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【社会】

仲間が継いだ弁護士の遺志 考える大切さ絵本に託す

完成した絵本を見ながら談笑する(左から)小竹広子さん、一色悦子さん、西山利佳さん=東京都千代田区で

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 末期がんの弁護士が、痛みで眠れない夜に書いた物語が絵本になった。作者は日隅(ひずみ)一雄さん。物語を書いてから半年後の二〇一二年六月十二日に四十九歳で亡くなった。子どもたちに読んでほしいという日隅さんの願いをかなえようと、同僚弁護士らは奔走し、三年後の命日に出版にこぎ着けた。 (飯田孝幸)

 「読んでみてください。よかったら出版したい」

 二〇一一年十二月三十日の深夜、日隅さんから同僚の弁護士たちに物語をつづったメールが届いた。これを読んで、同僚の小竹広子さんは泣いた。子どものために命を落とす登場人物が日隅さんと重なったのだ。

 日隅さんは新聞記者から弁護士に転身。東京電力福島第一原発事故後は東電の会見に出続け、情報発信を続けていたが一一年五月に胆のうがんで余命半年を告げられていた。

 「いろいろな出版社や絵本作家に相談しても、難しいという返事ばかりだった」と小竹さん。絵本としての出版を願ったが、日隅さんの作品は、挿絵入りの童話のようで、絵に沿って展開していく絵本の構成になっていなかった。

 出版できないまま日隅さんは亡くなった。直後に出版計画が動きだす。日隅さんの知人から相談を受けた日本児童文学者協会常任理事の西山利佳さんが出版に協力することになった。

 まず、絵本の構成に書き換える必要があった。西山さんが所属する「子どもの本・九条の会」の集まりで経緯を話すと、児童文学作家の一色悦子さんが「私にやらせて」と手をあげた。

 生前、日隅さんは同僚たちにも「子どもたちに読んでほしいんだ」としか話していなかった。物語には、情報を知り議論することの大切さや、子どもたちの一人一人が、社会の主人公だということが盛り込まれていた。この日隅さんの考えを子どもたちに伝えたいという思いは、編集に携わった皆が同じだった。

 難しいテーマを、子どもたちにも分かるように、どうやって絵本にするか。小竹さん、西山さん、一色さんは何度も打ち合わせをした。絵は絵本作家の市居みかさんが担当し、「ウホウホあぶない ウホウホにげろ」という絵本が完成した。西山さんは「一度も会ったことのない日隅さんとの合作です」と話す。

完成した絵本

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 小竹さんは「日隅さんはお金にならない依頼も、勝ち目のない依頼も引き受けてしまう優しい弁護士だった」と振り返る。その日隅さんの優しさが詰め込まれた絵本は「だいじょうぶ。ひとりのいのちもなくさないよ」と締めくくられている。

 絵本はB5判三十二ページ。千五百円(税別)。一般書店で取り扱い。本書の問い合わせは「子どもの未来社」=電話03(3830)0027=まで。

<あらすじ>

 森で遊んでいる子ザルたちがヒョウに襲われそうになる。しかし、先生ザルが自ら犠牲となって子ザルたちを逃がす。逃げるのに夢中だった子ザルたちは先生がどうなったか知らない。大人のサルたちは、子ザルたちに先生がどうなったのか知らせず、再び襲われないように柵で囲った場所に閉じ込める。子ザルたちは知恵を絞ってそこから脱出。大人たちは事実を隠していたことは間違いだったと悟り、自分たちが子ザルたちを守ろうと誓う。

 

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