韓国で中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)コロナウイルスの感染者と死者が増え続けている。

 世界保健機関(WHO)は「今のところ感染(の範囲)は医療機関などに限られ、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態ではない」としている。ビジネスや観光での訪韓をむやみに恐れる必要はない。

 とはいえ、感染が広がった医療機関を訪れ、韓国政府の自宅隔離の対象になった複数の日本人が、通知を受ける前に日本に帰国していたこともわかった。

 グローバル時代の今、感染症も容易に国境を越える。MERS禍から学び、備えたい。

 MERSは3年ほど前に中東で見つかった新しい病気で、特効薬はまだない。中東ではヒトコブラクダがウイルスを持っており、人への感染が繰り返し起きている。

 人から人へは、せきやくしゃみのしぶきを介して感染するらしい。糖尿病など持病がある人や高齢者では、重い肺炎で亡くなることも少なくない。ただ、インフルエンザほど感染力が強くはないとされる。

 韓国の感染拡大は、何よりも医療関係者や海外渡航者の感染症に対する知識と警戒が重要なことを示している。

 約170人に達した患者は、1人の中東渡航者を起点に広がった。5月4日に帰国後発熱などの症状を訴えて診療所を受診したが、5月20日にMERSと診断されるまで複数の医療機関で入退院を繰り返し、院内での感染が相次いだ。

 抵抗力の低い病人が集まる医療機関である。院内感染の防止は、とりわけ重要だ。韓国では感染症患者と一般患者の分離や、感染症患者への見舞い制限、医療スタッフによる拡散防止などができていない医療機関があった。医療関係者や患者にMERSへの警戒心がもう少しあれば、当初から中東渡航歴に注目し、早期に感染の連鎖を止めることができただろう。

 確かに、見極めが難しいウイルスではある。2日~2週間程度の潜伏期間があるうえ、初期症状は風邪と区別がつかない。

 しかし、たとえ診断が遅れてもできることはある。一般的な感染予防策の徹底だ。

 せきやくしゃみなどの症状がある人はマスクをしたり、袖口で口や鼻を覆ったりして、しぶきを飛ばさないこと。かからないためには手洗いとうがいを徹底して、ウイルスを体内に取り込まない習慣が有効だ。

 グローバル時代の感染症対策も、かからない、早期発見、広げないの地道な努力で始まる。