった。そういう国民を置き去りにして、改憲議論の入り口で政府がいきなり改正のハードルを下げようというのは、アンフェアじゃないでしょうか。

自衛権や国防軍は世界の常識
日本は自衛戦争を放棄していない

――それではもう1つ、これまでの憲法教育の中で最も象徴的に啓蒙されてきたのが、平和憲法の核となる「第9条」ですね。ここでは、戦争の放棄や武力の行使を認めないことが定められています。集団的自衛権の在り方などについて、これまで最も多くの議論がなされてきた条文でもあります。小林教授は、日本における9条の一般的な解釈について異論を唱えて来ました。本来我々は、9条をどう解釈すべきなのでしょうか。また、自民党案では、この9条に「前項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない」「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」といった文言を付け加えようとしています。これをどう評価しますか。

 結論から言えば、自民党案の中で「自衛権」や「国防軍」の記述は、世界の常識に適ったものだと思います。

 憲法には、前文で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書かれています。それに従い、日本は9条で、戦争を放棄し、戦力を持たないことを宣言しました。

 確かに戦争のない世の中は理想ですが、現実には世界で紛争が絶えることはありません。日本も同様です。日本国憲法ができたとき、北方領土はソ連に占領されていたし、発布された直後には韓国の李承晩大統領によって竹島が占拠された。その後も、北朝鮮による拉致事件、尖閣諸島を巡る中国とのいざこざなど、諸外国との諍いは続いています。

 それを見ても、現在の9条の解釈は理想どころか「空想」なのです。人間の集団たる国家は、無防備ではいけません。実は、戦争と平和の考え方は、憲法ではなく国際法の問題です。国際法に照らせば、独立主権国家には、他国に侵略の対象とされた場合に、軍事力を使ってそれに抵抗し得るという「自衛権」があります。国際社会では、自衛権は国家が先天的に持つ権利、つまり「自然権」と解釈されています。

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いまの日本の経済、政治、社会が直面している旬のテーマを取り上げ、各分野の専門家に賛成・反対の立場から記事や論考を寄せていただき、議論を深めていく「シリーズ・日本のアジェンダ」。このシリーズでは、自民党が中心となって進められている「憲法改正論議」を取り上げ、なぜ憲法を改正する必要があるのか、憲法改正によって日本人の生活はどう変わるのかを、詳しく検証していく。

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