この作品は現実の世界で本当に失踪してしまったサラリーマンの行方を、その恋人と俳優の露口茂さんが一緒に追跡していくという、かなり変わったドキュメンタリーです。その過程で会社の金を横領していたなど、驚愕の事実が次々あぶりだされてくんですが、この映画の最もスゴイところは、映画を撮っている状況すべてを撮影していることです。途中今村昌平監督も出てきて突如「情念の世界に持ち込みたいね」と言い出します。つまり劇映画的フィクションと同じ感覚でドキュメンタリーを撮っているんです。僕自身多大な影響を受けましたし、現代でもこのインパクトは十分通用すると思います。
ドキュメンタリー映画監督として次々と傑作を生み出している松江さんが敢えて選んだドキュメンタリーだけに、そのプレゼンにも圧倒的説得力がありました。日本映画学校の授業で本作を見て衝撃を受けたという松江監督ですが、日本映画学校の創立者でもあり本作の監督でもあったのが今村昌平監督だったという事実に、何とも不思議な縁を感じました。
本当は勅使河原宏監督作品の中では「砂の女」が一番好きで、人生で見た中でも一番面白いと思った作品なんですけど、よくよく調べたらATG作品じゃなかったんです(笑)それでその「砂の女」の前年に作られたのが「おとし穴」なんですが、「砂の女」と同じく安部公房が原作を務めたとにかく不思議な作品です。主人公が子供を連れて旅をしているんですけど、なぜか街には人がいない。しばらくすると駄菓子屋に行きついて、肉感のある女性店員になぜ人がいないのか聞いても「さぁ?」と適当に答えて、さっぱり分からないまま去っていくんですけど(笑)なんというか、あまり喋れる事が少ない作品です(笑)
自身の人生ベスト作品でもある「砂の女」を推すつもりでいたところ、ATG作品でない事が発覚して完全に歯車が狂ってしまった蛭子さん。同じ勅使河原宏×阿部公房コンビの「おとし穴」をプレゼンするも支離滅裂な感じに…ただし、そのよく分からないけど何故か面白いトークそのものが本作の雰囲気をよく表している、摩訶不思議なプレゼンとなりました。
ATG作品は昔からほとんど見ていて、どれを推そうかすごく迷ったんです。「青春の殺人者」「竜馬暗殺」「天使の恍惚」…本当に色々思いを巡らせる中でふと頭に浮かんだ、なんかエアポケットのような作品が本作でした。話自体に目新しさはないのですが、おそらく映画を作りたいと思った若者が一度は作ってみたいと憧れる映画なんです。羽仁進監督という非職業俳優を好んで起用して瑞々しい生の演技を撮る方と、それとは対照的と思える寺山修司という当時アンダーグラウンドの巨匠が何故か組んで奇跡的な化学反応を起して、まるでフランスのヌーベルバーグのような、いま見ても新鮮な感動が詰まった作品です。
自身も自主映画からスタートし、ATG作品の名作の1本「逆噴射家族」も手掛けている石井監督。だからこそ1本に作品を絞る事がいかに難しかったかという、その思いが非常によく伝わりました。石井監督の作風とは全然違う「初恋:地獄篇」を選んだのも意外でしたが、本作を見て自分には作れない世界と思い、敢えて別の路線を目指したという話も映画ファンとして非常によく分かりました。
大島渚監督はATGで7本の映画を手掛けているんですが、その中で僕がなぜ「新宿泥棒日記」を選んだかと言いますと、一番アバンギャルドな映画だと思ったからです。主人公はデザイナーの横尾忠則さんが務めているんですが、途中から佐藤慶、渡辺文雄はじめ大島組常連俳優が入り乱れて出てきて、いわば大島組の飲み会に参加しているような、虚実が曖昧になってくるんです。そんな混沌とした状況で、さらに60年代当時の新宿騒乱も入ってくる。もはやストーリー云々ではなく、68年の熱気あふれた新宿そのものが面白くて、そこにタイムスリップしているような感覚に浸れるのが本作の何よりの魅力です。
60年代当時に大島渚監督が持っていたとてつもないエネルギーがATGという場で炸裂し、結果的に7本の作品を生み出したという事実。いまの“新宿”と全く違う68年当時の熱気溢れる新宿。その2つが掛け合わさって生まれた「新宿泥棒日記」という作品そのものからも異様なエネルギーがほとばしっていて、松崎さんのおっしゃる事が肌で感じられます。
1:
家族ゲーム

2:
転校生

3:
お葬式

4:
サード

5:
遠雷

6:
台風クラブ

7:
本陣殺人事件

8:
もう頬づえはつかない

9:
青春の殺人者

10:
祭りの準備

エンド(男性)55歳 
MY BEST作品/「サード」
自分を映画の世界にいざなった記念すべき作品。当時の森下愛子さんの新鮮だったこと。当然DVDで持ってます。
 
サイホン(男性)61歳
MY BEST作品/「遠雷」
農村の若い世代の特異な世界と俳優陣の新鮮な演技が魅力的だった。
大型スイッチ(男性)48歳
MY BEST作品/「もう頬づえはつかない」
初めて大人の世界を見た映画でした。都会の疲れた女は桃井かおりが後にも先にも一番だ。
 
子連れ紋次郎(男性)57歳
MY BEST作品/「青春の殺人者」
水谷豊の尊属殺人というタブーを描いた問題映画。今でもそのシーンが目に焼き付いています。

番組開始からおよそ2年半、21回放送を重ねてきた中で特番だった「ゴジラ総選挙」を除くレギュラー放送としては、今回のテーマ「ATG」が視聴者からの応募が過去最多となりました。その事実からも分かるように、ATGというのは日本映画史上一時代を築いた、言わば日本映画の隠れた至宝であり秘宝だったのだと改めて実感しました。さらに、応募者の年齢もリアルタイムで見ていた方はもちろん若い方からの熱いメッセージも多数あり、ATGという会社は無くなっても、生み出した作品たちとそこに込められた熱い魂は現在の映画ファンの心の中で生き続けているのだと思いました。応募して頂いた方はもちろん、2年半に渡り番組をご覧頂いたすべての視聴者の皆様に、心から御礼申し上げます。