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日韓国交正常化50周年! こじれにこじれた両国関係に解決策はあるか

現代ビジネス 6月22日(月)6時2分配信

韓国の危機は日本にとって関係回復のチャンス

 私は武藤氏や黒田氏の主張も踏まえて、韓国側が日韓関係改善の最大の障害と主張している慰安婦問題について、安倍政権の関係者に聞いてみた。すると、慰安婦問題に安倍政権がなかなか腰を上げない理由として、意外な見解を述べた。

 「50人の元慰安婦に一人500万円ずつ『償い金』を出したとしても、計3億円あれば事足りる。国家プロジェクトとしては微々たる額だ。

 だがもし安倍政権がこれを進めたら、今度は中国で大量の『自称元慰安婦』が名乗り出るに違いない。1万人の中国人の自称元慰安婦から『韓国人に補償して、なぜ中国人に補償しないのだ! 』と言われたら、日本としてはどうしようもなくなる」

 そう言われてみると、確かに戦前の日本企業による強制徴用問題を韓国人が言い出したら、中国でも火がついたという前例がある。それを考えると、日本政府が「慰安婦問題に手を出すのはリスク」と考えるのも理解できる。

 この政府関係者の話を聞いて、改めて思い至ったが、日韓関係には「構造的不均衡」ともいえる問題が内在している。それは日韓の間に横たわる問題を、韓国側は純粋な韓日問題として捉えるが、日本側は常に韓国の背後の中国を意識して、日中韓問題という枠組みで考えているということだ。

 「日本が韓国に対してこう出たら、中国はどう出るだろうか? また日中関係にはどんな影響が出るだろうか?」。日本はこのような発想に立つのである。これは日韓を較べると、日本のほうが韓国より「大国」であるところから来ている。

 同じことは日中関係についてもいえる。日本は純粋な日中間の問題と捉えているような事柄――靖国参拝問題や尖閣問題、AIIB参加問題などなども、日本に較べて「大国」である中国側から見れば、常に中米問題の枠で、すなわち中米日問題の枠組みで捉えているのである。

 さらに米中問題は、中国からすれば純粋な中米問題だが、アメリカからすれば中国の背後にいるロシアを勘案した米ロ中問題の枠組みで考える。このように「比較的大国」と「比較的小国」の発想が異なるのは、仕方のないことなのだ。

 話を日韓関係に戻そう。日韓国交正常化50周年という現在、関係を改善する機は到来している。折りしも韓国は現在、未曾有の危機にある。

 それは周知のように、MERS(中東呼吸器症候群)の蔓延である。6月19日現在、死者24人、感染者166人、隔離対象者6729人。MERSは衰えるどころか、ますます拡散している。

 昨年4月のセウォル号転覆事件の時にも痛感したが、朴槿恵政権は実に危機に弱い。日本でいえば、東日本大震災の時の菅直人民主党政権のようだ。朴槿恵大統領が、危険を放置したサムソン病院長らを叱責したら、国民がその浅はかな叱責シーンを見て呆れてしまう。「イラ菅」と呼ばれた菅直人首相が、東京電力幹部たちを叱責していた光景が甦ってきた。

 韓国経済研究院は、「MERS事態の経済的効果分析」と題した報告書を発表した。それによれば、MERS騒動が6月末までに終息した場合(残念ながらその可能性は低そうだが)、韓国の国内総生産の損失額は、4兆425億ウォン(1ウォン≒0・11円)になる見込みだという。

 7月末に終息した場合の経済損失額は、9兆3,377億ウォン。もしも8月末までかかった場合は、20兆922億ウォンと算出した。この3番目のケースでは、隔離者数が2万人以上、感染者数が648人、労働損失が610億ウォンに達するという。そして物流・サービス・レストラン・ホテル・娯楽などの需要が6割減少する可能性があると分析している。だが、いまの情勢を見ていると、気の毒なことではあるが、この3番目のケースが最も現実に近いのではなかろうか。

 これを受けて、崔炅煥・副総理兼企画財政部長官は6月15日、20兆ウォン規模の追加の財政支出が必要になるかもしれないと述べた。まさにいまの韓国は、昨年4月のセウォル号沈没事故に続く危機的状況となっているのである。

 重ねていうが、隣国の危機はある意味、日本にとって関係を回復させるチャンス到来である。

 そもそも東アジアを俯瞰して見るに、韓国が日本を軽視するようになった原因の一つは、経済的重心が日本から中国に移っていったことが挙げられる。例えば韓国の貿易を見てみると、2013年の全輸出中、中国は26.1%で1位だが、日本は6.2%で3位である。輸入でも、中国が16.1%で2位、日本が11.6%で3位だ。

 また、2014年に韓国を訪れた観光客数で見ても、中国人は全体の43%にあたる612万人だが、日本人は全体の16%の228万人にすぎない。つまり韓国は経済的には、圧倒的に中国依存の国となりつつあるのである。

 ところが昨今のMERS騒動で、中国でにわかに「嫌韓感情」が湧き起こっている。6月13日に開幕した上海国際映画祭では、韓国映画が23作品も上映されたにもかかわらず、韓国の俳優や監督などを、事実上拒否した。中国で定着していた「韓流ブーム」も、「MERSと共に去りぬ」ということになりかねない状況だ。

 中国から韓国へ向かうはずだった大量の観光客も、キャンセルの山である。韓国では「中国人の観光ビザを免除する」といった「奇策」も考えているようだが、中国では連日、「恐怖の韓国MERS」の映像が流れているのだから、そのような小手先の手法で中国人観光客が戻るはずもない。18日までにすでに12万人ものキャンセルが入ったという。

 韓国は6月1日、中国と華々しくFTAを締結したばかりというのに、過度の中国経済依存の「反動」が出たような格好なのだ。そのため、遅ればせながら日本の存在を再認識し始めたというわけだ。

 これは日本としては、国益を見据えながら、日韓関係を改善していける好機が到来したことを意味するのである。

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最終更新:6月22日(月)6時2分

現代ビジネス

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