韓国の首都は沸き立っているように見えた。1988年夏、ソウル五輪直前の取材で初めて訪れた。前年に「民主化宣言」があり、日本人の隣国観は変わりつつあったが、実際に行ってみて新しい風が吹いているのを目の当たりにした▼知日派で後に文化相を務めた李御寧(イオリョン)さんとの会話を思い出す。一寸法師、盆栽、俳句、トランジスタ……。何事も小さくしていくことに日本文化の特質を見いだしたベストセラー『「縮み」志向の日本人』の著者である。五輪を機に「和合の精神」に基づく日韓交流を、と説いていた▼その後、慰安婦問題に関する河野談話が出され、戦後50年の村山談話も出た。サッカーW杯を共催し、韓流(はんりゅう)ブームも来た。しかし今、両国の間はささくれ立っている。歴史認識などの難題が解けぬまま、あす国交50年の節目を迎える▼両国民の見る目は厳しい。本紙と韓国の東亜日報の共同世論調査によると、両国の関係がうまくいっていないと回答した人が日本で86%、韓国では90%にも上った▼とはいえ希望もある。調査によれば、今後の関係改善を願う人は双方に多くいる。互いの国を実際に行き来すれば、相手の国の人に好感を持ちやすい傾向も見える。百聞は一見にしかず、だ▼李さんは著書で、日本は「縮み」志向で成功しつつ、時に「拡(ひろ)がり」志向に陥って失敗すると指摘している。秀吉の朝鮮出兵であり、先の戦争である。両国間の長い歴史を見つめ直し、何とか和合の精神を取り戻せないだろうか。