近現代の歴史の中で、香港は国際経済に向かって開かれた中国の門だった。いま、そこは中国の民主主義観を国際社会に示す窓でもある。香港のトップである行政長官の選挙制度改革の行方が注目されてきた。

 その改革案がおととい、香港の議会で否決された。1人1票の普通選挙を導入するのはよかったが、候補者をあらかじめ制限する仕組みだったため、民主派議員が反対した。

 これで改革は白紙に戻った。この機に、香港と中国の政府は香港の多様な価値観を反映し、香港人自らが自治を決める真の改革を検討するべきだ。

 これまで行政長官は、1200人の選挙委員が選んでいた。それを18歳以上の市民500万人に広げ、再来年の選挙から始めるのが改革案だった。有権者を一気に拡大するのは画期的で、世論調査では支持が反対を上回ったのも理解できる。

 だが問題は、候補者を絞り込む点にある。1200人による指名委員会で2~3人の候補を決めるという。これでは従来の制度が残るも同然だ。

 委員会は業界団体など親中派が支配し、中国に批判的な民主派の候補が排除されるのは確実だ。だから昨年来、多くの若者らが街頭に出て反発した。

 そもそも、香港の憲法である基本法も、それに基づく選挙改革案も、つくったのは実質的に中国共産党政権である。そこには北京にとって都合の良い香港の「安定」を重視する考え方が貫かれている。

 香港が英国から返還され、「一国二制度」のもとで中国の特別行政区となった97年以来、行政長官は北京に忠実な企業家や行政官出身者が務めた。この流れを指名委制度で維持することに狙いがあるのだろう。

 たとえ1人1票が実現しても選択の幅は狭く、中国の眼鏡にかなった候補にお墨付きを与える役割しか果たせない。

 民主派が訴えるように、立候補の資格を広く市民に開いてこそ、社会の多様な立場や意見を反映する選挙が実現できる。

 そのためには、北京が方針を決めるのではなく、香港人自身に選挙制度改革を委ねることが最善だ。それこそが一国二制度下の香港自治のめざすべき方向ではないか。

 大陸と比べ生活水準、教育水準がはるかに高く、成熟した社会にあって、返還から18年たっても民主化が進まないのは、やはりおかしい。再来年に間に合わないならば、次の2022年の選挙に向けて、選挙制度改革をやり直すべきである。