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「自走できる新卒」を育むには?GMOインターネット稲守貴久氏に聞く、独自研修2年目の改善点【特集:エンジニア育成の本質】

2015/06/22公開

 
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GMOインターネットのシニアクリエイター稲守貴久氏

「何が分からないのか分からない。新卒エンジニア研修では、その点を解消することが大切だと考えます」

こう語るのは、GMOインターネットにてシニアクリエイターを務める稲守貴久氏。GMOインターネットグループでは2014年からグループ全体の新卒研修プログラムとして、『GMOテクノロジーブートキャンプ』を実施している。

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2014年に始動した『GMOテクノロジーブートキャンプ

同社グループの新人エンジニアとクリエイターを対象としたこのキャンプは、本年も4月から7月中を目安に開催されている。同グループが培ってきたネットインフラ、ネット広告、メディア、ネット証券などの 分野に関するテクノロジーから、近い将来普及しそうなテクノロジー(例えばIoTなど)に至るまで、網羅的に学べるカリキュラムが特徴だ。

受講生の数は、2014年の約15人から2年目の今年は約35人に拡大した。GMOテクノロジーブートキャンプを牽引し、講師も務める稲守氏の取り組みに関しては、昨年弊誌でも記事にした通りだ。

>>日本語・英語、そして「技術語」がやがて日本の公用語になる〜GMOが独自の研修制度で築くITの未来

昨年に続き、GMOテクノロジーブートキャンプでは

【1】グループ各社の現役トップエンジニアが講師を担当
【2】GMOインターネットグループの特徴を活かした多様なサービス・技術を学べる
【3】受講生、講師の絆作り。先輩エンジニアの師弟関係の醸成

の3点を重視してカリキュラムが組まれたそうだが、2015年度版について、稲守氏は「昨年の課題であった、個人レベルでの『技術差』を踏まえて改善した点があった」と語った。

その一つが、受講者が事前に予習を行った上で、技術の専門的な理解を促進させるというものだった。なぜ、こうした改善を加えたのか、2015年のGMOテクノロジーブートキャンプの裏側に迫った。

2015年のテーマは「概要理解からの脱却」

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GMOテクノロジーブートキャンプのスケジュール表

GMOインターネットグループ各企業のエースエンジニアが講師を務めたGMOテクノロジーブートキャンプ。グループ内の既存社員からも受講希望の声が挙がるなど、注目を集める取り組みとなった。

「昨年の受講生にアンケートを取った結果、『別府さん(GMOメディア取締役の別府将彦氏)みたいになりたいです』とグループ内での目標となる人物が見つかったという声がありました。新卒社員の目指すべき姿が明確になる。1つの目標を持ってもらえたことはうれしかったですね」

そうした声も挙がった2014年のGMOテクノロジーブートキャンプだが、課題もあったという。それは、新卒社員の技術レベルの差だ。

「グループ会社それぞれで採用を行っているため、大学院で技術を学んでいた人もいれば、プログラミング未経験者もいる。そうした個人レベルでのギャップを埋めるため、昨年のGMOテクノロジーブートキャンプは『概要を理解する』ことに着地してしまった点がありました」

この昨年の状況を振り返り、2015年のGMOテクノロジーブートキャンプの受講生には事前にアンケートを取ったという。そこで挙がったのが、入社前に予習を希望する声だった。

「事前に予習したいという声が多数ありました。そこで、3月17日に自由参加で予習の講義を行ったんです。2/3くらいの内定エンジニアが参加しましたね。そこでは主にLAMPの基礎をテーマにしました。これは、一通りWebサービス開発を学ぶための基礎に通じるためです。GMOインターネットのクラウドサービス『ConoHa』にSSHでログインして、PHPファイルを操作する。MySQLに読み書きできることを目指しました」

たった1日であっても集中して入社前の予習を行ったことにより、技術差を昨年よりも埋めるができ、より専門的なカリキュラムの導入に成功したと稲守氏は語る。

「今年は2014年よりも1ランク上の内容を目指しました。LAMP周りからサーバサイド、スマホでの通信、最終的にテストをするまで、一通りの開発にそれぞれが取り組んでみる。予習ができたことで、出遅れる受講生を懸念していた昨年よりも、難易度の高い研修に取り組むことができました」

インプットとアウトプットはセットだという習慣

こうした改善によって、「研修を受けてからがスタート」ではなく、「研修中から自走して学べる」ようになってくれれば、と稲守氏は考えている。

そして、自分で学ぶための入り口に立つこと、そして、学んだことをアウトプットする習慣を身に付けてほしいという。

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稲守氏が考える「自走できる」人材に必要な動きとは

「GMOはもともとインフラビジネスからスタートしましたが、現在はインフラだけをやっているグループではありません。僕自身も金融にも携わった経験から多くのことを学びました。新しく社会に出たタイミングから業界や技術領域について、幅広いことを知る。そうすることで、学びの入り口を知ることできます。そこさえ分かれば、後は探究心で吸収し続けると思うんですね? 『何が分からないのかが分からない』状態を脱することが大切です」

次にアウトプットの重要性についてはこうだ。

「カタチは何でもいいからアウトプットすること。それはアプリを作ることでも『こういうことをやりました!』と、外に向けてしゃべることでもいい。社内で勉強会を開くこともいいでしょう。もちろんブログもアウトプットです。そうしたカルチャーの中で、学んだことを発信することが重要だと考えます」

アウトプットをすることで、レスポンスが返ってくる。その点が重要だと稲守氏は考えている。

「今、僕のチームでもエンジニアブログを書いているのですが、『ここで転びました』みたいなことを発信するだけで、ナレッジになるんですね。もちろん具体的に書いてしまうと問題があるので、抽象化して伝えるのですが、そうした情報でも誰かの役に立ったりするんです」

稲守氏は「インプットすることは目的ではない。言語や手法を覚えるということは手段」だととらえている。

「例えば、昨年のGMOテクノロジーブートキャンプでは、コミュニケーションスペース(GMOYours)の予約アプリを開発したチームがありました。そこでのお題は日常で困っていることを解決するモノを作る。それだけです。これは、昼にGMOYoursが混んでしまって、皆がランチをするのが大変という課題を解決するための1つの方法ですよね? そうした何かの課題を解決するために技術がある。目的を叶える手段に技術があるということを、僕たちは教えています」

目的を達成するためのコードが「秘伝のタレ」ではいけない

誰かの課題を解決するという目的を叶えるためには、1人での開発では限界がある。そのため、カリキュラムにもその点を盛り込んだという。

1つはペアプログラミング。次にチームの体制づくりだ。

「ペアプログラミングについては、技術的に経験のある受講生とと初心者の受講生でペアを組みました。今日もPHPで『FizzBuzz問題』に取り組んでもらいましたね。ここで学んでほしいことは、“読みやすいコードを書く”ということです」

仮に美しく短いコードを書いたとしても、チームのメンバーがコードを読めなければ技術的負債につながってしまう。その点を懸念し、あらかじめチームで作ることの大切さを伝えているという。

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当日の研修風景。グループ内の別会社とは思えないほどにチームでの一体感があった

「ウチの『ConoHa』や、『LINE』のようなプロダクトを1人で作るなんて現実的じゃないですよね? エースエンジニアが1人いれば、良いプロダクトが生まれるのか? と言われるとそうだとは言い切れないと思います。だからこそ、チームで作ることを学ばなければいけません」

そして、GMOテクノロジーブートキャンプ中でのチームづくりについてはこうだ。

「技術や言語に関してはいっさい問わず、経験年数が長い順に並んでもらって、最前列と最後尾からマッチングしました。配属後は決済の受講生もいれば、スマホのアドに配属される受講生もいますので、本当にバラバラですよ」

技術を学んだ背景がある者とない者がチームを組む。この点にも意味があったという。

「経験がある受講生は、人に教えることで改めて学ぶことができます。自分が当たり前にできることでも、初心者に教えるとなるとスムーズにいかないこともあるでしょう。つまり、基礎的なことでも、改めて理解しなければならないということですね。両者に取ってメリットのあるチーム構成だと思います」

目指すのは、「変化に強い人材」の育成

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グループ会社での集合研修。同グループ内での人と人のつながりにも貢献しているという

2014年の経験を経て、改善を重ねた2015年版GMOテクノロジーブートキャンプ。エンジニアとクリエイターに職域選択できることになったことやスクラム開発・CI(継続的インテグレーション)・Gitについて経験するなど、技術の概要だけでなく、より専門領域に迫った内容になった。

こうしたGMOテクノロジーブートキャンプを経て、新入社員に学んでほしいことについて、稲守氏はこう語った。

「以前はウォーターフォールと呼ばれて、仕様が固まっていることが当たり前でしたが、インターネットの世界では市場変化が速く、モノの作り方がアジャイルに変化しています。変化に強い技術や手法を身に付ける必要があるでしょう。

例えば、スマホ。2000年代はガラケーの時代でしたが、ガラケーの事業が大きすぎたために、スマホにシフトするのが遅れた企業もあります。

こうした事例を考えても、やっぱり変化に強い人、変化に柔軟に対応できた人が生き残るんだと僕は思います。つまり、LEANな考え方です。小さくていいからアウトプットする考えを持ってほしい。そうすることで、自ら考える力が自然と身に付き、それら経験の蓄積が開発現場で活きてくると思います。そのためにも、変化を楽しめるくらいの体質を新入社員の時から持ってほしいですね」

■GMOテクノロジーブートキャンプで使用されたスライド
On Becoming an Engineer by Kentaro Kuribayashi
GMOテクノロジーブートキャンプ2015(アジャイル編) by Arata Fujimura
GTB2015Spring_Webサービスとインターネットの歴史 by Tak Inamori

取材・文/川野優希(編集部) 撮影/竹井俊晴


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