2015年06月20日

◆ カジノの皮算用

 カジノ法案が成立しそうだ。「これで大儲け」という皮算用だが、トンデモな仮定の上に算出されている。

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 カジノ法案が成立しそうだ。
  → カジノ法案、今国会成立方針を再確認 超党派議連が総会

 カジノの場所は、横浜と大阪が有力で、誘致しているが、大阪はギブアップ気味だ。
  → 大阪カジノ誘致「失速」 橋下市長も「誘致では負ける」

 その横浜では、「年 4000億円の経済効果で、4万人の雇用創出」と見込んでいる。
  → 【横浜カジノ構想】年0.4兆円超の経済効果と予想

 その根拠は、こうだ。(引用する。)
 経済効果の試算は、誘致施設の延べ床面積を約50万平方メートルと仮定した上で行っており、マカオ・ラスベガス・シンガポールなど世界の主要IR施設の生み出す経済効果をもとに算出している。

 つまり、「マカオ・ラスベガス・シンガポールなど世界の主要カジノ施設と同等だ」と仮定した上での数字だ。
 では、それは成立するのか? 仮に、成立しないとしたら、とんだ「捕らぬタヌキの皮算用」となるわけだが。

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 結論から言えば、成立しない。マカオなどのカジノと日本のカジノは、まったく種類が異なる。どこが異なるかというと、マネーロンダリングの有無だ。
 そもそも、マカオはどうしてあれほどにもカジノが栄えているのか? 人々がよほどギャンブル好きだからか? 大損してもなおかつ、莫大な金を投入するからか? 無尽蔵の金を投入して、ギャンブルをし続けているからか? 
 違う。彼らは単にマネーロンダリングのためにマカオを訪れているだけだ。だから、さっと来て、さっと帰ってしまう。ギャンブルそのものをやりに来たのではなく、マネーロンダリングを槍に来ただけだからだ。ここが肝心だ。
 中国では共産党が農民からタダ同然で収奪した土地を高収益の見込める商業地に転換し、その差額を地方政府が稼いでいる。
 デベロッパーは便宜を図ってくれる地方政府の役人たちにお礼をしなければならない。だが、そのまま現金を渡したら当局に捕まるリスクが高い。ここで登場するのが、資金移動をしても足の付かないカジノだ。
 まずデベロッパーたちは役人たちをマカオに招待する。あらかじめ渡りをつけてあるカジノにお金を渡し、客を勝たせるように、ディーラーを言い含めておく。ただし、一気に勝つと周囲に怪しまれるため、ディーラーとの「あうん」の呼吸で一進一退の攻防を繰り広げながら、一晩かけて数億円が稼げる仕掛けになっている。
 マカオ政府統計局の発表によれば、マカオを訪れた旅行客の平均滞在時間は「24時間」である。
 私はいくつかのカジノでVIPルームを視察したが、ソファで寝ている中国人客が少なくなかった。彼らはゲームの合間にわずかな仮眠をとり、みんな24時間後には帰っていく。マカオに来る目的が余興としてのギャンブルではなく、収賄とマネーロンダリングだからである。
( → 日本が参考にするアジアのカジノは資金洗浄の温床的側面も
 高級幹部の手口は合法の賄賂を受け取る抜け穴としての利用で、収賄側が巨額をまけ、党幹部が勝つ。勝った人は正規の受け取りをホテルから発行してもらえる。即ち合法的な賄賂を受け取る場でもあった。
( → カジノは賄賂や脱税・マネーロンダリング(資金洗浄)ができる場だからお金が集まって来る
 党幹部は現金など持たずにマカオに出かけ(金を持っていると習近平の査察部隊に逮捕される)、送金先のカジノで遊んだことにして資金を受け取るのだが、名目はカジノの勝負で勝った資金ということにする。
 もちろん胴元にはそれなりの手数料を支払わなければならないが、晴れてワイロの金がきれいなカジノでもうけた金になる。誰にも文句を言わせないマネーロンダリングされた資金ということになってそれをマカオから外国に送金すればいい。
( → マカオのカジノが大揺れだ
 カジノもこのようなマネーロンダリングに利用されやすい業種として知られています。その中でも特に悪名高いのが、中華人民共和国の特別行政区でありアジアを代表するカジノ都市として名高いマカオ。マカオでは、中国本土で高級官僚たちがかき集めた裏金はもとより、北朝鮮が武器&麻薬輸出によって獲得した資金などが恒常的にロンダリングされているなどといわれており、先月のマカオデイリータイムスによる報道によると1999年からの累計で、特に中国本土からの官僚による裏金が約126兆円あまり資金洗浄されているなどという推計値も紹介されています。
 マカオのカジノ産業は、昨年実績で3兆円にまで成長し、単独のカジノ集積地域としては世界最大の市場にまで成長しています。一方、同地域がこのように急速に発展した背景には、途上国ならではの非常に甘いマネーロンダリング監視体制と裏資金の流入が存在しているのも事実で、必ずしも「正しい」発展の仕方をしているとはいえないのが実態です。
 一方、アメリカやヨーロッパの先進国などにおけるカジノ産業は、OECDの勧告の元で銀行、証券会社、宝飾品販売業、美術品取引業などと同様に、カジノ業もマネーロンダリング対策法の規制対象となっています。多くの国や地域では、顧客に対する身元確認義務はもとより、取引データの保存義務、疑わしき取引の報告義務などがその他の業種と同様に貸されており、厳しい監視体制の下にあります。
( → カジノとマネーロンダリング

 マカオに莫大なカジノ産業が成立するのは、マカオではマネーロンダリングが許容されているからだ。一方、米国や日本ではマネーロンダリングは許容されていない。とすれば、日本ではマカオのような規模でカジノ産業が栄えるはずがないのだ。
 にもかかわらず、「日本でもマカオと同様の規模でカジノ産業が成立する」と予想している。とんだ「捕らぬタヌキの皮算用」だ。

 さて。このマカオの現状だが、最近では、中国首脳の「反腐敗」キャンペーンのせいで、粛正が進んでいて、カジノの売上げ規模が激減しているそうだ。
 マカオで異変が起きている。去年、観光客数が過去最高を記録したにも関わらず、稼ぎ頭のカジノの収入はマイナスに。先月は前年比約4割もの減収となった。マカオでいま何が起きているのか。
 証言から見えてきたのは、“VIPルーム”で行われてきた、資金洗浄や賄賂の受け渡しの実態。ところが去年、中国政府による汚職取り締まりが強化されたことで、マカオを訪問するVIPが激減、カジノの減収につながったとみられている。
( → NHK 番組予告

 こういうことからも、マカオの主な顧客が中国の腐敗層だということがわかる。そして、そういう人々は、日本には来ない。(日本ではマネーロンダリングが違法だから。)

 ※ シンガポールでも似た事情にある。
    → Google 検索

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 こうしてわかっただろう。
 「マカオやシンガポールでは巨額の経済効果があるから、それを元に計算すれば、日本でも巨額の経済効果がある」
 というような算出は、まったくの「捕らぬタヌキの皮算用」であるにすぎない。なぜなら、その算出の根拠がトンデモだからだ。つまり、「マネーロンダリングの有無」をまったく無視しているからだ。

 思えば、こういうデタラメな経済効果の算出は、これまでに何度もなされてきた。
  ・ 関西空港
  ・ 静岡空港
  ・ 本四架橋
  ・ 東京湾横断道路

 いずれにしても、莫大な経済効果を生み出すはずだったのだが、実際には閑古鳥が鳴いており、残ったのは超巨額の赤字ばかりだった。大阪に至っては、財政破綻の寸前になっているほどだ。

 カジノもまた同様だろう。莫大な経済効果などを見込んで、莫大な投資をすれば、残るのは豪華な VIPルームだけで、そこには VIP はほとんどいないというふうになるはずだ。VIP の姿はなく、閑古鳥がいるだけだ。

 日本でカジノが成立するための方策は、たった一つ。マネーロンダリングを許容することだけだ。そして、それができないのであれば、話の前提が成立しないのだから、「カジノで莫大な経済効果」なんていう予想は、ただの妄想にすぎなくなる。

 カジノ施設を建設するのは、それ自体が巨額のギャンブルである。しかも、負けるのが確実なギャンブルだ。「莫大な黒字を夢見て、巨額の金を投入して、巨額の赤字だけを残す」というふうになる。
 ま、税金を使ったギャンブルだから、自分の懐はちっとも痛まない、と思っているのだろう。呆れるしかない。
 


 [ 付記 ]
 横浜市の林文子市長というのは、けっこうまともな政治家かと思ったが、やはり、コロリとだまされてしまったようだ。悪質ではないのだが、詐欺師にだまされるタイプ。「儲かりますよ」と言われると、すぐに信じて金を出すタイプ。
 善良で、有能ではあるが、詐欺師を見破る能力はないようだ。

 参考資料:
  → 【横浜カジノ構想】年0.4兆円超の経済効果と予想
  → 横浜市がカジノ誘致報告書/過大な経済効果予測 負の影響は推計せず
  → 横浜市のカジノ誘致構想はどうなっているの?

 政治家は熱心だが、国民の大半は反対だ、という世論調査。
  → カジノ解禁法案「反対」59% 朝日新聞社世論調査
 
 マネーロンダリングを別としても、賭博自体が国民の健全性を損ねる、という見解もある。あちこちにあるが、特に次の見解が良くできている。
  → カジノについて (内田樹の研究室)
 朝日の記者に答えている。記者の質問が上手。

 
posted by 管理人 at 22:07 | Comment(0) | 一般(雑学)3 このエントリーをはてなブックマークに追加
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