小倉氏は「私個人としては、韓国が過去史を重要視する点は理解できる」と語った。「なぜなら、今の韓国の出発点は日本から独立したところにあるからだ。韓国は、国家のアイデンティティーを維持しつつ北朝鮮と対峙(たいじ)するために『反日感情』を強調してきた。現在、韓国は経済的発展を遂げ、政治的民主化を実現した。次の目標を定めるためには、韓国人とは何者なのかあらためて考えてみることになるが、そうすると植民地支配を振り返らないわけにはいかない。韓国政府は日本と同等になろうとしているが、一国が他国と同等になるためには、現在だけでなく過去も見るべきだ」
問題は、認識の不均衡だ。小倉氏が見るに、韓国は「ともかく常に次の目標がある国」だ。「今は、それが統一だ。韓国には『戦ってかち取らなければならない課題』が常に存在する。そのため、ダイナミックな一方、社会的なゆがみも生じている。これに対し日本は、国家的な目標がない。日本の若者は、自分たちの小さな世界で幸せに暮らしたいのに、韓国の大統領がしつこく慰安婦の話を持ち出すので、自分たちの小さく幸せな世界を守りたいのだ」
小倉氏に「何をすべきか」と尋ねてみた。小倉氏は「15年前にサッカー韓日戦で出会った韓国の女子高生が答えを示してくれた」と語った。「日本の応援席に韓国の女子高生が座っているので、私の友人が『韓国の応援席はあっち』と教えた。その少女は首を横に振った。自分は日本チームのファンでも韓国チームのファンでもなく、日本チームのある選手のファンなのだと。集団ではなく、個人に集中していたのだ。韓日両国の社会は、実際のところ共通点が多い。不登校の子ども、高齢化問題…。個別の課題で知恵を共有すべき」。小さな協力は、それ自体有用というだけでなく、きちんと積み重ねればより大きな何かの土台にもなる、という意味だった。
■韓国小説を楽しみ、パンソリも学ぶ「日本外交の大物」小倉和夫氏
小倉和夫氏は東京大学法学部とケンブリッジ大学を卒業した。外務省の要職を経て、1997年から99年まで駐韓大使を務めた。歴代の駐韓日本大使の中で、最も比重が高かった人物の一人に挙げられる。外務省北東アジア課長当時、東京でパンソリの公演を見て強い印象を受けた。本紙のインタビューで「最初は意味も分からず、パンソリの歌詞を耳で聞いたとおり叫んでいたが、次第にそこに込められた感情を理解できるようになった」と語った。