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【社会】

85歳妻「平和って一人一人の意志がないとつくれない」 九条の会 奥平さん最後の問いかけから5カ月

「戦争はいやだ調布市民の会」で集団討議の進行役を務める奥平せい子さん(中)=15日、調布市文化会館たづくりで(潟沼義樹撮影)

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 「君はこのごろ、平和についてどう考えてる」。夫が急逝する前夜、そう問いかけられた奥平せい子さん(85)が今月、地元の東京都調布市で安全保障関連法案の撤回などを求める市民団体を仲間たちと旗揚げした。夫は、今年一月に八十五歳で亡くなった「九条の会」呼び掛け人の一人で、憲法研究者の奥平康弘さん。死別から五カ月たって立ち上がったのは、夫の最後の問いかけに「平和は市民の意志がつくるんだよね」と答えたいからだ。 (竹島勇)

 今月十五日夜、調布市文化会館たづくり大会議場。八十五人の市民が「戦争はいやだ 調布市民の会」設立集会に参加した。

 グループ討議の進行役を務めたせい子さんは、身を乗り出してメモを取り、深くうなずく。小六の男児の母という四十代の女性が「国会ではいつの間にか子どもが戦争に行く体制ができていくようで不安です」と訴えると、「平和って私たち一人一人の意志がないとつくれないと思う。こうやって思いを話せる仲間をつくり、つながっていくことが大事だと思うわ」と語りかけた。せい子さんは設立集会で今後、会の役員に当たる世話人として活動する意志を表明した。

 この会は、せい子さんの知人が平和を願う幅広い市民が参加する団体をつくろうと五月から準備。今月五日に誘われたせい子さんは、その場で参加と、集会で進行役を務めることを申し出た。知人によると、せい子さんがその時「平和のために戦いたいの」と強い口調で言ったという。

 平和のために戦いたい。その言葉の真意を聞きに、一人暮らしとなった自宅を訪ねた。

 「康弘の最後の問いかけが頭から離れず考え続けています」。夫の遺影と遺骨を置いた居間で静かに語りだした。遺骨の脇にある、夫が最後に読んでいたカントの平和論「永遠平和のために」は二回読み返した。本棚とベッドと椅子でいっぱいの七畳の書斎は生前のままで手を付ける気にならない。

 夫の葬儀後、体調を崩していた。「食事がとれず気力がなえた。好きな音楽を聴いても感動しない。伴侶の死がこんなにこたえるとは…」と明かす。

 だが、平和や憲法をめぐる状況はどんどん危機的になっていくようで焦る。安倍晋三首相が訪米時に安全保障法案の成立を約束したのを知りがくぜんとした。「国民をばかにした」と憤る。夫なら憲法を守るためどこへでも行って発言したに違いない。そう思い至って体調不良をおして立ち上がった。これまで平和運動の前面に出ることは控えてきたが考えを改めた。「市民の平和への意志や声をつなげていくよ」。夫の問いかけに今はそう答える。

◇「君はこのごろ、平和についてどう考えてる」

 <奥平康弘さんの問いかけ> 奥平さんは今年1月25日、市内の集会で平和主義や護憲を訴えた。同日深夜、結果として最後となった夫婦の会話で、妻せい子さんに「君はこのごろ、平和についてどう考えてる」と問いかける。せい子さんが「平和は積極的に構築する努力が必要だと思う」と答えるなどして約1時間を過ごした。翌26日朝、湯船で亡くなっている奥平さんをせい子さんが発見。急性心筋梗塞だった。

 

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