8月の原爆投下70年が近づいても、被爆者と国の争いに終わりが見えない。国はただちに全面解決に動くべきだ。

 来月で施行20年となる被爆者援護法は「国の責任において」高齢化が進む被爆者への援護対策を講じるとしている。だが、原爆症認定をめぐり、国は責任を十分果たそうとしていない。

 原爆症と認められなかった被爆者が03年に一斉提訴して以来、国の判断を「違法」とした判決は30件を超す。86人が今なお裁判を続けている。

 現行の認定基準では、爆心地からの距離や被爆地に入った時期で原爆症かどうかが決まる。度重なる敗訴にもかかわらず、厚生労働省は距離や時間の条件をわずかに見直しただけだ。

 昨年も591件の申請が却下された。裁判まで踏み切れず、認定をあきらめた人も多い。

 最大の論点は、微少な放射性物質を呼吸や飲食などで体内に取り込む内部被曝(ひばく)をどう評価するかだ。厚労省は、内部被曝の影響をほぼ認めていない。

 しかし、内部被曝の深刻さを示唆する新たな研究成果は、次々と出てきている。

 裁判所は、内部被曝の影響は否定できないとの判断で一致する。5月の広島地裁判決は厚労省が根拠とする被曝線量の評価式について「一応の目安にとどめるのが相当」と指摘した。

 合理的な考え方だろう。司法判断を踏まえ、より幅広く認定できる道を探るべきだ。

 安倍政権は、6年前の約束を思い出す必要がある。

 09年8月6日、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)と当時の麻生太郎首相は、原爆症認定集団訴訟の終結を明記した確認書を交わした。「今後、訴訟の場で争う必要のないよう」、被団協と厚労省の協議で解決を図ることも確認した。

 協議は今年1月までに4回開かれたが、厚労省は被爆者側の要求を聞き流すばかりだ。13年末に認定基準を見直した時も、被爆者の強い反対を押し切った。

 約束が誠実に守られているとはとても言えない。

 認定制度の改正案を独自にまとめている被団協は、白内障など一部の病気は、手当を現行より減らすことも提案している。金ではなく、国が戦争を起こした責任を認め、被害者に正当に償うことで、二度と戦争をしないとの証しを得たい。それこそが被爆者たちの真の願いだ。

 安倍首相はこの夏も被爆地を訪れ、被爆者の代表と会うだろう。政治の責任で決着を図るときだ。