東岡徹、松井望美、武田肇
2015年6月22日05時00分
日韓国交正常化50周年の節目に、韓国外相の来日が実現した。対立していた世界文化遺産の登録問題も前進。両国関係の改善に弾みがついた。しかし、最大の懸案の慰安婦問題をめぐり、両国の主張には依然として隔たりがある。安倍晋三首相と朴槿恵(パククネ)大統領との首脳会談の実現に向け、課題は残っている。
「両国が申請した遺産の登録に向けて一緒に協力していくことで意見が一致した」。韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は日韓外相会談の後、記者団にこう語った。
韓国も「百済の歴史遺跡地区」について世界遺産への登録をめざしている。日本の「明治日本の産業革命遺産」については世界遺産への登録に反発していたが、一転、協力する姿勢を示した。尹氏は「このような良い協力事例を通じて、今後、他の問題にも好循環ができるよう期待している」とも述べた。
日本の「明治日本の産業革命遺産」について、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関は5月、世界文化遺産への登録を勧告した。これに対し、韓国は強制労働させられた施設が含まれているとして反発。尹氏も国会答弁で「強制労働が行われた歴史的事実を無視したまま、産業革命施設だけを美化し、世界遺産に登録することに反対する」と述べていた。
世界文化遺産に登録されるかは、28日からドイツで開かれる世界遺産委員会で最終的に決まる。議長国ドイツのほか日本、韓国など21カ国の委員国で審議される。
尹氏は今月中旬に相次いでドイツや委員国クロアチア、マレーシアの外相と会談し、韓国側の立場を説明。韓国国会の羅卿瑗(ナギョンウォン)・外交統一委員長も9日、三つの代表団をつくり、世界遺産委員会を前に今月最終週まで委員国を直接訪問し、意見を伝えることを明らかにした。
とはいえ、韓国の反発で今回、世界遺産登録ができなかった場合、日本の対韓感情がさらに悪化するのは必至だった。東京の韓国大使館はこうした可能性を本国に伝えていた。
一方、日本側は当初、「勧告に基づき、そのまま登録されるのが筋だ」(文化庁幹部)として一歩も引かない姿勢だった。ところがここにきて、「日本の主張を広く伝えればよいという、簡単な問題ではないことがわかってきた」(政府関係者)。世界遺産委員会で意見がまとまらずに投票へと持ちこまれた場合、委員国は日本か韓国を選ぶことを迫られる。複数の委員国から「日韓で何らかの合意をし、自分たちが態度を示さなくてもいいようにしてほしい」という声が相次いだことが背景にある。
議長国のドイツ外交筋は、朝日新聞の取材に「決定が勝ち負けになってしまうことは、どの方面のためにもならない。日韓両国が『共通の提案』を持って会議に臨むことを望んでやまない」と話していた。
世界遺産委員会を目前に控え、さらなる関係悪化を避けるため、接点を探る雰囲気が日韓で高まりつつあった。こうした中で開かれた外相会談で互いに譲歩し、対立が協力に変わった。
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