核兵器の脅威を振りかざす態度は、断じて認められない。

 ロシアのプーチン大統領が、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基を年内に配備する計画を明らかにした。

 ウクライナ危機を機に対立を深める欧米諸国に対し、核戦力で牽制(けんせい)する意図を示したと受け止められている。

 核兵器は、どんな場合も使ってはならない非人道的な兵器である。前世紀の核抑止論を踏襲するかのように暴言を放つ大統領は、時代錯誤の冷戦思考を捨て去らねばならない。

 欧米と日本は、大統領に対し核の脅しを容認しない明確なメッセージを送るべきだ。

 最近のロシアは、核戦力に頼ろうとする姿勢が目立つ。

 昨年春にクリミア半島を併合した際、核兵器を臨戦態勢に置く可能性があった、と大統領が語った。今春の北極海での軍事演習では、核使用のための信号を送る訓練もしたという。

 今回の大統領発言も、この流れの中に位置づけられる。

 ロシアは米国との新戦略兵器削減条約(新START)で、互いに戦略核を一定数まで減らす合意がある。だが、ロシアの削減ペースが先行し、定数を下回っていたことから、ある程度の再配備が予測されていた。

 そのため今回の発表は必ずしも条約に反しない、との見方が専門家の間にはある。だとしても、あえて核戦力の増強を誇示する姿勢は、「核なき世界」を願う国際世論への挑戦だ。

 実際には、核を増強する財政的な余裕がロシアにあるかは疑わしい。もし大統領が強硬姿勢を国内に示すことで人気を集めようとしたのであれば、ますます国際的に孤立するだけだ。

 本当に配備されれば、緊張の高まりは避けられない。何より、こうした威嚇は、核の役割を減らそうとする核不拡散体制の精神に反する。「核の保有は国防に有効だ」となれば、さまざまな地域問題を抱える国々を核武装に走らせかねない。

 欧米は、核による挑発が何の利益ももたらさないことを明示し、ロシアとの対話と圧力の政策を冷静に続けるべきだ。国際法の順守と周辺国の領土保全は繰り返し求めねばなるまい。

 戦略核以外にも、ロシアと欧米との間には多くの軍縮問題が横たわっている。中でも、射程の短い戦術核の削減・撤廃に向け早急に取り組むべきだ。

 広島、長崎の被害を知る日本が担う役割は小さくない。政府レベルだけでなく、市民社会からロシア国民に対しても、核廃絶への働きかけを強めたい。